できたよ
ひたすらにニオイを追い続け、どんどんと下へ行く。樹海のような階層へと出る。例の火薬と甘い香り以外にむせ返るほどの血の匂い。ゆっくりと近づくと恐竜、確か小学生の頃見た図鑑では"ラプトル"だったか?
それが此方へ向かって群単位で物凄い勢いをしてやって来る。何かから逃げるように走っていて俺の方を気にする余裕は無さそうだった。彼らが完全に通り過ぎたことを確認し、血の方向へ進む。ラプトルに似た魔物の死骸が転がっていた。頭に花がついたマヌケな格好のまま死んでいる。何処かから植物の焦げた匂いもする。謎すぎる階層。あちこち混沌としていてこちらが困惑してしまう。
どんどん草は深くなっていく。誰か倒れている。
「多分、やっと人間に会えるわー」
ワクワクして行くと、女性のような身体をした魔物だった。
「ええ……違うんかい……」
期待が高かった分、露骨にガッカリする。女性型魔物、後で知ったがニセアルラウネというらしい。爆散していてぐちゃぐちゃの身体をじっくりと眺めていると気になるニオイがする。注意して嗅ぐ、くんくん。火薬のニオイだ。確信する。この魔物を倒した奴は上のニオイの奴と同じだと。希望が生まれる。誰だか知らないが下へ向かおうとする奴がいるのだ。
どうにかしてそいつと会って、外へ出る手掛かりにしたい。草むらから俺は意気揚々に歩き出した。
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あれから数日。未だニオイへ追いつくことが出来なかった。理由としては主に二つ。魔物が強力になっていく事だ。当たり前のことだが、下へ行くにつれて魔物はより強くなっていく。
新たな魔物も登場するだけに攻撃の対応に困るのだ。毒を使って来るものや、回転して突っ込んで来る貝の魔物、沢山の強力な魔物たちと戦い続けた。ライバルとでもいう奴とも出会った。炎を纏った魔物、火男とでもいうべき相手、何度も何度も奴とは命の削り合いを果たしてきた。炎を魔法を使う魔法使いとしてお互いの全力をぶつけ合った。
「ここで会ったが百年目。今日こそお前との決着を着けさせてもらう。」「ウゴオオオオオォォォォォォ」お互いに構える。人間と魔物、違う種族で言葉も通じない。
否、言葉を交わす必要などない。お互いの闘いの中で心を通わす。自らの魂をもって会話をするのだ。漢と漢の闘い。
先に仕掛けたのは俺。挨拶がわりの火球をぶつける。何のことなく弾く奴に接近して氷塊を魔法で生成し、ぶつける。シュュュュウと奴の身体から煙が上がる。何度も戦って奴に氷を打ち込むのは有効とわかっていた。だが、その程度ではくたばらない。
負けじと身体から火炎放射を行い、焼き焦がそうとする。あまりの熱気に数度上昇し、戦いの気配を感じて漁夫の利を狙おうと、近くに寄っていた魔物を炭に変えた。
火炎を出しながら近づいて殴ろうとする。ただのパンチではなく、あらゆる物を焼く炎を纏った攻防一体の型に避けることしかできない。「チッ! 熱っ!」少し炎の揺らめきが当たってしまった。アーティファクトが焦げてしまっている。こちらも魔力放出による攻撃をしつつ、炎に触れないように魔力による鎧を形成する。透明な厚い膜で多少熱が伝わって暑いものの相手に触れることを可能にする。
突然の鎧に警戒する火男だが「面白い。」というような表情をすると接近して殴り始めた。俺も拳で応戦する。バキッ、ドゴッとひたすらに殴り合う。お互いに何をするかが大体わかるために純粋な喧嘩が続く。
「オラッ」
相手の頬を捉えて殴り飛ばす。追撃しようとするとカウンターを食らってこける。思いっきり蹴られてゴロゴロと転がる。俺はもう、魔力の鎧を保つのが難しくなってきたし、火男も最初の火と比べるとチロチロとして弱々しく感じる。
お互いに後一発が限界と分かっている。
「「ウオオオオオオオオオオ!!!」」魂からの唸りを上げ拳を互いに振りかぶる。
拳は互いの頬に流れるように入っていった。正に相討ちだった。
バタリと二人して倒れる。「ふはは」と笑いがこみ上げてきた。「ウォハハ」と相手も笑う。闘いの末に奇妙な友情さえ生まれていた。
火男はこちらに「こっちを向け」と仕草をすると身体が徐々に小さくなり、火が弱まってきている。「何事だ」と思った俺を察し、細い魔力の糸を伸ばしてきた。「腕でいいから繋げろ」と急かすのでスッと付ける。想いがながれこんできた。「私のライバル。こんなにも楽しい時を過ごしたのは今までになかった。本当に楽しかった。だが、楽しいことには終わりがつきもの。俺はもう、消滅寸前だ。こんなにもいい時間を過ごせたのはお前のお陰だ。友情、というやつなのだろうかこの感情は。俺の力、くれてやる。大事に使えよ。」一気に伝えられた。魔力の糸を通じて熱い意思が入ってくる。だんだんと俺の中へ力が入って行き、火男はフッと陽炎のように消えてしまった。
ステータスを確認してみる。
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北城登 男 17歳 天職 魔法使い レベル97
筋力:700
体力:1000
耐性:4000
敏捷:500
魔力:206000
魔耐:10030
技能 言語理解 深化 [+第一段階] ・全属性適性・炎熱耐性・魔力操作 [+魔力放出][+魔力圧縮] [+身体強化] [+緊急自動防御][+炎化]
・想像構成 [+イメージ補強力上昇]・魔力変換 [+身体強化] [+体力変換] ・嗅覚 [+緊急臭気遮断][+悪臭耐性][+気配察知][+魔力探知]
・風爪 [+三爪][+炎爪] ・自爆[+防御貫通]・気配感知
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レベルが2上がり、炎熱耐性や炎化というスキルに気配感知が追加されていた。奴のスキルだろう。ありがたく使わせてもらう。感謝するとどこからか声が聞こえた気がした。
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進む。因縁のライバルとの決着を着け、力を受け継いで下へ降りて行く。また、大部屋だ。大体ここにくるとロクな事が無い。足元に気を付けながら歩いていると何かを踏んだ。「やば。」今度は何だと思いながら魔物の出現を警戒する。その瞬間だった。パカっと床が開き俺は落下した。「嘘だろ!嘘だああああああぁぁぁぁ……」俺の叫び声は延々と響き、部屋は何事も無かったかのようにその穴の蓋を閉じた。
落下する俺。落下死なんてシャレにならないと魔力を張ってクッション兼身体保護を行おうとするものの魔力を使えない。焦る。
この落とし穴は魔力が使えなくなるいやらしい仕掛けがされていたのだ。先が空いているらしい。ニオイがする。火薬のだ!俺がそう思ってまもなく、地面とぶつかって気を失った。
南雲ハジメとユエは困惑していた。目の前のいかにもラスボスといった扉。美しい装飾に目を奪われていると天井がパカリと開く。未だこの迷宮で見たことが無いギミックに警戒する二人。
気配感知が何故か不能の中、しばらくすると穴からスポンとナニカが飛び出して地面に叩きつけられた。それは変態だった。ピッタリとした不思議なボディースーツを着た怪しい人物。魔力反応をしてみるととんでもないことになっていた。
圧倒的な魔力。ユエも感じ取っていたのか恐怖を通り越して本当に自分の感覚が正しいのかどうか怪しんでいた。
「ねえ、ハジメ。」
「何だ?」
「これ……何だろう?」
「何か見たことあるんだよなあ、これ。何だったか」
南雲ハジメは奈落に落ちる前に見た、とあるバグステータスを思い出す。あの異常な魔力値。心当たりがないわけではないが、その人物がここにいるはずが無い。ありえない。だが、ハジメの心中を裏切るようにその落ちてきた人はこの世界では珍しい黒髪に、見たことある顔立ちをしていた。「ユエ、聞いてくれ。」「何、ハジメ?」「こいつ、俺のクラスメイトだった奴だ。」「殺すの?」「邪魔するなら殺す
。まあ、ちょっとした借りがあるからな、叩き起こす。」
「ん、うぅ……」痛みを感じながら、ぼんやりとした頭で目が覚める。前に白い髪の黒いコートを着た人間の男と美しい人間みたいな女がいた。男は俺に銃のようなものを向けている。「あんた達、誰?」とりあえず確認する。男の方が「南雲ハジメ。知ってるだろ、北城。」
「嘘だろ……、やっぱ嘘だろ。南雲はお前ほどデカくは無いし、そもそも髪が白くねえだろ。」
胡散臭いことを喋り始めた自称、南雲ハジメだが、
「冷静になれよ、そもそも見ず知らずのやつが何で名前を知ってるんだよ、お前、寝ぼけてるんじゃねえの?」言われてみればそうだ。
「じゃあ、何でこんなとこ居るんだよ、つか、隣の人?誰だよ、明らかに何かヤバそうだろ。」隣の女がむすっとした表情をこちらへ向ける。
「言って無かったな、こっちはユエ、吸血鬼で色々あってこの迷宮内であった、俺のパートナーだ。」南雲がそう言うと一転、嬉しそうな顔をしている彼女が喋る。
「ユエ。よろしく。」簡潔にそういうと南雲は説明を続ける。
「俺はベヒモスがあの石橋を破壊して落ちたんだが、逆に何でお前こそここに居るんだ?」「なんかよく分からんが落ちた。」適当な俺の説明に頭を抱える南雲。
お互いに情報交換をすると
・お互いに奈落に落ちた。
・この先はかつて、反逆者と呼ばれた者の部屋だと言うこと。
・これからそれにハジメ達は挑むこと。
・出るにはおそらくこの部屋をクリアする必要があること。
「なるほどねえ、クリアしないと出れないと。」「ゲームなんかでもラスボスクリアで脱出できるからな、おそらくそうだろう。」
「北城は挑むのか?」今までの雰囲気とは変わり、邪魔するなら殺すという視線。
「まあ、面倒だし、今更南雲パーティに入っても無理そうだし、任せた!」あっさりそう言うと予想外の答えに驚く南雲。
「なら、邪魔だけはするなよ。」さっさと二人は扉へ向かっていった。
暇だなあーと思っていると、扉へ近づいた南雲の前に魔法陣が現れる。「部屋じゃなくてそこから出るのかー」さっさと逃げる。
魔法陣はベヒモスのものより巨大で描かれている式も複雑かつ精密な感じだ。強大なんて言葉で片付けられない、禍々しいナニカ。
体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。
「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」
現れたのは厄災だった。
神話の大蛇。魔法使いと伝説級の力に立ち向かう者達。恐怖を乗り越え、明日を掴むことはできるのか?そして待ち受ける反逆者の部屋とは?
次回、「秘密」