あなたの生に意味を   作:ゆず1252

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第1話

世界は変わった。

 

昔は勉学、運動、コミュニケーション能力などといったもので推し図られていたらしい。もちろんそれは今も変わらない。大きく変わったのはそこに新たに異能という項目が追加されたことだ。

 

世界は変わった。

 

異能という力が生まれた結果、大きな混乱を招いた。次第に混乱から暴動へ、新たな秩序が必要になった。警察や軍隊..武力だけでは足りなかったのだ。

 

世界は変わった。

 

今まで人を格付けしていた要因は意味をなさなくなり、異能の強さによって優劣が決まるようにな世界。企業のトップ、国のトップ、何かの上に立つ者達は皆それぞれ優秀な異能を持っている。

 

世界は..いや人々は変わった。

 

こうなった世界の末路は簡単だ。異能に縋り、異能に頼り、異能で選び、異能で判断する。そんな世の中になってしまったのだ。これが正しい事なのか正しい事ではないのか..それは俺には分からない。

 

「お疲れ様です。警備員の方々にはいつも苦労をかけます。」

 

「いえ、仕事なので。」

 

いつもの会話..これが社交辞令と言うやつか..。毎日同じような聞いてると嫌になってくるが、これが俺の一日の始まりの合図でもある。

 

「1986番..出ろ」

 

「....」

 

格子に囲われた部屋から男が出る。

 

「今日の実験を始めるぞ。歩け」

 

ここに来て何年たったのだろうか。もう分からない。何故ここに入れられたのかすらももう分からない。考えるのがもう面倒だ..。

 

「あいつ長年見てますけど、喋ってるところ殆ど見たことないですよね。」

 

「変にしゃべったり、抵抗されるよりはやりやすいだろ。」

 

「まあそうですけど..。酷なもんですよね。」

 

長年..。長年か。俺は何をしているんだろう。毎日決まった時間に違った実験。生きてる意味を感じられない。俺は..俺という存在に意味はあるのか..?

 

「今日は採血のみだ。良かったな。」

 

普段はもっと拷問じみたことをしてくるくせに..。こういう無駄なことを考えてる時に限って何も無い。痛いのが好きってわけじゃないが..痛みは考えてることを忘れさせてくれるからいい。

 

「相変わらず..何も喋りませんね。」

 

喋る..。何を?お前らと何を話せばいい?分からない。

 

「....」

 

聞きたいことは山ほどある。だがそんな事をするのも面倒に感じるほどに、それがどうでもいいことに思えてならない。だがこのお調子者の下っ端は俺と話しがしたいらしいから聞いてやるよ。ずっと聞きたかったことを。

 

「なぁ..」

 

「「..っ!?」」

 

「俺とは..意味があるのか?」

 

空気が凍ったように周りが動かなくなる。

 

失礼な奴らだ。せっかく喋ってやったっていうのに。

 

「どういう意味だ?」

 

「そのままだ。この実験や..俺がここにいる意味。それをずっと聞きたかったんだ。」

 

「....」

 

研究員らしき2人は黙り込む。そして

 

「意味は..ある。」

 

目線を横にそらし呟く。

 

「へぇ?」

 

そして目線を俺に戻し

 

「1986番..お前の異能は体を細胞レベルまで操作することが出来る。これがどう言う意味が分かるか?」

 

しばらく考えた後

 

「細胞を弄れる..。結合とかできるって言うなら怪我を治せるくらいしか思い浮かばないな。」

 

「間違ってはいない。ただそれだけではなく病などといったものに対しても抗体を作れるんだ。」

 

「つまりどんな病気も治せるってか?」

 

「あながち間違いでは無い。」

 

つまり..そうか。なんだよ..。あるじゃないか..。俺がいる意味。

 

「そうか..。」

 

「今日の実験は終了だ..。部屋に戻れ」

 

いつもの部屋に入れられ鍵を閉められる。

 

そうか..。あったんだな意味が。長年あった胸の中のつっかえが無くなった気がする。今日は慣れないことをしたからか、妙に眠い。

 

少年..いや青年と呼ぶべきか。青年は静かに眠った。

 

 

 

 

 

 

なにか外が騒がしいな..。

 

 

ビー!!ビー!!ビー!!

 

 

「警報?」

 

誰かが走ってくる..。

 

「お、おい!起きてるか!?」

 

「....んん?」

 

「頼む..起きてくれ!アイツらじゃいつまで持つか..。」

 

「あんたは..さっきのお調子者の..。」

 

「お、俺は佐々木だ!!頼む..助けてく..」

 

パァン!!パァン!!

 

耳の奥..頭まで響くような銃声が聞こえ顔を顰めていふと、佐々木と名乗った研究員は膝から崩れ落ちた。

 

「あ..がぁ..た、助け..て。」

 

無理だろ..。と、言葉を紡ぐ暇もなく佐々木は息絶えてしまった。

 

そして俺は佐々木を殺した張本人に目を向ける。

 

「大丈夫?」

 

こういう場所には筋肉質な男のイメージがあったんだが..。そういう所も変わってしまったらしい。普通に華奢な女だった。

 

「あんたのせいで俺の寝床が血まみれになっちまったよ。」

 

「そんだけ軽口を言えれば大丈夫だな。出ろ。」

 

今度は男が来たと思えば俺の部屋の扉の鍵を開けて出ろと言ってくる。なんだ..これは?

 

「おいおい..。いきなり来て俺の数少ない話し相手を殺して挙句には出ろだと?」

 

「今は時間がないの。来て?」

 

横暴な奴らだな..。まあそこに転がってるアレも大して変わらないか..。

 

「行く意味は?ここで俺は研究されて人々に対して役に立った方が生きる意味があるんじゃないか?」

 

それを言えば2人は豆鉄砲食らったかのようにおし黙る。そして

 

「お前..それを本気で言っているのか?」

 

その男から読み取れるのは怒りと哀れみの表情

 

「本気で言うも何も..俺はそれしか知らない。」

 

「ここの人達になにか吹き込まれたのね..。」

 

吹き込まれた?何を?俺はただ事実を述べているのに..

 

「お前がされていた実験は確かに有益なものだったろうよ。権力者のみには..な?」

 

「は?」

 

さっきとは真逆で今度は俺が豆鉄砲食らったかのような表情をする。

 

「一般人に対してはただの害..むしろ大量の死人が出ているくらいだ。」

 

「それって..どういう..」

 

頭が真っ白になる..。俺がしてきたこの実験は?アイツらが言った言葉は?

 

「いいかよく聞け。分からないのなら考えろ。思考止めるな。結局決めるのはお前だ。今まであったことをよく思い出し、そして今ここで着いてくるか残るかを判断しろ。」

 

今まであったこと..。実験..実験..実験しかしてない..。

 

「冷静に考え分析しろ。そうすれば猿でも分かるぞ。」

 

周りを見渡す..。あるのは佐々木の死体。と俺がいる部屋と..。その他の部屋..。そこに何がいるのか..。同僚?何も分からない。

 

「1986番..」

 

俺に付けられた名前?のようなもの。なんでその名前..いや番号?

 

『意味は..ある』

 

あの時目線の先には何があった?

 

「カプ..セル?」

 

『アイツらじゃいつまで持つか..』

 

アイツらって誰だ?警備員?違う..警備員のことをアイツらなんて呼んでるところを見た事がない。

 

「じゃあ一体..。」

 

「大分分かってきただろ?お前が過ごしてきた中でどれだけ不審な点があったのか..。」

 

採血..。カプセル。アイツら。

 

「ほら..お前が気になってるアイツが来たぞ?」

 

たどたどしい足取りで歩いてきたのは..

 

「..お、俺?」

 

俺だった。

 

「見落としがあったのかな..。」

 

「いや..見ろ。少しだが再生している。恐らく成功体とまではいかないが上手く適合出来たヤツだろう。」

 

「な、なんで..俺が?」

 

パァン!!

 

「あがっ....」

 

銃弾が頭に当たった俺のような何かは崩れ落ちる。

 

「....俺の..兄弟?」

 

咄嗟に出てきた言葉を出す。

 

「近いが違う。あれはお前のクローンだ。」

 

「クローン....それじゃあ今までのは..。」

 

「そうだ..。お前の血を使い病気を治すというのは最終的な目標ではあった。だが、お前の異能を使い他の誰かを再生させた結果、そいつらは細胞が破壊され死に至ったそうだ。」

 

死ぬ..。じゃあ俺の今までの意味は..

 

「だからクローンを作り死なない軍隊を作ろうとしたってわけさ。だがそのクローンを上手く作れたのは数体程度で、その他は全て死んだ。クソ共が考えそうな事だ。そういう意味ではお前は役に立っていたかもな?」

 

俺はつまり..軍事力のために、戦争のために実験を行っていたってことか?

 

「どうだ?どれだけお前が考えてこなかったか分かったか?」

 

「..は..ははは..」

 

笑えるよ..。本当に..

 

「確かに..その通りだ..。俺がどれだけ考えてなかったか。くっ..はは」

 

どんだけ茶番だ。

 

「なぁ..お前らは俺にどんな意味を与えてくれるんだ?」

 

これは問いではなく願い..。どうかこんな俺にも生きる理由をくれと言う願い。

 

「俺達が与えてやれるのは自由だけだ。そこからどんな意味を見出すかはお前次第だ。」

 

「俺次第..か。」

 

よく分からず実験に付き合わされ、よく分からない奴らになんとも残酷な事実を突きつけられ、そんで結局俺次第ってか?

 

「ったく..ひでぇ世界だな」

 

「とりあえず着いてこい。お前にこの世界を見せてやる。そうすれば見えるものあるかもしれないからな。」

 

「行こう?」

 

そう言われ、2人から手を差し伸べられる

 

「そうだな..。まず、そこからか..」

 

そう言って乱雑にその手を取る。

 

 

そしてここからこの青年の物語が始まる。

 




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