艦娘探偵・あきつ丸 作:マロニー
ぱらりぱらりと鳴る、広告のラッパの音。
がやりがやりと騒ぎ立てる男ども。きゃっきゃと姦しく話を盛り上げる女ども。
そしてただ五月蝿く騒ぐその世迷供を通り抜ける人力の車と、髭の蓄えた紳士達。いつもの様に、その都は時間を過ごしてゆきます。
ここは帝都。
人も情報も犯罪も。何もかもが全てがごった返す、この世界の坩堝と言って良い程の場所。
ここには、様々な人生と事情、情事や因果。
そして悩みが詰まっております。
その悩みを解決するために、探偵業といふものが栄えたと言うのは当然の事でございましょう。
そしてこの探偵業にあたって。風の噂にて、ひどく有能なる探偵事務所があると聞きました。
大通りを少し抜け、路地裏へ。
その路地裏を曲がった先にその建物は御座います。
古びた建物、それは探偵事務所で御座います。
よく御覧になりますと看板も掛けてありましょう。
其処に、その高名なる探偵様がいらっしゃいます。
曰く、解決ならざる事件無し。
曰く、怪傑ながらの能力を持つ。
女性ながらにして、途轍もなく高き評価をお受けになっている探偵さまです。その建物に今日も依頼人が入ってお行きになります。今日も今日とて、繁盛であります。
「失礼する」
そう、呼び鈴を鳴らした、依頼人と思われる青年は、そのまま無作法にも建物に入り、思わず絶句致します。
何と、探偵さまと思われる軍服を着られたそのお方は、机の上にて居眠りをされていたのです。
戸締りもせず、職務も行わずに、
ただただ惰眠を貪っていたのです。
「こいつは、何と言う昼行灯だ。
所詮噂は噂だと言う事か」
と、身なりの良いその訪問者が一人ごちると。
その御方は眼を覚ましました。
そして悪怯れる様子もなく眼を擦り、身嗜みを整え、そしてようやく、礼を尽くします。
「これは失礼。見苦しい所をお見せしてしまいました。
その御方…都中に響く名声を持つ探偵さまは。
机の横の帽子掛に掛けてあった軍帽を被ると、また改めて体勢と体裁を取り繕います。
「非礼を御許し下さい。自分の名はあきつ丸。この探偵事務所の所長をしている者です。以後、御見知りおきの程を」
そして自己の紹介を致しますと、にひるに微笑みました。
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「はあ、山の奥より砲声が…で、ありますか」
早速探偵さまは依頼の方をお聞きになられます。
そして聞いた話によりますと、この青年はさる富豪の一人息子。今では、厭世家と成りそのまま命を自ら絶った父に変わり指導者として働いてるのだと。
そうして忙殺されていた、そんなある日の事。
自らの私有地である広大なる御庭からなんと、物々しい鉄と火薬の音が聞こえたのだと。それも、拳銃などより圧倒的に重々しく、過剰な程に大きな音が。
流石に不審に思い、使用人や警護の者に見に行かせるも成果は無し。ええいと思い、自らが行っても同様だと言うのです。
「故に、それについての捜査を貴女へお頼み申し上げたい」
そう、依頼人さまはおっしゃいました。
その傍にあるケエスの中身を見せながら。
…その、札束の山を見せながら。
そして更に、驚くべき一言。
「こちらは前金。
報酬の方は、解決の後改めて送らせて頂きます」
「…はは、これはこれは。
随分と気前の良い事でありますな」
「その理由は、聞かないで頂けるとありがたい」
元々受けようと思っていた所にその莫大な報酬。当然探偵さまにそれを断る理由はありません。
「ええ、ええ。委細承知致しました。依頼を受けましょう。では早速、そちらへ赴かせて頂きましても宜しいでしょうか?」
「そう仰ると思い、あちらの通りの方に足を用意しております。では、行きましょうか」
そう言い、足早に事務所内を後にする依頼人さまの姿の後ろ姿を、あきつ丸どのは不思議な心持ちでじっとお見つめになりました。
…暫くの後、くすりと微笑みながら指をお鳴らしになりますと、ごく小さい艦載機が窓を閉め、事務所の端に乱雑に置かれている軍刀と一つの黒々しい鞄を探偵さまの手元に送りました。
これが彼女の身支度なのです。
そして最後に、大ぶりな黒い外套を羽織りますと、ぼそりと一言、独りごちました。
「やれやれ、退屈は無さそうでありますな」
そうして、事務所の中に動く物は居なくなりました。
その艦であり、人である探偵さまは。
今日も今日とて、しがらみを、依頼を、その懊悩を。それら全てを解決する為、煩雑たるその帝都へと歩みを進めました。