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「デカイなー」頭が何個もある強そうな蛇。そんな小学生並みの感想を抱いていると、
現れたヒュドラは目をギョロギョロして獲物を探す。自分の召喚された役目、即ち侵入者を撃退するためだ。近くのハジメ達を一瞥した後、遠くにいた俺の方も見る。
「正直関係ないから南雲達と戦っておいてほしいなあ。」虫のいいことを考えるが、相手方はこちらも侵入者と見做したようだった。鼓膜を破らんとばかりに吠えるヒュドラ。
「邪魔するなって言われてるしここから出てようかな。」
そう思い、扉を開けようとするが……動かない。扉はうんともすんとも言わない。「マズいなあ、これは」あのヒュドラの大きさからして、俺の方に攻撃が飛んできてもおかしくない。しかし、ヒュドラはハジメ達に釘付けだ。
早速、ヒュドラは火炎放射を近くにいるハジメ達へ放つ。赤い紋様が刻まれた頭が敵対者を焼き尽くさんとするその炎はハジメとユエが左右に避けることで回避された。回避と共にハジメが黒光りする銃、ドンナーによる一撃。赤頭は吹き飛ばされた。
「ドンナーとか言う銃強いなあ。俺も欲しいけど使うの無理そうなのがなあ……」
離れたところで残念がっていると、行動を起こしたのは白頭。
「クルゥアン!」
と叫び、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。白い光はあっという間に吹き飛ばされた赤頭を再生する。回復魔法を使えるみたいだ。
ハジメに少し遅れてユエの氷弾が緑の文様がある頭を吹き飛ばしたが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。
青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出し、それを回避しながらハジメとユエが白頭を狙う。
ドパンッ!
「〝緋槍〟!」
閃光と燃え盛る槍が白頭に迫る。しかし、直撃かと思われた瞬間、黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。そして淡く黄色に輝きハジメのドンナーもユエの〝緋槍〟も受け止めてしまった。衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいてハジメ達を睥睨している。
「ちっ! 盾役か。攻撃に盾に回復にと実にバランスのいいことだな!」
悔しがっているハジメ、けれど戦意はこれっぽっちも失われていない。
ハジメが焼夷手榴弾を投げる。俺は慌てて魔力でバリアーを作って万が一に備える。 ハジメはドンナーの最大出力で白頭をを狙い、連射を開始した。ユエも先ほど使った〝緋槍〟を連続して放つ。
黄頭がやらせまいとして攻撃を防ぐが、流石に幾分が傷がついていた。
「クルゥアン!」
また回復した。その直後焼夷手榴弾が白頭に炸裂する。溢れ出した熱により悲鳴を上げている白頭。明らかな隙を逃すはずもないハジメにより、ユエとの連携攻撃が行われると思ったが、
「いやぁああああ!!!」
突然の悲鳴。錯乱するユエに近寄ろうとハジメ。だが、それをさせまいと必死に赤頭と緑頭が炎弾と風刃を放つ。
「あの黒頭だな、原因は。」冷静に高みの見物ができる俺はそう判断した。ハジメは赤と緑頭の攻撃を避け、ドンナーで打つ。ユエをジッと見ていた黒頭が吹き飛ぶ。同時に、ユエがくたりと倒れ込んだ。
青頭が倒れたユエに大口を開ける。愛するパートナーの危機に突撃するハジメ。食われる寸前でユエの前に入り込むがパクッと食われる。
「おいおい、食われたぞ。こっち狙われるかな。嫌だなあ。」あまりの瞬間に目を覆ってしまう。あれ?よく見ると口を閉じさせないよう耐えている。
「頑張れ、頑張るんだ南雲!」ヒーローのピンチに応援しているとハジメは脱出し、頭を蹴り飛ばした。
「あ、邪魔!」
ヒュドラの巨体はハジメ達の方を見たい俺の視界を邪魔する。見ようと横へ移動する俺。再びハジメ達を確認すると、キスしている。「え、どういうこと?」状況がさっぱり飲み込めない、なんだこれ。駄々甘の雰囲気に砂糖を吐く俺。「ゴボッ、口の中がなんでだろう、甘い……」
勿論、ヒュドラはそんなこと知ったことかと襲い掛かる。やる気になったように見えるユエ、「〝緋槍〟! 〝砲皇〟! 〝凍雨〟!」と以前よりキレのある魔法を有り得ない速さで放つ。
攻撃直後の隙を狙われ死に体の赤頭、青頭、緑頭の前に黄頭が出ようとするが、白頭の方をハジメが狙っていると気がついたのかその場を動かず、代わりに咆哮を上げる。
「クルゥアン!」
すると近くの柱が波打ち、変形して即席の盾となった。だが止まらない。壁を容易く破壊し、
「「「グルゥウウウウ!!!」」」頭に直撃した。
黒頭が何かしようとすると「……もう効かない!」精神力で何か弾いたようだ。愛の力の強さを見せつけられた気がする。黒頭は焦らず、ハジメへ魔法を使う。「それがどうした!」またもや弾かれた。精神力の強さに俺は驚嘆。続け様にドンナーで黒頭を吹き飛ばす。
懲りずに白頭は回復させようとするが、背中に背負っているシュラーケン(名前がクラーケンみたいと俺は思った)と言う対物ライフルなんて代物をなんと空中で構えて照準する。
スパークが走り、轟音が鳴る。弾丸は一筋の光となり、白頭と守っている黄頭ごと貫いた。貫いた弾は止まることなく後ろの壁を粉砕し、この階層を、空気そのものをゴゴゴゴと震わせる。
「やったぜ!すげえ、かっけえなあ。」俺はヒーローの如き南雲の活躍に興奮している。残っていたのはポッカリとあったはずのその部分が消滅している首と壁に穿たれた深い、深い穴だった。
あまりの光景に残り三つの頭はハジメを見て、口をあんぐりとさせている。
俺も口をあんぐりしていると
「〝天灼〟」
ユエの唱えた一言は6つの雷球を発生させ、放電した電気がつながると中央により巨大な雷球を生み出す。中央の雷球か弾けるとユエの怒りを表すような荒々しい破壊力を持った電撃がヒュドラを焼く。
しばらくの間この世のものと思えないほどの絶叫が続くがそれもじきに消えてしまった。残ったのは消し炭のみだった。
いつもの如くユエがペタリと座り込む。魔力枯渇で荒い息を吐きながら、無表情ではあるが満足気な光を瞳に宿し、ハジメに向けてサムズアップした。ハジメも頬を緩めながらサムズアップで返す。俺には目さえ向けてこない。まあ、そりゃそうだが。シュラーゲンを担ぎ直しヒュドラの僅かに残った胴体部分の残骸に背を向けユエの下へ行こうと歩みだした。
その直後、
「ハジメ!」
ユエの切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたユエの視線を辿ると、音もなく七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、ハジメを睥睨へいげいしていた。思わず硬直するハジメ。
「まあ、ここまで来たら俺の出番だな。」
カッコつけた俺は魔力噴射により一瞬で銀頭の前に飛び出す。勢いにおっとっと、とよろける俺。「お前……」とこれまで何もしてこなかった俺の突然の行動に驚く南雲。
変なのが出てきたなという顔を多分している銀頭がは俺達に向かって攻撃すると思ったら、視線をユエへと向ける銀頭。
「へ?」
攻撃されると思い、防御体勢を取っていた俺は動けない。予備動作なく銀頭は極光を放つ。ハジメは銀頭がユエへ視線を向けた時点で、悪寒を感じて飛び出していた。
青頭の時の再現か、極光がユエを丸ごと消し飛ばす前に、再び立ち塞がることに成功したハジメ。だが、その結果は全く違ったものだった。極光がハジメを飲み込む。後ろのユエも直撃は受けなかったものの余波により体を強かに打ちぬかれ吹き飛ばされた。
極光が収まり、ユエが全身に走る痛みに呻き声を上げながら体を起こす。極光に飲まれる前にハジメが割って入った光景に焦りを浮かべながらその姿を探す。
ハジメは最初に立ち塞がった場所から動いていなかった。仁王立ちしたまま全身から煙を吹き上げている。地面には融解したシュラーゲンの残骸が転がっていた。
「ハ、ハジメ?」
「……」
ハジメは答えない。そして、そのままグラリと揺れると前のめりに倒れこんだ。
「ハジメ!」
ユエが焦燥に駆られるまま痛む体を無視して駆け寄ろうとする。しかし、魔力枯渇で力が入らず転倒してしまった。もどかしい気持ちを押し殺して神水を取り出すと一気に飲み干す。少し活力が戻り、立ち上がってハジメの下へ今度こそ駆け寄った。
うつ伏せに倒れこむハジメの下からジワッと血が流れ出した。(やばーどうしよ。カッコつけた割に何もしてないやん……俺。)かなり焦っている俺。南雲の方を見る。
仰向けにした南雲の容態は酷いものだった。指、肩、脇腹が焼き爛ただれ一部骨が露出している。顔も右半分が焼けており右目から血を流していた。角度的に足への影響が少なかったのは不幸中の幸いだろう。
ヒュドラはお構いなしに光弾をガトリング弾のように乱射する。「おい、柱の陰に逃げろ!」ハジメ達を守りつつ、そう言うとさっさとユエは陰へ瀕死の南雲を連れて行った。
「あ〜くそ、うざってえなあ!」
かなりの速度で乱射される光弾に逃げる。柱の陰から現れたユエがハジメのドンナーで銀頭を打つ。
「あ、おい、なんでおい!」突然攻撃するユエに叫ぶ。魔力不足で魔法は使えず、ドンナーで光弾を打ち落とす技量もないので当然打ち落とせず、肩に受けてしまった。
自動再生も気のせいかゆっくりな気がする。殺らせはせんとユエを守る。
「おい、なんでボロボロのくせに出てきたんだ?やられてちまうぞ!」
「うるさい!お前は……」叫ぶ力もないようだ。
状況打開のため、ユエはドンナーで銀頭に引き金を引く。残り少ない魔力で電磁加速された弾丸。
「どうだ?」それなりに威力が出ていたはずの弾は体表をほんの少し傷つけただけだった。
とにかく回避に徹する。
「ぐわっ」俺は威力のある攻撃をくらって吹き飛ばされる。
「ぐっ……マズいってこれ……」
起き上がると腹に光弾をもらったユエを見た。絶望的状況。勝った、負けろこのクソが!と言わんばかりに
「クルゥアアン!」と叫ぶと光弾を放った。
一陣の風が吹く。ハジメだ。南雲ハジメがユエを抱き上げて回避したのだ。ゆらりゆらりと緩慢な動きだが避ける、避けるのだ。
ハジメとユエの距離が近くなるとユエはハジメの首へかぷりと噛み付いた。吸血を終えたユエを柱の陰へ降ろし、再び駆け出す。軽やかに駆け、光弾を躱していく。全然ハジメに当たらないことに業を煮やした銀頭は闇雲に撃ち出す。
ニヤリと笑みを浮かべたハジメはドンナーを撃ち尽くすと空中を駆け出し、ある箇所へ6連射。天井は耐えられず、崩落し、下にいる銀頭を押しつぶす。
ハジメは攻撃の手を緩めない。ただの質量で倒せたら苦労しないのだ。押しつぶされ身動きが取れない銀頭に接近し、錬成で崩落した岩盤の上を駆け回りそのまま拘束具に変える。同時に、銀頭の周囲を囲み即席の溶鉱炉を作り出した。その場を離脱しながら焼夷手榴弾などが入ったポーチごと溶鉱炉の中に放り込み、叫ぶ。
「ユエ!」
「んっ! 〝蒼天〟!」
即席溶鉱炉の中で青白い太陽はあらゆる物を溶かし尽くす。銀頭の頭は融解していく。中に同時に放り込まれた爆薬もダメージを与えていた。
「グゥルアアアア!!!」
死にたくない、銀頭の悲鳴が響く。尚も暴れる銀頭は光弾をでたらめに撃つ。打ち崩される壁だがハジメの錬成によって修復されて行く。
なす術なく銀頭はドロドロと溶けていった。
ほっとしたハジメはバタンと倒れた。
「ハジメ!」
ユエが慌ててハジメのもとへ行こうと力の入らない体に鞭打って這いずる。
「流石に……もうムリ……」
何とかハジメのもとへたどり着いたユエが抱きついてくる感触を感じながら、ハジメはゆっくり意識を手放した。
「俺要らなくね?なあ、そう思わないか?」
俺は寂しく一人ぼやいた。
今回は長くなったので二つに分けます。