ヒーリングっど♥プリキュア 〜医神と地球の戦士〜   作:ゆぐゆぐ

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※前話の終盤でも触れましたが、原作キャラのオリジナルの強化設定が含まれますのでご了承下さい。


第37節 攻防戦

 一つの風、一つの雷が挟み撃ちとなってシアとぶつかり合う。

 風は超高速で地面や空を駆ける。地表上空、前後左右から目まぐるしく標的へ襲いかかる。

 雷も然り。電撃を纏って走り抜ける姿は、正に流星のようにも見える。

 

 だが、流星は所詮、ただの小さな星にすぎない。撃ち落とせば星屑となって砕けていくものだ。

 泰然と2人の猛攻を捉え、迎撃し圧倒するシアを打ち崩すことは容易ではないことは明らか。

 如何に目まぐるしく飛び回り四方八方から攻めようにも、シアはただ一振りで攻撃を弾き返し、返す刃で徹底的に2人を壊しに行く。

 

「ぅ、あ……っ!」

 

 奇襲を弾かれ、更に雷のエレメントの反動で体力を削られるスパークル。

 とはいえ、その力による超人的な瞬発力を想定以上に使いこなせていることは、シアの反撃を掠めた状態で離脱していることから見て分かる。

 僅か一息、瞬き一つの合間に、接近と離脱を行うスパークルのヒーリングステッキと反撃を行うシアの大鎌が擦れ、火花があちこちに飛び散っていた。

 

「大丈夫か、スパークル!?」

 

「だいじょーぶ、こんなのでへばってらんないじゃん!」

 

 そうは言い張るも、体力は無限ではない。目にも止まらぬ高速移動と連続攻撃で攻めれば攻めるほど消費されていく。

 後のことは考えたくはない。全力で畳みかけなければシアを抑えることは出来ないだろう。だからこそ、アースもスパークルも攻め続け、シアの攻撃を防ぐのだ。

 

 対して、シアは無傷だった。

 2人の攻撃が届いていないのではない。彼女の体内に持つ自然治癒の能力によって傷が即座に消えていっている。故に、体力の衰えが見られない。

 そうして2人が体力を失い、全力を出せなくなった瞬間がシアの独壇場となるかもしれない。

 

「──っ!?」

 

 不意に、スパークルが隙を突かれた。

 魔眼によって動きを封じられてしまった。どれだけ踠こうとも自由に動けない。

 その間に、シアは大鎌を振り回して接近する。もし首元を狙って来たとするなら、もう後がない。

 

『ぷにシールド!』

 

 ────だが、させるものか。

 シアの視界にぷにシールドを展開した状態でフォンテーヌが割って入り、斬撃を防ぐ。

 だが、シールドに素早くヒビが入る。相手の威力と此方の耐久力は明確だった。

 

『氷のエレメント!』

 

 それでも、諦めはしない。

 即座にヒーリングステッキに氷のエレメントボトルを装填し、シールドを凍てつかせてガードを固める。

 

「っ!」

 

 同時に、大鎌の刃先を氷が侵食していく。引き離そうとするも徐々にシールドと同化していき、中々抜け出せない。

 

「……らぁっ!」

 

 ならば、とシアは両脚を上げる。大鎌の斬撃に込めていた魔力を両脚に移し、シールドを全身全霊で蹴り飛ばした。

 

「「ぐっ……!」」

 

 その威力に耐え切れず氷のシールドは砕け散り、フォンテーヌはスパークルの下敷きとなって吹っ飛ばされた。

 対して、シアも反動で後ろへ飛ばされていく。手に持つ大鎌を見るに、刃先の先端がぽっきりと折れていて使い様がないと悟る。

 

『空気のエレメント!』

 

 そんなシアの背後を瞬時に回ってアースはハープから空気玉を放ち、動きを封じ込める。

 無論、彼女を封じただけではすぐに解かれる羽目になることは熟知している。

 

『実りのエレメント!』

 

 だから、それまでに攻撃を与えれば良い。エレメントの力を存分に溜め込んだ特大の攻撃を、ほんの一瞬の隙も逃さずにお見舞いする。傷を癒すことだって見逃しはしない。

 

「……流石にまとめて始末するのは分が悪いようだ」

 

 ──だが、敵の能力は1つだけではない。

 

『Shaaaaaaaa!!!』

 

 シアが長髪を大きくなびかせた瞬間、突然中から長く大きな靄が空気玉を突き破る。

 漆黒に染まった大蛇だ。グレースの放ったエネルギー弾を丸呑みし、そのまま止まることなく雄叫びを上げながらグレースに大口を開けて襲い掛かる。

 

「おりゃああああ!!!」

 

 だが、蛇の背中を突如降ってきた落雷が殴り飛ばし、地面へと突き落とす。そしてそれは閃光となってグレースの元へと現れた。

 

「もう!めっちゃ厄介なのがまた出てきてんじゃん!」

 

 黒煙を上げて起き上がる大蛇。キュアラピウスの力を身に着けたことで使いこなせた彼の技だと窺える。敵味方の判別は熟知していたはずが、今ではシアの魔力に支配され制御出来なくなっている。本命を仕留めるには、まずは弊害を仕留めなければならないか。

 

「こうなったら、編成を変えましょう。私とスパークルで蛇を倒すわ」

 

「……確かに、時間は有限である中で邪魔な蛇を一遍に倒すのは効率良くありませんね」

 

 だからといって2人だけに任せてもいいものだろうかと、グレースに1つの不安が過ぎる。

 現に、スパークルが本気で突き出した拳で叩き落されたはずの怪物は狂うように暴れ回っている。シアと同様、余程の手強い敵だと分かる。そんな敵を、2人で戦わせてしまっても良いのだろうか。

 

「心配しないで良いよグレース。あたし一応まだまだ戦えるし。それに、一発で効かないんだったら何発でも効くまでやるだけだから!」

 

「っ!」

 

『Ghaaaaaaaa!!!』

 

 真正面から怒り狂ったように迫る大蛇の顔面に、スパークルは電撃のエネルギー弾を浴びさせる。閃光の如く迸るそれはいとも容易く命中し、全身に痺れを広がらせた。

 そんなスパークルの言葉に、グレースの心に妙な安心感が走る。

 

『一度で無理なら、気の済むまでやってやるだけ』

 

 彼女らしい言葉だが、何度か挫折したものの結局は諦めることをしなかった人間の言うことだ。今更、2人を信頼しないわけにもいかない。迷わず、頭を縦に振った。

 

「ではそうしましょう。ですが、なるべく早く戻って来てください。全員でトドメを刺さない限り、シアを倒すのは難しいと思いますので」

 

「分かったわ!」

 

「おっけー!ちゃちゃっとやっつけてくる!」

 

 今のは遠まわしに、私達がシアを足止めしているうちに倒して来いというアースなりの応援だ。

 その信頼感に、フォンテーヌとスパークルは気合が入った状態で大蛇へと接近して行った。

 

「……その前に、奴らも貴様らもここで死んでいくがな」

 

「っ!?」

 

 刹那、グレースの背後で殺気が膨れ上がっていく。

 グレースとアースがこの場に残された状況は、彼女にとっては逆に好機。邪魔な奴が2人消えたなら、その分は存分に戦えるという事か。

 同時に、何か鋭利なものがじゃらじゃらと近づいてくるのを感じる。

 鎖の付いた短剣、シアの第二の武器と言ったところか。

 もしワンテンポ遅ければ、グレースが仕留められるのは確実だろう。

 

「……がぁ!?」

 

 だが、アースはそれを逃しはしない。

 風のエレメントの力で瞬間移動し、シアの顔面を強く蹴り飛ばす。その勢いそのままに飛んでいくと、アースもそのまま追撃へと向かう。

 

輝かしき終点の一矢(トロイア・ヴェロス)

 

「予測済みです!」

 

「っ!?」

 

 対してシアはこの勢いを逆に利用する為に接近するアースに向けて暗黒の矢を放つも、動きを読んで全身を伏せて回避する。

 

「安直過ぎます。先程の武器で戦っていた時の方が厄介に思いましたが」

 

「っ、貴様ほどの雑魚がこの我を侮辱するか!!」

 

『実りのエレメント!』

 

 その場に追いついたグレースは実りのエレメントの力によるエネルギー弾を放ち、シアの目先の地面へと命中する。

 彼女に被弾する為に使用しているわけではない。2発、3発と何度も地面に撃ち続け、巻き起こす砂塵で彼女の視界を遮る為のものだ。

 やがて砂塵が晴れると、二人の姿は消えていた。

 即座に視界に捉えようとシアは辺りを見回すが、二人のうちアースは彼女の背後へと回り込んでいた。

 

「……安直なのは貴様らも同じだ」

 

「っ!?」

 

 だが、それを埋めるようにシアは振り返り、魔眼を発動させる。コンマ秒の隙を与えずにアースに命中し、彼女の肩を石化させる。

 

「はあああっ!」

 

 身動きが不自由になったアースに近づいて攻撃するところをグレースがエネルギー弾を撃って阻止する。先程と同じく連続で放たれ、今度はシアの背中に被弾しアースの石化していた肩を掠める。その衝撃で双方とも吹っ飛ばされていく。

 

 そんな中、シアは鎖を木の枝へ放り投げてロープ代わりとして移動する。

 そうして体勢を立て直すと、今度は攻守交代。両脚に魔力を集中させ木の幹を蹴って突進する。その矛先は、グレースへ。彼女が攻める番となった。

 

「こっち来るラビ!」

 

『ぷにシールド!』

 

 ラビリンの合図によって即座に展開したぷにシールドに、シアの短剣が突き刺さる。盾に対する矛の威力にグレースの足が後ろへと引きずられていく。

 必死に歯を食いしばって彼女を押し込もうと身体を前に倒すことを試みるが、それすらも敵わない。終いには足が自然と宙に浮き、吹っ飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

『Gsyaaaaaaa!!!』

 

 一方で、もう一つの戦闘。

 またも大蛇は雄叫びを上げる。

 キュアフォンテーヌ、キュアスパークルというちっぽけな鼠二匹を逃がすまいと全身を大きく見せつけ、襲い掛かる。

 

「はあああっ!」

 

 しかし、金色の一閃が大蛇の存在を許すまいとする。

 まずは頭部から。身体の中で一番高い部位から確実に打撃を与えていく。

 

 雷のエレメントの力を纏ったスパークルを見て、味方であるフォンテーヌも思わず圧倒される。

 無理もない。今目の前にいる黒身の大蛇は、元々はキュアラピウスの扱っていた使い魔とも呼べる奴。その力は、自分達が苦戦していたビョーゲンズらを容易く蹴散らした程。

 大蛇は彼女らにとって、味方であれば頼もしく敵であれば絶望感が満ち溢れる、ある意味厄介な存在なのだ。

 

 そんな奴に、スパークルは真正面から対抗出来ている。

 しかも一撃一撃を確実に喰らわせ、苦もない勇ましい表情を浮かべながら、今度は首元を狙って追撃を図った。

 

「しぶといなあ、もう……!」

 

 両手でヒーリングステッキを大蛇に向け、光を放つ。

 小さな電球のようだった物体が、力を蓄えていく毎に輝きと共に成長していき──

 

「てりゃあああああ!!」

 

 やがて大蛇を包み込んでいくどころか、暗く静寂な森林を眩しいばかりの閃光で照らし上げて見せた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 休む暇もなく襲い掛かって来る怪物を半ばヤケクソ気味に一掃したおかげで、流石のスパークルも息が乱れていた。

 フォンテーヌはそんな彼女に気を配りながら、目前で光線を喰らった大蛇の居場所を凝視する。

 

『Gyaaaaaaaaaaaaa!!!!!』

 

「うそでしょ……!?」

 

 瞬間、少女の呟きと共に真っ黒な影が立ち上がる。

 大蛇の身体に纏う靄が先程の比ではないくらいに強まっている。

 スパークルの技が逆鱗に触れたのか、獲物だと思っていた奴が中々喰らえないことに苛立ちを覚えたのか。

 どちらにせよ、プリキュア2人に繰り出された力は気配だけでも重圧しそうな程に増していた。

 

「なあこいつ、主人を倒さないと倒せないとかそういうのじゃねぇよな……?」

 

「分からないけど、可能性はなくはないはず……」

 

「……でも、あたし達が出来ることは頑張って倒せるまで戦い続けることだし!」

 

 再び、猛追する。

 条件が分からず、それが明確なものなのか分からない以上、今やるべきことは正面から立ち向かうこと。

 現に、大蛇の暴走による負傷はなく十分に対抗出来ているはず。"早く戻って来い"と告げられたからには最低でも戦闘不能までに持たせなければ。

 

『氷のエレメント!』

 

 フォンテーヌは気付かれぬ程度に背後へ回り込み、凍てつく光線を尻尾からなぞるように放つ。

 じわじわと氷が全身を覆い、暴走する怪物の突進を停止させる。

 

「やあっ!」

 

 再度、空中へと跳び上がって打撃を与える。

 稲光、轟音よりも速い落雷が撃ち落されたかのような一撃の重みは、周囲の木々を支える根元がぽっきりと折れる程。そればかりか、怪物の身体に大穴が開けられる程だ。

 

 一度止まったかと思えども、暴走は止まらない。

 ある意味、単純な力のぶつけ合いとも言える。

 だが、圧倒的な力を見せつけておきながら、攻撃する怪物の動きが何処かしら鈍くなっているのを感じる。おかげで、フォンテーヌ達は少し深読みをし過ぎたかもしれないと思うようになった。

 改めるなら、今の大蛇は魂を永久機関として暴走し続ける、力を持ち腐れた出来損ないに過ぎない。

 対して、特にスパークルには確かに大蛇に匹敵する雷のエレメントの力の貯蔵がある。どちらかが力尽きるまで耐久レースをしても恐らく負けないだろう。

 とはいえ、それだと流石にキリがない。自分達より先に、戦場となっている森林が崩れかねない。

 

「……だったら!」

 

『エレメントチャージ!』

 

 ヒーリングステッキの先端に集まった光で、曲線の菱形模様を通常の2倍の大きさで描いていく。

 

「そんなに負担を掛けて大丈夫なの!?」

 

 正直、分からない。

 確かに、力に関してはスパークルの方が有利を取っているものの、彼女の体力が何処まで持つかで状況は左右されるかもしれない。

 

「でも、普通に戦っても駄目ならこうするしかないじゃん!」

 

『ヒーリングゲージ、上昇!』

 

 ステッキの肉球を三度触れて、ニャトランと共に大技を繰り出すエネルギーを上昇させる。

 

「くっ、うぅ……!」

 

 エレメントの力で、上昇具合は凄まじい。

 同時に、全身に物凄い重圧が落雷の如く降りて来る。幾つもの岩石を時間を掛けて両肩に乗っけられていくような感覚。スパークルもニャトランも、どちらかが少しでも息を抜けば押し潰されてしまうと思う程だ。

 

 ──でも、負けるわけにはいかない。

 あたしは、あたしの持っている全部をこいつにぶつける。そんでもって、この戦いも終わらせる。あっくんも助け出して、またいつもみたいに皆で遊びたい。負けないって言ったら、負けるもんか!!

 

「うおおおおおおおあああああああ!!!!!」

 

『プリキュア・ヒーリングフラッシュ!』

 

 前足を地面に勢い良く踏みつけ、ヒーリングステッキを此方に急接近して来る大蛇へと突き出す。

 ステッキの先端と怪物の舌先が触れる寸前の距離まで詰まったその時、閃光が辺りを包み込んだ。

 それは落雷、轟音が訪れる直前の稲光の如く。そしてその直後、無数のプラズマが大蛇の全身に襲い掛かった。

 

『Ahhhhhhhhhhh!!!!』

 

 無数──その名の通り、数え切れない程の量である。

 ひとつ放出されれば、次のものが放出される。その直後、また次へ、次へ、次へ次へ。

 つまり、無制限。敵の身体が消滅するまで放ち続ける。

 仮にキュアスパークルが供給したヒーリングゲージが底を尽きたとしても、雷のエレメントが力を貸してくれる。

 無限に続けられる放出と供給。

 これにより、敵は力尽きるまでプラズマを浴び続ける──!

 

『……Ahh,healing bye』

 

 何度目かの地響きが木霊する。

 今度は大蛇の咆哮ではない。プラズマの放出が抑えられ、その光が消えていく。寧ろ、怪物の身体はぐったりと力尽き消滅を開始していた。

 

「……っ」

 

 それと同時に、スパークルが纏っていた雷のエレメントの力もなくなっていく。徐々になくなっていったわけでなく、フッと風のように去って行ったおかげでスパークルの身体も人形を操る糸が切れるように崩れかけていた。

 

「スパークル!?」

 

 地面に倒れないよう、フォンテーヌは彼女を支える。慌てた表情をしていながらも行動は素早い。

 

「うん、大丈夫。ちょっとよろけただけ……それより、早くグレース達の所行こう!」

 

「え、ええ……!」

 

 かなり無茶したから少し戦線を離脱した方が良いのではと言いかけたが、現状そういうわけにもいかないし彼女にとってはくどい言葉だろう。

 スパークルの意気込んだ言い方に、フォンテーヌは頭を縦に振ってもう一つの戦場へと足を運ぼうとする。

 

「あっ……」

 

「どうしたの……?」

 

「……足が痺れて動けないから、おんぶして欲しいな~なんて」

 

「……全くもう」

 

 やはり、こういうドジな所はキュアスパークル──"平光ひなた"なんだなと実感する。

 フォンテーヌはその要望に応え、彼女を背負って戦場へと走り出す。

 

「「グレース!」」

 

 そして訪れた場所には、その場で座り込むキュアグレースの姿があった。

 良く見ると、脇腹の流血を右手で抑えながら痛みを堪える表情で顔を俯かせている。それを見た二人は心配そうに彼女の元へと駆け込んだ。

 

「ちょっと切り傷つけられちゃっただけ……それよりもアースが!」

 

 痛みで呼吸を僅かに乱しながら、上空を見上げる。

 アースはシアから離脱している。

 森林に縛り付けておいた鎖を放出して拘束を図ったシアだったが、全て避けられたどころかそのまま反撃を喰らっていた。今ではアースを上手く追えずにたたらを踏んでいる。

 

「アースウィンディハープ!」

 

 それからアースが地面に着地し、アースウィンディハープを手に取るまでの間。時間にしてたったの3秒。

 それで良い。寧ろ、距離にして僅か50メートルという間合いの中では充分過ぎるとも思える3秒間。

 

「エレメントチャージ!舞い上がれ、癒しの風!!」

 

「──来るか!」

 

 対して、シアの姿勢が落ちる。

 瞳の奥に広がっていく赤黒い波。

 これだけの間合いを離されたとしても、瞬時にアースの狙いを悟っていた。ここで止めを刺すのだろう、と。

 ならば、此方とて手段は1つ。

 敵の持つ最大の攻撃には、"それ相応の攻撃"を以って応えよう。まずは1人だ……!

 

『プリキュア・ヒーリング────』

 

 ハープの弦を弾く。

 同時に、ハープから無数の白色の羽を纏った紫の竜巻が発生し、

 

『────女神の(カレス・オブ・ザ・)

 

 その指は鉄。その髪は檻。その囁きは甘き毒。

 

 朽ち果てろ────。

 

 

 

 

 

『────ハリケーン!!!!!』

抱擁(メドゥシア)────!!!!!』

 

 森林を染め上げる光と闇が、せめぎ合いを開始する────!

 

「私達も行こう!」

 

 ほんの一瞬だけ、時間を止める。

 キュアグレース、キュアフォンテーヌ、キュアスパークルの三人がキュアアースと肩を並べ、それぞれのヒーリングステッキにミラクルヒーリングボトルを装填する。

 

「「「トリプルハートチャージ!!!」」」

 

「「「届け!癒しの!パワー!」」」

 

 ヒーリングゲージを限界にまで高めていく。

 三人分の限界のエネルギー。その量は、彼女らの背面に巨大なオアシスを形成させるほど途轍もない。

 だが、それを無くしてシアは打倒出来ない。

 アースのヒーリングハリケーンを以ってしても、シアの宝具には敵わない。

 それは、フォンテーヌのヒーリングストリームが小柄であった彼女の宝具にかき消されたという前例があるおかげで判り切っていた。

 

 ────ならば、4人で繋げよう。

 

 ヒーリングハリケーンの力が劣るならば、足りない分を皆で満たしてみせよう……!

 

「「「プリキュア!ヒーリングオアシス!!」」」

 

 ピンク、水、黄。

 3色の螺旋状の光線が、シアに向けて放たれた。

 

「くっ……!」

 

 突き出した左腕が小刻みに震えだし、自然と後ろ足が後方に引きづられていく。

 段々と弾け飛んでしまいかねない痙攣を右手でがっしりと押さえつける。

 

「は、あ、ぅ……!」

 

 幾度もハープの弦を指で弾いて音を奏で、それにより竜巻の威力は強まっていく。

 強く弾きすぎるあまり、段々と銀色に輝く弦が赤く染まってきている。

 

「「「は、あ、あ……!!!」」」

 

 まだだ、耐えろ。諦めるな。

 ここで一瞬でも力を緩めれば、必ず敗北する────!

 

「────っ!!!」

 

 吼える。

 敵の宝具、そして此方が敗けてしまうという恐怖を押し返さんと両足を踏み込んで絶叫する。

 それは、長きに続いた両者の拮抗を破壊した。

 

「「「「はああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」

 

 禍々しき極光が打ち砕かれる。更に、周囲の森林を輝くオアシスに広げてみせた。

 多色の光がシアに襲い掛かって来る。その距離として15メートル、10メートル、5メートル、3メートルと止まることなく進んでいき、彼女を包み込もうとしている。

 対して、シアはその場で立ちすくんでいる。これでこの戦いは終わり────

 

「……何を、言っている」

 

 呟いた。

 彼女に押し寄せて来る光を、その石英の瞳でぼんやりと見つめながら、呟いた。

 

「……まだ、始まっても、いないだろう」

 

 そう言って、不意に自分の手の平を見つめる。

 ……違う、これは自分ではない。

 自分はこんな奴らに蹂躙されるためにここにいるわけではない。

 この姿は仮初めの姿で、自分が辿る末路は醜い怪物のはずだと、シアは何度もそう言い聞かせながら……自分の手を食った。

 

「は、はは、ハハハ────!」

 

 不味すぎて吐き気がする。

 おぞましくてめまいがする。

 面白くて、楽しくて笑いが零れる。

 もう、次第に何も考えられなくなる。

 

 戦いは続く。復讐も殺戮も終わらせない。

 嗚呼、始めからこうしておけば良かった。始めからやっておけば、あんなに苛立ちや恐怖なんて感情もなくなって、ただ楽しいことだけ考えられたのに……!

 

 そして、彼女は壊れていった。

 

「────融ケ落チロ!」

 

強制封印・万魔神殿(パンデモニウム・ケトゥス)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────裏切りなどはどうでも良いと思っていた。

 自分にこれといった影響がないのならば、誰が何とぼやいていようと関係のないこと。自分が楽して暮らせる場所を造れるのならそれでいいと思っていたからだ。

 だが、今の自分は違う。目の前の裏切り者に苛立ちを覚えている。自身の行動、計画に支障をきたすかもしれないと悟ったのだ。

 故に、我武者羅に拳を振るう。弊害を排除する為に、攻めかかった。

 

「ガ……!?」

 

 どうして、攻撃が当たらない。

 安直過ぎると思っているのか、何食わぬ顔で此方の行動を読み切ってカウンターを仕掛けて来る。先程からそれの繰り返しだ。

 

「……あの、さ」

 

 歩み寄って来るキロンに声掛けで制止させる。

 容赦ない立ち振る舞いからそう簡単には耳を傾けてくれないとは思ったが、想定よりすんなりその場で足を止めていた。

 

「前から薄っすら思ってたことだけど……お前、何者なの?」

 

「何者かと聞かれましても、回答に困るのですが」

 

「俺の邪魔をしてまで、何が目的なのかって聞いてるんだ」

 

「……途中までは貴方達ビョーゲンズと同じ、この世界を支配することでした。ですが、目的は違う。強いて言えば、“世界を1からやり直す“でしょうかね」

 

「世界を、やり直す────」

 

「「っ!?」」

 

 突然起きた異変に気付く。

 戸惑いを浮かべながら周囲を見渡すダルイゼンに対し、冷静にただ遠方を見つめるキロン。

 ────まるで、その異変が約束された予定調和のものだと言わんばかりに。

 

 異変は時が経つにつれて急激に増していた。

 まず心が崩れて、体が崩れて、最終的に存在も崩れていた。

 皮肉な話だ。自分の愛した姉達を守るために強者になろうとしただけなのに、結局は心を失った怪物に成り下がってしまったのだから。

 

『あ────、あハ────』

 

 自身の姿を見て、思わず声が漏れる怪物。

 彼女の長髪は無数の大蛇のように変貌。中でも目立つ4体の大蛇が主格だと思われ、他の無数はそいつらの量産型だろう。

 蛇の女王とも呼べる彼女の成長の成れの果て。ただ獲物を磨り潰す兵器と化していた。

 

『アッハハハハハハハハ!!!!!どうだ見たか獣人!!これが我の理想郷────我が描いていた世界だ!!!』

 

 そう怪物に嘲笑われたキロンは、時折悲しそうな表情で世界を遠くまで眺めている。

 

「そうか。これが貴女の答えなのか────」

 

 段々と鳴り響いてくる悲鳴の嵐。

 これより、世界は地獄に叩き堕とされて行った────。

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