艦これ短編集   作:マロニー

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服の透ける眼鏡

 

 

 

 

 

 

 

「…何だ、こりゃ?」

 

 

ぽつんと。机の上にそれは置いてあった。

 

 

一見それは普通のメガネ。

が、問題は横に置いてあるメモ書きだ。

 

 

書いてある文字はそれだけ。

ただ、それだけなのが厄介だ。

 

 

(…服が透ける、ねぇ…)

 

 

こういったトンチキなモノを作るのは大体明石だ。次点で夕張。

 

最初に浮かんだ感情は「本当だろうか?」といった猜疑心。

 

そしてそれは次第に薄れ、むらむらと他の感情が湧き上がる。好奇心と言わずもがなな感情がむらむらと。

 

 

(……)

 

 

 

明石か夕張、どちらもをとっちめればこの眼鏡についての真相は聞けるだろう。

 

だがそうしたらこれを掛ける事も恐らくできなくなってしまう…

 

 

「……よし」

 

 

ほんの少しの逡巡の後、コソ泥のように周りを見渡しながら提督はそれを付けた。

 

度は付いていない。一見するだけならただの伊達眼鏡にしか見えないような代物だ。

 

 

(…これは確認。確認の為だからセーフ)

 

 

咎める自分の良心を、そんな大義名分をつけ、無理矢理納得させて。

 

確認ならその状態で自分の服を見れば良いのでは?という考えはもう彼の頭には無かった。

 

 

そんなこんなで彼の頭が冷静になる前に、その部屋に一人来客が来た。コンコンコンとノックの音。恐らくは本日の秘書艦。

 

 

「は、入ってくれ」

 

 

と合図をすると気の抜けた返事とともにドアが開く。そこに居たのは…

 

 

 

「ありゃ、北上?」

 

 

「うーっす。なんか目覚めちゃってさ。

暇だから来ちゃった」

 

 

 

と秘書艦では無い。ただ、気まぐれに遊びに来ただけの、気まぐれな娘だった。

 

そして提督の眼鏡を通して見えた彼女の格好は…

 

 

…ベージュのスポーツ・ブラとパンツだった。

 

 

 

 

(……下着までかよ!!)

 

 

 

すっかり大義名分を忘れきり助平心を丸出しにしていた提督は、心の中で声にならない慟哭をあげ、歯噛みをする。

 

 

だが彼はそんな事はおくびにも出さず平静を保ち、あくまで紳士的だった。

 

 

「そうか。まあ気が済むまで居るといい。

どうせ俺もまだ休憩中だ」

 

 

「ん、ありがとね…その眼鏡どしたの?」

 

 

「イメチェンさ。悪くないだろ?」

 

 

「私は付けてない方が良いかなぁ」

 

 

 

聞いているだけならば普通の会話である。

微笑ましいコミュニケーションだ。

 

 

がしかし、提督はだんだんと気が気で無くなっていた。会話より気になってるものがあった為だ。しかもそれは時間と共に加速度的に彼の気を引いていく。

 

それは、彼の目に移る甘美な光景。

 

椅子に座った彼女が両手を上げ、頭の後ろに置く。その動作は、彼女の下着をほんの少しずれさせる。そしてそのズレは少しずつ蓄積し…

 

 

(…もうちょい、もうちょっと)

 

 

…最早、大義名分など無い。彼は心の中ですら獣性を誤魔化しきれていなかった。彼の心は既に、野獣と化していた。

…健全な男なら仕方ないのかもしれない。

 

 

 

…そうしていると。ふと北上が椅子から立ち上がった。

 

そして提督の近くに来たかと思うと、

耳元でこう囁いた。

 

 

 

「バレバレだよ。…し、せ、ん」

 

 

そう言って、するりと提督の耳に掛かっていた眼鏡を取った。

 

決して早い動きではない…

むしろ緩慢な動きだったが、直前に囁かれた言葉にぎくりと固まっていた提督はそれに反応出来なかった。

 

 

そして、そのまま彼女は眼鏡を自分にかける。

 

北上は少しだけ、見えた世界に驚いたような顔をした後、にやにやと顔を歪め提督の顔をこちらに向けさせる。

 

 

にやにやとした顔をそのままに、北上はこれでもかと挑発的な態度を見せる。

 

 

「提督ったらスケベだなぁ」

 

 

「何を期待してたのかなー?」

 

 

「何も言わないでそんな事するなんてダメだよ」

 

 

 

と。

 

さて提督はと言うと。すっかり頭も冷え(顔が真っ青になるほど!)、自己嫌悪やら恥ずかしさやらで情けなくなってしまい、そのまま言い返す言葉もなく縮こまってしまっていた。

 

 

 

「ねえ、どーなの?」

 

 

「いや、その…」

 

 

曖昧な返事を繰り返す提督に、北上はするりと接近する。そして、耳元でこう囁く。

 

 

「黙ってたらわかんないでしょ?

…それとも何かな」

 

 

そこまで言うと彼女は再び距離を取って、彼の目の前に立つ。そして笑みを浮かべて…

 

 

 

「この下がそんなに見たいのかな。

…それとも、見たいのは更にその『下』?」

 

 

 

スカートをひらつかせながらそう言った。そこに妖艶さは無い。悪戯な笑みを浮かべるのみだ。

 

 

 

「…そ、それは…」

 

 

「…ぶぶー。残念、時間切れだよ」

 

 

 

そう出し抜けに言うと、彼女は眼鏡を外す。

そしてほいっと、乱雑に提督へと投げ返した。

 

 

 

「それ、他の娘の前では外しなよ?

…私以外はきっと、怒っちゃうからね」

 

 

「…お、おい、それってどういう…

…ッ!?」

 

 

「…ふう、そんじゃね。」

 

 

 

目を白黒させている提督を尻目に、彼女は執務室を出ていってしまった。

 

 

…去り際の、唇への熱い口付けだけを残して。

 

 

部屋に残ったのは、魂を抜かれたかのように茫然としている提督ただ一人。その耳に足音が一つ聞こえてくる。今度こそ秘書艦だろう。

 

 

放心した彼が考えているのは眼鏡の事でも誰がこれを作ったかという事でも無く、北上の事。

 

彼女がスカートをひらつかせた時の、悪戯な笑み。あの、にたっとした笑み。

 

 

 

(今度また会った時、何て言おうか)

 

 

 

…心の底では分かっていた。あの笑みを浮かべた彼女にはきっと、もう敵う事は無い。

 

あの笑みの北上には最早服従するしかない。

服従し、彼女の愛を乞うしかないのだ。

 

 

近づいてくる足音。

目を閉じ、天井を仰ぎながらそれを聞く。

 

 

閉じた目の裏には、数瞬前に見たベージュと唇の桃色が鮮烈に残っていた。

 

 

 

 

 

終わり

 

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