ヒーリングっど♥プリキュア 〜医神と地球の戦士〜   作:ゆぐゆぐ

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お待たせしました。
もしかしたらこれが今年最後の更新になるかもしれません。もう1話は更新したいと思っているのですが、中々手元が開かなくて…。まあでも、頑張ります!出来なかったらごめんなさい!


第34節 混ざり合う毒

 のどかの体内から飛び出てきたメガパーツが向かった場所は、ラテによると病院のちょうど裏手にある林の奥だという。

 長い長い林の中を必死に駆け抜け、ようやく追いついたその先にはもう1人のビョーゲンズが木の上で寛いでいた。

 

「早いな、もう出てきたのか。これじゃ、またネブソックみたいな未成熟な奴かもね」

 

「ダルイゼン!」

 

「……ふっ、ちょうど良い。お前達も一緒に見なよ。キュアグレースの体内で育ったメガパーツが一体どんなテラビョーゲンに進化を遂げるのか」

 

 悶えるように、或いはうごめくように変化していく赤い靄一点をこの場にいる全員が見つめる。ダルイゼンも未成熟な奴が生まれるかもしれないと落胆していたにも関わらず、口角を少し上げて感情を表に出していた。

 

 1秒、1秒と時間の針が進むたびに大きな変化(しんか)を遂げていく。やがて終着点へと辿り着いた赤い靄は実体化して姿を現す。

 

「えっ……」

 

「あれって……!」

 

 その姿は、人型。これまで2本足のテラビョーゲンが数多く進化を遂げたが、ヌートリアや小鳥などの動物に擬態化した者ばかりだった。だが、やはりのどかの体内に埋め込んで生み出したこともあって今回は紛れもない"人間"の姿のテラビョーゲンと成り果てている。

 しかし、顔や身体を見るにダルイゼンまでもが驚きの声を上げる。それもそのはず、

 

「からだ、うごく。ぼく、しんかした」

 

「ダルイゼンに似てるペエ!」

 

 彼よりも見た目が子供で、左の目元にはキュアグレースを思わせる花柄が添付されている。

 子供の容姿というのも、ダルイゼンが言っていた『未成熟』であるからだろう。誰しもが持つ感情を1つも表に出さず、口調も言葉を初めて使ったみたいに片言なのもその類であるはずだ。

 

「ダルイゼン、ちがう。ぼく、ケダリー。しごと、ちきゅう、びょうきにする」

 

 "ケダリー"そう名乗ったテラビョーゲンは、両手を広げて赤黒い光弾を作る。たった今この地に生まれた奴ではあるのだが、自身がやらなければならない使命は理解しているようだ。

 光弾が発射し、周りの植物や木々をドン、ドンと叩きつける。その威力は凄まじく、その地点をすぐさま蝕んでいく。

 

「クチュン!」

 

 同時に、ラテの体調が悪くなる。お手当ての始まりの合図である。

 

「と、とにかくお手当てニャ!」

 

 ニャトランの言葉と共にアスミ、ちゆ、ひなたの3人はプリキュアへの変身の準備へと移る。そんな中で、のどかは横目で辺りを見回していた。

 

「のどか、大丈夫ラビ?」

 

「……う、うん。大丈夫、行こう!」

 

 この場には、やはり彼の姿はない。

 けれど────今はケダリーを浄化することに集中しなければ。続くようにして変身の準備に入った。

 

 

 

 

 

「「重なる二つの花!キュアグレース!!」」

 

 

 

 

 

「「交わる二つの流れ!キュアフォンテーヌ!!」」 

 

 

 

 

 

「「溶け合う二つの光!キュアスパークル!!」」

 

 

 

 

 

「「時を経て繋がる二つの風!キュアアース!!」」

 

 

 

 

 

『地球をお手当!ヒーリングっど♡プリキュア!』

 

 

 

 

 

『ぷにシールド!』

 

 プリキュアが変身を遂げたとしても、ケダリーは構わず活動を続けている。主からの使命を果たすことしか考えておらず、まるで見向きもしていない。

 そんな相手の前にキュアグレースが立ちはだかり、散開する光弾をシールドで防御する。

 

「じゃま」

 

 一旦活動を止めて、次に発射するエネルギー弾を両手に留めると空高く浮遊する。付近ではなく、今度はもっと遠くに向けて蝕むつもりだ。

 

「「「はああああっ!」」」

 

 しかしそれを見過ごすはずもなく、フォンテーヌ、スパークル、アースがそれぞれ別の方角から一斉に攻撃を繰り出しに行く。1対3な上に空中で包囲されているので、これでは全てを躱すことは難しいはずだ。

 

「「「きゃあ!」」」

 

 だがその考えは"否"。

 相手は三人の猛攻をもろともせずに滑らかに躱していく。その動きはどう考えても人型で行える業ではなく、更にカウンターとして一人一人に打撃を与えて地面へと落としてみせた。

 

「皆、大丈夫!?」

 

「凄まじい柔軟性です……」

 

「もう、タコじゃないんだから!」

 

「プリキュア、あかいの、じゃまする。さき、しまつする」

 

 ようやくプリキュア側に視線を送る。自身の活動を妨害してくることに鬱陶しさを感じたのだろう。

 ケダリーは地上に降り立った瞬間、隙を見せることなくトンと地面を蹴って始末対象らに襲い掛かる。

 

『ぷにシールド!』

 

 それに対するは、フォンテーヌとスパークルの二人掛かりでのシールドを張っての防御。だが、面と向かって受けてみると中々に強力でシールドを持つ二人が押される程であった。

 

「強い……!」

 

「メガビョーゲンから更に進化しただけのことはあるぜ……!」

 

 小柄でありながらも繰り出される攻撃の威力は、まるで未知数。とはいえ、ニャトランの言葉通りテラビョーゲンである故、その力にも納得がいく。

 そんな話をしている内にも、次の一手が繰り出される。

 

「「ぐああっ!」」

 

 両手を二人の方に向けて光弾を放つ。弾丸の如く飛んでいく赤黒い光弾が二人を吹き飛ばした。

 

「はああっ!」

 

 アースが背後に回って蹴りの連続を繰り出す。だが、それも理解していたかのように滑らかな動きで躱し続け、やがて動きを読むと蹴りを受け止めて押し返す。

 

 時間も経たないうちに一気に三人もダメージを負ってしまい、残るキュアグレースにケダリーはエネルギーを溜めて狙いを定める。

 

「はあああ!」

 

 ならば此方も、とグレースはヒーリングステッキからエネルギーを溜めて強力な光線を放って相手を飲み込みに行く。しかし、相手は軟体動物なのかと疑ってしまう程の柔軟性を活かして掻い潜って接近する。

 

「っ!」

 

 そんなケダリーの動きに動揺するグレースの腹部を狙って放つ。超近距離の中で彼女は光弾と共に吹っ飛び、木に背中を打たれていった。

 

「キュアグレース……」

 

 一方、ダルイゼンは離れた場所で戦いを見物、というよりグレースばかりを見ているというのが的確か。

 何故、いつもは自分のこと以外はどうでも良いと思っているのにグレースに興味を示しているというか、気になっているのだろう。それは彼自身にも分かりかねないことである。

 逆に、自分のことは疑問に思うばかりだ。何故、自分がビョーゲンズとして生まれてきたのか。自分を生み出した宿主は一体誰なのか。ビョーゲンズに生前の記憶はなく、意思を持ち始めてからずっとこの身体を持っている故に、余計に気になってしまう。とはいえ、それは他の誰にも分からず、自分で答えを導き出すしかない。そう考えている時に、ケダリーが目の前に姿を現したのだ。

 

「……あいつ」

 

 口調は未成熟であるから違えど表情や容姿は類似していることに、どうしてかとまた新たな疑問が生まれたその時、不意にダルイゼンの脳裏に妙な記憶が蘇ってくる。

 

『のどか……!』

 

『しっかりして、のどか……!』

 

 暗い所で響き渡る、男女の悲しそうな声。

 

『地球上にいるビョーゲンズ達よ。我が名はキングビョーゲン。時は満ちた。この星をビョーゲンズの物にする為、今こそ忌々しきヒーリングアニマルを滅する!さぁ、我のもとへ集うが良い』

 

 脳裏に響き渡る、聞き覚えのある奴の言葉と共に徐々に実物化していく身体。

 

『ふわぁ~、色んなお花さんがある!』

 

 自然ばかりが茂る野原で花を集める少女に、自分の身体が襲い掛かった。

 

「……そうか、そういうことか」

 

 全てが、今の自分と繋がった────。

 

「これで、じゃまもの、いなくなる」

 

 さて、プリキュアとケダリーの戦いは後者が優勢となっている。1対4の状況下で感情を表に出さないのもあってか余裕の表情で、目の前にいるキュアグレースへと両手に光弾を作って近づいていく。

 

「させぬわ」

 

「……っ!」

 

 だが、そんなケダリーの目先に黒く細い何かが通り過ぎる。近くにあった木に穴を開けて刺さったそれは、釘と呼ぶにはあまりにも長く鉄塊であり、短剣と呼ぶにはあまりにも細く鋭利ではない。ただどちらかと言えば短剣と呼ぶべき物体であった。

 

 そして、この戦いに乱入してきた声の主が姿を現す。グレースの視点からでは後ろ姿しか見えないのだが、踵辺りまで伸びている黒のローブを羽織っているのを見て何処か見覚えのある容姿だと思えた。

 

「ラピウス……!?」

 

 というのも、病院を飛び出してから居場所が掴めなかった自分達の仲間、そして友達でもあるキュアラピウスの容姿に似ていたからだ。

 

「……いえ、違います」

 

 そう思ったのも束の間、アースがそれを否定する。すぐに疑問が浮かんだのだ。彼にしては声音が全くもって違っている。無邪気な女性の声が聞こえた気がした。

 

「ほう、1人は勘付いていたか。流石は伝説の戦士プリキュア……いや、それとも仲間の気配でも感じ取っていたのかな?」

 

 被っていたフードを取って正体を露わにする。

 腰まで届く程の紫色のストレートロングヘアーといった長髪は、長身で大人びた容姿をより際立たせている。黒のローブの中には軽装の鎧を纏っていて、光を宿さない瞳を持つも何処か美しく感じさせる。正に"可憐"な女性とも言える彼女はグレース達を見るなり不敵な笑みを浮かべていた。

 

「貴女は、この前ぺギタン達を襲った……!」

 

「え、でも前よりめっちゃ大人になってるけど……?」

 

「嗚呼、何せ奴を(ワタシ)のモノにしてやったからな。貴様らの仲間を使って、本来の力を"取り戻したのだ"」

 

「……まさか」

 

 一同は察し、言葉を失う。

 対し、徐々に身体が震えていく様を見た彼女は更に追い打ちを掛けるように、髪を指でクルクルと回しながら言い放つ。

 

「言っておくが、我が無理矢理やったわけではない。確かに初めは抵抗していたが、結局は完全に堕ちていた。夢やら望みやらは知らぬが、何もかも捨てていたな。クク、いつもは最後まで無様に抵抗する奴らばかりだったから久々に楽しめたぞ」

 

「嘘、でしょ……?」

 

「……違う。そんなわけない!」

 

 彼女の言葉に、スパークルがそう答えるもグレースが全力で否定する。

 

「だって……だって、飛鳥くんずっと頑張ってきてたんだよ!?お父さんを超えるような立派なお医者さんになるって……夢を捨てたとか、そんなの信じたくない!」

 

 プリキュアとしても、どんな苦難があっても決して諦めることなく戦っていた。そんな彼が堕ちるなんて信じられないし、信じたくない。そんな風にグレースは訴え続けた。

 それを聞いて、女は鼻を鳴らす。彼女の言い分に呆れてのものか、不機嫌さを見せていた。

 

「信じようが信じまいが、どうでも良いことだ。だがまあ、折角丁度良い獲物がいるのだから証明させてやらんこともない」

 

「じゃまもの、ふえた。まとめて、プリキュアも、しまつする」

 

 先程まで、ケダリーは突然の乱入に呆然と立ちすくんでいた。女が此方に振り返った途端、自身の果たさねばならない使命を思い出して我に返り、両手にエネルギーを溜めて光弾を作る。先に面倒そうな奴を倒してからプリキュアごとまとめて始末しようという魂胆だ。

 

 そんな少年を見て、気分が高揚する。

 成長────力を手にしたとはいえ、取り込んだのはつい先程のこと。自分にもどれ程のものかは分かってはいないので、これが初陣となる。だからこそ、期待で気分が高まっている。

 

「失望させてくれるなよ……?」

 

 刹那、彼女の特徴である長髪の中から何かがうようよとうごめき始める。まるでメガパーツがテラビョーゲンへと進化を遂げるように、やがてそれは実体化する。

 

「蛇……!?」

 

 大きな蛇の姿をした物体が、ケダリーの方へと飛び出して行く。

 ケダリーは注意深く観察し、突進してくる蛇を避けて光弾を放つ。命中はしたものの、蛇は接近する動きを止めることはない。

 

「……っ!」

 

 寧ろ、動きが速くなっている。もはやエネルギー光弾を作ろうにも余裕がない状況で、回避することに意識を持ってかれていた。滑らかな動きで、蛇の突進に耐え続けている。

 

「貴様の相手は、そいつだけではないぞ」

 

輝かしき終点の一矢(トロイア・ヴェロス)

 

「っ!?」

 

 空中で回避したその隙を突いて、女は片手でクロスボウを構えて放つ。

 ────あの武器は、まさしくキュアラピウスが持っていたものだ。片手で持てる程、一回り小さいとはいえ威力は元と然程変わらないだろう。

 暗黒の矢で右腕を貫通され、深い傷を付けられたケダリーは痛みで地面へと落ちていく。

 

「いたい、ぼく、やられる……?」

 

「傷1つ負っただけで落ちぶれるとは。だが、それまで避け続けられたことは評価に値せねばな」

 

「おちぶれる……ちがう、ぼく、よわくない。ちきゅう、びょうきに、しないと。みんな、まとめて、しまつしないと!」

 

 瞳が揺れ、呼吸が乱れていく。感情を持っていなかった少年が感情的になって両腕を振り回して突進する様を見て、女は溜め息をついて呆れかえっていた。

 

「焦り、錯乱……この状態に陥ると途端に知力を失う。逃げ回ったり死に急いだり、普段は冷静に事を進められていたことが出来ずに感情で動くこととなり、やがて朽ちていく。人間だけでなく、生き物全般に起こり得ることだが、ビョーゲンズも大して変わらんのだな」

 

 攻撃してくるケダリーの腕を膝で止め、腹部を勢いよく蹴り上げる。普通ならこんな容易い動きは読めるはずだが、それも出来なくなっている。

 宙に浮かせた相手にクロスを描くような斬撃を放つ。相手の全身に深く傷を刻み、そして蹴り飛ばした。

 

「……いやだ」

 

 髪を生き物みたいに不気味になびかせながらゆっくりと接近する女に尻餅をついた状態で後退る。顔を青ざめながら声を上げるが、彼女の足は止まらない。

 

「いやだ……いやだいやだいやだいやだいやだぁ!!!」

 

 近距離まで詰められ、此方を見下ろす彼女への恐怖でケダリーは逃げ出す。だが、傷によるダメージでその足取りは遅く、それを"獲物"としか捉えていない彼女が見逃すはずもない。

 

「っ!?」

 

 右腕が何かによって無理に上げられ、身体を近くの木に引っ張られていく。木の枝へと引っ張り上げ宙にぶら下げられる少年は、何が起こったか分からずじたばたと暴れるばかりだ。

 

「ああああああああ!!!」

 

「耳障りな悲鳴だ。だが────クク、それで良い」

 

 瞬間、更に長く大きくなった長髪がケダリーの周りを取り囲み、縛り付ける。逃げようとするも、辺りは髪一色で当然逃げ道はない。一向に悲鳴を上げ続ける少年を強く、強く締め付けていく。

 ガギッ、ゴギッ、ボギッ……と骨が砕かれる生々しい音が聞こえてくる。段々と顔も身体もミイラ状態となって見えなくなり、唯一引っ張られている右腕をビクビクと痙攣させている。

 

「ねえ、あれってさ、前にも見たことない……?」

 

「多分、おおらか市の湖で見た……!」

 

 一方、プリキュア達はその様子をただ立ち竦んで見ていた。ケダリーに接近する女の後を追って双方を倒そうとしていたアースでさえも、その場で見ていたのだ。四人は揃って恐怖感を抱いていた中で、何処か既視感を感じていた。

 おおらか市の湖での出来事────ネブソックとの戦いの時だ。吐き気を催してしまう程の不穏な空気と共に、騒がしかった敵はその場に固まって動けなくなった。そこに、湖の中からゆらゆらとした巨大生物がネブソックを取り囲んで引きづり下ろしていった。今見ている光景は、正にその時と類似していた。

 

「じゃあ、飛鳥くんもあれで……」

 

 過去を思い出している内に、彼女が髪を元の状態に戻すと、ケダリーの姿はなくなっていた。身体も魂も、全て"捕食"したのだ。

 

 それを見たグレースは身体を震わせながら、そう呟いた。初めは否定し続けていたのだが、成長した彼女の戦法を見てからは、固まってしまっていた。

 髪から飛び出した蛇はまるで彼が召喚する蛇の化身のようで、何よりクロスボウから撃たれた一矢は黒く染まっていたものの、名称すらも同じであったので彼が持っていたものだろう。そう考えてしまった時、彼女の言っていたことは本当だったんだ、と思うようになっていた。

 同時に、怒りで心も震えてくる。グレースにとっては初めて湧き上がる感情かもしれない。

 

「……っ!」

 

 思わず、グレースは突撃する。この感情を彼女にぶつけるべく、飛び出して行く。

 だが、『怒りに身を任せる』というのは、言い換えれば『冷静さが途切れる』ということ。今のグレースの判断力は間違いなく低下している。

 

「待つラビ、グレース!」

 

 パートナーがそう呼び止めようとするが、その声は届いていない。それ程、彼を苦しめた彼女が許せないと思ったのだろう。

 

「──危ない!」

 

 だが、アースの声と共に片腕を後ろに強引に引っ張られる。

 

「っ!?」

 

 何事かとグレースが我に返ったと同時に、突如として何かが目先を横切って通り過ぎていく。勢い良く引っ張ったことで尻餅をついた二人はその方向へと視線を送る。

 そこには、一本の矢が地面を刺しているのが見えた。目の前にいる彼女ではない、誰か別の人物が放ったものだろうが、もしアースが自分の危機に手を伸ばしてくれなかったら……グレースは背筋が凍る思いで、放ってきた方向を見る。

 

「流石にこれだけでは射抜けませんか。まあ良いでしょう、挨拶程度です」

 

「えっ……?」

 

「嘘……」

 

「何でいるの!?」

 

「お久しぶりですね、皆さん」

 

 そこに現れたのは、片手に弓を持ち背部には尻尾を生やした獣人のような人物────キロンであった。

 彼は先日、アースの手によって倒され浄化されたはずだった。それが、今ではまるで何事もなかったかのように余裕な顔立ちで再び姿を現したことに、グレース達は驚きと困惑を隠せないでいる。対して、当のアースは顔を俯かせていた。

 

「やはり、そうでしたか……」

 

「やはりって、どういう事?」

 

「浄化した手応えを感じなかったのです。何か小さいものを握り潰したような感覚で、それでも彼の気配を感じなかったので多少は安心していたのですが……やはり生きていたのですね。貴方は」

 

「あれでもそれなりの焦りは感じていましたがね。ほんの僅かな時間で私が手にしていたメガパーツを投げて盾にするまでの流れを上手くこなした。幸運が此方に回って来ただけのことです」

 

 嫌な予感が的中したと悲観するアースに、男は優しく笑みを溢す。

 あとほんの数秒早く技を放っていたら、しっかり浄化出来ていたのだろうか。それとも相手の抵抗を読んで冷静に対処していたらどうにかなれたのだろうか。色んな思考が脳内で張り巡らされていく。

 

「そんなことはどうでも良い」

 

 そんな中で、女はキロンを睨み付けながら口を開く。

 

「それより獣人、貴様には黙って見ていろと忠告したはずだ」

 

「ええ、承知しています。ですが、これを"シア様"に報告したかったので」

 

 そう言いながら、片手に掴んでいたものを見せつける。

 小刻みな呼吸をする傷だらけの、物体と言っても違和感がない毛玉状の生物────

 

「「「ポポロン!?」」」

 

「ごめん……しくじった……」

 

 3人の言葉に、アースが即座に顔を上げる。

 痛々しい姿を晒すポポロンは、シアに視線を送る。対し、シアは表情を1つも変えることなく獣人に再び命令を下す。

 

「だから何だと言うんだ。そんな奴に興味はない。そこら辺に捨てて、さっさと此処から失せろ」

 

「おや、そうですか。まあ、それが貴女の願望なのであれば従いたいのですが……」

 

 そう言ってキロンが別の方向へと振り向こうとする。その瞬間、何の前兆もなしにポポロンを掴む片手に衝撃が走り、強制的に手離された。

 

「逃がしはしません。もう一度、貴方を清めます」

 

「……彼女達がさせてくれないのですよ」

 

「ポポロン!」

 

 その衝撃とは、キロンに接近したアースが手をはたいてポポロンの拘束を解いたものだった。空中から地面に落ちていく子羊を、寸前の所でスパークルが受け止めたのを認識してから、追い打ちを掛けるように拳を放つ。しかし、相手はそれを軽々と手の平で受け止めてみせた。

 

「……ふん」

 

 自分の思い通りに事が進まないことを不快に思ったのか、シアは二人をしばらく睨み付ける。

 どちらかと言えば、アースの方を見つめている。以前の戦いで、彼女は隠し切れない程の動揺を見せていた。しかし、今は特に戸惑いの感情を見せておらず、その真相は明らかになっていない。

 少しして、視線をグレースとフォンテーヌの方へ移すと、大鎌を取り出して刃を向ける。

 

「ならば、殺さぬ程度に痛めつけておけ。こいつらは全員、我の獲物だ」

 

「ここはスパークルとアースがやるから、グレースとフォンテーヌはあいつをやっつけてニャ!」

 

 ニャトランの言葉に、スパークルはラテの近くにポポロンを避難させると、キロンの背後に近づいてアースと挟み撃ちにして相手取る。グレース達も頷き、ゆっくりと近寄って来るシアを相手取る。

 

 そして────敵が先手を打つ。

 それに対抗するように、グレースはヒーリングステッキに実りのエレメントボトルを装填し、エレメントの力を剣の形にして具現化させる。フォンテーヌも氷のエレメントボトルを装填して光線を放つ構えを取る。

 

「貴女は、絶対に……許さない!」

 

 今ここに、戦いの第二幕が始まる。

 

 

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