ヒーリングっど♥プリキュア 〜医神と地球の戦士〜   作:ゆぐゆぐ

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お待たせしました。
リアルが忙しかったのもありますが、毎度の描写に違和感や疑問を感じまくったおかげでめちゃくちゃ時間掛かってしまいました。

という訳で、今回から本格的にオリストが始まります。しばらくのお付き合いよろしくお願いします!


第32節 崩壊

「……は?」

 

 すぐには状況が理解出来なかった。

 森の奥で倒れ込んでいるだけでなく、グレースの変身が解けてのどかの腹部からメガパーツのような禍々しいオーラを放って苦しみに悶えているのだから。

 

「のどか!のどか!しっかりするラビ!」

 

 呆然としている間に、ラビリンはのどかの背中を叩いて体内に潜む何かを追い出そうとする。だが、その行動も虚しくそれが消えていくことはなかった。

 

「無駄だよ。いつ出て来るかはメガパーツとの相性次第。自分の意思じゃ取り出せない。ヒーリングアニマルに出来ることは、せいぜい心配することぐらい────っ!?」

 

「お前、のどかに何した……!?」

 

 ────状況を把握するより早く身体が反応する。

 

 キュアラピウスへと変身した直後、即座に鼻を鳴らして嘲笑うダルイゼンの首根っこを掴んで木々に叩きつける。徐々に乱れていく呼吸を、息を飲んで抑えながらただ一つを問い質す。対して、相手は呆れた表情で答えた。

 

「お前には関係ないことだよ。まあ、あいつと同じ目に遭いたいって言うなら話は────」

 

「何したんだって聞いてるんだ!」

 

 段々と首を絞める力が強くなる。流石の相手も余裕ではいられなくなっていた。

 こいつはここで絶対に仕留める。逃しはしないと、殺意が溢れかえる思いで自身の武器である杖の先端をダルイゼンに向ける。

 

「「「のどか!」」」

 

「お前達……!」

 

 その時、遅れて変身したキュアフォンテーヌ、キュアスパークル、キュアアースがのどかの元へと駆けつける。恐らく、すぐさま森の奥へと探しに行った僕達にアスミは疑問に思って皆を呼び寄せたのだろう。三人ののどかを呼ぶ声で、僕は思わずそっちに気を逸らす。

 

「キュアグレースに……メガパーツを入れてやったのさ!」

 

「っ!?」

 

 気を逸らしたことで首を絞める力が弱まり、その隙を狙ってダルイゼンは片手に気弾を溜めて僕の腹部に撃つ。至近距離でそれを放ったことで、とてつもない威力が一瞬にして全身に伝わる。そこからもまた一瞬で後ろの木へと吹っ飛ばされ、後頭部と背中を強打する。

 

「大丈夫ですか、ラピウス」

 

 アースが冷静に此方の安否を確認する中で、フォンテーヌとスパークルはダルイゼンの言葉に困惑していた。

 

「メガパーツを……って、何で!?意味分かんないし!」

 

「どうしてそんなことを!?」

 

「そこまでは教えられないな。でもまあ、それは後のお楽しみって事で。じゃあ頑張ってよ、キュアグレース」

 

 プリキュア側が有利だと察して流石に分が悪いと思ったのだろうか。だが、それでも不敵に笑みを浮かべて見せたダルイゼンはこの場から姿を消していった。

 

「のどか!しっかりするラビ!」

 

 それから何度も、何度もラビリンが大声で呼び起こそうとするが、のどかは苦しむ表情を続けたまま起き上がることが出来ないでいた。

 

「……っ」

 

 その光景が何処か、過去の自分と重なって見えた。交通事故に遭った裕也に幾度も声を掛ける、あの時の自分のようだった。

 同様に、のどかも死ぬかもしれないと一瞬でも思った途端、心臓の鼓動ひとつひとつが全身を揺れ動かす程に強く波打つ。息を飲んで抑えていた呼吸も乱れる上、全身が強張る。恐怖感が土砂崩れのように押し寄せて来るような感覚に陥っていた。

 

「……急いで病院に連れて行かないと。親御さんの元へ送るぞ」

 

 だが、だからといってここで立ち止まっている訳には行かない。無理矢理息を飲んでふらふらと身体を起こし、強打した後頭部を手で抑えながら、僕は掠れた声で言う。四人の中で一番のどかの近くにいたちゆは動揺を隠せない中でも此方の言葉を受け入れ、苦しんでいる彼女を背に乗せて急いで森を抜け出す。ひなたもその後に続いていく。

 

「飛鳥、大丈夫ですか?凄く汗をかいていますが……」

 

「……僕のことは良いから、今はのどかの心配をしろ」

 

 どうやら猛烈に嫌な汗をかいていたことにも気付かないくらい、動揺しているようだ。それをアスミが指摘してくれたが、当人の容態の心配について指摘し返して同じようにアスミも僕も後に続いていった。

 

 

 

 

 

「みんなありがとう。とにかくのどかは病院に連れて行くから」

 

「アスミとラテは、うちに泊まってもらうのでご心配なく」

 

「お二人はのどかのそばについていてあげてください」

 

「ありがとう……」

 

 ようやく森を抜け、のどかのご家族と一緒に探していたらしい母さんの姿を発見するとこれまでのことを説明する。流石に彼女の体内にメガパーツが埋め込まれているなんてことは言えないので、森の中を歩いていたら急に苦しそうに倒れてしまったと上手く誤魔化すように話した。

 

「どうか、再発じゃありませんように……」

 

「再発って、もしかして……!」

 

 母さんが真剣な眼差しで尋ねる。看護婦の仕事をしているだけあって、医療関係のことになると気持ちが切り替わっていた。

 

「前の原因不明の病気の時と様子が似ているんです。私達はただ見守ることしか出来ませんでした……」

 

「今でもどうして治ったのか分からないんです。もう、あんなのは二度とゴメンだ……」

 

 そう言って、一同はしばらく車に乗せたのどかを見つめる。

 

「……私も同行します。飛鳥、先に皆と帰ってて」

 

「あ、分かった……」

 

 呆然としていたおかげで、母さんの言葉に我に返ったように声を1オクターヴ上げて答える。ご両親からも了承を得て、母さんは車の後ろの席……のどかの隣に乗る。すぐに走らせて帰って行くのを、僕達はその場で姿が見えなくなるまで見送った。

 

「ねえ、メガパーツのせいって言わなくて良かったのかな」

 

「得体の知れない怪物のせいって聞いたら、余計心配するペエ」

 

「それに、治せる訳じゃないからな……」

 

「あ、そっか……」

 

 そう言うヒーリングアニマル達に、ひなたは納得する。

 その一方で、僕は顔を俯かせながらある事を考え、それを彼らに質問する。

 

「なあ……のどかが前に掛かっていた病気も、それが原因だったりするのか?」

 

「明言は出来ないけど、可能性はあるよね」

 

「テアティーヌ様が元気だった頃も、メガビョーゲンを全て浄化出来たわけじゃなかったからな……」

 

「そうなのですか?」

 

 前例があったことを加えて、そう説明していた。

 彼らが言うには、メガビョーゲンの初期段階で浄化出来ないまま育った場合、進化する個体も時々いるそうだ。キングビョーゲンやビョーゲンズの幹部といった知性を持った奴らが良い例だという。

 

「うえぇ!?あいつら元々メガビョーゲンなの!?何がどうなってああなっちゃうわけ!?」

 

「ひなた、し~っ!」

 

 騒ぎ立てるひなたの口を、ニャトランは両手で覆って塞ぐ。幸いにも人気のない場所だったので良かったものの、場所が悪ければ一大事になっていただろう。

 

「でも、その辺りはまだ僕達も分からないペエ」

 

「まあそうだろうね。それにキロンのような姿形がビョーゲンズとは思えない奴もいれば、この前襲い掛かってきた奴のような謎の第三勢力みたいなのも出てきちゃったし。その辺も考えて、現状だと色々と未知数なことだらけだ」

 

「もう何~!?分かんないことだらけじゃん!のどかっちだってどうなっちゃうか分かんないし~!」

 

 ビョーゲンズの真相も謎に多く包まれているが、キロンもキロンで不可解な点が多い。確かに、アースのヒーリングハリケーンを喰らう瞬間をしっかりとこの目で見てはいたのだが、どうにも奴があれで浄化されたとは思えない。アース自身も作り笑いのような表情をしていたし、本当に浄化出来たとは思ってもいなさそうではあった。

 

 また、大鎌を持つ少女も非常に気になるところだ。突然過ぎる乱入で彼女が何を企んでいるのか、その正体も何も分かっていない。その点も今後の為に探らなければならないだろう。以上の事柄を並べてみると、プリキュアの戦いはまだ序章に過ぎないのではないかと思ってしまう。

 

 ────もし、のどかの体調が戻らなかったら。

 

 想像もしたくない思いを心に潜めた僕はひなた達と一度帰路につき、明日のどかに会いに行くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先生……どうか、のどかをよろしくお願いします!』

 

『はい。我々は引き続き、原因の特定に尽力します』

 

『のどか……お父さん達がついてるからな!』

 

 結構前に、真っ白な視界の中でお父さんやお母さん、そして飛鳥くんのお父さんの声が時折聞こえてきていた。会話の全てを耳にしたわけではなく途切れ途切れに会話が聞こえてきたんだけど、それを聞きながら最後の出来事を思い出していた。

 

 確か、ひなたちゃんが作ってくれたパンケーキを食べてる時に森の中から突然聞こえてきたカラスの声が不可解に思って、ラビリンと一緒にその中に入って行った。すると、そこにはメガパーツを持ったダルイゼンがいて、それを止めようとプリキュアに変身した。その後、彼が何か呟いたと同時に持ってたメガパーツを私の中に入れられて……駄目だ、そこからが思い出せない。

 でも、その後のことは分からないのに何処か理解していた。どうして私は今こんな状況に陥っているのか、そしてお父さん達の会話を照らし合わせて────1つの答えに辿り着いた。

 

 

 

 

 

 そっか……私、また苦しかったあの頃に戻っちゃったんだ。

 

 

 

 

 

「……のどか、ごめんラビ」

 

 突然、悲しそうな声が脳内に響き渡る。家族や病院の先生の声じゃない。でも、物凄く聞き覚えのある────ラビリンの声だ。

 

「ラビリンはヒーリングアニマルなのに、どうしたら良いか分かんないラビ。何もしてあげられないラビ。巻き込んでごめんラビ……!ラビリンがのどかをパートナーに選んだから……!」

 

「……ラビ、リン」

 

 ゆっくりと瞼を開けて、その名を呼ぶ。頭を声の主へと傾けると、そこには耳を垂らして溢れる涙を必死に拭うラビリンの姿があった。そして、目を覚ました私に気付いたラビリンは目を見開いて寄り添った。

 

「のどか……!」

 

「泣かないで、大丈夫だから……」

 

 器用に手を動かしづらくなっているが、それでも指でラビリンの零す涙を拭って笑顔を作って見せる。元気を出して貰う為に、少しでも安心させたかったのだ。

 

「失礼、します」

 

 すると、コンコンとノックする音がした直後に弱々しい声と共に扉の開く音が聞こえてくる。ラビリンがすぐにベッドの下に隠れる一方で、その主はゆっくりと音を立てないように歩き、近くの丸椅子に腰を降ろした。

 

「飛鳥くん……」

 

「……起きてたのか」

 

 無理しないで寝とけ、と飛鳥くんは此方の顔を見て言う。その表情から僅かな安心感が感じ取れた。

 

「違うラビ。ラビリンが起こしちゃったからラビ。ごめんなさいラビ……」

 

「ううん、ラビリンは悪くないよ。逆に今目を覚ましてる方が良いと思ったくらいだから……」

 

「そうか……」

 

 それから一先ずの沈黙が続く。明るい窓の外から聞こえる自然な音だけの静寂な時間が流れていく中、飛鳥くんは丸椅子を此方と距離を詰めて再び座り直す。

 

「……お前が苦しんでる姿を見た時、またあの頃みたいになるんじゃないかと思って。正直、恐怖で混乱してた」

 

 その出来事について私は知っている。以前、彼が話してくれたからだ。

 

「もう3、4年も前のことだが、傷は癒えてないし癒える事なんてないだろうな。それ位とにかく辛くて、悔しかった」

 

 "悔しい"

 どうにかして助かって欲しいと試行錯誤したのに、医師から助からないと宣告されたことによる気持ちだろう。

 

 その話を聞いた時、何も言葉が出なかった。家族と喧嘩したこともない私には到底信じられなかったのだ。入院していた頃はずっと両親が気にかけてくれて、私にとってお父さんやお母さんはかけがえのない存在だと思っていたし、誰しもが持つ思想だと思っていた。

 でも、飛鳥くんはそうではなかった。寧ろ恨みの感情を持っていたことに、ただ1つの言葉も見つからなかった。

 

「────っ」

 

 特に理由はない。何となく、顔を俯かせながら小刻みに震えさせている彼の手をそっと握る。冷えた手を包むようにぎゅっと握ると、身体をびくっと震わせていた。

 

「ごめんね、心配掛けちゃったね。でも大丈夫だよ。今はちょっと辛いけど、またすぐに良くなるから……」

 

 元気出して、と笑みを作る私の目を彼は唇を噛みしめながら逸らす。だがそれも一瞬の出来事で、すぐに再度目を細めて此方の瞳を覗く。

 

「……患者に慰められるとか、情けないな────」

 

「のどかちゃん、起きてますか~?」

 

 その時、聞き覚えのある声と共に扉が開き始める。

 

「って、何で飛鳥がいるの!?」

 

 この病院の看護婦である照美さんであったのだが、飛鳥くんの方へ視線を送るなり驚きの表情で声を上げていた。それに続いて先生も病室に入り、照美さんの言葉に反応するように同じく視線を向ける。対して、握られていた私の手をそっとベッドに戻し、両親に視線を合わせないようにしていた。

 

「今は面会の時間ではないはずだが」

 

「……面会の時間じゃなかったら、ここにいちゃいけないんですか?」

 

「駄目に決まっているだろう。お前の軽率な行動でのどかさんの容態が悪化するかもしれないと、お前なら理解出来るはずだ」

 

「いいえ分かりません。ほんの数分で悪化するんですか彼女の病気は。だとしたらこの部屋の扉を封鎖するなり対策するべきなんじゃないですか?軽率なのはそっちの方だろ」

 

 二人の圧のおかげで、思わずこの場の空気に圧倒されてしまっていた。特に、飛鳥くんが家族に敬語で話していることが衝撃的であった。家族とは仲睦まじい関係であると思っていたのだが、まるで他人のように接しているようにも見える。照美さんとは普通に接しているのに対して、それ程お父さんに敵対しているということなのだろうか。

 

「ま、まあまあ!のどかちゃんが心配だったんだもんね!大丈夫だよ、私達で治して見せるから……!」

 

 照美さんがそう言って二人を宥めるも、反応は今一つのようだ。互いに睨み合って一言も発さなくなった静寂の時間の中で飛鳥くんがハァ、と溜息をつくと深く頭を下げ始めた。

 

「……申し訳ありませんでした。今後このようなことが起こらないようにします」

 

 頭を上げてすぐにこの場から立ち去ろうとする。そんな彼を見て、私は苦しい気分に見舞われながらも何処かもどかしい気持ちが込み上げていた。

 無断で病室に入ってきたことは気にしていない。寧ろ、そこまで心配してくれたことが嬉しいし、逆に申し訳なくも思う。ただ、しばらく起こらないであろう衝突でどうか少しだけでも良いから話し合って欲しいと思った。上手く行けば、仲を取り戻して欲しいと思った。

 以前、飛鳥くんから"人様の事情に他人が首を突っ込むのは良くない"と言われたことがある。何度か失敗を繰り返したこともあったので、確かにそうなのかもしれない。でも、だからと言って二人の仲が戻らないままなのって凄く悲しいよ。彼の過去の話を聞いてから少しでも彼の力になりたいと思ったのだ。もどかしい気持ちが込み上げてくるのって、それが理由なのかな。

 

「あの────」

 

 苦しいけど頑張って声を掛けてみようとした時、飛鳥くんとのすれ違いざまに先生が突如呟く。

 

「飛鳥、お前は私に"私を超える医師になる"と言ったな」

 

「はい。今も昔もその夢は変わっていませんが、それが何か……」

 

「……くだらん夢だ」

 

「は?」

 

「ちょっ……!」

 

 勢いそのままに父の方へ振り向き、怒りの感情を露わにしながら握りこぶしを作る。

 それを照美さんは止めるよう促すが、先生は言葉を続ける。

 

「お前の夢はちっぽけなものでしかない。それが叶ったところで、結局は空っぽなだけだぞ」

 

「……何が言いたいんだ」

 

「すぐに諦めなさい。医師などお前には向いていないと言って────っ!?」

 

 全てを言い切る前に飛鳥くんは父に接近し、その拳で殴り飛ばした。

 壁に打ち付けられたことによる轟音は、病室どころか廊下にまで響いただろう。後頭部を抑えて起き上がろうとする先生を、腕で首を抑えて押し付ける。

 

「さっきからふざけたことを言いたいように言いやがって!大体な、あんたが裕也を見捨ててなければこんなことにはならなかったんだよ!!」

 

「飛……やめ……!」

 

 必死に抵抗する先生だが、逃がすまいと徐々に力を入れていく。

 

「止めて、飛鳥……」

 

「その上、くだらない夢でしかないから諦めろって心底最低な親だな」

 

「止めなさい……!」

 

「……いっそ、お前が死ねば良かった────」

 

「飛鳥!!!」

 

 二つ目の轟音が響き渡る。

 いつも温和な照美さんが飛鳥くんの肩を引っ張って自身に振り向かせ、パチンと頬を叩いた音だ。飛鳥くんと先生、両者とも突然の彼女の行動に驚き戸惑っていた。

 

「……っ」

 

 そんな彼女の表情を見て、私は目を見開く。

 彼の名を呼んだ声は怒りを露わにした怒号であったはずが、いつしか悲しみの感情へと変わって何も言わずに零れ落ちそうな涙を堪えている。

 

「……ごめん、母さん」

 

「飛鳥くん……!」

 

 対して、飛鳥くんは紅く染まった左頬を抑えながらその一言だけを言い残して病室を後にするのを、私は呼び止めようとする。しかし、それも虚しく段々と足音が速くなって遠ざかっていくのを耳にすることしか出来なかった。

 

「折矢も折矢じゃん!あそこまで言う必要なかったでしょ!?」

 

 照美さんの次の矛先は先生────折矢さんへと変わり、先程の発言に対して不満を漏らしていた。対して、折矢さんは何も答えずに天井を見上げ、首を抑えつけられたことによって乱れた呼吸を整えている。

 

「……少し頭を冷やさせてもらう」

 

 飛鳥くんの後に続いて、折矢さんも頭を抱えながら早足になってこの場を後にして行った。

 結局、この病室にいるのは私と照美さんだけとなり、疲れたような表情で壁に背中を預けるのを目で追う。時計の針の音だけが聞こえる空間の中で、時間だけが過ぎていくのを感じ取っていた。

 

「失礼します!」

 

「今飛鳥や病院の先生とすれ違ったんだけど、どうしたの!?」

 

「しかも廊下に凄い音鳴ってたし……」

 

 すると、僅かに聞こえていた駆け足の音が段々と大きくなり、やがてその正体が病室へと入ってくる。アスミちゃんとひなたちゃん、ちゆちゃん達であった。

 

「……ごめんね、騒がせちゃって。のどかちゃんも怖かったよね?」

 

 あはは、と照美さんの口から乾いた笑いが零れるも病室内で親子喧嘩の騒動を起こしてしまったことに謝罪する。アスミちゃん達が現れてからは、いつもの温和な彼女へと戻っていた。でも、やっぱり何処か哀しんでいる。空元気なのがすぐに伝わった。

 

「はい、少しだけ……」

 

 そんな中で、私は本心を答える。流石にあの光景を一人で見て大丈夫だなんて言えなかった。

 

 折角のチャンスが……希望が絶望に叩き落された感覚────神医家の家族関係が、完全に崩壊したような感覚が伝わってきた。

 

 

 

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