気がつくとそこは、何処なんだろう?薄暗く、ぼんやりとしている地面の上で俺は目覚めた。記憶が混濁している。動こうとすると身体が悲鳴を上げる。「痛え……。」あちこちの骨が折れているのだろうか、ずきりずきりと響く痛みだ。
痛みにより少しずつはっきりとする意識。「そうだ、俺はあの時ぶつかって、、落ちたんだろうか。」どうやら俺は奈落の底に落ちてもなんとか助かったらしい。上の階にあった緑光石があちこちから出ている事を踏まえるとここがオルクス大迷宮の何処かである事は確かである。
ともかくこの部屋からどうにか動いて地上へと脱出しなければならない。もぞもぞと半ば転がるようにして芋虫のように隣の部屋へ移動する。「ぐっ……あ"あ"あ"い"て"え"」身体を動かす度にあちこちが痛い。肩の骨が痛い痛いと発している。背中が動かさないでくれと嘆いている。足がもう動かなくていいよと諦める。けど俺は死にたくないしにたくない。しにたくない。魔物がうじゃうじゃいるこの迷宮から一刻も早く出たい。何処か安全地帯へ逃げ込みたい。ただそれらだけを支柱として無様にべったりべったりと進んでゆく。
ある程度、といっても2部屋ほど進むと小川がせせらいでいた。猛烈に喉の渇きを催す。痛みなんて気にせずごろごろと転がって川にぼちゃり。30センチほどの深さの川に嵌った。まずい。「グェッ、ゴボッ、たすけ、ゴボボボボボボ。」溺れる。パニックになりジタバタと痛みのある腕と足を動かす。こうしている間も水はどんどん口へ入っていく。
無我夢中の俺は死ぬかと思う寸前で魔力放出を行う。「ゲホッ、ゴボッゴボッゴボッ」なんとか出られた。
「あ〜死ぬかと思った。」
未だに生きている事に感謝しつつ、今度は慎重に慎重に川へ近づき、水をズズズとすする。
うまい。
今まで飲んできた水道水やどんなミネラルウォーターよりうまい。夢中でぐびぐびと飲む。
ひとまず落ち着いた。
「ふう、これからどうしよう。」奈落へと落ちたのはベヒモスとの戦闘中。まあ、助けが来るなんて万が一にも有り得ないだろう。
第一、奈落に落ちて生きている事自体奇跡に等しいのだ。これから生きて迷宮からの脱出を行うには怪我を治すことは勿論、敵を倒さなければならないし、水はなんとかなってもお腹が空いてしまう。食糧が必要なのだ。
「とりあえず前途多難だなあ」とぼやいていると
魔物。
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。
今までの状況で出くわさないのは幸運だったがそれももう尽きたみたいだ。ゆっくり動いて物影に隠れる。ひたすら
「どこか別のところにいつてくれ」そう願うしか無い。あの魔物の生物として圧倒的にある差。
どうあがいてもひっくり返す事が出来ない威圧感。ふとこちらと目があった気がした。
頼む来ないで。
クンクンと鼻を動かして、こちらににじり寄って来る犬の魔物は突然横から出てきた猫の魔物に
ガブリと喰われた。
一口で頭をかじられた魔物はバタリと一瞬でたおれた。猫は好みのネコ缶を食べるかのごとくむしゃり、むしゃりとかぶりつく。しばらく食べていると魔石が露出した。
猫はそれを見ると嬉しそうな顔をしてバキリと噛んで飲み込んでしまった。あんなにも威圧を放っていたのが喰われる。これが弱肉強食。頭ではなく、魂て理解をせざるを得なかった。見つからなくて良かった。 そうほっとしていると、
どろりと血液が流れる。
気づかれないわけがなかった。ケモノが餌を見つける嗅覚は圧倒的。俺というエサに気付かないわけがない。
引っ掻かれた俺の胸は肉が抉れていた。ばっくりと切れていて正直言って激痛。傷口は熱い。
魔法、火球を使用する。ぽふん。当たってもそう擬音が聴こえてきそうな余裕な猫。「あっ」 バチュンと聞いたことのない音が鳴る。 俺はぼんやり。
気づくと俺のどうたいはなきわかれ。痛い、痛い、いたい、イタイ。 猫の口の中は濡れていて、暖かいなあと思う。最後に「最悪だ。」
意識が飛んだ。
_______________
吾輩は猫。名前はいぬ。オルクス大迷宮に生まれ、もう三年。
猫は犬を食べているとに美味しそうなみたことのないエサのニオイにに無邪気に喜んでいた。「めずらしいエサだ。美味しそうなニオイがする!!」と。
犬を食べ切った後、安心したニオイをだすエサで遊んでみた。ざっくりと爪で引っ掻くとぶちゃりとおいしい血液が飛び散る。豊潤なニオイに猫は少し酔っ払った気分。「思ったより弱くてあっさり食べれそう。」
猫は爪でエサのおなかを薙ぐとブツリと千切れた。「やったあ、今日はついてるなあ。最高!!!」猫は気分が良かった。うきうきで寝ぐらへと帰る。ちょっぴり眠たい猫。「なんだか眠たいなあ。たくさん食べたからなあ。」
猫は気まぐれ。眠たいならすぐに寝る。
お腹がいたい。腹でもこわしたのかな。猫はそう思った。一瞬びりりとすると猫は生まれて初めて気絶した。そしてもう起きることは無い。
猫の身体がグチュグチュに溶けていく。しばらくすると猫だったドロドロはだんだんナニカの形を成した。さっき喰われた"人間"みたいに。
裸の人間?が倒れていた。
_________________________
俺は目が覚める。酷い悪夢だ。猫の魔物に喰われる夢。けど、それが冗談なんか、と笑い飛ばせなかった。というより、
「裸じゃねえか!」
どうしたか服が無い。とりあえず火球で火を起こす。魔力で身体の寒さは凌げるが何かを身につけたかった。諦めるしかなさそうだが。
とにかくリアルな夢で感じた、身体の痛みがなくなっている事に気づいた俺はふとステータスプレートを見た。
===================
北城登 男 17歳 天職 魔法使い レベル35
筋力:250
体力:250
耐性:200
敏捷:400
魔力:200400
魔耐:1000
技能 言語理解 深化 [+第一段階] 魔力操作 [+魔力放出]
嗅覚 風爪 [+三爪]
===================
なんか強くなってた。あの貧弱ステータスが天職:勇者の天之河並に上がっている。魔耐なんて1000になっている。
技能面も謎スキル深化が[+第一段階]と変わっている。あと、嗅覚と風爪なるよくわからないスキルが追加され、レベルが33も上がった。
やっぱり、あの夢が原因なんだろうか?考えられるのはそれしか無いが、分からないことが多すぎる。とりあえず、出ることを目標にしよう。何故か何処かの寝ぐらのようなところに居るし。
食糧確保の為、魔物を食べればいいじゃない。俺はそう閃いた。
早速、そっと魔物に近づいて、「風爪」 ズバリ、と目の前に居た牛に似た魔物は身体が分かれた。美味しそうだ。持って帰って調理をしよう。その矢先、ハイエナのような魔物。強くなった俺はでも勝てるか怪しい。死肉を求めてやってきたのだろう。ちょうど3つに分かれていたからもったいないが一つ置いてさっさと逃げる。後ろを向くとむしゃむしゃ食べていた。寝ぐらに戻る。火球を応用して火を保たせる。バーナーみたいだ。この小さい火柱を使って肉を焼く。美味しそうなニオイだ。しっかり焼いて、かぶりつく。美味い!牛の魔物はそのまま牛に近い味をしていた。脂が載っていて美味しい。地球のテレビで見た、高級牛肉はこんな味なのだろうか?そんなことを考え、食い切ってしまった。ふー、満腹、満腹。満足している。
ゴロンと横になると安心した。全体に地上へ戻って見せる。そう決意し、俺は眠った。
________________
一方、南雲ハジメは、発見した神結晶と呼ばれる鉱石により、命を繋ぎ、極限状況で生まれ変わった。心は鬼になり、あらゆる障害を排除する。真っ暗な中で真っ黒な意思を持つ。
_______________
第六十五階層、ベヒモスの地獄。クラスメイトが二人死んで、諦めそうだった。それもそうだ。人の死にこれからゆっくりとでも慣れるはずだった彼らはその時が急に訪れたからだ。死の恐怖を感じてしまい、座り込んでしまって「もう駄目だ……」と呻く生徒もいる。
友人が死に、どうすれば良いか分からなくなる野村健太郎。
「あいつはまだ生きたかったよな。」
「あいつの分まで生きてかないと申しわけが立たないな。」
膝の震えを抑え、力をひねり出す。諦めそうな奴は叩いて喝を入れる。
「諦めんなよ。死んだら終わりだぞ!」
南雲ハジメが奈落に落ちていった事を受け入れられない白崎香織は自分から奈落の底へ落ちようとする。「ダメっ、危ないっ」周りの女子が止めようとするが火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか。
止められてはいたが、振り払って必死にハジメを助けようと手を振り払おうとする。「邪魔ッ!南雲君は私が助けるって約束したのに! 離してよ!」駆けつけた雫と光輝は二人がかりで香織を羽交い締めにする。「邪魔しないで!」暴れる香織。しかし、二人がかりではジタバタと足を動かすしかない。焦ったい状況が続く。
「香織っ、ダメよ! 香織!」
雫は香織の気持ちが分かっているからこそ、かけるべき言葉が見つからない。ただただ必死に名前を呼ぶことしかできない。
「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲はもう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ、体が壊れてしまう!」
それは、光輝なりの精一杯、香織を気遣った言葉。しかし、今この場で錯乱する香織には言うべきではなかった。
「無理って何!? 南雲くんは死んでない! 行かないと、きっと助けを求めてる!」
とても南雲ハジメが助からないという事実を受け止められない香織は今にも崖から飛び出してしまいそう。周りの生徒も見たことが無いくらいの香織の様子におろおろとするしかなかった。
メルド団長がツカツカとやってきて、「すまないな」スッと手刀を首筋へ落とすと「うっ」と呻いてグラリと気絶した。光輝は突然気絶させたことに睨み、文句を言おうとするが、雫が遮って礼を言う。
「すみません。ありがとうございます。」
「礼など……止めてくれ。もう二人も死なせるわけにはいかない。全力で迷宮を離脱する。……彼女を頼む」
「言われるまでもなく」
離れていく団長を見つめながら、口を挟めず憮然とした表情の光輝から香織を受け取った雫は、光輝に告げる。
「私達が止められないから団長が止めてくれたのよ。わかるでしょ? 今は時間がないの。香織の叫びが皆の心にもダメージを与えてしまう前に、何より香織が壊れる前に止める必要があった。……ほら、あんたが道を切り開くのよ。全員が脱出するまで。……南雲君も言っていたでしょう?」
雫の言葉に、光輝は頷いた。
「皆! 今は、生き残ることだけ考えるんだ! 撤退するぞ!」
皆のそのそと動きだす。トラウムソルジャーを生む魔法陣は今だに稼働している。だが、相手にする必要はない。
今の目標は逃げるのみ。
互いを励まし合い、メルド団長は騎士達の鼓舞を受け、二十階層までやっとこさ戻ってこれた。安堵から腰が抜けて、へたり込むクラスメイトもちらほら。
光輝たちでさえ壁にもたれかかっていたのだから疲労感はピークをとっくに越している。
だが、「お前達! 座り込むな! ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ! 魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する! ほら、もう少しだ、踏ん張れ!」 メルド団長が動け動けとせっつく。安堵している時こそ一番危険だということを彼は経験上、よく知っている。気を少し抜いてしまった為に死んでしまったり、大怪我を負ってしまった仲間たちを何人も見てきた。
彼が今、団長の地位にいるのは決して気を抜こうとしない姿勢を持っているのも一つの要因だろう。
少しくらい休ませてくれたって良いじゃないか、という視線を受け止めながらも無視して進ませる。戦闘慣れしている騎士団員を中心に出来るだけ戦闘を抑えて上へ上へと進む。
一階の正面門となんだか懐かしい気さえする受付が見えた。迷宮に入って一日も立っていないはずなのに、ここを通ったのがもう随分昔のような気がしているのは、きっと気のせいではない。
どすんと地面へ寝転がる者もいる。みんなが脱出出来たことに和気藹々としている中、一部の生徒――未だ目を覚まさない香織を背負った雫や光輝、その様子を見る龍太郎、恵里、鈴、実は途中、ハジメが助けていた女子生徒などは暗い表情だ。
メルド団長は二人の死亡報告と二十階層の危険すぎるトラップの報告をしなければならない事に
「どう報告すればいいのやら……」
憂鬱な気持ちを抱え、困り果てていた。
_________________________
男、檜山大介はぶつぶつと独りで俺の所為ではない。あいつが悪いとぶつぶつ呟いていた。気に食わないオタクだった南雲ハジメは自分が好きな女である白崎香織からやたらと声をかけられていた。自分には一度もそんな事はなかったのにアイツには優しく微笑みかける。俺には一度もなかったのに。妬ましい。そんな矢先の異世界転移でアイツはゴミステータス。対する俺はチートステータス。
彼女は振り向いてくれる。そう信じていたがホルアドのあの逢瀬。悪夢だった。彼女は俺に振り向いてくれることなどあり得ないのだと嫌でも分かる。そんな時にふと魔が刺す。
「ここで殺って仕舞えば誰か分からないぞ。」
まさしく悪魔の甘言だった。適正属性が風の俺には火球を使ったと絶対バレない。確信めいたものを持ち自分の行為を正当化する。
その時、不意に背後から声を掛けられた。
「へぇ~、やっぱり君だったんだ。異世界最初の殺人がクラスメイトか……中々やるね?」
「ッ!? だ、誰だ!」
慌てて振り返る檜山。そこにいたのは見知ったクラスメイトの一人だった。
「お、お前、なんでここに……」
「そんなことはどうでもいいよ。それより……人殺しさん? 今どんな気持ち? 恋敵をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?」
その人物はクスクスと笑いながら、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべる。檜山自身がやったこととは言え、クラスメイトが一人死んだというのに、その人物はまるで堪えていない。ついさっきまで、他のクラスメイト達と同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵もなかった。
「……それが、お前の本性なのか?」
呆然と呟く檜山。
それを、馬鹿にするような見下した態度で嘲笑う。
「本性? そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。そんなことよりさ……このこと、皆に言いふらしたらどうなるかな? 特に……あの子が聞いたら……」
「ッ!? そ、そんなこと……信じるわけ……証拠も……」
「ないって? でも、僕が話したら信じるんじゃないかな? あの窮地を招いた君の言葉には、既に力はないと思うけど?」
じっくりと蛇のように追い詰められる。まさか、こんな悪魔みたいな、いや、悪魔だと思わなかった。嗜虐的な笑みを浮かべ見下された檜山は恐ろしさのあまりにガタガタと震え、声も出ない。
「ど、どうしろってんだ!?」
「うん? 心外だね。まるで僕が脅しているようじゃない? ふふ、別に直ぐにどうこうしろってわけじゃないよ。まぁ、取り敢えず、僕の手足となって従ってくれればいいよ」
「そ、そんなの……」
あんまりの言い草についどもってしまう檜山。けれど、断れば確実にバラされる。葛藤する檜山は、「いっそコイツも」と暗い思考に囚われ始める。しかし、その人物はそれも見越していたのか悪魔の誘惑をする。
「白崎香織、欲しくない?」悪魔的提案だった。驚きのあまり呼吸すら忘れそうになる。
「僕に従うなら……いずれ彼女が手に入るよ。本当はこの手の話は南雲にしようと思っていたのだけど……君が殺しちゃうから。まぁ、彼より君の方が適任だとは思うし結果オーライかな?」
「……何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!」
あまりに訳が分からない。
「ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、欲しいモノがあるとだけ言っておくよ。……それで? 返答は?」
あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるものの、それ以上に、あまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた檜山であるが、どちらにしろ自分は既に詰んでいる。
「……従う」
「アハハハハハ、それはよかった! 僕もクラスメイトを告発するのは心苦しかったからね! まぁ、仲良くやろうよ、人殺しさん? アハハハハハ」
楽しそうに笑いながら踵を返し宿の方へ歩き去っていくその人物の後ろ姿を見ながら、檜山は「ちくしょう……」と小さく呟いた。
檜山の脳裏には忘れたくても、否定したくても絶対に消えてくれない光景がこびり付いている。ハジメが奈落へと転落した時の香織の姿。どんな言葉より雄弁に彼女の気持ちを物語っていた。
「ヒ、ひ、大丈夫。きっと俺は何とかなる何とかなるんだ。」
ひたすら自分へと強く、強く言い聞かせ、枕へ顔を埋めた。
突然のステータス上昇、魔力、謎のスキル深化により、新しく得たスキル。脱出を求めひたすらに歩く彼が見たものはーー
次回、アリアドネの糸