ヒーリングっど♥プリキュア 〜医神と地球の戦士〜 作:ゆぐゆぐ
「そんなことがあったんですか……」
照美さんはこれまでの事情をちゆちゃんやひなたちゃん、アスミちゃんに話した。他人に迷惑を掛けたくないからと今まで隠してきたが、『あんな光景見せちゃったら、もはや隠す方が迷惑だよね』と悟ったからだそうだ。よって、飛鳥くんの過去や親子の仲違いまで洗いざらい話していた。
「なんか……あたし達ってあっくんのこと知ってるようで全然知らなかったんだなって」
同感である。彼の口からその話を聞いたにも関わらず、まるで初めて聞いたかのような感覚だった。同じように、彼のことを知った気になっていたと思わされた。それ程、あの親子喧嘩は想像を絶するものだったのだ。
「話を聞いた限り、この件ってどっちも悪くないと思うんです。不幸が重なった事故というか……」
「うん、ちゆちゃん正解。だからこそ、どうすれば良いのか考えるほど分からなくなって、パニクっちゃって。情けないよね、患者であるのどかちゃんに迷惑掛けるなんて……」
そう言って照美さんは身体を小刻みに震えさせながら、膝の上で拳をぎゅっと握りしめる。
対して、そんなことは何一つ思っていない、と私は必死に首を横に振る。
「ですが、どうしてお二人は仲直りをしようとしないのでしょう?仲を戻したくないのでしょうか?」
「戻したいとは思ってると思うよ。でも、自分からは話そうとはしない。お互いに頑固者だからね」
とはいえ、先生も初めからああいった性格だったわけではない。患者にも優しく接する明るい性格の持ち主だったそうだ。
事故当時、院長として責任を重ねられる立場になり立てで、相応のプライドを持たなければならないと思うようになった。しかし、それが裏目に出てしまったことで取り返しのつかないことになり、飛鳥くんとの関係は崩れていっているという。
「全く、一体何処で歯車が狂っちゃったんだか……」
あはは、と乾ききった笑みを溢す。
事情を初めて聞いた時、本当に何も言葉が出なくて味わったこともない感情に陥っていた。でも、彼の何処となく悲しい表情を見て、どうにかして話し合える場を作ってあげたいと思ったし、何より彼を助けたいと思った。永遠の大樹で誓った時や彼が暴走状態になっていた時も、支えたり励ましたりして自分なりに頑張って手助けしようとした。しかし、私の考えは安直で、実際は思うようにいくほど甘くはなかった。結局、二人の関係は変わらないどころか悪化してしまった。
でも、諦めるなんて思いは何一つ浮かばなかった。
「くっ、うぅ……!」
「「のどか!?」」
身体を起こして立ち上がろうとするも、体内に潜むメガパーツが邪魔をする。突然襲い掛かる苦しみに結局はベッドで身体を縮こませる。
「のどかちゃん、無理しないで」
「大丈夫、です。それより、飛鳥くんを追いかけなきゃ……」
「追いかけるって、何処に行ったかも分からないし。それに、めっちゃ苦しそうにしてるじゃん」
「うん。凄く苦しい……でも、飛鳥くんの方が今凄く苦しいと思う」
去り際の彼の表情を思い出して、もう一度身体を起こそうとする。
「私の病気はまたすぐに治るよ。前もそうだったもん。だけど飛鳥くんの心に残った傷は、このままだとずっと治らないかもしれないんだよ……?そんなの嫌だよ!」
『安心しろ』『気にしなくていい』なんて気を遣っていたが、絶対そんなことは思っていない。あの時私に話したのは、きっと『助けて欲しい』って意思表示だったのだろう。逆に、大したことなかったら誰かに話さないはずだ。
どうして私は本心に気付かなかったのだろうか。でも、今なら分かる!
「だから、何が何でも探しに行きます。だって、友達だから……!」
「っ!」
照美さんは目を見開き、しばらく私の瞳の奥を見つめる。感情的になっていたので感覚を掴めてはいないのだが、もしかしたら少量の涙を流しているのかもしれない。
だがその時、事態は起こる。
「うあぁ……っ!?」
体内から光が溢れ出す。
突然の現象に私も皆も困惑しながらも、その光の放出をメガパーツが拒否しているのだろうか、苦しい気分が迸る。以前はこんなこと一度もなかったのに。
「え、どうしたの?何でのどかっち光ってるの!?」
「のどか!」
「何か小っちゃいの出てきたんだけど!?」
そこに、ベッドの下に隠れていたラビリンが私の元に飛び出してくる。良く見ると、ラビリンの肉球からも同じ光が放たれていた。
「「(不味い……))」」
さて、ひなたが照美さんと同じように混乱している中、私とアスミはもう一つ対処しなければならないことがあると悟る。何せ、看護婦であっても一般人である人がこの場に混じっているのだ。のどかのことも非常に心配だが、まずはどうにかして彼女を誤魔化さないといけない。
「ご容赦を」
「え、あの、どうしたのアスミちゃ────ん」
「……えっ」
やがてその方法が決まったかと思えば、アスミが照美さんの背後に回ってとんでもない荒技で誤魔化した。
その名も『手刀』である。指を真っ直ぐに伸ばしてその股を閉じ、手を横にして相手の首元に撃つ。空手で良く使われている拳法なのだが、アスミはやってみせたのだ。気絶して倒れ込む彼女を抱えて、壁の方へと座らせる。
もう少しマシな対処法はなかったのかと問いたかったが、他に今この状況で瞬時に行えることがあったかと訊かれると──確かにない。目を覚ました時にすぐに謝罪しなければ。
「どうしたラビリン!」
「何があったペエ!?」
「分からないラビ!急に肉球が光り始めて……!」
「ワン!」
「ラテ、何かお考えが?」
ラビリン達にもこの現象に見覚えがない中で、ラテが声を上げる。アスミちゃんは何かを訴えているのではないかと悟り、ラテに聴診器を当ててみた。
『のどかの中で、ビョーゲンズが苦しんでるラテ』
「もしかして!」
「プリキュアの力が作用して、のどかの身体からメガパーツを追い出そうとしてるのかもペエ!」
やはりそういうことだったのか。
感情的になってて感覚がなかったのは一度体内のメガパーツを追い出しかけていたから。ならば、私とラビリンの力を合わせて完全に追い出せばいい。
「いける。いけるよ、のどかっち!」
「のどか、頑張って!」
「ラビリンも頑張ってください!」
ラビリンと一緒に両手を強く握る。もう少し、あともう少しだ……!
「悪い悪いメガパーツ……!のどかの身体から……!」
悪いメガパーツ、私の身体から……
「出てってラビ!」
「出てって!」
瞬間、光が全身を包み込む。
同時に、禍々しい靄────ビョーゲンズが体外に姿を現すと、窓の外へと飛び出して行った。
「今の何!?」
「もしかしてメガパーツか!?」
「のどかは大丈夫ラビ!?何ともないラビ!?」
次々と異常事態が連なったことで、皆が心配した様子で私の容態を確認する。
今の私は────ずっと背負われたものが何もなかったかのようにスッキリしていて、苦しさはいつの間にか消えていた。思わず、顔や身体のあちこちを触れてみる。やはり、何ともない。
「うん、大丈夫……生きてるって感じ!」
「のどかぁ……!」
ラビリンは泣きじゃくりながら、私と喜びを分かち合う。取り敢えず元気になってホッとしているけど、まだまだ安心するには早い。
「皆、急いで追いましょう」
「私も行く!」
そう言って、座り込んで気を失っている照美さんの前へと寄り添う。
「必ず、飛鳥くんを見つけ出して見せます」
絶対に、ビョーゲンズを浄化して見せる。
絶対に、飛鳥くんを助ける……!
私達は、急いで病院の外へと駆け出して行った。
────
知らない間に離れた公園に着いた途端、足がパンパンに腫れた感覚が伝わる。
ずっと走っていたわけではない。駆け出したくなる気分なんて湧かなかった。だがその分、ずっと早歩きで移動していた。
とはいえ、それも次第にどうでも良くなる。今はただ目的も無しに何処かへほっつき歩いていきたい気分。それ程、僕の気持ちは落ちぶれてしまっているのだ。
「……何か喋ってみろよ」
唐突に小声で呟く。公園には休日という事もあってそれなりに人が集まっているのだが、付近に知人と見られる人物は見られない。だが、その声と共に背後から大きな物体が浮遊してくる。
「あんなの見せられたんだよ?いつも通りに振る舞えれる訳ないじゃないか」
「……地味に変わったな。『パートナーが死んでも腹抱えて見過ごす』なんて言ったのは何処のどいつだったっけか」
「一種の煽りだけどね、あれ」
とは言うけれど、出会った頃よりも変わっているのは事実だ。当時はこの世界にやってきたと思えば、すぐに元の世界へと帰って行っていた。しかし、キュアラピウスに異常発生が起こった時には戻ってくるどころか執着心がとても強くなっていた。奴の本心は謎に包まれたままだが、今では割と役に立つ存在と言えるだろう。
「それに比べて、僕は何も変わっていなかったわけだ。誰かを傷つけ、悲しませているのは今も昔も変わらない。むしろ、医師の夢を決意してからはずっと続いたままだって今気付いた」
あの一件の直後も今まで仲良くしていた友達との縁を切ったし、今回ものどか達だけじゃなくずっと支えてくれた母さんまでをも突き飛ばしてしまった。夢という"呪い"に縛られていると気付いた時にはもう手遅れで、いつしか周りに誰もいなくなっていた。
そんな僕に、ポポロンは励ましの言葉なんて効かないと悟ったのだろうか何も言葉を発さなくなった。正解である。歩く足も段々重くなってきたおかげで、あまり音や声が耳に通らなくなってきた。
「憎悪、恐怖、憤怒、殺意、絶望────」
すると突然、ポポロンの声でもない第三者の言葉が強く耳に入ってくる。振り向いたその先には、ベンチの上に立つ黒のローブを羽織った少女。以前、ポポロン達に襲い掛かったあの大鎌を持った少女であった。
「お前……」
「
口角を上げ、不敵に笑みを溢す少女はベンチから降りて此方に近づくと、突然手を差し伸べてくる。
「……何を言っているのか理解出来ないな」
「我の元に来いと言っている。なに、すぐに喰うつもりはないぞ。絶品は後に取っておくことにする。その代わり、貴様の望みを叶えてやろう」
貴様の為の提案だ、とまた一歩近づく。
対して、僕は一歩後退って警戒心を強めるた後、すぐに自身の武器である杖を投影して手に取る。
「断る。自分の望みを誰かに渡すつもりはない」
当然、"否定"の意思を示して見せる。いやむしろ、こいつを早急に仕留めなければという思いの方が強い。人が集まるこの公園での変身はリスクが大きいが、メガビョーゲンみたいな巨体ではなく幼い体型をしている奴が相手ではやむを得ない。
「絡み合う二つの毒、キュアラピウス」
「さあ、オペを始めようか」
いつもよりも早く変身を遂げ、少女の前に立ち塞がる。この場にいた人達は何事かと困惑していたが、それに対して相手は交渉が決裂したことに不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「嗚呼、道理で……だが、その方が殺しがいがあるというものよ」
だがその表情もすぐに上機嫌へと戻ると此方と同じように右手を後ろに回し、背負っていた大鎌を取る。禍々しい色彩の武器に巻かれていた鎖を解き、此方を見つめる人達に向けて大雑把に振り回す。
「「「きゃああああ!!!」」」
遊具が、ベンチが真っ二つに斬り裂かれたことに人々は恐怖と混乱で逃げ惑い、一目散に逃げていく。その様を見た少女はハア、と溜息を1つ吐く。
「下等種なのは相変わらずだな。威勢のいい癖してこういう場面だと途端に弱々しくなる。まるで低能な猿以下のようでほとほと呆れるわ。貴様もそう思うであろう?」
「どうでも良いし、だったらそんな奴らに構うのは止めた方が良いぞ。口だけが達者のガキに見えて来る」
「────クク、そう焦らずとも……早急に嬲り殺しにしてやる!」
ほんの少しの挑発をしたつもりなのだが、思っていたよりも怒りの沸点が低いらしい。呆れているのは相手よりも下らない戯言を聞かされた僕の方だと思う。
相手は武器を強く握って急接近する。その瞬発力は凄まじいものだが、此方にもその対抗策は存在する。二匹の白蛇を挟み撃ちにするように召喚し、相手に襲い掛かる。
「遅い!」
だが、幾度となく接近を止めようにも難なく回避する。小柄な体型なりに蛇の身体の隙間を潜って通り越していた。そして蛇の頭上へと回り込んだ瞬間、大鎌で全身ごと回転させて二匹の身体を同時に斬撃を入れる。身体を真っ二つにされた二匹は蜃気楼となって消滅していき、少女は再び此方に接近する。
『ぷにシールド!』
全くもって隙が見当たらず、更には攻撃を繰り出す暇も与えてくれない。間髪入れずに武器を振り回す相手に翻弄されているおかげでポポロンのぷにシールドで防御する以外の対処がなかった。
「なんか前よりも強くなってる気がするんだけど!?」
「ぉらぁっ……!」
それでも、次の一斬りを強引に弾いて突き飛ばしてみせる。相手との距離が離れた間に再度蛇を数体召喚して動きを封じようと試みる。
「っ!」
だが、突き飛ばされて着地した瞬間に地面に触れた足をすぐさま踏み込む。そこからは猪突猛進の如く此方に迫ると、今度は武器を地面に突き刺した後、武器に付属されている鎖を左手で掴み、右手で拳を作って打撃を与えに来る。それまでの行動時間はおよそ一秒と言ってもいい。目にも止まらぬ速さで拳は僕の腹部に命中、更に跳び上がって顔面を殴り飛ばす。
「速……」
衝撃で身体を大きく吹き飛ばされ、空中ですぐに体勢を立て直そうとする。しかし、それすらも許さんと鎖を利用して背後に先回りされ、背中に中段蹴りを入れられる。
その指は鉄。その髪は檻。その囁きは甘き毒────。
『ぷにシールド!』
何かを詠唱しながら、鎖によって地面に引き戻された少女は地面に刺さる大鎌を手に取り、あちこち飛ばされる僕に接近して斬撃を繰り出す。クロスを描くように舞う刃は、ポポロンの迅速な反応でシールドを展開したことによって威力を半減させた。だが、シールドに深く傷を刻まれたことでパリンと音を立てて無残にも破壊されてしまう。対して、少女は後ろへ後退ると被っていたフードを脱いで髪をだらんと垂らす。
その姿を見て、地上に着地した瞬間にクロスボウを取り出す。広範囲に渡る大技を仕掛けようとしているのは想定内である。ならば、それが発動する前にぶっ放してしまえば良い。この一矢に賭けるのみだ。
「堕ちろキュアラピウス……!」
『女神の抱擁』
『
少女の両眼から放たれた紫の光線と、此方の光輝く閃光の一矢が激しくぶつかり合う。
だが、この戦いは勝機を感じていた。僕が放った渾身の矢は如何なる障害物も乗り越え、必ず敵の急所に命中する百発百中のもの。それがどれほど頑丈だろうと、どれほど威力があろうと関係ない。敵の弱点へと突き進むのみである。
「……っ!?」
激しい鍔迫り合いの末、矢は波動を空間ごと2つに裂いて一直線に進んでいく。以前、相手が光線を斬り裂いたのと同じように貫通させている。やがて少女の目の前へと近づき、右胸を貫いていった。
「くっ……!」
2つに裂かれた光線は衝撃波となって掻き消されていく。その煽りを受けて吹っ飛ばされ、行く先は公園の側にある森の奥。枝や葉っぱが大量に落ちていくこの森の中で地面に着地し、多少よろけたものの体勢を立て直す。
さて、急所を貫く矢は見事に命中した。少なくとも瀕死状態にあることは間違いない────。
「ん……?」
その時、踵に何かが触れたのを感じて後ろを振り向く。するとそこには、一人の若い女性がうつ伏せになって倒れていた。
「目立った外傷もないし、何でこんなところで倒れている。気を失ってるだけか?」
「────いや、この人もう死んでる」
「は?」
「中身が空っぽなんだよ。顔を真っ青にしてるだろ?恐らく、血が全然足りないせいで流れなくなったんじゃないかな。死後30分辺りってところか」
「……まさか」
「あの子が生命力を吸い取ったんだろうね。道理で前より強いと思った────危ない!」
咄嗟の大声に上手く反応出来ず、思わず慌てて顔を腕で伏せる。
「────っ!」
刹那、黒い何かが頭上を通り越し、側にある木に穴を開けた。
「ひぇっ、変なのが腕にグサッて刺さった……!」
それは釘に似ているけど、釘というにはあまりにも鉄塊過ぎる。極細ではあるが、もはや短剣とも呼べる物体が僕の右腕を貫通していた。
「ああそうだ。そいつは我が喰らった。随分と騒がしい奴だったので引きずり込んでやったわ」
「なっ……!?」
その声と共に、段々と此方に迫る足音が大きくなる。やがて姿を現したのは、身体を矢で貫かれたはずの少女であった。右胸に出来ていたであろう深い傷も何事もなかったかのように癒えており、顔に付着した血液も舌でなめずるなど余裕の表情を露わになった素顔から明らかにしていた。
「ふっ、我の宝具で本来狙う位置とズレたようだな。そこから流れる血は死者を蘇生させる能力を持つ。我はそれで生き返ったのだ。折角の宝具も無意味になってしまって残念だったな」
思わず奥歯を噛む。勝機はあったと感じていたからだ。
とはいえ、ならば次は本格的に狙うのみ。殺すのではなく、消滅させる。此方にはそういった技があるのだから。
魔力を溜め込み、一気に放出しようとする。
「──二度目はないと思っているのだろうが、もう貴様は我の手の上で転がされている」
「何────」
馬鹿げたことを言うな、と言葉を吐き捨てようとした瞬間、突然右腕を無理やり上げられ、身体が後ろに引っ張られていく。
妙に右腕が痛い。ただでさえ短剣が刺さって痛いのに、何かに強引に引っ張られるような感覚があった。
それと同時に、不意に気付いた。
あの少女の大鎌から伸びているはずの、あのジャラジャラとした耳障りな音のする鎖がないことに。
「やば────!」
パートナーも気付いたようだが、もう遅かった。
血まみれの腕は軽々と持ち上げられると、やがて木の枝へと引っ張り上げて僕の身体を宙にぶら下げられてしまう。
「ぐっ、あぁっ……!」
腕から手首までをキツく縛られる。苦痛の声を上げていても、鎖にはその声は届かない。
「……貴様、先程我に何と言ったか覚えていないわけがあるまいな?」
少女が段々と近寄って来る。
対して、宙吊り状態にされているこの状況では、攻撃も防御も回避も全て封じられてしまっている。まるで西部劇の残酷な描写の被害者にされているような感覚に陥っていた。
「"口だけが達者のガキに見える"と言ったな?これは困った、ただ殺すだけでは我の腹の虫は治まり切れない」
大鎌を構えられる。良く見れば、腰には数本の釘が付属されている。
少女はその言葉とは裏腹に、愉快気に再び舌をなめずって軽く地を蹴った。
「我のモノとなれ。貴様は望みを叶える為の逸材だ」
「ラピウスに手出しはさせないっての!」
『ぷにシールド!』
ポポロンが少女の目前に立ちはだかり、盾を展開してシールドアタックを繰り出そうとする。
「……どけ、不愉快だ」
「ぁっ!?」
しかしその直前で、腰に付いた釘数本を取り出して容赦なく投げつける。ポポロンは全てをまともに喰らい、血を噴き出してしまう。
「────っ!」
サポート役が負傷したことで無防備となった僕の額に、武器の刃先が置かれる。
だが、身体はまだ動く。左手なら、自由に動かせる───!
宙吊りにされた状態で、力一杯に振るって見せる。自身が持つ力の全てだ。
それを、相手は読んでいたのか、ひらりと躱して手首を掴んだ。必死に身体を揺らして振りほどこうとするが、無意味だ。
「"完成"するまでは使うことはないと思っていたのだが、致し方あるまい」
────瞬間、世界が凝固する。
"魔眼"。
今の少女には、そうとも呼べるヒトならざる"眼"を持っていた。
眼球というには異質であり、石英とも取れる灰色の眼。光を宿さない角膜。四角い瞳孔。虹彩は凝固し、眼を閉ざすことを許すことはない。
誰が天性を授けたのだろうか。少女の灰色の眼はそんなことを言いたい程に妙に美しく見えた。
じたばたと、抵抗していた足が凍る。いや、足が灰色へと侵食されているので"石にされている"と言うべきか。同時に、足だけでなく腰、胸、両腕、首と次々に鍵をかけて動きを封じられていく。そうして困惑しているのも束の間、
「────」
ついには喉も口も、目蓋も動かなくなる。苦痛の叫びを上げたくても、もう出来やしない。というより、仮にそれが出来たとしても。すぐ側にいるポポロンが叫び声を上げていたとしても。石と化していく僕には対処しようがない。
───夢、望み。
そんなものに囚われていなかったら、少しでもまともになっていただろうか。
身体は完全に石化したことで、段々と心も硬化していくようだった。何もかもが、どうでも良くなっていった。