ヒーリングっど♥プリキュア 〜医神と地球の戦士〜 作:ゆぐゆぐ
原作沿いにする予定だったのですが、思ったよりオリ展開もそこそこって感じになりました。それ故、一万文字超えと長くなっておりますので、お暇な時にゆっくりとご覧いただければと思います。
「見て見て~!可愛いよ~!」
ひなたの声と共に、アスミは部屋に入ってくる。ただ、服装はいつものノースリーブのワンピースとは違い、黒の革ジャンにコットンパンツ────通称『綿パン』を着用している。彼女の大人びた容姿と相性が良く、また更に大人っぽく見えてくる。
「アスミちゃん、そういう格好も似合うね!」
「えぇ、素敵!」
「かっこいいラビ!」
「ふふ~ん!まだまだ!!」
そう言って、ひなたは次々にアスミを着替えさせていく。もはや着せ替え人形のファッションショーだ。当然、僕という男子がいるので別の部屋で着替えているのだが、今日ばかりはここにいる必要性はないのではと思ってしまう。まあ、どうせ断ろうにも半ば強引にひなたに連行される破目になるだろう。
「可愛い~!」
カフェの店員が着用するエプロン姿や、
「可愛い~!!」
猫の着ぐるみパジャマなど、家にある衣類を手当たり次第に引っ張っては着せ替えていく。後者に関しては何処で手に入れたんだと、本題より疑問の方が強く感じる。
「はいこれ!絶対可愛いから、持ってみて!」
パジャマの付録だろうか、ひなたは猫の口元が描かれた棒付きのマスクをアスミに渡す。そのまま口元に当ててみせるが、彼女はそこである疑問を抱く。
「ひなたは先程から可愛いと繰り返しますが、『可愛い』とは何ですか?好きとは違うのですか?」
「……へっ?」
「この前、アスミは『好き』って感情を学んだの」
「はい。『好き』は美味しくて暖かく、譲れない思いです。では、『可愛い』とは何なのですか?」
「えっとぉ……可愛いは可愛いだよっ!」
「悩んでおいてその答えか……」
とはいえ、またも繰り出された、生まれたばかりのアスミからの純粋な質問には頭を抱えざるを得ない。『好き』もそうだが、難しい質問というよりもはや哲学を教えてくれと言っているようなものだ。
「うーん、良く考えると『好き』と『可愛い』って似てるよね。でも、何処か違うっていうか」
『似て非なるもの』なんて諺が存在するが、正にその類である。ただ、何がどのように違うのかと言われると回答に困ってしまう。そうやって頭を悩ませていると、ラビリンが自身の部屋であるヒーリングルームバッグからラベンダルマを取り出す。
「可愛いと好きになるラビ!」
「それって可愛いか?」
「好きだから可愛く見えちゃうペエ」
「好き、可愛い、好き……」
「あっ、可愛いと抱きしめたくなる!」
「ますます分かりません」
考えれば考えるほど意味が分からなくなってしまう。だが、同時にあることを思いついたので提案してみる。
「以前は『好き』を実感出来たんだろ?だったら、これも実際に体験して実感してみれば良い」
頭を使っても分からないのなら、実践して感じてみれば良い。そんな提案にひなたは賛同するように手を叩くと皆を連れて下の階へと移動し、そこにいた彼女の姉である平光めいに頼むようにラテを預けた。めいさんは頼まれた勢いそのままに手慣れた手つきでラテの毛並みを揃えてトリミングし、そしてペット用の衣装を着せていく。
「はい、出来上がり!」
「ワン!」
「ラテ可愛い~!」
最後にフリルの付いた紫色のカチューシャを被せて、御洒落なラテの完成。あまりに可愛い────即ち、限界化したのどかは、彼女に駆け寄るラテを抱き締める。
「お姉、急だったのにありがとう!」
「時間があれば、もっと可愛いく出来たのだけど……今日はここまでね。ラテちゃん」
そう言って、めいさんはラテの頭を優しく撫でる。
「ねっ?可愛いって思うっしょ?」
ひなたに問われたアスミは何も告げずにラテの方へと目を遣る。上目で輝かせる『好き』の瞳をしばらく見つめた末、
「ラテをこんなに喜ばせてくれて感謝します」
「は、はぁ……」
ラテをトリミングしてくれたことに感謝の言葉を述べながら、めいさんの手を握って握手を交わした。ここまでに想定していたものとズレるとは思わなかったとはいえ、流石にこれだけでは理解させるのは難しそうだ。そんなことを考えていると、突如部屋の扉が開く。
「やばっ!ごめん皆、この後用があるんだった!」
「あの方はどなたでしょう?」
「ひなたのお兄さんのようたさんよ」
「成る程。確か獣医さんでしたよね?」
「うん、パパもだよ!」
以上の形でようたさんに呼ばれて、一同は部屋を移動してその場で待機する。しばらく薄っすらと見える診察室の様子を眺めていると、すぐにようたさんは両腕に何かを抱えて戻ってくる。
「連れて来たよ」
その何かというのは、黒毛に小さく丸っこい眉が特徴の小さな子犬であった。
「うちで預かってる、保護犬のポチットだよ!」
「"ポチ"じゃなくて"ポチット"?」
「眉毛がポチっとしてるから!」
単純なネームから単純なものを付け足して実に単純な名前を付けるという、ひなたらしいネーミングセンスだ。どうでも良いが、今時ペットに"ポチ"なんて名前を付ける飼い主なんているのだろうか。
「ポチット、楽しんでこいよ?」
そう言って、ポチットを撫でるようたさんはそのままひなたに手渡してその場を後にした。
「ひなたちゃん。少し触ってもいい?」
「うん、良いよ。ただこの子……」
ひなたから許可を得たのどかはすぐさまポチットに触れようとする。しかしその瞬間、ポチットは突然逃げ出すように抱えられた両腕を引き剥がし、ひなたの後ろへと隠れてしまう。
「ごめん、驚かせちゃったかな?」
「まあ、見ず知らずの人間に急に触れられるってなると恐怖極まりな────あれ、何処行ったんだ」
ついさっき、というよりもはや数秒前とも言えるくらいまで隠れていたポチットの姿がない。まさか、恐怖で逃げ出してしまったのだろうか────
「あ”あ”あ”あ”あ”止めでえええええ!!!僕を食べても美味じくないでずうううううう!!!!!」
「「「「「……」」」」」
必死に飛び跳ねる毛玉に近い子羊と子犬の室内鬼ごっこの光景に、しばらく呆然と眺めることしか出来なかった。というか、お前空飛べるだろ。
────ー
「あ~酷い目に遭った。何なんだよあいつ……」
「嗚呼、面白かった。特に必死に逃げ回る姿は最高だったな」
「こっちは死ぬかと思ったんだぞ!?ったく、君をそんなサイコパスに育てた覚えはないよ!」
「育てられた覚えもない」
にやけ顔が止まらない此方を見て、ポポロンはぴょんぴょんと僕の頭を叩くように頭上で全身を弾ませている。あの後、どうにかして二匹を離すことが出来たので一同はある場所へと移動することに。その道中で談笑している中、一人だけその場で立ち止まる者がいた。
「アスミ?」
「どうした?」
「ちゆも飛鳥も、ポチットが可愛いですか?」
まあ可愛くないと言えば嘘になる、と答えを返すもアスミは疑問を抱かせる。
「可愛いはずなのに、私は何も感じません。何故なのでしょう?」
「可愛いと感じるのは、人それぞれだから……」
「人それぞれ、ということは人でない私には分からないのですね……」
スウゥゥゥ……と、またも感情の意味を理解出来ないことに思い詰めてしまい全身を透明にさせていく。
「あっ、人それぞれっていうのは各自色々って意味で……」
「おーい!早く~!」
そんなアスミをちゆがどうにか宥めようとするところに、先に歩いていたひなたやのどかが手を振って此方に呼び掛け、顔を俯いて落ち込む彼女を押し出すように進んでいく。
「ふわぁ~、ワンちゃんがいっぱいだ~!」
やがて到着した場所はドッグラン会場だ。既に多くの人や飼い犬達が遊んでおり、のどかやラテもその輪に加わりに行く。
「ポチットも、友達いっぱいいるよ?」
対して、ポチットはひなたが持つケースの中で怯えた状態で閉じこもっていてとても出られそうにない。
「やっぱりまだ怖いよな」
「大丈夫、あたしやニャトランだっているし可愛いお友達いっぱいだよ!」
ひなたの用事、そして此処を訪れた理由とは臆病で怖がりなポチットに色々なことに少しずつ慣れさせるためなのである。会場に行くまでの道中で、平光家以外の人と触れ合うのには慣れていないことがひなたの口から明かされた。
「何なら、こいつ貸してやる。気に入ったらくれてやってもいい」
「貸してやるなおいっ、くれてやるなおいっ」
ポンッとポチットのいるケースの上に置いたポポロンにコツコツ頭突きされながら、僕はこの場から離れようとする。
「何処行くの?」
「先に飲み物買って来る。構わず遊んで来い」
そう言ってスタスタと歩いて自動販売機へと向かい、適当にジュースを人数分買って先程の場所の近くの木陰へ腰を降ろす。遊んでいるのどか達の方を見るに、徐々にポチットも慣れてきたのかラテと隣り合わせで混じって遊んでいた。そこに、此方に気付いたアスミが歩み寄ってくる。
「遊ばないのですか?」
「ああいうのは柄じゃないんでな。それに、ここが最大限に心地良い」
そんなやりとりをしながら、アスミは休憩がてら僕の隣に腰を降ろす。
「飛鳥は先程ポチットが可愛いと言っていましたが、ここにいる犬達のどれが可愛いと思いますか?」
「は?そんなもん選べられる訳がないだろ。みんな何かしらの魅力を持ってる」
「みんな、ですか。飛鳥は凄いですね。沢山の可愛いを知っていて」
「あんな一瞬にして周りの犬達に好かれるお前に比べたら大したことないけどな」
「そうですか?あまり意識してなかったのですが」
「ペット飼いたての飼い主とかは羨むだろうな。懐かれるなんて何日あっても足りない。僕もその1人だ」
「でも確か、飛鳥は蛇を飼っていてもう仲良しですよね?」
「……まあ、言っても初めはもっと大変だった」
レピオスとの出会いを懐かしむように、背を木へともたれかかる。
「全くもって心を開いてくれないのは当然のことながら、無視するわ逃げ出すわ、挙げ句の果てには噛み付くわで可愛いなんてのは微塵も感じなかった」
「それがどうして可愛いになったのですか?」
「さあな。飼いたいって言い出したのは僕なんだから最後まで責任は持たなきゃって世話してたら、いつのまにか愛らしく思えてた」
「相手を知りたいって気持ちを持ち続けたからじゃないかしら?」
そこに、ラテを抱えているちゆとポチットを抱えているのどかが並んで歩み寄ってくる。
「ずっと考えていたんだけど、可愛いって相手を見ているうちに思わず守りたくなる……そんな気持ちだと思うの」
「そっか~だから抱きしめたくなっちゃうのかも」
「さっすが、ちゆちー!」
相手を知りたい────確かに、家族関係となるペットのことは知っておきたい。知った上で接していきたいという感情は表には感じていなかったが、心のどこかでは思っていたのかもしれない。飼い主あるあるだろうか。一同がちゆの言葉に納得する中、アスミも理解出来たのか表情を和らげながら立ち上がる。
「なるほど。可愛いはまず興味を持って相手を見ることからなのですね。失礼いたします」
タタタッ、と小刻みな歩きでのどかの両腕で抱えられているポチットへと近づき、グッと覗き込むように顔を近づける。これにはポチットも怖がらざるを得なくなっていて、のどかの両腕から飛び出し、その背後に隠れてしまう。
「よく見せてもらえません」
「不器用にも程がある……」
落ち込む彼女に、思わず心の声が漏れる。先程よりかは平光家以外の人には少しずつ慣れてきたとはいえ、唐突に奇妙な行動をされては誰だって恐怖するに決まっている。
「くちゅん!」
「ラテ!?」
その時、突然ラテがくしゃみをする。額部がオレンジ色に光っているということは、ビョーゲンズが現れた意思表示である。のどか達は急いでヒーリングルームバッグから聴診器を取り出し、ラテの心の声を聞く。
『近くでとうもろこしさんが泣いてるラテ……』
「とうもろこし?」
この周り、ましてやドッグラン会場でとうもろこしが出てくるのが不思議でたまらないのだが。そう困惑していると、付近から聞こえる人々の悲鳴と共に怪物の咆哮が響き渡る。
『メガビョーゲン!!』
……確かに、ラテの言葉通りとうもろこしが叫んでいる。まあ、ここまで戦ってきて未だにそれで困惑しているのもまたおかしな話ではあるが、一度僕達は人目のつかない木陰に隠れて変身の準備へと入ることにした。
「「重なる二つの花!キュアグレース!!」」
「「交わる二つの流れ!キュアフォンテーヌ!!」」
「「溶け合う二つの光!キュアスパークル!!」」
「「時を経て繋がる二つの風!キュアアース!!」」
「絡み合う二つの毒、キュアラピウス」
『地球をお手当!ヒーリングっど♡プリキュア!』
「さて、オペを始めようか」
『メェェェェェ……ガッ!』
ラテとポチットを安全な場所へと避難させ、すぐさまメガビョーゲンのいる場所へと向かうと、人々を襲おうとする姿が見えた。
『ビョー……ゲンッ!』
そのまま口からとうもろこしの粒に似たエネルギー弾をドッグラン会場内のあちこちに放っていく。人々に被害が及ぶのも時間の問題だろう。
『バカでかいぷにシールド!』
そうなる前に、僕達はメガビョーゲンに立ち塞がる。直後に此方目掛けて放たれたエネルギー弾をポポロンの通常より数倍も大きなぷにシールドで難なく防御する。
「こんな範囲までのも作れるのか」
「ふふん!伊達にヒーリングアニマルやってないのだよ!」
自慢気に鼻を鳴らしながら、ポポロンはくるっと僕の頭上で180度回転してグレース達の方へと振り向く。
「んーと。メガビョーゲンは僕らとグレースちゃん、フォンテーヌちゃんが食い止める。その間にスパークルちゃんとアースは飼い主達を安全な場所に避難させる。こんな役割分担でどうかな?」
パニック状態となっている人々をこの場にいさせるのも良くない。恐らくそういう理由でポポロンは役割を分担させたわけだが、グレース達はすんなりと了承しそれぞれの配置につく。
「うえぇぇ~ん!」
「っ!」
近くで少女の泣き声が聞こえてくる。飼い犬と逃げようとした際、目の前に現れたメガビョーゲンを見てその場にへたり込んでしまったようだ。
『メッガビョーゲン!』
恐怖で動けずにいる少女に、メガビョーゲンは襲い掛かろうと尻尾を伸ばしながら容赦なく接近。
「ぷにシールド、縮小!」
その前に、縮小したぷにシールドを張って立ちはだかり、カコンッと音を立てて防御する。
曰く、先程の『バカでかいぷにシールド』とやらはその名の通り広い範囲に渡ってバリアを張って防御することが出来るが、バリア自体が大き過ぎて押し返せないというデメリットを持つ。対して、通常のぷにシールドは自身程度の範囲でしかバリアを張ることは出来ないが、持ち運べるのもあって押し返したり攻撃手段としても優秀だという。よくドラマなどで、警察や特殊部隊が装備するシールドで突撃する描写などを見受けられることも少なくないだろうが、その類とも言える。
「んぬああああ!!」
「はあっ……!」
『メガァッ……!?』
相手の容赦ない、力強い打撃など関係なしに勢いよく押し返してメガビョーゲンのバランスを崩す。
「「はああああっ!!!」」
直後、シールドを上に掲げるとグレースとフォンテーヌはそれを踏み台にして隙だらけのメガビョーゲン目掛けて飛び跳ね、同時に追い打ちの攻撃を仕掛けて吹っ飛ばしていった。
「さあ、共に行きましょう」
すぐさまアースが此方に駆け付け、安全である今の内に少女の手を取って避難場所へと誘導していった。
さて────
「今のうちにキュアスキャンラビ!」
「そう簡単にはいかせん!」
無駄にデカい図体を起き上がらせる前にさっさと浄化技を繰り出さねばと、ラビリンはグレースにキュアスキャンを求める。だが、それを黙って見ているビョーゲンズの幹部ではない。
「ふんっ!」
『メッ!?メメメメ……メガビョ~ゲェ~ン!!!』
グアイワルは所持していたメガパーツを倒れているメガビョーゲン目掛けて放り投げる。やがて、怪物の体内へと吸い込まれていくと、全身を覆う皮を剥けながら巨大化していく。強化を遂げたのだ。とは言えど、たかが巨大化しただけの話だ。先程と同じように体勢を崩して更に追い打ちを掛ける戦法で立ち向かおうとする。
『実りのエレメント!』
今度は光線や技で押し出す作戦に出る。グレースはヒーリングステッキに実りのエレメントをセットして、通常よりも強力な桃色の光線を繰り出そうとする。一方で、それに対抗するようにメガビョーゲンは全身を使って地上、空中のあちこちに光線を放つ。辛うじてグレースとフォンテーヌは地上から空中に、僕はポポロンがぷにシールドを張りながらのバックステップで回避することが出来た。
だが、今度は頭頂部に生やす毛状のものを鞭として使う物理攻撃を繰り出してくる。空中で身動きを取ることが出来ない、隙だらけとなったグレースとフォンテーヌを巻きつけて拘束する。
「やれ、メガビョーゲン!」
『メガビョーゲンッ!!』
「「きゃああああっ!」」
メガビョーゲンは体重を掛けて跳び上がり、全身を回転させて拘束した二人を勢いよく地面に叩きつけた。
『メ~~~ガ~~~……!』
再度、全身を使っての光線で更なる追加攻撃を仕掛けてくる。
『ぷにシールドアタック!』
『メガッ!?』
流石に二度も動揺なんてしない。ぷにシールドを利用してメガビョーゲンに接近し、光線を反射で押し返して命中させる。まさか自身の攻撃が自らに当たるとは思わなかっただろう。怪物は酷く動揺しながらバランスを崩して怯んでいた。
『……メガッ!』
「「なっ……!?」」
ように思えたのも束の間、今度は胴体にエネルギーを蓄えて目の前の此方に大きな粒状の光弾の集中攻撃を仕掛けてきた。集中攻撃──つまりは先程のよりも強力な攻撃だと言える。しかも一発だけでなく、二発三発という連続攻撃だ。
「ヤバい……う、上手く避けてラピウス!!」
「はっ!?避けれるわけないだろバ────かぁっ……!!」
こんな子羊の指示に耳を傾けたのが仇となったのか、光弾が命中したことによる反動で最終的にはまともにダメージを喰らうこととなってしまい、地面へと落ちていく。
「皆大丈夫!?」
恐らく周りにいた飼い主ら全てを避難させたであろうスパークルとアースが此方の安否を確認しながら駆けつける。声を掛けてくれているが、運悪く大ダメージを喰らってしまった為に上手く言葉を発せない。
「ハーハッハッハ!どうだプリキュア!やがてお前達もここで終わるのだ!!」
メガビョーゲン側が優勢となっていることに気付き、慢心の如く高笑いをしてみせるグアイワルに、スパークルは抗議するように言葉をぶつける。
「ここは人と動物が皆で遊ぶ場所なの!あんたはお呼びじゃないっての!」
「人間と動物が遊ぶだと?下等生物にかまけるとは……くだらん」
「下等生物……?」
いつもより低い声音で、アースが小声で相手の言葉を繰り返す。
その時、
「キャン!キャンッ!」
と、一匹の黒毛の子犬がメガビョーゲンの前に立ちはだかり、声を上げて吠え始める。
「ポチット……!?」
そう、その声の主はポチットなのである。ただ、威嚇と呼ぶには情けなさがあり、臆病な性格さながらの力のこもっておらず、か弱い震え声を上げていた。それでも、負傷するプリキュアを黙って見ていられるわけでもなかったようで、自分の出来る精一杯のことをやって目の前の怪物をこの場から追い出そうと幾度も吠え続ける。
「あの馬鹿……!」
不意に"あの時"のことを思い出す。体調を崩したラテが瀕死状態の僕達を身を挺してまで庇った時のことだ。僕が完全に取り乱したことで、非力であったラテを負傷させてしまったのだ。そして、今まさにそれと同じ構図、光景が視界に映っていた。刹那、
ビリリッ……!
「っ!無理しないで……!」
全身に痛みが混じった電撃が迸る。パートナーであるポポロンにもそれは良く伝わり、精神に乱れが生じていると考慮して無理をしないよう僕を促す。だが、自身を落ち着かせようともせずに戦いの展開は止まることなく進んでいく。
「うるさい下等生物だ、やれ」
『メガビョーゲン!!』
弱き者を潰してしまえ────グアイワルの非常な命令を受託したメガビョーゲンは、大型の粒状の光弾をポチットに向けて発射して浴びせに行く。
「ポチット!!」
「逃げて!!」
「だめぇぇぇぇぇぇ!!」
そう叫ぶも、グレースとフォンテーヌは地面に叩きつけられたことで上手く身体を起き上がらせないでいる。スパークルに関しては手を伸ばして駆けようとするが距離的にも間に合わない。
だからと言って、"諦める"という選択肢はない。
決して、二度目なんてさせない。
「えっ……?」
「なっ!?」
「嘘……っ!?」
直前まで、この中の誰もがポチットに当たったと思っただろう。しかし、本当に命中する寸前で光弾を受け止める。
しかも、両手────素手で受け止めて見せたことに、頭に乗っているポポロンも驚きを隠せないでいた。
「ぐっ……!」
ズザザッ、と足が引きずられる。当然、ぷにシールドを張っていなければ蛇の化身を召喚する魔術も使っていないのでどうしても押され気味になってしまう。
では、何故それらを使わなかったのか。答えは『間に合わない』からという単純な理由である。それくらい、怪物が放った光弾は速度が速いものだったのだ。だが、割って入った以上はこのままやられるわけにはいかない。
「────ぅるらあっ!!!」
『メガアッ!?』
歯を食いしばりながら引きずられた足を前に押し込み、両手を天高く上げてサッカーのスローインのように勢い良くメガビョーゲンに向けてぶん投げる。
ドゴオオオオオオオン!!!!!
ぶん投げた先は運良くメガビョーゲンの頭頂部へと命中。爆音と共に土煙が広い範囲で舞い散っていた。
ビリリリリリッ!!
「がぁっ!げほっ、げほっ……!」
「流石に無茶し過ぎたねえ。でも……初めて逆らったね」
「……そうだ!あいつは」
僕はポチットの方へと目をやる。此方に近づき、心配そうな目で見つめているが、身体に異常はなさそうだ。それに気付いたスパークル達も安堵の表情を見せる。
「ハア……ハア……ったく、あんなに危険な目に遭ったってのに、お人好しにも程があるぞお前。少しは自分の身を優先しろ」
「君が一番言えたことじゃないけどねそれ」
人間がペットを守るように、ペットも人間を守りたい。"ペット"という立ち位置にいる以上、飼い主のあらゆる場面を見て覚えてしまうのだろう。レピオスもまたそんな感情を持っているのだろうか……いや、流石にないか。
「ちっ、たかが下等生物を庇うとは」
「下等生物ではありません」
「何……?」
「彼らは人間と共に生き、笑い、互いを思い合っている。その姿はとても……とても抱きしめたくなる姿です!」
「ぐぬぬ……メガビョーゲン!何を怯んでいる!さっさとやっつけろ!」
『メガッ……ビョーゲン!』
自身の呟きに対するアースの否定的な言葉に痺れを切らしたのか、グアイワルは声を荒げながら指示を出すとメガビョーゲンは体勢を立て直し始める。あれだけ強力な光弾を喰らってもなお立ち上がれるタフさに、メガパーツとやらはかなり厄介なアイテムだと再認識するが、再起など許しはしない。
「痛みは収まったな。あれ使うぞ」
「う、うん。分かったよ!」
システム起動!トロイアスバレル、チェック!サンライトオーバー、3!2!1!
『
弾丸の如く素早い光速の矢が、立ち上がったメガビョーゲンの急所へと命中する。俗に言う"リスキル"というやつだ。
『キュアスキャン!!』
スパークルはキュアスキャンで体内に潜む実りのエレメントさんを探し当ててみせた。
「アース、後は頼むぞ」
「はい。今助けに参ります!」
『アースウィンディハープ!』
「エレメントチャージ!舞い上がれ、癒しの風!!」
『プリキュア・ヒーリングハリケーン!!!』
アースウィンディハープから放たれた、無数の白い羽を纏った竜巻状の光線がメガビョーゲンへと直撃し間もなく浄化されていく。
『ヒーリングッバイ……』
「お大事に」
────ー
後日、僕達は平光アニマルクリニックの近くのふれあい広場に訪れ、ポポロンを除いたヒーリングアニマル達と遊ぶポチットを眺めながら談笑していた。
「ポチットくん、新しい家族が決まったんだよね?」
「うん、来週迎えに来るんだ~」
「新しい家族ともきっと仲良くなれるわ」
「でも、お別れするのは寂しいですね」
……
「「「「え?」」」」
「え?」
一同がしばらくの別れに寂しく感じる中での発言だったので、さらっと受け流しそうになる。しかし、発言者はあのアスミであることで思わず過剰に反応してしまう。
「アスミンが“寂しい”って言うなんて……!」
「初めてじゃないかしら?」
「いつの間に、しかも何処で覚えたんだ……」
「……そんなにおかしなことでしょうか?」
別に、普通の人であれば何らおかしいことではない。生まれたばかりのお前が言うからおかしいと思ったんだ、とツッコミを入れようとしたところに、先程まで遊んでいたポチット達が此方に駆け寄ってくる。アスミは膝をついてポチットと目線を合わせる。
「ポチット。今更ですが、私はあなたと友達になりたいと思っています。人とは違う身ですが、仲良くしてくれませんか?」
そう言って、差し出された手をポチットはしばらく見つめ、やがて『はい』という意志表示をするようにその手をペロッと一舐めする。
「まあ!」
「アスミン!ポチットも仲良くしたいって!」
改めて、初めて平光家以外の人に心を開いてくれたことにひなたも歓喜の言葉を告げる。アスミはそんなポチットに感謝の意思表示をするように頭を撫でた。
「可愛い……!ひなた、不思議ですね。私の中で可愛いがどんどん膨らんでいきます」
「可愛いに限界はないんだよ!」
これでまた一つ(一応、『寂しい』という感情も抱いていたので二つに加算しても良い)新たな感情を覚えたことに、アスミは笑みを溢す。
「ワン!ワン!」
「うん?」
一方、ラテが此方を呼んでいることに気付き、膝をついてラテと同じ目線に立つ。すると、珍しく僕の膝の上に飛びついてきた。聴診器を取り出して心の声を聞いてみる。
『ポチットも飛鳥とお友達になりたいって言ってるラテ!』
「え、僕もか?」
「飛鳥くん、ポチットのこと一早く庇ってたもんね」
「誰よりも早く駆けつけてたし」
「あの時のあっくん、かっこよかったよね!」
「ナイスファイトでした」
「……何だそれ」
物凄く唐突なべた褒めに困惑してしまう。だけど、あれは僕が動かなきゃダメだったんだと、ラテと目を合わせることでより一層感じた。
「二度と同じ過ちを繰り返さない為に……そうだろ?」
「「ワンッ!!」」
ラテに聞いたつもりがポチットも反応したことに、一同はクスッと笑わざるを得なかった。
「そうだ、こいつをやろう。大切にしろよ」
「だからやめろってばあああああ!!!」
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