ヒーリングっど♥プリキュア 〜医神と地球の戦士〜 作:ゆぐゆぐ
「ぅあ……」
足元に妙な違和感を感じ、ゆっくりと瞳を開ける。
「あ、起きた?おはよ~」
かなり近い距離からひなたが声を掛けているのが聞こえた。よく目を開けてみると、目の前には眠っていた僕を背負うひなたの姿があった。
最後の記憶が思い出せない。誰かに背中をぶっ叩かれたり撫でられるような感触とか、ぶっ叩かれたことで咳き込んだ感覚はあったが、頭があまり働いていなかったからか、そこの記憶が曖昧になっている。明確なものを挙げるなら、ラテがバテテモーダに捕まった所を見て、嫌なことがフラッシュバックしたことだ────。
「お目覚めになられたのですね」
「……近っ!」
瞬間、全くもって見覚えのない金髪の大人っぽい女性に横から顔色を窺うように見つめられる。しかも額がくっ付くんじゃないかってくらいの至近距離で。思わず、ひなたの背中からやや強引に引き離してその人から距離を遠ざける。
「……誰だ」
「さっき私達やラテを助けてくれた先代?のプリキュアさんなんだけど……」
「そうか……っ、ラテは!?」
ラテの容態は無事なのかと例の女性の方へと振り向くと、女性の両腕にはラテが抱えられていた。彼女が傷を癒してくれたらしいが、体調面においては完全に治ったとは言えなさそうだと表情から見ても分かる。取り敢えず、死んでいなくて良かったと安堵する。
「人間界で負った病が残ってしまうようで。あぁ……お気の毒なラテ様」
「ところで、先代のプリキュアって大昔の人なのよね?」
「何でラテの事知ってんの?」
「その前に、なんで現代に現れたラビ!?」
会話から、メガビョーゲンを浄化してから僕が目覚めるまであまり時間は経っていないと読み取れる。一同揃って疑問を浮かべる中、のどかは前に立って女性に尋ねる。
「プリキュアさん。貴女は一体、誰なんですか?」
「誰……それは名前の事ですか?だとしたら、まだありません」
「えっ?」
「先程生まれたばかりなのです。私、人間ではありませんので」
「「「えっ!?」」」
傍から見れば彼女は如何にも異国の女性という雰囲気であるが、そうではない上にそもそも人間でないという言葉に、僕達は頭を悩ませる。
「……取り敢えず、ここで立ち話もあれだし場所を移さないか?」
僕がそう言うと、一同はのどかの家へと移動することにした。
「行きましょう」
「あ?あぁ……」
その時、女性が急に手を差し伸べて来たことに凄く疑問に思ったのだった。
────ー
「私はラテ様を助けたいというテアティーヌの願いによって生まれました」
「「「テアティーヌ様の!?」」」
「願いを聞き届けた地球が風のエレメントの力を使って、私を生み出したのです」
のどかの家へと移動したことで、改めて彼女がこの地に訪れた経緯を聞くことにした。だが、初っ端から衝撃的な話をし出したので、僕達は一瞬にして「?」を浮かべながらポカンとした表情になっていた。
先程、ヒーリングアニマル達が『先代のプリキュアに似ている』と言っていた。それも、彼女が言うように人間ではなく精霊のような存在として生まれ、かつてパートナーであったテアティーヌの願いが強く反映されたからだという。
「そもそも、ヒーリングガーデンはお手当ての為に地球が自ら生み出した存在ラビ」
「んで、最初に生まれたヒーリングアニマルがテアティーヌ様なんだよ」
「そうだったの……」
「ふわぁ~。地球って凄いんだね!」
と、それぞれが感想を述べる中で僕は先程からある違和感を感じていた。
「……おい」
「はい」
「さっきから距離を取ろうとしてるのに近づいてくるのは何なんだ」
その言葉通り、彼女との間隔をおよそ人間の両足分空けているはずが、すぐに詰めてくる。それも一回ではなく幾度も繰り返していた。超至近距離で話しかけてきたのもあって、はっきり言ってしまえば気味が悪かったのでつい尋ねてしまった。
「何なんだ、と言われましても。"レイピアス様"の後継者である貴方とお近づきになる為です」
「「「レイピアス様?」」」
聞き覚えのない名前に首を傾げて疑問を浮かべるのどか達。
「後継者……キュアラピウスには先代がいるって話は聞いたけど、そんな名前の奴は知らんぞ」
「そう。その先代様こそが『医神』の異名を持つレイピアスなのです。そこまで彼らから聞いていると思ったのですが」
そう言って、精霊はポポロンを筆頭としたヒーリングアニマルの方へと視線を送る。ポポロンは何故か冷や汗をかいているのに対して、ラビリン達はポカーンと口を開けた後に
「「「……えええェェェェッ!?」」」
物凄い顔をしながら叫び出した。
「ラビリン達は知ってるの?そのレイピアスって人」
「知ってるも何も、キングビョーゲンを一度独り身で倒したプリキュアラビ!」
「一人で!?めっちゃ凄くない!?」
「その功績から、地球を丸ごとお手当てする医神として人々から称えられていたペエ」
「でも、まさか飛鳥があの人の後継ぎだったなんてなあ」
皆が感心している中、ポポロンに関しては「いや、まさかこんな形になるとは思わないじゃん……」と小声でブツブツと呟いていた。それと今まで聞いた昔話に伴い、僕は更に精霊に尋ねる。
「お前、さっき『お近づきになる為』とか言ったな。まさか……」
一応、彼女も伝説のプリキュアの後継者とも言える存在だ。先代のキュアラピウスが死ぬまでは、伝説のプリキュアとは結ばれる予定だったという話を以前聞いた。故に、まさか後継者同士で結ばれましょうとか馬鹿げたこと言うんじゃないだろうなと、若干の恥ずかしさ混じりに問いただそうとする。
「先代様の後継者として、貴方と私は結ばれる運命にあるのです。さあ、共に行きましょう」
問いただす前にあっさりと言われてしまった。しかも、僕の左手を掴みながら。
「結ばれるって……け、結婚するってこと!?」
「そういえば、前にも風のエレメントさんが似たようなことを言っていたけど……」
「マジ!?じゃあ本当に結婚しちゃうの!?」
「だからするわけが……は?おい待て。何処に行かせるつもりだ」
右手で僕の左手を掴み、左腕でラテを抱えて立ち上がった精霊はベランダへと繋ぐ扉を開け、外に出る。
「私と共にヒーリングガーデンへ参りましょう。何より、大切なラテ様を安全な場所にお連れしなくては」
「意味が分からん。もう少し具体的に……ちょっ、おい何するつもりだ!離せ……」
刹那、左手から左手首へと掴む箇所を変えるとその場から走り出し、ベランダの手すりへと足を置く。そのまま勢い良く踏み込み、空高く跳びあがった。
「「……あっ」」
当然、いくら精霊でも地球上の重力に逆らうことは出来ない。空高く跳んだ勢いそのままに二人同時に地面へと落下していった。
「飛鳥くん!?精霊さん!?」
それを見て心配するのどか達は慌ててベランダへと駆け寄り、落下した場所へと顔を覗かせる。
「いたたた……そうでした。風のエレメントの力はボトルに変えてしまったから、もう飛べないのでした。貴方は大丈夫でしたか?」
「ちょっと、大丈夫~!?」
「大丈夫なわけないだろ。本気で死にかけたぞ……!」
プリキュアの状態であればどうにかなるかもしれないが、そうでない僕はただの人間だ。家の二階から落ちれば激痛が走るのは当然。ましてや頭から落下したのだから尚更だ。幸いにも出血とかは感じず、額とかが赤く腫れあがった程度で済んだのは良かった。
対して、精霊もそのままの姿勢で落下したので、尻餅をついた程度と軽傷だ。とはいえ、あれだけ勢いよく落下したのだから、掴まれた手首は解放されているだろうとそれに視線を送る。だが、そんな僕の考えは甘かった。これでもかと彼女の右手はがっちりと僕の左手首を掴んでおり、ラテもちゃんと左腕で抱えていた。
「ラテ様もご無事のようですね。ならば私は平気です。では参りましょう」
「無事じゃないって言ってるだろ!はーなーせー!!」
そう言って精霊は立ち上がると、僕を人形のように引きずりながらスタスタと歩き始めていった。本当に何なんだこいつは、と終始困惑してばかりで頭が痛くなってきたのであった。
────ー
『古のプリキュアが現れただと……?』
『似てるってだけで、まだ確定じゃないんすけど……取り敢えずのご報告ってことで』
『……潰せっ!』
『ひいっ!?』
『テアティーヌとそのパートナー、そしてキュアラピウス……未完成の姿と聞いたにしろ、大昔から目障りであった。さっさと潰してこい!』
『り、了解っす……!あの、つきましては~』
『なんだ?』
『この仕事、成功したらで良いんですが~……』
先のビョーゲンズキングダムでのやりとりの末、キングビョーゲンとの交渉が成立したのかバテテモーダは上機嫌に森の中を歩く。すると、
「おい、バテテモーダ」
「チッ……あれ~何すか、グアイワル先輩?」
背後からグアイワルの声が聞こえてくる。出撃した時からずっと後を追ってきたのだろうか。よりにもよって気分が良い時にそれを害するような顔をした奴に出くわしたことに、小さく舌打ちを一つして普段の声音へと戻る。そんなバテテモーダに、グアイワルはお構いなしに問いかけた。
「お前、メガビョーゲンの欠片を持っているだろう?」
「っ!?え~なんすか急に?」
そう言って誤魔化そうとする後輩の胸倉を、グアイワルは掴む。
「誤魔化すなバテテモーダ。見ていたんだ、俺は。よこせ」
恐らく、謎のプリキュアによって切断されたメガビョーゲンの部位から手に入れた禍々しい欠片を拾うところを見られていたのだろう。これ以上は誤魔化し切れないと先輩から見えないように顔を逸らして嫌な表情を浮かべ、再び向き直る。
「もう、しょうがないな~!グアイワル先輩には特別っすよ!」
バテテモーダは掴まれている手を振り払い、懐から拾った結晶一つを差し出す。
「まだあるだろう」
「えっ!?」
「よこせ。後輩が手に入れたものは俺のものだ!」
あんなデカい怪物から手に入れた個数がそれだけな訳がない。グアイワルの目は誤魔化せず、念入りに探る為に後輩の身体を弄んでいき、結局懐にあった欠片をもう一個取られてしまう。
「(へへっ、本当に全部渡す馬鹿がいるかよ……!)」
だが、まだもう一個だけはどうにか死守出来た。弄られた箇所とは別の懐から欠片を取り出しながら不敵な笑みを浮かべた。そんなバテテモーダの様子を、近くの木の上から観察していた一人の男は欠片を手に入れて満足気なグアイワルに声を掛ける。
「あまり自己中心的な態度でいると嫌われると思いますよ」
「……キロンか」
気付いたグアイワルはフンッと鼻を鳴らして気に入らないという表情を浮かべる。
「そんなの知った事か。後輩の物は全部俺様のものだ!」
「そうですか。貴方がそれで良いのなら構いませんが……。それより、その欠片のことで私からアドバイスをしようと思いまして」
そう言うと、キロンはグアイワルの肩に手を置くと
「それを無闇に使わないように、使い方を見極めることをお勧めします。場合によっては自分を殺すことにも繋がりますので」
囁くように告げてこの場を去って行った。
「……どういうことだ?」
その言葉はグアイワルには理解の苦しむものであったらしく、欠片を見つめながらそう呟いた。
────ー
「待つラビ!」
抵抗する体力が残らなくなったまま、ついに展望台まで到達してしまったところに遂にのどか達が追い付いた。
「なんでラテ様と飛鳥を連れてっちゃうラビ!?」
「私の使命はラテ様をお守りすること。その為に私は生まれたのです。そして、彼もその対象の一人となりました」
「テアティーヌ様が連れてこいって言ったのかよ!」
「いいえ」
「やっぱりペエ!」
ただ独自で決断したという精霊の行動に、ラビリンは徐々に怒りの感情を露わにする。
「テアティーヌ様がそんなことを言うはずがないラビ!あの時どんな決意で、どんな思いで小さなラテ様を送り出したか……!」
次第に目の奥から涙が溢れ出していた。実際、テアティーヌ本人がどんな思いで送り出したのか、ラビリン達がどういう思いでそれを見ていたのかは僕には分からない。だが、まだ幼いラテを親離れさせることは苦渋の決断であっただろう。生き物としては仕方のないことであっても、また守ってくれる者がついてくれるとしても安易に出来ることではない。そう考えると、溢れ出る涙の理由も分かるようになってくる。
「だから……だから、ラテ様はラビリン達がお守りするラビ~!」
「ラテ様を連れ帰るなんて……!」
「そんなことさせないペエ!」
ラビリンはラテを抱える精霊の腕に飛びつき、ペギタンとニャトランもそれに続いていく。
「飛鳥だって、俺達の大事な仲間なんだ!連れて帰すわけには行かないニャ!」
そう必死に訴えるも、ヒーリングアニマルの圧倒的な力の無さは精霊には及ばないでいた。
「理解出来ません。お守りするなら連れ帰るべきでしょう」
「テアティーヌ様の願いから生まれたのに何で分からないラビ!」
「いい加減にしろよ……!」
ラビリンの感情的な訴えを遮るように、僕は腕を大きくぶん回して拘束する精霊の手を振り解く。
「さっきから自分の好き勝手にやりがって。何処の誰かも知らない奴に訳の分からないまま振り回されてる奴の気持ち考えろよ……!助太刀に来てくれたことには感謝するけど、それとこれとは話は別だ」
普通に考えて良くはないけど、"今"は僕のことはどうでも良い。ただ、体調を崩しながらも必死に戦っていたラテの思いとか、ヒーリングアニマル達の思いとかを理解出来ないと言うこいつがどうしても許したくなかった。たとえ人間の感情を持っていなくても、ラテを助けたいという願いから生まれた精霊ならばラテ達の思いを理解してくれると、僅かながら思っていたからだ。
「それでも理解出来ないっていうなら……!!」
お前を敵とみなし、力づくでも頭に叩き込ませてやる。そう思い、変身用そして戦闘にも扱う杖を投影して手に取る。そして、持ち手の先端部分を精霊へと向け
「待って!」
刹那、のどかが僕の前に割って入り、杖を持つ両手をギュッと掴んだ。
「それは本当に駄目だから」
「っ……」
いつもの優し気な口調とは違い、母が子を説教するような声音で言い放った。その表情も、怒りに哀しみも混じって制止を訴えているように感じ取り、思わずその通りに杖を構える手を下げる。
確かに、もう少し落ち着いて対応するべきだった。無謀だと分かっていながらも果敢に立ち向かうラテの勇姿を否定されているような気がして動転してしまった。
「本当に分からないんだよ。精霊さん」
「そうね、きっと地球とテアティーヌさんとの間に行き違いがあったのよ」
「それに生まれたばっかなんだし……」
人間とヒーリングアニマルで済む世界が違うことで異なった思想になってしまうこと。何より先程生まれたばかりの精霊なのだから、何処かで理解に乏しくなることも何回かは起こるはず。こうやって冷静に考えるべきだったのだと、改めて僕やラビリン達は落ち着きを取り戻していく。
「じゃあどうするんだよ……」
「……ハァ」
ボソッ、と打開策について呟きながら考えるニャトランに呆れた表情でポポロンは溜め息を一つ漏らした。
「ずっと一緒にいるのに分かんないのかよ……取り敢えず、飛鳥はさておきラテ本人にどうしたいのか聞いてみれば良いじゃん」
恐らく、優先度としては僕とラテどちらも大差はないだろうがラテを守る使命を持つ以上は後者を優遇すると推測する。したがって、ポポロンの提案に賛同するとのどかは聴診器を取り出してラテの身体に当てる。
「ラテはどうしたい?ママのところに行きたいなら、ちゃんとそう教えてね」
『ラテは……ラテは……』
そう悩んだ末のラテの意見は、思いはどんなものなのか皆で見守る。
「クチュン!」
しかし、次の言葉を言い放つ前に唐突にくしゃみをし出した。
「ラテ様!?」
「ビョーゲンズペエ!!」
同時に、ラテの体調が一気に悪くなっていく。それを見たのどかはもう一度聴診器を当てる。
『あっちの屋根でお日様が泣いているラテ……』
「屋根で、お日様?」
「……ソーラーパネルを設置している工場がある!」
「それだ!」
ちゆやひなたが思い当たる節を見つける中、精霊は苦しそうにするラテを心配そうに見つめていた。そんな彼女に、のどかは使っていた聴診器を手渡す。
「お願い、精霊さん。ラテの話ちゃんと聞いてあげてね」
「……」
「ね?」
「……分かりました」
納得いかないところもあるにしろ、彼女は渡された聴診器を受け取る。それを確認したのどか達は急いでソーラーパネルが設置されている工場へと向かっていく。
「……ふん」
僕としては、本当にラテの言葉を聞いて理解してくれるのか心配でならないのだが……とにかく、三人に続いて向かうことにした。
「ラテ様、大丈夫ですか?」
『ラテのお願い、聞いて欲しいラテ』
「勿論、何なりと」
『のどか達のところに……のどか達のところに行きたいラテ』
「ですが……」