艦これ短編集   作:マロニー

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下品です。
また、キャラ崩壊があります。


朝潮は冀う

 

 

 

 

「司令官、抱いて頂けませんか?」

 

 

 

一瞬、ぞくりとした。

 

 

だがふと思い直し、平静を保つ。

 

 

朝潮は抱きしめて欲しいと言ったのだ。

そこにきっと他意はない。そう思って。

 

 

「あ、ああ。いいぞ。

どうしたんだ?急に甘えてきて」

 

その動揺を言動に漏らしながら、提督は席を立つ。そして視線を少女に合わしゆっくりと話しかけた。

 

 

「いや、別に言わなくてもいい。

ただ甘えたくなっただけなんだよな」

 

 

彼は自分にも言い聞かせるようにそう言い、少女を軽く抱きしめた。父親が娘を愛でるようにしてゆっくりと。包み込むようにそれでいて力強く。

 

 

(そうだ。俺の心が穢れていただけだ。抱擁で顔を赤くし それでも笑顔になってくれているこの子が、そういう意味で言う訳がないだろう)

 

 

 

そう、考えながら。

すっかり安心してから抱擁を解き 彼は朝潮を見据える。

 

 

 

彼女の頬は桃色に染まっていた。

…が、その表情は少しだけ困った様だ。

 

それは提督をひどく不安な気分にさせる。

背中に氷が溶け入る感覚を感じる程に。

どうしてそのような?問いは出ない。口が動こうとしない。

 

鼓動が速まり。

脂汗が滲み出る自らの額を感じながら朝潮の言葉を待つ。

 

 

待つ時間は永遠に思われたが、実時間はきっと、とても短いものだっただろう。

 

しばらくして朝潮はおずおずと口を開ける。

 

 

「ほ…抱擁の方、ありがとうございます!

その、とても嬉しい…です。ただ…」

 

 

 

…『ただ』?

 

 

 

「その…司令官に抱いてほしいというのは女として、という意味でして!」

 

 

 

 

卒倒しかけた。

というか本気で視界がグルッと逝った。

 

 

 

「!?ど、どうしたのですか!?大丈夫ですか?」

 

 

「大丈夫。大丈夫…だ」

 

 

 

失いかけた意識を、口腔が血を滲ませる程に強く噛み締める事でなんとか保つ。ここで倒れるのは簡単だ。

 

だが、まだ倒れるには義務が残っている。

どうしてこんな事になったのかを、聴く義務が。

 

 

 

「…何処…から、そんな情報を?…隼鷹か?」

 

 

 

否。違うはずだ。彼女には前歴がある。そしてその際の刑罰(禁酒)は彼女の反省を促すに十分が過ぎる筈。

 

 

(刑を言い渡された時目やら表情やら死んでいたし。アレで二度目をやるとは思えねぇしな)

 

では一体誰が?

彼には目星がつかない。

誰も黒星(クロ)の候補が見当たらないのだ。

 

 

その疑問は少女の一言で払われた。

払われる事が幸せとは限らないが。

 

 

 

「い、いえ。今度は隼鷹さんでは無く…

榛名さんにお聞きしました」

 

 

断末魔の悲鳴を上げかけた。

 

何故、どうして、嘘だ。

そんな文言のみが脳髄を駆け巡る。

 

 

「…は……榛名…が…!?」

 

 

 

何とか、一言を放つ。

本能か、目尻にはよくわからない水が溜まる。

 

 

 

「はい。金剛さんと話をしていらっしゃった所を…その、図らずも盗み聞きしてしまいまして」

 

 

と、自らの無作法を恥じ入るようにして話す。

生真面目だなと思い 少し和む。

精神の限界をほんの少し遠ざける事が出来た。

 

 

 

「ええと…少し興味深い内容でしたので。そのまま聞いていると、『抱かれたい』などの言葉が出てきたのですが」

 

 

「…成る程。朝潮の知っている意味では会話が成り立たないと思って、その意味を聞いたんだな?」

 

 

「!は、はい!その通りです!」

 

 

「…成る程、成る程な」

 

 

…ほんの少しだけ、提督の目に光が戻った。

まだ、行ける。

 

 

 

「……ひょっとして。その、意味を質問した時。

榛名は慌てていなかったか?」

 

 

「!何故それを?」

 

 

 

良し。心の中で拳を握る。

 

 

 

思うに、事故に近かったのだろう。

 

金剛と榛名が少しだけ、姉妹故に許されるような明け透けに恋バナをしている最中の事。朝潮がそれを聞いた。

 

そして痴的…否、知的好奇心から朝潮はその会話について聞いたのだ。

 

聞かれた以上、すっとぼける事も出来ない。

ならば彼女は答えるしかなかった筈。

 

 

 

…これで榛名への疑惑は晴れた。

だがもう一つ。どうしても明らかにしなければならない事がある。

 

 

息が急に荒くなる。

一気に数十年も老け込むような錯覚に陥る。

指先がチリチリする。口の中はカラカラだ。目の奥が熱い。

それでも、問わねば。

 

 

 

「…それで。質問された榛名は何と答えたのだ」

 

 

「…は、はい。『抱かれる』とは…」

 

 

「…は、はだ、裸で同衾する事だと!」

 

 

 

…どっと、安堵のため息が出た。

 

嗚呼、助かった。

 

朝潮は穢れてなどいなかったのだ。

少女を穢してしまった悲しい事故は無かった。

 

 

おお、裸と言うだけで顔を茜色に染め上げるその純真さよ。

恥のあまり目をぎゅっと瞑る姿の保護欲が湧く事これ以上無い。

 

 

 

「…そうかそうか。そういう経緯だったか」

 

 

 

すっかり気を抜き提督は言う。

その顔は老け込み、口腔は噛み締める余りに血塗れだ。

 

 

 

「…はい。それで、どうでしょうか」

 

 

 

 

俯きながら、彼女はそう返す。

 

 

 

「ん?何が?」

 

 

 

極度の緊張から逃れ、半分呆けつつ返事をする。

それが最悪の事態を招くとも知らずに。

 

 

 

 

「…私を抱いて頂けますか?」

 

 

「ああ、お安い御よ…え?」

 

 

 

 

…そう。何も解決していなかった。

根本的な問題は全て残っていた。

 

彼が解決した気になっていたのは、いわばその問題の前座である事。それをすっかり忘れきってしまっていたのだ。

 

 

 

「!!よ、宜しいのですか!ではっ!」

 

 

 

提督のその生返事を受けて、彼女はその顔を更に、石榴のように赤くしつつ敬礼をする。

…そして、その上着を脱ぎ始めた!

 

 

 

「〜〜ッ!!や、やめろ朝潮!」

 

 

 

提督は顔面を蒼白にして、その脱衣を止める。

言葉と、その両の腕で少女の服を抑えて。

 

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

「あの、先程からかなり物音がしていますが何かありまし…」

 

 

 

 

「は、放してください!」

 

「いいからその手を離せ!コラッ、抵抗するな!」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

はっと。提督は自分に向けられる殺意を感じて、

そっちを迎え見る。

 

 

そこには、いつも彼の仕事の補佐をしてくれる艦である大淀が居た。

そして次に。自分を第三者的視点で捉えてみた。

 

 

はだけた少女の服を掴み、抵抗するなと叫ぶ成人男性。

それを見て何を思うだろうか?

 

 

 

不思議と気分は落ち着いていた。

悍ましい笑みを浮かべた彼女に対しても。

もはやなんの感情も起こらなかった。

 

 

「懲罰房の中の気持ちは一体どんなだろう」

ただ、そんな事をボンヤリと思っていた。

 

 

そして身体の反射がそうしたのか。

自己の意識がそうさせたのか、一言叫んでいた。

 

 

 

 

「俺は悪くねぇ!!」

 

 

 

 

 

おわり

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