ヒーリングっど♥プリキュア 〜医神と地球の戦士〜 作:ゆぐゆぐ
なので、時間の合間にごゆっくりとお読みくださいませ。
「クゥ~ン、クゥ~ン……」
平光アニマルクリニックにて、急に体調を崩したラテを抱え急いで先生に診て貰うことに。唸り声を上げて苦しそうにするラテを、僕達は傍でただ見守っていた。
「お兄……どう?ラテ死んじゃわないよね……?」
「ひなた、落ち着け。疲れが溜まっているところに風邪をもらっちゃったみたいだね。薬を出しておくからしっかり休ませること。いいね?」
「ありがとうございます……!」
「どういたしまして。ラテちゃん、点滴も打ってげようか」
そう言って平光先生はラテに点滴を打って、一先ずの処置は終わった。
やがてアニマルクリニックを後にして、のどかはラテを連れて帰路に着こうとする。せっかくなので、僕達ものどかの家に行くことにした。
「ラテ様、眠ったか?」
「ぐっすりラビ」
ラテは先程処方してもらった薬を飲んで寝床で眠っている。見た感じは本当に疲労による風邪なので順調に回復しそうだ。
「最近難しいお手当てが続いたペエ」
「ラビリン達がもっと気を付けなきゃいけなかったラビ」
「ごめんな、ラテ様」
とはいえ、ビョーゲンズの影響で悪くなった体調はエレメントボトルでどうにかなるが、身近で起こる風邪はどうしようもない。たまたま運が悪かっただけなのだ。
「ラテ、しばらくお家でゆっくり休もうね。皆が付いているから」
のどかはラテの頭をそっと撫でた。当然、寝ているので目立った反応は示さないが先程よりも気持ちよさそうに寝ている気がする。
「はあああぁぁぁ……っ!たあああぁぁぁ……!」
その時、窓際から若干小さくもうるさい声が聞こえてくる。視線を送ると、ひなたが窓というか窓の外に向かって念を送るような仕草を取っていた。
「何やってんだ」
「今、ビョーゲンズが来ないように念送ってんの!皆もやろ!んぬぬぬぬぬ……っ!」
「……あのな、そんなことしたところで──」
「私もやる!」
「ん?」
「ラビリンもやるラビ!」
「んん??」
「俺も!」
「んんん???」
てるてる坊主を作っても雨が絶対降らないとは限らないんだぞとか言ってやろうと思ったところに、のどかやラビリン、ニャトランが窓際に行って念送りに参加し出した。
「「「「ビョーゲンズが来ませんように~!!!!」」」」
もちろんラテの為の行動だというのは分かっている。ただ、4人で一斉にやると流石にうるさくなりそうだけど。因みに、ちゆとペギタンも両手を握り合わせて静かに念を送っていた。
「……」
そんな中、僕はふとスヤスヤ寝ているラテの頭を撫でる。
思えば、これまでラテとまともに接した記憶がない。こいつは僕のことをどう思っているんだろう。聴診器を使って聞いてみようにも何か違う。もし何とも思ってなかったらそれはそれで良いのだが、何処か複雑な感情を抱くかもしれない。
というのも、最近家のペットである蛇のレピオスの機嫌が悪い。相手をしようと指や腕を差し出すと、急に噛みつこうとして来たり威嚇してくる。僕のことを敵だと思ってしまっているのだろうか。そう考えると、ラテにも僕がどう見えているのか気になってしまう。
「……どしたの、浮かない顔して。もしやレピオスにキレられたのが未だ心残りになってるとか?」
「そうじゃないし、元からこんな顔だ。それよりお前も念送ってきたらどうだ」
「丁重にお断りするよ」
────ー
~ビョーゲンキングダム~
「はあっ……はあっ……ブエックション!あーもうやだなあ、もう誰っすか?俺は噂をしてるのは。パイセン達っすか?」
いつものようにそれぞれが自分のことに夢中になっている中、バテテモーダがくしゃみをし出すと同時に私達に話しかけてくる。
「……別にしてないけど」
「どうせプリキュア達じゃないの?」
「なるほど、俺ってば人気者っすね〜」
などと、自分を上に持ち上げながら自惚れているバテテモーダを私達は皮肉に思いながら、特にシンドイーネは醜そうに横目で見つめていた。
「そんじゃ、熱いリクエストに応えちゃおうかなっと」
そしてそのまま人間界へと出撃していった。はっきり言って、今の奴では戦いの中で成長し続けているプリキュアに倒され続けるだけだ。ただまあ、何度も敗北を繰り返しても引きずらずに挑もうとしている姿勢は評価に値出来ますが。
「そういえば、シンドイーネ」
「ん、何よ」
私は鏡とにらめっこしながら化粧するシンドイーネに声を掛ける。またも邪魔されなきゃいけないのかと不機嫌な表情を浮かべながら此方を振り返る。
「今、キングビョーゲン様は何をなさっているか分かりますか?」
「はあ?あんたまさか、お休みになられているキングビョーゲン様に余計なことするんじゃないでしょうねえ……?」
『我はここにいるぞ。キロンよ」
シンドイーネが主の話題を出す私を睨み付けたところに、キングビョーゲン様が空から姿を現した。
「キングビョーゲン様!?お休みのところお邪魔してしまい申し訳ございません!すぐにこのロン毛馬鹿を叱っておきますので────」
『構わん。それに、キロンがわざわざ私に尋ねてきたのだ。顔を出さぬ訳にも行かぬ』
彼の言葉から、それほど私を信頼しているのだろう。流石は"王"、懐がとてもお広い方だ。
「そのお言葉、感謝致します。さて、私は貴方にご質問……というよりご確認したいことがございまして」
『ほう、問うてみろ』
「貴方と相打ちになったのはテアティーヌとやらなのは存じておりますが、肉体を破壊したのはキュアラピウスで間違いありませんか?」
『っ!』
この瞬間、キングビョーゲン様の逆鱗に触れたのか、突然私目掛けて光線を放ってきた。だが、その行動は予測しており、首を傾けることで難なく回避する。
『何故、貴様がキュアラピウスのことを知っている。まさか、奴が復活したわけじゃないだろうな?』
かなりの苛立ちを覚えている辺り、私の言ったことは間違いではなさそうだ。とはいえ、王という存在でありながらも器が小さいのは如何なものか。
「復活というわけではありませんが、その二世が誕生しています。と言っても、彼の力も心も私の足元には及びませんが」
『……二世、か』
その単語を聞いて王は怒りを沈ませると、呆れ混じりに私に言い放った。
『まあ、奴でなければどうでも良い。だが、厄介になる前に他のプリキュア共々早急に始末しておけ』
「はい、分かっておりますとも……。嗚呼、それともう一つ。私がその名を知っているのは、単に風の噂で耳にしたものですので」
そう。ただの、風の噂です……。
────ー
『歩くのおせーよ飛鳥!もう皆集まってるっての!』
『別に時間たっぷりあるんだから良いだろ。ホント、裕也はサッカー大好きだな』
あれは小学生5年生の頃だった。入学してからずっと仲が良かった友人の裕也と休日はいつも公園でサッカーをする約束をしていた。初めは僕と裕也の二人だけで遊んでいたが、次第に何人も何人も入ってきて、やがて男女問わずクラスのほとんどで試合をするようになっていた。それくらい、あいつは人気者だった。
『おうよ!何てったって俺は未来の日本代表のエースストライカーだからな!そんでお前がミットフィルダーであいつが……』
『だから僕を巻き込むな。それと、道路でボールなんか蹴るなよ馬鹿。危ないだろうが』
裕也はこうやって歩く度にリフティングやらヘディングやらしながら歩くので、毎回僕が注意していた。それくらい楽しみでうずうずしているのは分かるが、いつになったらこの癖は治るんだろうと思っていた。
『平気平気────あ、やっべ』
『ほら言わんこっちゃ……』
ボールを前に蹴ったはずが車道の方まで飛んで行ってしまい、思わず裕也は飛び出してしまう。それまであまり車は通っていなかったが故の行動だったのだろう。僕もその時は気にしていなかった。
『って、おいトラック来てる!』
『えっ……?』
しかし、僕達はとても運が悪かった。裕也が飛び出した直後に軽トラックが迫っていたのだ。それに気付いた僕はすぐさま裕也の腕を引っ張ろうと腕を掴む。
『『あっ』』
刹那、周りに爆音が鳴り響いた。僕が掴んでいたはずの彼の腕もいつの間にか消えていた。
先に呟いたのは裕也だった。僕が叫んで急接近する軽トラに気付いてのものだろう。
僕はその後だった。腕を掴んだ瞬間にドンッという音と共に衝突した時に声が漏れた。だが、その時どう思ったとかはあまり覚えていない。というか、状況が掴めなかったんだと思う。脳内がパ二くっていたのではなく、もはや真っ白になっていた。
裕也は宙に舞い、かなりの距離まで転がっていった。今考えてみると、もしかしたら直前で声を発したのは自分が轢かれることに気付いてのものだったかもしれない。その光景を見ていた僕は数十秒程その場で固まっていた。
『ぇ、あっ』
やがて我に返ると、急いで裕也の方に駆け出す。当時はスマホは持っていなかったので近くで目撃した人に懇願して救急車を呼んでもらった。
『裕也……しっかりしてよ裕也!』
肩を思い切り叩いたり、揺さぶりながら彼の名を呼ぶ。頭部から血を流していたが、それでもとがむしゃらに続けた。
『……っ』
その時、裕也の意識が戻った。目を薄っすらと開けてこちらを見上げている。
『えっ……』
思わず声が漏れてしまう。
……何で裕也が生きているんだ?あの時は意識が戻ることなくそのまま死んだはずじゃ────
『っ!?』
すると突然、裕也が僕の首を掴む。握力がとても強く、ギュッと力を込めて首を絞めようとしていた。
『何で引っ張りあげてくれなかったんだ。何で俺を助けてくれなかったんだ!』
『ち、ちょっど待っで……!』
『最低だよ。ずっと親友だと思ってたのに……!』
『だがら待っでって……!』
裕也の目が見開き、首を絞める力が更に強まる。もはや子供が持つ握力じゃない。凄く苦しいし、身体が風船のように破裂してしまいそうだ。
『お前も、俺と同じように死んじゃえよ』
「ぅぁあっ!」
「わあああああ!!!」
思わず声を上げて身体を起こす。同時に、ポポロンが断末魔を上げながらベッドから転がり落ちていった。
「ハァ……ハァ……ぉえっ」
悪夢を見ていたようだ。恐怖感と勢いよく起き上がったことによって吐き気を催し、全身が強張る。しばらく続いたけど、結局吐くことなく収まった。
「った……」
「も~、どうしたの。急に大声上げて起き上がって」
ポポロンが細目でベッドの上に飛び跳ねて訴えてくる。
それよりも、首が結構痛い。まさかとは思うが、一応聞いてみるか。
「なあ、僕の首に何か出来てるか?」
「首?何ともなってないよ?いつものツルッツルな首だよ」
「じゃあ寝違えただけか……いや、少しくだらない悪夢を見てな」
とは言うけど、全くもって少しどころじゃない。あいつは本気で誰かを恨むなんてしない男だ。とはいえ、あいつの本心は分からないから断言は出来ない。だが、そうでなければ何年も絡むことはなかっただろう。
「……主人が辛い思いしたってのに、相変わらず気持ちよさそうに寝てんな」
最近ずっと機嫌が悪いレピオスも、流石に今は和らいだ表情でぐっすり眠っている。
そういえば、ラテの風邪が発覚してから二日が経ったが少しだけ体調は良くなったようだ。ちゆとひなたはのどかの家に行ったらしく、独特な毛布をラテに被せている写真が送られてきた。
写真が送られたということ───つまり、僕はそっちには行かなかった。自分の首を絞め過ぎて見舞いに行ける気分ではなかったからだ。少し心を落ち着かせたい、という意味合いもある。
なので、今日くらいは行こうと思っている。仮にもお手当てする仲間なんだから顔を出さないわけにも行かない。早速身支度をしてリビングへと向かう。
「うわぁ、今度はすこやか山で怪物出たんだ~」
現在の時刻は午前7時。
リビングには母親が食パンを一口食べながらテレビのニュースを興味津々に眺めていた。
「おはよう母さん。どうしたの?」
「ん、おはよ。またあの怪物が出たんだよ~、最近周辺で多いよねぇ」
「なっ!?」
テレビに映っていたのは、すこやか山で大暴れしているメガビョーゲンだ。
「(しかもかなり成長してるし……。現界したのは数時間前ってところかな。夜中に繰り出すなんて姑息なことしてくるなぁ)」
これ以上、太刀打ち出来ない程に成長するまでに早く浄化しなければ。ちょっと遠いけど仕方がない。
「ごめん母さん、出掛けてくる……!」
「えっ、ちょっ、朝ご飯は!?」
────ー
「かなりやられてるねぇ、これ」
「ちっ……!」
数十分かけてようやく辿り着いたその場所は、特に山頂は既にメガビョーゲンに蝕み尽くされていた。
「飛鳥くん!」
そこに、のどか達が合流してきた。一早くメガビョーゲンの出現に察知出来なかったのは、ラテの体調悪化によるものだという。苦戦が強いられるとはいえ、一刻も早く浄化しないといけない。
「ってか、ラテ連れて来たのかよ。まだ体調悪いんだろ?」
「うん。でも、お手当てにはラテも必要だから!」
「……分かった。行くぞ」
特に深い意味を察したわけではないが、これまでに何か経緯があったのだろう。メガビョーゲンへと再び視線を向けて、変身の準備をする。
「「重なる二つの花!キュアグレース!!」」
「「交わる二つの流れ!キュアフォンテーヌ!!」」
「「溶け合う二つの光!キュアスパークル!!」」
「絡み合う二つの毒、キュアラピウス」
「「「地球をお手当!ヒーリングっど♡プリキュア!」」」
「さて、オペを始めようか」
「メガァ~!」
「い~じゃんい~じゃん!快調じゃ~ん!」
急いで山頂へと向かうと、首元のマフラーが特徴のメガビョーゲンが辺りを蝕み続けている。登山家のつもりなのだろうか。
「「「はああああっ!」」」
そこに、キュアグレース、キュアフォンテーヌ、キュアスパークルの三人が一斉に蹴り落としに掛かる。しかし、成長した怪物はいとも簡単に防御し弾き返した。
「ち〜っす!プリキュアちゃんじゃねぇの!今回はもう来ないかと思ったぜ~?」
「来たし!」
「メガビョーゲン、やっぱり物凄く育ってるペエ!」
「皆気を付けるラビ!」
メガビョーゲンは三人目掛けて両腕を振り下ろす。すぐさま回避すると、フォンテーヌとスパークルはステッキから光線を放つ。
「メガッ、メガァッ!」
この攻撃もあっさり防御。再び両腕で防御するところに、グレースがメガビョーゲンの身体を駆け上がっていく。
「「キュアスキャン!」」
キュアスキャンでメガビョーゲンの体内に囚われている風のエレメントさんを捉えた。
「グレース危ない!」
「……っ!?」
しかし、今度はグレース側に隙が出来たからかメガビョーゲンが腕を伸ばしてグレースを拘束する。
「「グレース!」」
それを見て、スパークルは懸命に駆け出した。
「おい馬鹿!」
「だめぇ~っ!」
グレースを助けようと飛び掛かるスパークルを今度は片腕を二つに分離させ、拘束した。
「ひひ……さぁて残るは2人……いつまで逃げられるかな?」
両腕だけでの拘束となればどうにかなりそうだったが、分離は流石に厄介だ。前線で攻撃していたフォンテーヌと後方で応戦していた僕は一度ひと固まりになる。
「氷の矢を生成して凍結させる戦法。雨を降らせて敵を惑わす戦法。単純に蛇で拘束して攻撃する戦法。僕が今考えられるのはこの二つだが、どれが良い?」
一つ目は成功した例があるのでさておき、二つ目は成長した奴に天候変化で惑わせられるかと言われれば何とも言えない。三つ目も実力行使の戦法ってこともあり、簡単に此方の攻撃を防いだことからあまりお勧めは出来ない。
「氷の矢の方法で行きましょう。撃って全身が凍りきる前に私が二人を助け出す感じで」
「了解。おい羊、同時に行くぞ」
「分かってるよ~!」
やはりフォンテーヌも同じ考えだったようで、ヒーリングステッキに氷のエレメントボトルをセットして僕の両手に持つクロスボウにセットされてある矢に光線を浴びせる。凍った矢が完成すると、メガビョーゲンへと矢先を向けた。
システム起動!トロイアスバレル、チェック!サンライトオーバー、3!2!1!
『輝かしき終点の────
「簡単に撃たせてあ~げないっ!」
「「っ!?」」
矢を放ってメガビョーゲンに命中させる直前だった。これ以上邪魔させまいとバテテモーダは僕の前に割って入って回し蹴りを繰り出す。
だが、それは此方も同じこと。フォンテーヌも妨害するバテテモーダに抵抗しようと前に立つ。
「きゃあ!」
「ぐっ……!」
戦闘狂の力は伊達ではなかった。フォンテーヌが蹴りで対抗するよりも早く蹴り飛ばされる。かなりの至近距離であったおかげで、彼女の下敷きとなってしまう。メガビョーゲンはそれを見逃すことなく分離した腕でフォンテーヌを拘束した。
「悪いけど、僕らまで捕まるわけには行かないんだわ!」
そう言ってポポロンは倒れ込む僕の頭をがっしりと掴んでその場から引き離す。
奴は僕の頭の上に乗っかっているよりかは、奴の力によって離れないように引っ付いて合体している。言わば新幹線の連結のようなものだ。力を弱めない限り、僕から離れることはない。
そんな感じで、どうにかメガビョーゲンの魔の手から逃れられたが、プリキュア側が劣勢な状況には変わりない。
「アッハハハハ!あ~っという間にゲームオーバーじゃないっすか~!!自分この世に生まれて何日~?こんな早くプリキュアをやっつけちゃって大丈夫?」
初めて出会った時に見た狂気に満ち溢れた表情で、バテテモーダは圧倒的不利な僕達を見て高笑いをする。
「う、うるさい……!」
「まだ終わってないんだから……!」
「はいはい終わってない終わってない。で、どうするんすか……っと」
完全に調子に乗って挑発してくる厄介な敵。
「頭に乗るな……!」
だがそんなことをしているのも今の内だ。複数の蛇を現界化し、バテテモーダを拘束する。
僕はまだ戦える。というか、この状況下で一番に戦わなきゃいけない存在だ。今はもう三人のサポートの立場ではないのだ。
「そーだそーだ!すぐ煽る奴なんてな、これからすぐにボコボコにされる運命にあるんだよ!」
……それは言い過ぎな気がする。今までの戦いから、まだ奴に立ち向かえる戦力を持ってはいない。そっちよりかはメガビョーゲンから三人を解放することに専念するべきだ。
「へぇ~、ボコボコにねぇ。それはそれは楽しみっすねぇ!!」
バテテモーダはいとも簡単に拘束を解くと、気味悪い笑みを浮かべながらこちらに急接近する。
「防御は僕に任せな!君はあのデカ物にぶちかましちゃって!」
『ぷにシールド!』
「……っ!自分の攻撃に耐えるなんて、中々やるっすねぇ」
僕の周囲を、ポポロンのぷにシールドで包み込む。直後に物理攻撃が命中するも、思っていたより威力が多少軽減されている。幸いにも、先程凍らせた矢がセットされたままなので完全防御の間に一気に仕留めたい。
「『
「けど、まだ本気は出してないんすよ……ねえ!!」
「「なっ!?」」
今までのは半分遊びだったと言える程の、えげつない威力の拳。
そんな攻撃に、ぷにシールドは大きくひび割れてしまう。辛うじて矢を放つことは出来たが、まさかの命中ならず。攻撃を喰らったことによる反動で位置が僅かにずれてしまった。
「何て馬鹿力だよこいつ……、どんなトレーニングしたらそうなるのさ……!」
「良いっすね、その危機的状況に陥った時みたいな表情……!ならもう一発ゥ!!」
「「ぐぅっ……!!」」
次の攻撃が命中した時には、シールドが完全に破壊されていた。その衝撃によって吹っ飛び、近くの木へと激突してしまう。
「はい、ということでなんも出来なくなったと。ってことでどんどん蝕んじゃって!」
「メガ……!」
バテテモーダの指示に、メガビョーゲンは再び地球を蝕みにゆっくりと歩き出す。
「くぅ~ん」
一方、ラテは避難していた木陰から姿を現し、近くで倒れ込んでいた僕とポポロンに近づいていく。ラテ以外のヒーリングアニマル達はヒーリングステッキとなってプリキュアと一緒に捕らわれている。ポポロンも大ダメージを負っていて、唯一ラテだけが戦おうと思えば戦える状況にある。しかし、母テアティーヌのようなお手当て出来る強いヒーリングアニマルでもなければパートナーもいない。しかも、風邪やメガビョーゲンが出現したことによる体調悪化で苦しみの連鎖となっている。故に、ただ見ているだけしか出来ないのだ。
「悪いな、ラテ……。あいつらを助けてやりたいけど、僕が無能なばかりにかなり手こずってしまっている……。だが……それでもプリキュアとして諦めようとは思わない。無能なりに最低限のことはやってみせるさ。だから……安心してくれ」
『安心してくれ』と言われても、こんな身体じゃ安心出来ないのも仕方がない。
でも、こういうのはどうにかして乗り越えるしかない。フォンテーヌが公園を守ったように、スパークルがプレゼントを守ったように、そしてグレース……のどかは自身が持っていた病気と闘ってきて、今の自分がいる。苦しかろうが何だろうが、食らいついていくしかない。そうしないと、あいつを倒すことなんか出来ないんだから。
「っ!」
その言葉にラテが何かを思い出したかのように目を見開く。そして、目の前の敵に鋭い視線を向けると果敢に走り出し、メガビョーゲンの尻尾に噛みついた。
「はっ……?」
「ラテ……!?」
「ラテ様……!?」
しかし、メガビョーゲンにはそんなものは痛くも痒くもない。尻尾を軽く振り回し、ラテを放り投げた。
だがそれでも、ラテは立ち上がって再び立ち向かっていく。
「あの馬鹿……!」
あまりの光景に見ていられなかった僕は、無理にでも引き留めようとラテの方へ向かう。
ビリリリッ……!
「「ぁあっ!」」
刹那、果てしない電撃が全身に迸る。最初に浴びた時とほとんど同じ痛みだ。
「僕が制御してるはずなのに!?さっきのぷにシールドで力を消費させたからかな……」
動こうにも手足が痙攣して動けず、その場で膝をついてしまう。
「ラテやめて!」
「来るニャ!ラテ様~!!」
「死んじゃうよ!!」
そうしている間にもラテは諦めまいと何度もメガビョーゲンに食らいつき、何度も吹っ飛ばされていた。
「あいつ、自分一人じゃ相手にならないって分かってるくせに何で……」
「……っ」
同じヒーリングアニマルとして、ポポロンはラテの思いを感じ取る。それに困惑する声に、僕も大体察した。
(ラテも……ラテもママみたいに、地球さんをお手当てするラテ!)
感じ取った思いはそんな一心だった。女王である母のように強くもないし、頼りになるパートナーもいない。言ってしまえば、ラテはただ見ていることだけしか出来ない弱いヒーリングアニマルだ。だが、いつまでも弱い奴でいたくない。母のようにお手当てしたいなら自分で食らいついていかなきゃ、戦っていかなきゃ。そうしないと、強くなるわけがないんだ。
だが、その行動が僕を更に苦しませる。『無能なりに最低限のことはやってみせる』とほざいたことでラテの心に響かせてしまった……それも一理あるが、最も苦しいのは倒せもしない相手に必死に食らいつこうとしていることだ。
「だからって……何も死に急ぐことないだろうが!この馬鹿犬……!!」
そう言って、痙攣する足を無理やり立たせる。
それなら、僕だって死ぬ気でこの痛みを克服してやる。仲間が必死こいて戦おうとしているなら、自分も戦え。患者が必死こいて闘おうとしているなら、医師も肩を並べろ。案の定、足はふらつくけどもはやどうでも良い。
「ひひッ……!」
その隙をバテテモーダは見逃さない。狂気の笑みを浮かべながら再び此方に接近する。
「ワン!」
「おわぁ!」
だが、何としてでもという阻止でメガビョーゲンに苦戦していたラテはバテテモーダの方へ向かい、その尻尾に噛みついた。
(ラピウスをいじめちゃ駄目ラテ……!)
「は……?」
聴診器を使っていないのに、確かに一瞬ラテの声でそう聞こえた。
「よ~ちよちよち!踏み潰されたいのかな?それとも握り潰される方がいいかな~?」
ラテの全力阻止も虚しく、ひょいと首根っこを掴まれてしまった。
「おい、ラテを放せ……!」
「え~、別に良いんすけど~。じゃあ取引しましょうよ。この子を解放するかプリキュアを解放するか、どっちか選ばせてあげるっすよ。この子を解放すればプリキュアは勿論やられるし、プリキュアを解放すればこの子はやられる。まあ、どの道あんた達にメガビョーゲンは浄化出来ないから、結局地球は蝕まれる運命にあるんっすけどねえ!あっはははは!!!」
「僕より下衆だなあ!?よしラピウス、今すぐこいつの口を……ラピウス?」
「結局は……運命……」
バテテモーダの選択を要求する言葉に、ある出来事がフラッシュバックする。
『経緯がどうであれ、どの道彼は死んでいた』
僕があの時腕を引っ張り上げようが腕を掴んだだけであろうが、いずれにせよあいつは吹っ飛ばされていた。僕が心臓マッサージをしていようが肩を揺さぶって声を掛けていようが、あいつは戻ってはこない。今の状況も、ラテを選ぼうがプリキュアを選ぼうが、いずれにしても地球は蝕まれてしまう。どちらを選んでも、罪人となる道しか進むことが出来ないのだ。
「どっ…………ってこと…………んぶ僕の…………」
「え~?聞こえないんすけど~?」
罪人となれば、当然周りから蔑まれる運命からは逃れられない。
『お前が助けてくれなかったから』『お前は最悪の人間だ』『最低だ』『同じ目に遭えば良かったんだ』
『お前も、俺と同じように死んじゃえよ』
「Arrrrrrrrrrrrr!!!!!!!!!」
────ー
~ポポロンside~
「うわあぁっ!!」
ラピウスから放たれた力に、僕は吹っ飛ばされてしまう。
まるで人間が出していいものではない甲高く金属音のような叫び声。同時に広範囲に渡って放出される膨大な威力の放電。その光景は、空は青く快晴であるはずなのにラピウスの頭上から落雷のような電撃が何発も撃たれている。あるいは『神への冒涜』に怒りを覚えていると捉えても間違いではないだろう。そして、それは森や地面といった大自然をも襲っていた。
「え、ちょ、何、おわああっ!!!」
バテテモーダもこれには耐えられず、ラテを掴んでいた手を放してそのままポイッと投げ捨て森の奥へと避難していった。ラテも思わずその場で耳を伏せて縮こまっている。
「Gaaaaaaaaa!!!」
「何々、ラピウスどうなっちゃうの!?」
……不味い。
ラピウスは今、己の何もかもをコントロール出来ないでいた。このままだと、ラピウスはぶっ壊れて自爆してしまう。
「こんな無様な死に方、させてやるもんか……!」
ただ、対処法が分からない。何せここまで暴走するのは初めてなのだ。色々思考を巡らせているが、今の僕の力はそれに劣っている。認めたくないけど、『分からない』というよりかは『ない』のかも。
「あーもうどうすれば良いんだ────」
その時、
シュン! ゴッ!!
突然、えげつない速度で小さな物体がラピウスを襲う。やがて大きな音を立てて命中し、衝撃で尻餅をつくと叫び声が止まった。急いで僕はラピウスに近づき、身体の上に乗っかって回復させる。
その時、
『メガッ!?』
「「「えっ!?」」」
ラピウスの暴走が止まったとほぼ同じタイミングで、どこからともなく謎の紫の風がラテの周りに渦巻いていた。
「ラテ様。あなたの望み、わたくしが叶えましょう」
そして、渦巻く風の中から現れたのは、ラテの望みを叶える為にやってきたプリキュアであった。
「うぇっ……」
「プ、プリキュアラビ!!」
「先代のプリキュアニャ!!」
「テアティーヌ様のパートナーだったプリキュアにそっくりペエ!!」
「「「えええっ!?」」」
あまりの事態に一同は驚きを隠せないでいた。当然、僕も困惑している。だって、まさか"あの子"のそっくりさんが現れるとは思わないじゃん。
そんな中、彼女はラテをその場に降ろしメガビョーゲンへと視線を向ける。
「地球を蝕む邪悪なものよ、最後の時です。清められなさい」
言い放つと、彼女は空高く跳び上がる。メガビョーゲンが瞬きを一つした時には、両腕が彼女によって切断され、プリキュアも解放されていた。
「た、助かった~」
「ラテ!良かった……!!」
グレースは解放されてすぐにラテを抱き抱え、無事なことに安堵する。
「ラピウスは……!?」
「大丈夫、今癒してるからすぐに元気になる────えっ」
すぐに戦線に戻れると言おうとしたところで、ラピウスの状態を確認する。
「ハァ、ハァ、ハァ……ぁぅっ、ハァ、ハァ……」
どうやら見誤っていたようだ。バテテモーダによって受けたダメージ自体は癒えているが、精神的なダメージは想像以上且つ計り知れないものでかなり参ってしまっている。過呼吸を起こしていて、時には三度の呼吸に一度だけ嗚咽するような、上手く呼吸出来ていない声が漏れていた。人間の概念でそんな現象はあり得るのかと思ったものの、現に起きているのだから信じるしかない。したがって、すぐに誰かに背中を擦ってあげて欲しいのだが、謎の少女によって此方が優勢になっている為、早くメガビョーゲンを浄化したいところでもある。
「プリキュアよ、今です」
「えっ、早っ!」
そんなことを考えている内に、彼女はメガビョーゲンを瀕死にまで追い込ませ、怪物は地面に倒れていた。ただ、どちらも早急に対処しなければいけない故に、三人はラピウスに心配の眼差しを向けていた。
「まずはメガビョーゲンが立ち上がる前に浄化するのが先!話はそっからだよ!」
「……分かった!」
僕の言葉に、グレースが返事をすると三人揃って浄化の体勢に入った。
「「「トリプルハートチャージ!」」」
「「「届け!癒しの!パワー!」」」
「「「プリキュア !ヒーリングオアシス!」」」
「ヒーリングッバ〜イ」
「「「お大事に」」」
「おいおい!あんなに蝕んだのにまじっすか!?まぁいいや、ちょっと楽しくなってきたんで……!」
ラピウスの暴走や謎の戦士の飛び入り参加に色々と驚きを隠せないバテテモーダ。それでも、また強敵が増えたことに笑みを浮かべながら、この場を去って行った。
「ラピウス大丈夫!?死なないよねえ!?」
「ちょいちょいちょい!叩くならもっと優しく叩きなさいよ!飛鳥きゅんの呼吸がもっとしづらくなるでしょうがあ!!」
「うっ……ゲホッゲホッ!」
「ほらあ~!!」
「ご、ごめん!!」
とはいえ、先程まで我を忘れたかのように目の焦点が合わないままだった容態が次第に正気に戻って来ていた。と言っても、今度は咳が止まらなくなっちゃったわけだけども。
そしてそこに、グレースがラピウスと同じ目線になって膝をつき、背中を優しく擦る。
「凄く辛かったよね、苦しかったよね。でも大丈夫だよ。私達、ちゃんといるから……」
「……ハァ…………スゥ」
グレースがそう囁くとやがて咳が止まり、呼吸も通常のものに戻っていった。愛らしいことに赤子を寝かせるような手つきで背中を擦られたことで目を細めて眠り、変身が解除されていった。うん、君は十分頑張ったんだししばらく寝ときな。
「彼はお眠りになられたのですか」
謎のプリキュアの少女がこちらに寄ってくると、眠った飛鳥の額に手を当てる。
「それにしても、ポポロン"様"はやはり素晴らしいお方です。あの強大な力を瞬時に止めるのですから」
「えっ、あれ君がやったんじゃないの?僕やってないんだけど」
「そうなのですか?私もあれを止めてからビョーゲンズを浄化するつもりだったのですが」
「マジか、じゃあ一体誰が……」
そう考えていると、ちゆが地面に転がっていた物を見つける。
「ねえ、ラピウスに当たったのってこれかしら?」
手に持っていたのは、拳一つ分くらいの大きな石だった。
────ー
~森の奥~
「……ふぅ、どうやら間に合ったようだな」
上手く当たってくれたようだ。
あとコンマ秒程度遅ければ、奴は制御不可能となり自爆していただろう。それに、最悪付近の自然が滅ぶところだったので、私は安堵の表情を浮かべた。
「キュアラピウス……。お前を倒し、そして殺すのも私だ。くだらない所で死んでくれるなよ……」
そうして歩いた先は更に森の奥。この森の中で唯一、木漏れ日が差し込んでいる場所だ。
「おや?」
辿り着くと、何かが足りないことに気が付く。
以前から集めていた禍々しい結晶をこの辺に置いておいたのだが、それらが全て無くなっていた。
「……いけませんね。人の目を盗んで強奪だなんて」
いつこの場に訪れて盗みを働いたのかは分からないが、誰がやったのかというのは大方見当がつく。というより、特定の人物しか思いつかない。
だが、焦る必要はない。時間なんて幾らでもあるのですから、失ったものはまた1から作り直せば良い。
「まあ、取り敢えずはキツくお仕置きしてからだがな」