ヒーリングっど♥プリキュア 〜医神と地球の戦士〜 作:ゆぐゆぐ
さて、唐突ですが今回からオリキャラ追加しました。これが本編最後の追加キャラかと思います。というかそうしたい。
♪♪♪~
「ん……」
夕陽が次第に沈む時間帯。自室の机と向かい合って読書をしていると、突然スマホから通知音が鳴り出す。手に取ってみると、
『あっくん話したいことあるから通話来て~!ヽ(´・д・`)ノ』
という文章と、当人がグループ通話を開始したという通知の二件が来ていた。
そういえば最近、僕とひなたの他にのどかやちゆもスマホを持っていることが判明し、ひなたを筆頭にプリキュアメンバーでのLI〇Eグループが作られたのだ。のどかは入院中でも家族と会話したり出来るように所持していて、ちゆは基本的に自分の時間はタブレットを使っているおかげで、ほとんど家族との連絡用にしか使っていなかったそうだ。そんなグループ通話に招待されたので、すぐさま応答をタップして通話に参加する。
「何か用か?」
『あーもしもし?えっとね、今度の日曜に皆でおおらか市の湖に行こうって話になったの!だからあっくんも一緒に行こうっていう誘いの用事!』
「おおらか市?割と遠くないかそこ」
当然、市内からは出ることになる為、多少の遠出にはなってしまう。それに加えて、彼女から位置情報のURLを貰ったところ『湖』というのはそのおおらか市街から約5キロに位置する湖畔のことだろう。最低でも二時間はかかることになりそうだが。
『のどかっちとアスミンの提案でね、お弁当持ってハイキングしようって話になってさ~!』
「成る程、じゃあ行く」
『おっけー!』
「……相変わらず、のどかちゃんの提案だと即答になるねえ」
小声で何か呟くポポロンを横目に、話を続ける。
「それで、何時集合なんだ?」
『それがさ~聞いてよ!ちゆちーが早い時間の方が人も少なそうだからって朝の六時集合だって言ったんだよ!?』
「朝の六時か。確かに少し早い気もするが、まあ休日だし人混みも考えれば妥当だな」
『えぇっ!?六時だよ!?まだ夜じゃん!』
「がっつり朝だろうが。お前いつも何時に起きてるんだ」
とは言ったものの、僕自身も人の事を言える立場ではない。休日は疎か、平日だって基本は六時起きなのでそれよりも早い時間に起床しなければならない。目覚ましのアラームを掛けておけばどうにかなるけど、念の為に気をつけておかねばと思う。
『いやまあ、あたしも遅い時間に起きてるってのは自覚してるけど。でもそうじゃん!冬にめっちゃ寒くて起きちゃったことあるけど、その時まだ真っ暗だったよ!?』
「冬は日が昇るの遅いけど、基本的にはその時間帯に明るくなるぞ。というか、今冬じゃないし」
『ぐむむ、そんなに早く起きれる自身ないよ~』
「いつもより早く寝て大音量でアラーム鳴らしとけばどうにかなるだろ。今の内に対策しておけよ」
『……はい、頑張りマス』
そんな感じで色々決まり、ひなたに別れを告げて通話を終了する。それにしても、友人と別の市街まで遠出するのって初めてかもしれない。
「───明日、早起きして母さんに弁当作り教えて貰うか」
────ー
「ふわぁ~!素敵!」
「来て良かった~!」
「本当ね」
当日の早朝、電車等の移動手段を使って約二時間掛けて目的地である湖畔へと到着する。目の前に広がる湖は綺麗な青に染まっており、鴨や魚がはしゃぐ水音や湖畔を囲む森の木々や太陽の日差しも相まって僕達を澄んだ心にさせていた。
「めっちゃ気持ちいい~!」
「ひなたちゃん、声大きすぎ~!」
数ある疲労の中でも、電車や飛行機といった長時間の移動の影響で疲労を感じるものも存在する。しかし、彼女らはこの湖畔の景色を見て疲れが吹っ飛んだのか、大声を出せる程に楽しんでいる。そこまでの体力、是非此方にも僅かながら分けて欲しいものだ。
また、中には湖の心地良さを体感している者もいる。ペギタン、ポポロン、ちゆの三名であり特にペギタンは仰向けになって湖の水面を肌で感じながら『母なる地球、その懐に慈しまれて抱かれている気持ちペエ』と、何処で覚えたのかが謎の小難しいことを述べていた。あまりに唐突な語りに湖畔の周辺で吹く風を感じていたポポロンは『何言ってんだこいつ』と言わんばかりにドン引きの表情を見せており、ちゆも若干顔を引きつらせながら気持ちよさそうにしているペギタンに少量の水をかけていた。
さて、と。
我一番に駆け出して行ったひなたが投げ捨てた荷物を回収して、僕は自分のリュックサックからレジャーシートを取り出す。通常よりも一回り大きいと思われる物を持ってきており、多分もう一つ分広げた方が良いのだろうが流石に人様の荷物を勝手に開けるわけにもいかない。取り敢えず、今広げたレジャーシートに各々の荷物を置いて湖の周りを散歩しようかと思っていると、目を閉じ右手を右耳にあてて何かを感じ取っているアスミの姿があった。
「何してるんだ?」
「自然の想いを感じ取っていたのです」
「自然の?こういう"草"とか"木"とかのか?」
「はい。"土"や"花"、そして"湖"もです」
恐らく、地球が生んだ精霊であるが故の特性というものだろう。僕自身、というか我々人間には理解に難しい事情だと思った。
と、ここでスマホにあらかじめ昼食の時間(予定)をセットしておいたアラームが鳴り響く。予定ではあるが、此処に到着した時間を踏まえて頃合いだと考え、一度休息の時間を取ることにした。
各々が持参した弁当を見せ合い、時には交換や回し合いなどもしながら賑やかな昼食の時間を過ごした。その後、森の中を中心に僕とのどか、そしてアスミは湖の周りを歩いていた。
「アスミちゃん、自然とお話ししてるみたい」
精霊の力なのかは分からないが、アスミは自然の想いを感じ取ることが出来るらしいと伝えると、のどかは深く関心していた。
引き続き手を耳にあてながら足を運ぶアスミを見て、改めてのどかはそんな感想を述べた。
「でも、ここってとても気持ち良いよね。生きてるって感じ」
のどかの声と共に、周辺に吹く心地良い風が僕達の身体と心を揺らす。夏という暑い時期には特に最適で、たとえそよ風であっても身を預けたくなる。
「……何か騒がしいな」
すると、付近から鳥の鳴き声が聞こえてくる。いつも飛び回る上空からではなく、側面───地上からだ。
来た道からは別の道へと進みながら、それぞれ分かれて茂みを漁ったりして探し始める。
「あっ、いた!」
探し始めてから2,3分経った頃、のどかは木々が並ぶ小道のど真ん中で声の主を見つけ、呼び声と共に其方に足を運んでいく。
「雛鳥か。この木の巣から落ちたんだろう」
数人も人間が近づいてきても何処かへ羽ばたこうともせず、か弱く甲高い声で鳴き続ける一羽の雛鳥。まだ生まれたばかりの赤子なのだろうが、『帰してくれ』と言わんばかりに地面から空を見上げている様子を見てそう判断した。
「戻してあげないと……!」
「ちょっ、おい待て──────」
「駄目!触っちゃ駄目よ!!」
のどかが雛鳥を抱えて巣へと戻そうと両手を伸ばした瞬間、森の奥から声を上げて止めようとする女性の声が聞こえる。同時に、その行動の危険性を察した僕はのどかの肩をやや強めに叩いて止めるように促す。双方から彼女を止める形となった。
「この子は多分巣立ちの時なんだよ。まだうまく飛べないだけ」
「どうしたの?」
「あっ、雛だ!可愛い!」
そう言って、女性は膝をついて座るのどかと同じ目線に合わせてその隣で膝をつく。そこに、此方の声が聞こえたのかちゆとひなたも駆けつけにきた。
「親鳥が近くで見ているかもしれない。人間が勝手に連れて行っては駄目よ」
「え、でもどこ?親鳥、何で助けに来ないの?」
「巣立ちってのは、親の力を借りずに自分自身でやらなきゃいけない。それに僕達人間がいると近づけないから、たとえ善意でやっていたとしても相手には悪影響でしかないから。だったかな」
「良く知ってるね。そう、人が近くにいること自体、野生の雛にとってはストレスなの」
女性はポケットから軍手を取り出し、両手にはめて雛を優しく抱えると近くの木の根元の辺りにそっと移動させる。
「野生の鳥や動物はさ、人に感染する病気を持ってる場合もあるから素手で触っちゃダメなんだよ。さあ、ここを離れましょう」
助言も加えられた女性の言葉通りに、一同は森の中を後にする。
森を出て湖が見える場所まで戻ってきた後、彼女とは同じ道を歩くこととなり後について行くように移動していた。
「ありがとうございました!あそこで止めて貰えなかったら、雛を連れて行っちゃうところでした……!」
「良いのよ!分かって貰えれば!」
「ありがとうございます。あの、厚かましいかもしれませんが、獣医のお仕事とかされているんですか?」
のどかの感謝と謝罪の言葉を笑顔で受け入れてくれたことに安堵したところで以上のことを尋ねてみる。彼女が着用している作業着、小動物であっても野生動物相手に手慣れた手つき、そして野生に関する詳しい解説から推測する。獣医師が作業着というのはイメージと離れているが、一般には知られていない野生動物専門の獣医の可能性もある。
「私は"樹サクヤ"。獣医ではないけど、おおらか市で樹木医をしているの」
「樹木医?」
「木のお医者さんですね」
流石に獣医ではなかったものの、あまり聞き覚えのない職業名で思わず首を傾げてしまう。単純に自分が無知であるだけかもしれないが、割かしマイナーな職業なのではないだろうか。
「木の様子を見て診断をして、何か問題があればこんな風に処置してあげるの」
説明している間にも、彼女は樹木をハンマーで軽く叩いて音を確かめたり、傷が出来ていた木には薬を塗って治したりとテキパキ作業を進めていた。
手際の良過ぎる姿を見て、この場にいる全員が思わず釘付けとなって見惚れてしまっていた時、再びそよ風が吹き始めていた。そよ風によって木が微かに揺れ、葉っぱ同士が擦れる音をサクヤさんは耳を澄まして聞いていた。
「木が話してる」
「え、風が吹いただけじゃ……」
「うん。でも、お互いが『元気?』って、声を掛け合ってるの」
彼女の言葉に、アスミも同じように耳を澄まして聞き始める。
「風って自然の想いを届ける力を持っているんじゃないかなって。まあ、私の思い込みだけどね」
「そんな事ありません。サクヤさんは本当に自然の想いが分かる……いえ、分かろうとしている。ここの自然が素敵なのはきっとサクヤさんがいるからです。私もここが大好きです」
「ありがとう。そう言ってくれて私も嬉しいよ」
大好きだ、と言ってくれたアスミに感謝の言葉を述べるサクヤさんの元に再び心地良いそよ風が吹いていたのであった。
────ー
静かな、正に静寂に満ちたとも言える深夜のおおらか市の湖畔。その付近にある森の中で一つの人影が彷徨っていた。
「はぁ、ここ空気悪すぎ。こういう所嫌いだなあ……」
その正体は、周辺の環境が気に入らないと気分悪そうな表情を浮かべる異質な少年────ダルイゼンである。今日も、ビョーゲンズとして地球を蝕む為に利用出来るものを探しに歩き回っていた。
「ん?」
不意に近くから小鳥の鳴き声が聞こえ、思わず足を止めて声の主の方へと振り向く。上空には数羽の小鳥が木々を飛び回っており、その内の一羽が上手く飛べずに地面から落っこちていた。
「……丁度いいや。実験開始」
その一羽の小鳥を見たダルイゼンは何かを企むように笑みを浮かべた途端、小鳥を抱えて所持していたメガパーツを直接与える。しばらく悶えていた末、小鳥は地面に倒れると身体から禍々しいオーラを放出していく。
「やれやれ、こんな所でビョーゲンズを生み出そうとするとは。彼も不運ですね」
そんな状況を更に森の奥、大木の中から眺める一人の男の人影があった。
「まあ、現在彼女はお休みになられているのでどうなるかは分かりませんが。とはいえ、目覚めるのも時間の問題でしょうかね」
月によって照らされる夜の静寂な湖畔に手を伸ばしながら、思わず笑みを溢す。何かとんでもないことを楽しみに待つような、無邪気な子供が作るような笑みであった。
「共に行きましょう。互いの命を尽くした時、我々の望みはようやく叶うのです」
────ー
「くちゅん!」
「ラテ!?」
「出てきたか……」
後日、僕達はすこやか市にある展望台で自然の景色を眺めていると突然ラテがくしゃみをする。辺りで騒がしい様子は見受けられないが、何処かで性懲りもなくビョーゲンズが地球を蝕んでいるのは確かだ。のどかはヒーリングルームバッグから聴診器を取り出し、ラテの身体に当てる。
『この前遊んだ大きなお水さんが泣いてるラテ』
「この前遊んだ大きな水?」
「おおらか市の湖のことじゃないか?」
「……うわぁ大変!これ見て!」
ラテの言葉に頭を悩ませる中で、スマホでおおらか市やビョーゲンズに関するニュース等がないか情報収集していたひなたは何か大きなものを見つけたようで、押し付けるようにスマホの画面を見せてくる。
『おおらか市上空を飛び回った謎の飛行物体は、山中の湖の方へと飛び去っていきました」
画面に映されているのはニュース番組の生中継。良く見ると、以前訪れたおおらか市の湖畔が映し出されていた。
『おい、危ないぞ!戻れ!!』
「サクヤさん!?」
声を上げながらカメラマンが追ったのは、おおらか市街を飛び回るメガビョーゲンらしき異形の怪物と湖の方へと駆け出して行くサクヤさんの姿であった。
「早くおおらか市に行かなきゃ!」
「行かなきゃって……着くまでどれくらい時間掛かると思ってんだ」
「でも、こうしてる間にもビョーゲンズが湖の自然を病気にしてるんだよ!」
かなり焦っているのどかの言葉も一理ある。ビョーゲンズは今でも地球の汚染を止めることなく続けている。しかし、ここから湖畔に行くまで電車に乗っていても二時間は掛かってしまうので今から向かうとしても時間の問題だろう。
「私に考えがあります」
と、今まで真剣な表情でしばらく空を見上げていたアスミが口にする。何か空を利用しての方法があるのかと思って同じように空を見上げると、突然心地良いそよ風が吹き始める。
「もしや、風のエレメント────」
「絶対に助けます。サクヤさんを────あの素敵な自然を」
そしてもう一言、アスミが口にしたのはお手当てへの決意、それだけでなく"好きで素敵で愛おしいと思った人や自然を守りたい"という彼女の本心だった。この地球に来てから、様々なことを覚えて学んで考えて───だからこそ抱くことの出来た決意に答えるように彼女の所持する風のエレメントボトルが目の前で紫色に輝き始め、彼女を身体をも輝かせる。
「風よ、私の想いを……運んで!」
言い放った瞬間、エレメントの力によってアスミの周りを強い風が吹き荒れ、やがて竜巻状の巨大な渦が発生すると雲一つない青空に衝突し大きな穴が開けられる。
「ええええええ~!?何あれ~!」
「おおらか市の湖……!?」
その穴に映し出されたのは汚染されつつあるおおらか市の湖畔だった。あまりに衝撃な出来事に、アスミ以外の者達は呆然とそれを見つめていた。一方で、アスミは両手で僕とのどかの手を握り始める。
「あれを通れば湖に行けます。行きましょう、地球のお手当てに!」
その言葉に答えるように、ちゆは両手でひなたとアスミの手を、ひなたも両手で僕とちゆの手を、そしてそれぞれ残りの僕とのどかの手を繋いで一つの輪になる。途端、風のエレメントの力で全員の身体が浮き始め、巨大な穴へ目指して進んでいく。
「着いた!」
突然の慣れない出来事に戸惑っていたものの何事もなく穴を通り抜け、湖畔へと到着する。直後に目にしたのは、怪物によって吹き飛ばされて木に叩きつけられるサクヤさんの姿だった。
「サクヤさん!」
アスミがすぐさま駆けつけて声を掛ける中で、僕は首元や手首の脈を測る。しっかりとリズムよく鼓動する感覚があるので、単に気を失っているだけである。
「誰だ~お前達?」
「貴方こそ誰なの!」
「オイラは"ネブソック"って言うんだぞ!」
オレンジの鬣のような髪型に化粧したかのようなアイライン、何より漆黒ともいえる身体や翼を持つその姿はまるで人間のサイズとなったカラスそのままである。そして、サソリのような尻尾を持つことから新たなビョーゲンズの幹部と認識して良いだろう。
「サクヤさんが大切に守っている自然を……許せません!!」
「行こう!!」
アスミの想いに合わせて、それぞれ変身アイテムを持って変身の体制に入る。
「「重なる二つの花!キュアグレース!!」」
「「交わる二つの流れ!キュアフォンテーヌ!!」」
「「溶け合う二つの光!キュアスパークル!!」」
「「時を経て繋がる二つの風!キュアアース!!」」
「絡み合う二つの毒、キュアラピウス」
『地球をお手当!ヒーリングっど♡プリキュア!』
「さて、オペを始めようか」
「またお前達か。本当に何処にでも現れるね」
「ダルイゼン!!」
「にーちゃ~ん!こいつらなんだ?」
「そう、いっつも兄ちゃんの邪魔をするんだ」
「じゃあ倒しちゃって良い~?倒したら褒めてくれよな、兄ちゃん!」
唐突に森の奥から乱入してきたダルイゼンに、ネブソックが"にーちゃん"と称して問いかけたことに思わず困惑する。何か特別なわけがあるのだろうが、そんな問いかけにダルイゼンは手で合図を送って答える。
「「「きゃあああっ!?」」」
刹那、回避する隙を与えようともせずに、翼を大きく動かして上空からとてつもない速さで滑空して突進してくる。僕やアースが間一髪のところで回避に成功することが出来た一方で、グレース、フォンテーヌ、スパークルの三人は咄嗟の判断が鈍かったおかげで、突進から発生した突風によって吹き飛ばされてしまう。
「あははは!弱ぇ~楽勝!」
「弱ぇって、約二名には避けられてんだろうが……!」
調子に乗るな。
グレース達に多少のダメージを負った程度で高らかに慢心するあいつに少しだけイラっときた僕は、その場で巨大な蛇の化身を召喚する。やがてこの地に現界した蛇は主人の気持ちに答えるように、ネブソック目掛けて猛突進。しかし、そんな攻撃も虚しくネブソックは旋回や滑空で軽々と湖畔の周囲を飛び回って回避していく。
だが、相手の方が速いからといって不利なわけではない。寧ろ、有難いことだ。
「はぁ、はぁ……ど、どこまで追っかけてくるんだよぉぉぉ!」
何も考えずにあちこち全速力で飛び回っていてくれた方が、次第に出てくる疲れによってその動きも鈍くなっていくことだろう。そして、その予感は的中した。
「はあっ!」
「ぐうぉあ!?」
実際はそうではないが、まるで銃で撃たれた鳥のようなふらついた動きで突進するネブソックを、アースは回し蹴りでカウンターをお見舞いする。顔面を思いっきり蹴り飛ばされた怪人はそのまま汚染された湖へと吹き飛ばされ、落下していく。
「言う程大したことないじゃん。いや、あいつらが強すぎるのか?」
「何なんだよお前達!」
少しして湖から飛び出てきたネブソックは翼を大きく羽ばたかせながら、連携を取った此方に対して怒りを露わにする。その間にも攻撃を止めてはいない。
ザバアアアアアアン!!!と、湖から飛沫を上げて這い上がって来たのは巨大な蛇の化身。ネブソックが落下した後も動きを止めずに湖に飛び込んで追っかけまわしていた。
「お前が一番何なんだよ~!!」
大口を開けて喰らうどころか飲み込んでやろうとする蛇から真上に飛んで逃げるネブソック。
高く、高く、うーんと高く。
「チッ、あと少しなのに……!」
鳥類は大気圏に突入しない限り、この地球上では無限に空を飛ぶことが出来る。対して、いくら巨大な蛇であれど高さ大きさには限りがあり、怪人の今いる位置からは届かないでいる。だが、それでも喰らってやろうと首を伸ばして試行錯誤していた。そんな蛇を、ネブソックはその場から動かずに何故かジッと見つめる────。
「お……おっかねえええぇぇ!!高いとこおっかねえええよおおおぉぉぉ!!!」
「は?」
突然、頭を抱えて叫び出した。
「もしかして、高いところ怖いの?飛べるのに?」
「はあ……期待外れだな」
スパークルの言う通り、飛べる上にカラスの姿をした奴の口から高い所が苦手という言葉が出てくるのは色々と矛盾しているというか、流石に困惑せざるを得ない。これにはダルイゼンも呆れたような大きな溜息を吐いていた。
まあ、それならそれで好都合である。
「ほう、高いところがおっかないのか。でも、今降りればこいつに丸呑みにされること間違いなしだ」
「う……うるせえやい────」
「さあ、蛇の餌になるか僕達に浄化されるか。早急に選べ」
僕が容赦なく挑発すると同時に、蛇もガチガチと歯を鳴らして"早く俺の餌になれ"と急かしている。わーわーと騒いでパニック状態になっているネブソックだが、それも時間の問題だ。
「や、やっぱり助けてにーちゃ────」
「「「「「っ!?」」」」」
突如、鳴り響く不協和音と共にどんよりとした空気が辺り一面に伝わってくる。
物凄く気分が悪く、もはや吐き気を催してしまう程の不穏な空気が押し寄せてくる。加えて、その空気によって凶暴と化した蛇の化身が一瞬にして消滅してしまったのだ。そんな一方で、今まで騒ぎ立てていたネブソックはいつの間にかその場を動かずに静かに上空に佇んでいる。
いや、動かないのではない。動けないのだ。
「……え、石になってるんだけど」
ポポロンがぽつりと呟く。既にネブソックの身体は足の爪先から頭まで全てを灰色に変えられてしまっていた。瞬きをしている間に何故こうなってしまったのか、そもそも誰がやったのか、僕達は困惑せざるを得ない。
「取り敢えず、隙が出来たことには変わりない。アース、浄化頼める?」
「分かりました……!」
『アースウィンディハープ!』
一枚の羽が頭上に舞い落ちると、彼女の武器である『アースウィンディハープ』へと姿が変わり、アースは浄化の体制に入ろうとする。
しかし、
「いや、やっぱり待って。皆下がって!」
刹那、その言葉によって一斉にその場から距離を置く。同時に湖の全面から一つの巨大な藻類の束が這い上がってきた。しかしそれは生き物のように不安定な動作でゆらゆらと揺れている。
そして、ゆっくりと石化されたネブソックの周りを包み込んでいくとギュッと縛って中へと引きづり下ろしていった。
ほんの数分で起こった壮絶な出来事に、しばらく沈黙が続く。
再びネブソックが起き上がってくることも、ましてや謎の異物が出現することもない。湖は汚染されているが、僕達が初めて訪れた時と同じくただ水の流れる音だけが聞こえてくる。
『
念の為、というより蝕まれた場所を取り除く為に技を放つ。しかし、辺りは綺麗に浄化されたもののビョーゲンズを浄化するといった手応えは感じなかった。
「えっと~……終わった、んだよね?」
「ええ、恐らくは……」
「でも、あれは何だったのかしら?」
「た、多分あたし達を手助けしてくれたんだよ!ってか、そう思ってた方が色々と良いって……!」
「あんな化け物じみた救世主がいるとか考えたくないけどな」
それぞれが自分の思ったことを述べた後、変身を解除する。
湖の中を覗いたり辺りを見渡してみても、見た目も中身も雲一つない空のように青く染まった輝かしくこれといったものは影すらも見当たらない。そうなると、ひなたの言う通りに思っていた方が吉なのかもしれない。あんな自然現象があるとか聞いたことないけど。
「うぅ、ん」
「サクヤさん……!」
木に背を預けて気絶していたサクヤさんが唸り声を上げて目を覚まし始めたことに気付き、真っ先に駆け付ける。アスミの呼び声で完全に目を覚ますと、事態を思い出したかのように慌てた様子で起き上がった。
「大変!湖が、森が!」
「もう大丈夫ですよ」
「えっ、貴女は……あれ」
気を失うまでは周辺の自然が蝕まれていたので、慌てるのも無理ない。しかし、今は青空のように綺麗な湖、その周りには自然溢れる森や太陽の日差し、そして心地良い風など彼女が良く目にするであろう湖畔が目の前に広がっている。
「伝わりますよね?サクヤさんが気がついて、木も草花も湖も、喜んでいます」
「え?」
「……いえ、私の思い込みです」
「……そっか」
落ち着きを取り戻したサクヤさんは、そんなアスミの微笑んだ表情を見て同じく微笑んでいた。
それから、僕達は彼女と別れを告げ、すこやか市へと帰ろうと森の中を歩いていた。
「アスミ、帰り道よろしくラビ!」
「え?」
「ほら、ここまで来たトンネル」
おおらか市に直行する為に使った風のエレメントの力を使えば、一瞬ですこやか市へと帰ることが出来る。そんな提案をラビリンはアスミに投げかけるのに対し、"それは何でしょうか?"と言わんばかりにとぼけた反応で返す。それをニャトランが補足で説明するとアスミは淡々と理解する。
「ああ、出来ません。あれはとても力をつけるので」
……。
アスミのとんでもない言葉に、思わず足が止まる。ぽかんとした表情で呆然とアスミを見つめる僕達には構わず、彼女はラテを抱えてスタスタと歩き続けていた。
「じゃあ、電車で帰らなきゃいけないってこと!?」
「電車賃、足りるかな……」
「私、お使い頼まれてたんだけど……」
「同じくだ……ったく、しょうがない」
僕はポケットから財布を取り出し、所持金を確かめる。今日はスーパーでの食材調達を頼まれているので千円札は勿論、一万円札も入っている。
「一応、足りなくなったら言ってくれ。母さんには無理にでも交渉しておくから」
「本当!?ありがとう!」
「あ、じゃあせっかくだしついでにカフェに寄って奢っても────いだだだだ!ごめんうそうそ冗談!悪かったから耳引っ張るのやめて~!!」
本当に冗談で言ったのかはさておき、一同は街へと続く森の中を進んでいく。
ちなみにこの後、奢られることはなかったがほんの少しだけカフェで時間を費やしたのであった。
────ー
「何だったんだあれ……」
プリキュア達が蝕まれたこの地を浄化していた時、ダルイゼンもまた突然の現象に戸惑いを隠せないでいた。何の予兆もなく、キュアラピウスが生み出した巨大な蛇を消滅する程の一変した空気が押し寄せてきたのだ。身体が自由に動けず、呼吸も次第に苦しくなってきたと思ったら、ぎゃーぎゃーと騒いでいたあいつが急に石にされて引きづり込まれたのだから、動揺する他ない。
だが、それも一瞬の出来事だった。元々息苦しい場所だと言うのに更に気分が悪くなるなんて、流石に今回は運が無かったと自覚出来る。
「とはいえ、あいつはやっぱり出てくるのが早すぎたね。さっさと帰るか」
そう言って、森の中へと進もうと振り返る。
「
刹那、ダルイゼンの目先に誰かが歩み寄ってくる。トン、トンという足音と共にやがて姿が見えてきたと思えば、一人の女性……いや、少女がそこにいた。冷たい声音であったのだが、周りにいるのは彼女一人だけだ。
髪色はキュアアースに似た紫髪であるのだが、少女の髪型とは程遠いセミロング。黒いローブを羽織っており、その下には露出度がやや高めの軽装の鎧を纏っているという服装。フードを深く被っているので目元は良く見えないが、全体的な外観としては如何にも可憐な少女と言わんばかりの顔立ち。そんな彼女の口元にはそれなりの量の血が付着しているが、左手に持つ二つの真っ赤に血塗られた肉の塊を口に入れたことで察する。
「もしかして、あれやったのお前────ぐはあっ!?」
噛み砕き、そして飲み込む仕草を見せる少女を、ダルイゼンは睨み付けながら問おうとする。
瞬間、いつしか右手に持っていた大鎌を振るって彼の胸部を切り裂いた。
「質問を質問で返すな愚か者。だがまあ、奴は我が食ってやったわ。騒がしさで叩き起こされた上に、少し腹も減ってしまったのでな。腐るほど不味かったが、多少の供給にはなっただろう」
口元に付着した血を舌で舐め取りながら、そう答える。最初の冷たい声とは裏腹に、何か得をしたように無邪気に、或いは狂気的に声を弾ませていた。
────妙な緊張感が走る。何故、俺はこんな気分になっているんだ。
胸部に刻まれた切り傷の痛みに耐えながら、しばらく警戒する。
その直後、少女は「ふあぁ……」と気の抜けた声を漏らしていた。
「……満腹のせいで眠くなってきたな。さて我はもう寝る」
「は?」
素っ頓狂な声を上げるダルイゼンに見向きもせず、手に持っていた大鎌を背負って森の中へと足を運び始めるも何かを思い出したようにすぐに止まった。
「ああ、それと。あまり"我ら"の邪魔はするなよビョーゲンズ。今はその気は失せているにしろ、その時はじっくりと殺してやる。即死ではなく、じっくりとな……」
最後に、悪魔に等しい狂気の笑みを浮かべながらそう告げると、少女は再び歩みを進めて霊体化して姿を消していった。
「……もういいや。とっとと帰ってこの傷を治さないと」
同じくして、ダルイゼンも疲労で溜め息を一つ吐いて呟いた後、この場から姿を消していったのであった。
モデルに関しては大方察してくれていることを願って…!