ありふれている一般人   作:凧の糸

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 とりあえずやってみる。


アリアドネの糸

 

 

 

 

 目が覚めて、数日経ったのだろうか。なにぶん地下なので時間というものが無い。薄暗い緑光石の光の中、目覚めたら朝、眠くなったら夜。そうやって決める事で心の平穏を保つ。

 ある程度この階層に存在する魔物たちに慣れて、食糧を得られるようになってきた。"嗅覚により、一度嗅いだ匂いは決して忘れず、相手をどこまで追っていける。これで似たような匂いを探して、後ろから一撃。

 こうして仕留めるのだが、まだまだ練度が足りない上、昨日ヘドロの魔物と戦った時、その臭すぎる匂いを嗅いでしまい、ショックで死にかけてしてしまったことがあった。魔石を取り出そうとしてもへドロがそこらじゅうに飛び散っていて汚い。暴力的なニオイが鼻を犯す。絶対に近づきたくも触りたくもない。魔法で業火を放ち、汚物を消毒した。今だに頭がずきずき痛む。任意かつ、慎重に使わなければならない。

 

 

 もう一つのスキル"風爪"は切り刻むのにとても使い勝手が良い。相手をバッサバッサと倒していける。風の刃が皮膚を切り裂き、血を吹き上げさせる。次の部屋は広間だった。中央に池があり、濁った水を湛えている。

 水中からのっそりと堅く、厚い皮膚を持つ巨大なワニの魔物が現れた。ブルブルっと震えて水を払う。こちらに気づいた。「ゲーワワワワッ」と身の毛をよだたせる咆哮。構えていたが驚いて、俺に一瞬の隙が生まれる。

 ワニは"それ"を決して逃しはしない。その巨体から考えられないくらいのスピード、魔力の香りと感覚で理解できる。相手はおそらく、何かの固有魔法を使ったのだろう。弾丸のように突っ込んで来たワニを足に魔力を込めて横へ思いっきりジャンプする。受け身を取るが、壁に激突してしまい、転がる。ワニも勢いよく行ったものの避けられ、どすんと突き刺さる。

 

 

 

 俺は軽い脳震盪から回復するとワニもちょうど頭を引っこ抜いてこちらをギラリと睨んでいた。交錯する視線。お互いの実力を計りかねる。此方から仕掛ける。腕を相手へ突き出し"風爪"を使う。風の刃はワニの体表を切り、、裂けない。その使い古された厚く、堅い皮膚。何度も色々な攻撃を受けているようで見た目はボロボロといった感じだが、大きな傷は少ない。ワニも負けじと尻尾をブン!と振るがバックジャンプでギリギリ避けることに成功する。

 ある程度の距離。硬直する両者。精神力の勝負だ。相手が見せた刹那の隙にいち速く相手を狩る。

 

 俺は今まで現れた敵を両断してきた風爪がちっとも効かないことに少し焦る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ時間がが経っているだろうか?水場がある上、そもそも暑くはない大迷宮の一室でだらだらと汗が垂れる。

 

 

 

 先に隙が生まれたのは俺だった。長年戦い続けているだろうワニと比べ、経験値の圧倒的不足。ワニは現れた時よりも速く、より速く此方を捉える。

 段々と思考がゆっくりとしていく。肉体が動かず、思考だけが動く中、「また喰われたくない。」カチリと音を立て、自分の身体の何かのスイッチが入る。無我夢中で魔力を放出した。濁流のような魔力は身体中から堰を切ったように溢れだす。

 ワニは魔力により身体を焼かれながら奔流に吹き飛ばされ壁へと激突する。放出され続け、部屋を削り続ける。ザリザリザリィと削る音が聞こえる。止まれ、止まれと必死に念じる事でようやく止まる。止まると強い倦怠感に襲われる。周りは破壊され、池は干上がってしまい、ワニは焦げた肉塊に変わり果てていた。

 破壊の跡から逃げるように歩いて寝ぐらへ向かおうとするが力が出ず、座り込んでしまう。

 

 「ハア、ハア、はあ、何なんだ異常な疲れとこれは。」

 

 削れ、少し焦げた地面に手をついて休み、ふと上を眺める。球形に抉れた天井は痛々しいが露出する鉱石。オルクス大迷宮で見たことのない色をしている。スキル"嗅覚"によって今まで嗅いだことあるニオイかどうか判別してみる。くんくん。空気の匂いとこの迷宮が混じっている不思議なニオイ。脱出の手がかりになるかもしれないと重い身体を起こし、風爪を弱めて少しずつ周りの岩を削る。

 

 ガタッと外れたような音がして鉱石が落下する。大きな音がするが特に問題ない。ワニを倒した事でレベルが上がったのだろう。力があるのが分かる。ここら辺の魔物なら相手にならないだろう。落ちてきた鉱石は少しだけで抱えて持って帰れるくらいだった。さっさと寝ぐらへ戻ってしまう。

ちなみにステータスはこうなった。

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 北城登 男 17歳 天職 魔法使い レベル95

 

 筋力:500

 体力:1500

 耐性:4000

 敏捷:400

 魔力:205000

 魔耐:10000

 

技能 言語理解 深化 [+第一段階] ・全属性適性・魔力操作 [+魔力放出] [+魔力圧縮] [+身体強化] [+緊急自動防御] ・想像構成 [+イメージ補強力上昇]・魔力変換 [+身体強化] [+体力変換] ・嗅覚 [+緊急臭気遮断][+悪臭耐性][+気配察知][+魔力探知]

・風爪 [+三爪][+炎爪] ・自爆[+防御貫通]

 

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寝ぐらの中でーー「うーん、どうしようこれ。」困っていた。暇なのでぺたぺた触ってみる。

 ゴツゴツしていて、堅そうだ。舐めると塩の味。触ったところが少し変だ。よく見ると魔力が少しこの鉱石に吸われている。魔力を当ててみると中がゆらゆら煌めいて、「おお! 炎みたいだ。すげ〜!」魔力をもっと入れると面白く、いろんな揺れ方をする。

 ゆらゆらゆらゆら、娯楽ないこの地下で唯一の癒しだ。ある程度遊ぶと満足して、部屋の隅に安置する。

 

 「そろそろ他の階層も行ってみるか。」

 

 レベルも上がって、経験も得てきたのでそろそろ動き出したかった。けれど、疲れがどっと出てくる。明日、行くことにしよう。そう決め、さっさと寝てしまった。

 

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

 

 

 

 朝、気持ちの良い目覚め。学校が始まると疎ましく思っていた、あの朝が今ではどれだけ素晴らしいものかが判る。腹ごしらえをして、隅に置いていた鉱石を見る。「あ、割れてる……」少しだけ、割れてしまっていた。ともかく、準備を済ませて進む。

 階段までに行く途中、ある部屋になんだかデジャブを感じる。気にせず、進もうとすると足元に何かあった。「あ、これ、俺のアーティファクトじゃん。」完全に忘れていた。いろんなことがありすぎていたのだから仕方ない。何故ここに落ちているんだろう?考えても全然答えは浮かばない。なんであれ、強い武器になる。ちょっとした朗報だった。「球よ!」そう言って魔力を流し込む。うねうね動き出した球体は身体に薄く纏わりついた。「おおっ、こいつはすごい、まさか服がわりになるなんて。」綺麗にフィットしたアーティファクトはまるでボディースーツみたい。

 ずっと裸で逆に慣れてきていた分、違和感を感じてしまう。しかし、それでも着心地が良いだろうことはよく分かっていた。

 

 

 上の階層へ行くための階段ところまで向かう。 「え……?」思わず声が漏れるのも無理はない。

 階段部分やその周りが崩れて天井の一部が崩落していた。これについては自業自得だろう。ワニとの戦闘であちこちを壊してしまったのだから。でもまさかここまで影響があると思ってはいなかった。どうやっても登れそうにない。下に行けば何かあるのだろうか?行先をいきなり変えざるを得ず、不機嫌になる。

 「あーあ、まだ先になりそうじゃないか……」諦めるしかない。気持ちを強引に切り替えて下へと向かうことにした。途中、寝ぐらに寄って、鉱石をアーティファクトにねじ込んでみた。グニャリと一部が歪むと鉱石を飲み込んで白いスーツが少し赤みを帯びていた。とりあえずやってみるもんである。

 

 何十層も降りていくがかなり強くなったステータスのため、意外と楽に進むことができる。勿論警戒を怠ることはない。危険には気をつけているからね。徐々に強くなる魔物。警戒しても攻撃を受け、足を掬われたりと忙しい。倒しては進んで戻ってを繰り返して少しずつ進む。休憩しても魔物に襲われる。

 以前いた階層とは大違いであり、魔物の凶暴さが窺える。

 

 

 

 大部屋へ入った。久々で警戒していると、足元でカチッと音が鳴る。「くぞがあああああ!!」おきまりの魔法陣がわんさか出てきてサソリもどきやオオカミもどきたちをじゃんじゃん出してくる。何度目か分からない身体強化を使い、全力で逃げる。

「また、モンスターハウスを引いちまったのかよおおおお」嘆く。

 彼はついてないみたいだ。無我夢中で走って走って、走りまくると、何処だろう?とても深くまできたのかどうかわからない。

 

 

 嗅覚で辺を探るとなんだか不自然な匂いがふわりと香る。

 

「ピストルとかのニオイがするなあ、どういうことだ?」

 

 読者諸君はわかっているだろうが北城登がそのことを知る由も無い。足元には魔物の足跡ではなく、明らかな人間の轍がある。どんどんと近づくにつれて火薬と鉄の匂いと甘い甘い、嗅いだことのない匂いがする。

 

 物凄く興味をそそる。

 

 

 追いかけられ続けてフラストレーションが溜まっていた俺は欲望のままに"それ"がある方向へとズイズイ進む。ズイズイズイズイ。ズイズイズイズイ。

 

 「げ、魔物だ。」

 

 気分が良かったのにそれを削がれた。「邪魔。」風爪であっという間に倒す。

「たわいないなあー」と思ったらいたら、バゴンと背中を強打。何か起きたのだ。「ッ!」油断していた。死んだふりに気づかなかったのだ。以前の階層にも少しだけ出てきて攻撃を受けてしまったのにうっかり忘れていた。アーティファクトが無ければうっかりでは済まなかった状況に背筋が凍る。「風爪」 今度こそ倒す。確実に魔石を破壊し、慎重に進む。

 

 

 

 

 

 

 決して油断せず、必ず仕留める。魂に刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 





 硝煙と花のアンバランスな香り、出会ったのは意外な人物。妖しく可憐に微笑む吸血鬼と白い魔王の登場。怪しげな彼らは一体?
 

 次回、「旧知」
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