艦娘探偵・あきつ丸   作:マロニー

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第一幕

さて。

 

その屋敷に着くまでは省略致します。

力車に揺らされる御依頼者さまや探偵さまを詳らかに描写していても仕様が無い故。

 

さてさて。

 

探偵さまは依頼人宅を一目見ますとほぅ、と嘆息をつきました。

 

その嘆息は疲労によるものでも嘆きでも無く、単純に目の前の豪奢な邸宅に関心してのもの。

 

目の前にした者の心を奪う程の美しさ。

いやはや、正に天晴な豪邸でございます。

 

 

あきつ丸さまはその感動をこう言い表しました。

 

 

「一廻りするだけで日が暮れそうですな」

 

 

閑話休題。

 

探偵さまのご要請もあり、早速件の裏庭へ赴く事と相成りました依頼者様と、彼のボディ・ガードとを含めた御一行。

 

根が脚を絡め、葉が眼を隠す雑木林をえんやこらえんやこらと超えていきまして、夕暮れ時には何とか轟音がしたという場へ到着しました。

 

 

「此処でその砲音が聞こえたと言うのですな?」

 

 

「えぇ。正確にはそれに似た音、ですがね。

…しかし、既にお聞かせした通り、ここには何も残っちゃあいません」

 

「ほう」

 

「はっきり言いまして、無駄足です」

 

 

「無駄足とは…また奇な事をおっしゃりますなぁ。

流石は名門の御子息様であります」

 

 

「…」

 

 

あからさまに皮肉られ、

依頼人さまはその端整なお顔の眉をおひそめになります。

 

 

「…流石、帝都きっての奇人殿は言う事が違います。

無駄足なんてものは無いと?」

 

 

「ええ。この世にある行動は全てに意を内包しています。無駄なんて物はこの世に無いのです」

 

 

「はは、まるで宗教ですな」

 

 

「それで結構。理解できぬを蔑むは人の常でありますからな」

 

 

その様な言葉をお交わしになりながらも、

探偵さまは持参なさった鞄より何かを取り出します。

 

それは、丸められている巻物と…

 

 

「…走馬灯?」

 

 

そう、そのお取り出しなされたもう一つ。

それは正に走馬灯そのものでありました。

 

訝しむボディ・ガードと依頼人さまを我関せずとばかりに、探偵さまはその走馬灯と巻物を手に両の眼をお閉じになりました。

 

 

すると、なんと!次の瞬間!

そこに小さき艦載機が現れたのです!

 

 

一行がざわめき、驚きますが、

探偵さまはそちらへの反応は行いません。

 

さて、驚きが冷めやらぬ内にその機体は何処へやらに飛んでいってしまいます。

 

すると又、探偵さまは目を閉じ、黙想。そうしますと再びそこには模型のような艦載機が。

 

そして又々目を閉じ…

 

…と、こうして八回程その行動を繰り返しました後。あきつ丸さまは帰投を提案なさいました。

 

気づけば周りはすっかり暗くなっております。

それを断る必要も無論有りませんので、御一行は帰路に着く事に成りました。

 

 

「では、お互い足元にお気を付けて」

 

 

あきつ丸さまは、そのような、童にでも言う様な事を戯れに仰りながらその手の走馬灯を照らしました。

 

眩い程に照らすその青白い光は、まるで死出の灯火そのもの。見たものの背中をぞくつかせる様な代物であります。

 

 

 

「…失礼。」

 

「おや?如何なさいましたか、御子息殿」

 

 

帰路の途中。依頼者さまは徐にあきつ丸さまへ近づくと、些か青褪めた顔で彼女へ話しかけました。

 

 

「先程の行為は一体…何かの魔術ですか?

あのような物、見た事が有りません」

 

「それは残念。

少し前ならば海へと行けば幾らでも見る事が出来ましたのに」

 

 

「巫山戯無いで頂きたい。

…あれは一体何なのですか」

 

 

探偵さまはその問いを受けますと、顎に手を置き、ほんの数秒程思案をお巡らせします。

 

そして、こうお答えになりました。

 

 

「一つ明かしますと。

実は自分、人間では無いのであります」と。

 

それを聴くと依頼人さまはうんざりとした様子で離れて行ってしまいます。

 

 

(莫迦げた女め。

人を食ったような態度ばかり取りやがる)

 

 

(……だが…)

 

 

御依頼人さまは、青白い光で照らされているあきつ丸さまの姿をまじまじとご覧に成りました。

 

 

(…格好が綺麗すぎる。)

 

 

ボディ・ガードや自分を見ますと、雑木林を通る際の苦労が偲ばれる様なそれ相応の格好。

 

土と葉の緑で汚れ、枝でほつれて破けた服。そんな、見窄らしい格好をしております。

 

ですが、探偵さまのお服にそのような後は御座いません。身幅の広い外套を羽織っているのにも関わらず。

 

 

(それだけじゃない。

奴は此処に着いた時も息切れ一つ起こしていなかった。)

 

 

(…人間では無い、というのが真であるなら)

 

 

 

と、依頼人どのはそこまで考えますと、それを打ち払いますように頭を横にお振りに成ります。

馬鹿々々しく血迷った考えに、その様な事はあり得ないと正気付いたのでありましょう。

 

 

(…だが、こいつなら……)

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

山より降り、何とか自らの事務所へと戻って来たあきつ丸さまは、夜更けの帝都で愕然と致します。

 

…何を隠しましょう。

事務所が滅茶苦茶に成っていたのです。

 

空き巣でありましょうか?そうであるならば金品を奪っていくでしょう。それに、ここまで徹底した破壊をする理由は無い筈。

 

であるなら、これは怨みを持つ者の犯行。

 

…或いは。この事件に関わるな、という警告。

 

 

探偵さまは、目の前の現実を受け止め。

そして一言、こうお呟きになりました。

 

 

「糞ッ!」

 

 

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