艦これ短編集   作:マロニー

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青い、青い。

 

 

 

 

僕はずっと、英雄(ヒーロー)になりたかった。

 

 

この国が戦う、化け物達を。深海から来る人類の敵を退治する、そんな英雄に。

僕はずっと憧れていた。

 

子供特有の全能感から来るそんな憧れは、僕が育っても消える事は無かった。いや、寧ろ日に日に増していっていたように思える。

 

だから、艦娘を指揮する提督にならないか、と問われた時は、使者の方に二の句を継がさずに是の旨を伝えた。

喜んで、従軍する事にした。

 

その頃には、英雄になりたいなんて事を言う僕に対して冷たい視線を向ける者は多かった。夢の見過ぎ、志は良いが、現実を見ろ、と。

 

友人も、上司も、親も、皆そう言った。

 

それは当然の反応だし、僕自身、その夢を語る事が情けなく思い初めていた。

 

ただ、この頃。初めてそんな稚気じみた夢を笑わず、真剣に聞いてくれた娘がいたんだ。

 

「凄いです、立派です。これから一緒に頑張りましょう」と。目を輝かせ、その青い長髪を揺らし、僕よりも嬉しそうに僕の夢を語ってくれた。

 

 

それから僕の、僕たちの提督業が始まった。

 

 

慣れぬ作業も、ひたむきな初期艦のお陰で何とか慣れるまでに至る。ようやく任務を遂行出来てひとしきり喜んだ事も今は懐かしい。

 

初めはその娘だけだった鎮守府も、手を取り合いながら、日々を必死に暮らしていくうちに大所帯になっていった。

 

空母や戦艦も揃い、軍事力は肥大し、駆逐艦しか居なかった鎮守府は影も形も無くなっていた。

 

勿論指揮した作戦全てが成功した訳では無かった。だが、それでも勝率は高く。

それが英雄願望を満たしてくれていた。

 

そのまま僕は、そこで止まっておけば良かったのだと思う。

 

そこで満足して、自慰的な戦いを継続しておけば良かったのだとつくづく思う。

 

 

ある日。僕はある光景を見た。

 

戦場へと持ち込んでもらった映像機器が、捉えてしまったその光景を。

 

 

その日から、僕は僕の価値観を、願望を、夢を。自問し続けていた。

 

 

ヒーローなんて物は、元々は傲慢にこそ価値がある。自分の正義を押し付け、自分の価値観に照らし合わし悪である者を捩じ伏せて、自分が善だと思いこんでいるものを盲目的に守る。

 

では、英雄(ヒーロー)たるものは果たして本当に正義なのか?

 

 

そんな考えをすればするだけ、あの日の光景が何度でも蘇って来た。

 

あの、泣いて命乞いをしてきた深海棲艦の姿が。何度でも脳裏に蘇った。

 

 

例え酒に酔おうともそれは幻覚として現れて、享楽や快楽に塗れようとしても、脳髄はそれを忘れ去らせてはくれなかった。

 

英雄には傲慢さや、善の価値観を押し付ける強さが必要なのか、ずっと考えてきた。

 

何てことは無い。僕はただ、罪悪感に耐える事にいられない、半端者なだけだったんだ。

 

それに気づいたのは、気づけてしまったのは。

幸運だったのか、不幸だったのか。

 

 

そのまま僕は、提督では無くなった。

 

 

大本営からの打診があったのだ。その戦力を使わないのであれば今すぐに譲れと。

 

 

二つ返事で頷いた。

 

 

鎮守府を去る時には、ほぼ全ての部下が僕に失望し、見送りには一人を除き来なかった。

 

 

ただ一人、青い髪をした少女以外は。

 

 

少女は、意を決して言う。

 

 

「私は!提督に、付いていきます!」

 

 

ああ、来い。来てくれと。そう言いたかった。

だがダメだ。周りの全てがそれを許さないだろうし、何よりも僕自身が許せなかった。

 

僕はこれから、指揮も出来なくなった役立たずは、穀潰しのせめてもの役割として前線へと赴く。年を越すことも、無いだろう。

 

だから、そんな者に付いてくる必要は無い。

必要も、意味もないのだ。

 

少なくとも、前途ある彼女の生涯を台無しにする程の意義は無い。

 

 

首を横に振ると、泣きそうな顔を向ける。

そんな顔をしないでくれ、笑ってくれ。

僕は君の笑顔が好きなんだ。

 

思っただけのつもりが、言葉が漏れていたらしい。彼女はそれを聞くと、涙をぐしぐしと荒っぽく拭い、両の手で頬を押し上げて、無理矢理に笑顔を作った。

 

 

肩を並べて歩いたあの日。初期艦の君と、多くを右往左往したあの日々。それは最早、ここには無いのだ。

 

 

何か気の利いた言葉でも、教訓でも残したかった。しかし、何か言えば彼女の事が惜しくなってしまいそうで。自分の想いが揺らぎそうで。

 

だから、一言だけ。

どうしても、心から溢れて、言えずにはいられなかった一言だけを言った。

 

 

 

「ありがとう五月雨。…さよなら」

 

 

 

そのまま、去った。

 

 

涙が溢れないように空を見上げた。

忌々しいまでの快晴だ。

青い髪がいつまでも、心に残ったようだった。

 

 

後ろから、押し殺した嗚咽が聞こえる。

 

ああ、駄目だな僕は。

最後の最後に、君を泣かせてしまうなんて。

 

やっぱり、僕にヒーローの資格なんて無いみたいだ。

 

 

 

終わり

 

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