長かったように感じたヒュドラとの戦いもこうして南雲ハジメとユエによって勝利した。
傷だらけの勝利者を癒すため、扉を開けて反逆者の物と思しき部屋へ入っていく。扉の先は地上のようだった。草木が生えていて、小川はせせらぎ、太陽代わりであろう球体は薄く光っている。ここが地上でないことは十分理解しているけれどあり得ない光景に度肝を抜かれる。
だが、俺は取り敢えず南雲を何処か寝かせれそうな場所に運ばなければならない。探して周るとベットを見つけた。
互いに無言。黙々と運んでそこにあったベットにゆっくり、そしてそっと南雲を寝かせる。「後は私がやる。」「頼むわ。」ほんの少し言葉を交わす。
彼女曰く、神水なる不思議アイテムで南雲がどうにかなるらしい。俺は静かにベットの部屋を出た。
情けない。
格好つけて飛び出してやったことはただの盾。俺はなんなのだろうか。
異世界に来て膨大な魔力を手に入れて、漫画やゲームの主人公みたいなヒーローに成れると浮かれていたのだ、今の今まで。あのクソでかい蛇にびびって逃げ回って隠れることしかできなかった。
南雲は凄い奴だ。髪が白くなるようなストレスに晒されて、片腕を失いながらも進み続けてあの化け物も倒してしまった。格上に逃げ回るだけの俺と違って、明確な意思がある。そんな南雲に憧れ、俺は自分自身がイヤになる。
「もう、どうすりゃいいのさ……」
この世界さえ、何かの大きなゲームですぐに出れるだろうみたいな馬鹿馬鹿しい考えがあった。頭なんてイカれてしまった。早く新しい自分にならないといつか死んでしまうだろう。それだけは嫌だ。死ぬようなことは嫌だ。
そんな事をひとりボソボソと呟いていると、もう、日は暮れていた。
寒い。思ったより寒い。アーティファクトを身に纏っていても、やはり寒いものは寒いのである。
寒さで今まで考えた事が吹っ飛んでしまった。急いであの大きな石造りの家へ入る。
中は外と同じように豪華な洋館と言った感じ。玄関は吹き抜けになっていて、三階までありそうだった。暖かみのある昔の電球に似た色の光球が俺には眩しかった。
リビングやソファつきのリビング。台所やトイレ、果てには暖炉なんてものまである。「一応、探索しておこうかな。」探索をしていると誰も使っていないだろうこの洋館があまりに綺麗すぎることに気がつく。
「どうせ、魔法かなんかだろう。」
外の様子などからして何かの魔法を使っていることくらいは推測できた。
奥へ、奥へと進むと外。大きな円形の穴があり、淵にライオンの頭に似た彫刻があった。近づいて見てみると、魔法陣。魔力を注ぐとライオンの口からドボボボッと勢いよくお湯が流れ始めた。
「おおっ、異世界でもこんなバブルみたいな風呂あるのかあ。」
しばらく待つと湯船は満たされた。湯気が立って、暖かい。
そっと手をつけると熱いがちょうどいいだろう。さっとお湯を体に掛けてゆっくり浸かる。
「ふうううー気持ちいいな〜」久々の風呂はとてもいい。これまでの疲れも吹っ飛んでいくみたいだ。
のぼせてきたので上がる。
「牛乳の一杯でもあったら最高なんだがな。」
アーティファクトを再び纏って風呂から出た。探索を続けようと思ったが、なんだか眠くなってきた。別に起きてからやればいい。そう思い。ふらふらとソファの元へ行き、もたれると俺は眠りへと誘われていった。
目が覚めた。少し身体が痛い。ソファで寝たからだ。お腹が空いたので何かを作ろうとする。畑があったから何かしらあるだろう。数々のぶっ飛んだ魔法技術に驚かされてきたので食物の一つや二つ作れる……はず。
あった。おそらく何かの卵。日本でよく見かける鶏のそれより少しばかり大きく、ザラザラとしていて、表面は薄緑ががっていた。
パカリと綺麗に割った卵は新鮮で、綺麗な目玉焼きができた。
恐る恐る食べる。
美味しい。見た目は普通の目玉焼きだが、こんなにも美味しいとは。
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食べ終えた後、とにかく暇だった。なので居眠りしようとすると誰かがこの家へ入ってきた。
二人くらいの足音、おそらく南雲達と予想する。
やっぱり。
「よお、南雲。元気?」この部屋に入る前に驚かせてやろうと突然話しかける。驚いた南雲とユエは一瞬身構えるがすぐにそれを解く。
どことなくイラついた顔をしている二人。ドッキリ成功である。そう思ったが二人が怖い。
「……なんだ、北城か、何というか、色々と言いたいことがあるが、あの戦いでユエを助けてくれたことにとりあえず感謝する。ありがとう。」何だか申し訳ない。「驚かしたのはすまんかった。」
思わぬ一言が南雲から出る。
「あと……、服を着てくれ。」
「服あるのか、なら、貰おう。」
聞いたところ、反逆者のものと思しき男物の服で何着もあるそうだ。
「俺達は先に行ってる。」そういうと奥へと進んでいった。
服がおいてある場所を教えてもらったので、そこでシャツへ着替える。とても綺麗なシワひとつないシャツ。着替えるときにアーティファクトを体から剥がすが、思えばずっと身につけていた。なんだかんだとても便利なアーティファクトに「球に戻れ」と念じるとギュルギュルと音を立てて元の白い球体へ戻った。
着替え終わると特にすることもないのでリビングへ戻り、ソファでゴロゴロしていた。
3時間くらい経っただろうか、南雲たちがリビングへやってきた。
南雲たちによると反逆者のホログラム映像のようなものを見たらしく、親切にも内容も教えてくれる。
実は反逆者は解放者という神々から人間を解放しようとした存在であったこと、迷宮を作ったのはオスカー・オルクスなる人物ということと要点をざっと話してくれた。
「お前はこれからどうするんだ?北城。」
そう問われるも返答に詰まる。おそらく地上では死んだものとされているだろうし、今更勇者しようなんて思わない。かと言ってしたいこともないからとりあえず聞いてみた。「南雲はどうすんの?」
「うん? 別にどうもしないぞ?この世界がどうなろうと知ったことじゃないし。地上に出て帰る方法探して、地球に帰る。それだけだ。」
あっさりそう答えてしまって一瞬ポカンとなる。なるほどなーと思いながら
「とりあえず、今はここを出ることにするよ。」
「そうか。」
こんな感じで俺の方向性が決まった。
あれから二ヶ月ほど経った。俺の寝床はソファからレベルアップしてベットに進化したりとあったがなんだかんだ過ごしている。解放者オスカーが残したアーティファクトを発見したりして、俺たちの戦力強化にも繋がっている。南雲の方はカッコいい4WDなどを作っていた。
少しばかり羨ましく思った。義眼や義手も作り上げていて南雲のトンデモ技術力に何度も驚かされたが、他にもどんどん地球の現代兵器をポコシャカ生み出していく姿にもう驚くのも億劫になってきてしまった。
南雲とユエはこの地下の楽園生活を見る限りとんでもない仲の良さが窺える。基本的に俺と南雲たちは別々の部屋で寝ているが二人の仲の良さは朝方の様子から察することができたし、二人の醸し出す雰囲気に凄まじく気まずくなってしまったことも多々あった。
リア充爆発しろ。そう思うのも仕方がないことだ。
いよいよここから出る日がやってきた。前日はしっかり寝た英気を養っているから元気百倍である。俺がまだ行っていなかった3階の部屋へ移動する。
「ユエ……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」
「ん……」
「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」
「ん……」
「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」
「ん……」
「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」
「今更……」
もう魔法陣を起動していた……しかも結構気まずい。
「あの…よろしいでしょうか……?」
おずおずとお二人に声を掛けると「「あっ」」という顔をしていた。
南雲は赤い顔を誤魔化すように咳払いをすると
「俺がユエを、ユエが俺を守る。それで俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう。」
俺だけ蚊帳の外みたいだが脱出開始だ。
魔法陣は唸りを上げてその役割を果たそうとする。
一瞬の浮遊感と共に俺たち三人はその部屋から姿を消した。
ウサギヒロインがいいのだろうか……