艦これ短編集   作:マロニー

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罪と罰

 

 

 

(横恋慕が罪なら、この苦しさは罰なのかな?)

 

知らぬ間に落ちているのが初恋なのだと、誰かが言っていた。それを小馬鹿にしていた自分が、今はただ羨ましい。

 

 

 

 

 

私がここに…

この鎮守府に着任したのは、大井っちより結構遅れての事。

 

だから、着任した時は凄かったなぁ。秘書艦として居た大井っちが飛んでくるんだもの。練度に差もあったし痛かったのなんの。

 

それを見て困ったように苦笑する提督も、その顔に浮かぶ喜色を隠しきれてなかったね。

 

 

着任して暫く。

 

出撃や訓練の日々をここで過ごしていく内に、色々な事が分かっていった。

 

在任してる艦娘の数。

いつもカツカツの燃料。

食堂の利用についてのルール。

提督の人柄、苦悩。

 

そして、大井っちの練度が100を超えている理由。左手に光る鈍色の指輪。大井っちの一番が既に私では無い事。

 

 

…それがショックだったかって?

ううん、全然。むしろそれは、親友として心から嬉しい事だった。

 

私に囚われている大井っちは見てて痛々しく、辛かったし、そう思っている私を大井っちは当然喜んでもくれなかった。だから、もう私は彼女の枷にならない事を分かった時は素直に嬉しかった。

 

それもあってね。この鎮守府に来て暫くは、本当に幸せだったんだ。

 

気のいい同僚、美味しいご飯。

 

吹っ切れた様子で、明るい親友。

愚痴のように、私に惚気る親友。

 

うぶで気弱だけど、実は根性のある提督。

優しく、私なんかにも気遣ってくれる提督。

 

お人好しで、私達が傷つく事に傷ついてる提督。

無理した時は本気で怒る提督。

 

いつも困ったような顔をしてるけど、たまに見せる笑顔が素敵な提督…

 

 

……いつからだっけな。

 

いつも隣にいる大井っちにじゃなく、あの人に…

提督に目がいくようになったのって。

 

言い訳にしかならないけど…

…気が付いた時には、もう手遅れだった。

もうすっかり私は、甘くて苦い、決して抜け出せない泥沼に嵌まり込んでしまっていた。

 

嵌った泥沼から、抜け出せなくなっていた。

…泥沼から、抜け出したくも無くなっていた。

 

 

 

この感情を自覚しちゃったのは、提督と大井っちの…いわゆる、夫婦の営みを。偶然見た時。

夜、喉が渇いて起きて、水でも飲もうとした時に見てしまった。

 

その時私が抱いた感情は、申し訳なさでも、見てはいけない所を見てしまった気恥ずかしさでも無く、只ドス黒い感情だった。

 

嫉妬、憎悪、憤怒…

…他には言葉が思いつかないけど、取り敢えずそういう感情。

 

最初はそんな感情を抱く自分に困惑した。いけない事だと思って、寝床に戻って深呼吸とかもして、心を落ち着かせようとした…

 

でも、落ち着けなかったや。

…その時はっきり解っちゃった。

 

私は提督が好きなんだ。

 

もうケッコンしているとか、愛の発露の現場を見たとか、親友への裏切りとか、そんな事じゃどうしようも無いくらいに。

 

理屈と論理と倫理じゃあ抑えきれないくらいに、理不尽なくらいに、提督が好き。好きになってしまった。

 

 

…そして同時に解っちゃった。

どうしようも無いくらい、この愛は届かないって事も。

 

 

初恋は甘酸っぱいなんて大嘘だよ。

苦くて苦しくて辛くて…そんな事、今はどうでもいいか。

 

 

ともかく、その日は一晩中泣き明かした。

たはは。翌日皆に心配されちゃったよ。

 

 

それからは、今迄がウソみたいに辛かった。

地獄って言ってもいいかな。

 

それまでタブーとして封じ込めていた想いが、自覚を境に押し込めきれなくなった。

 

それと同時に、親友を裏切っている背徳感、親友の恋人への横恋慕の罪悪感。大井っちと自分を比べ、優っている所を見つけ優越感に浸る私自身への自己嫌悪。

 

それはまるで壊れた蛇口みたいに。

そんな風にマイナスの感情が吹き出していって。そんな考えをする自分が只々嫌で。

 

 

それが無意識に分かっていたのか、大井っちは私に少し警戒しているみたいだった。

前みたいな惚気は言わなくなり、やけに他人行儀になっていった。

 

僻んだ私の被害妄想かもしれないけれど、目の前で提督といちゃつく事も多くなった様な気がするんだ。

 

 

どんどん、どんどん。

どんどんと、どんどんと、どんどんと。

 

 

私から離れ、提督を私から離し。

 

私も大井っちから離れて行く。

 

 

 

そしてだんだん、だんだん。

 

私の親友への想いは、黒いモノヘ変わっていった。

 

 

…不思議だなぁ。

愛情と憎悪はこんなに簡単に入れ替わるんだね。

 

 

そんなある日。

夜中、眠れずにいる提督が、同じく眠れずにいた私と鉢合わせ。で、ちょっと話をした。

 

 

 

提督は、疲れてるみたいだった。

 

他の子とあまり会話をするな、北上とは特に…

なんていう、無茶な要求。

 

その他の、異常な束縛。それに心労を感じているようだった。

 

 

 

頭の中で何かが切れる音が一つ、して。

 

 

 

私は、困った様に笑うその唇に、唇を重ねた。

 

頭を抑え、舌を絡めた。

 

 

 

 

………

 

 

 

 

気を浮つかせ、倫理に背かせる。浮気、不倫。それは間違いなく罪だ。救いようの無い、罪業だ。

ならそれをした私に、いつかまた罰がくるのかな?

救いようの無い罪にはそれ相応の、救いようの無い罰が下される?

 

 

 

「ねえ、提督」

 

 

 

…それでもいい。それでもいいから、今はただ、この甘い罪に溺れていたいんだ。未来の無い…いや、始まってすらない関係だとしても。それでも今は幸せなんだ。

 

だから、私は…。

 

 

「私、貴方の事が好きだよ」

 

 

………

 

 

 

「……そう。」

 

 

 

 

 

おわり

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