ヒーリングっど♥プリキュア 〜医神と地球の戦士〜 作:ゆぐゆぐ
「そうか、お前がのどかから生まれたビョーゲンズだったのか」
しばらくして怪物を殲滅して戦闘を終えると、後からやってきたビョーゲンズ──ケダリーについて。また、のどか達の世界で起こっている現状を洗いざらい喋らせた。
正体を知った後で彼の顔を良く見れば、確かに左の目下にある花柄の模様もキュアグレースを彷彿させる。
ビョーゲンズの生態については良く分からないが、鳥がメガパーツを埋め込まれるなら鳥類のビョーゲンズが生まれ、人間であれば人間のビョーゲンズが生まれると考えれば道理だろう。どうして幼くなったダルイゼンのような容姿をしているのかは今は置いておく。
それより、のどか達は僕を取り込んだあの鎌女と戦闘を繰り広げている現状だそうだ。
ケダリーから聞いた人物像とは少しばかり大人びてはいたが、"完成"だなんだと言っていたことからそれに関連した強化を行ったのだろうと悟る。
「なら、早急に此処から抜け出さないといけないか」
「でも、かえりかた、わからない……」
「僕もはっきりとは分からない。だが、あいつを片付けないと何も進まないだろうな……」
あいつとは、真実の楽園で出会ったもう1人の"神医飛鳥"。
無茶苦茶で何を言っているのかも分からなくて、力づくで追い出そうとしても倒せないどころか、逆に翻弄されてしまったのだ。
とはいえ、飛鳥を倒さなければ元居た場所には戻ることは出来ない。
それに恐らく……自分のこれからにも繋がって来るかもしれない。このままだと、一生悪意や憎しみを背負って生きていくことにもなるだろう。
だが、答えが中々出てこない。何が正しくて、何が間違っているのかすらも分からない状況だ。
誰かに教えて貰うと言っても、今この場にいるのは僕とケダリーのみ。ビョーゲンズなんかに聞いたところでこいつが理解出来るわけがない。だったら、自分自身で答えを見つけ出すしか──。
『い、いやだぁ! まだ消えたくない!!』
『たたかい、いやだ、また、ころされる、たべられる……!』
──いや待て。そう浅はかに決めつけるのは良くないことなのかもしれない。
ビョーゲンズは一般的に悪意そのものだという認識ではあるが、一応そんな奴らでも感情はある。
特に、ケダリーは先の戦いで翻弄されたのか戦意を喪失。まるで駄々を捏ねるように戦いを拒んでいた。
経緯はどうであれ、ビョーゲンズにも心を持つ者はいるらしい。まあそれでも、僕達にとって有害な存在であることには変わりはないのだが。
それに、こいつは人間である花寺のどかの体内から生み出された存在。
彼女のことだ。可能性はかなり低いが、こいつの心の奥底にはのどかから僅かな感情を受け継いでいるのではないだろうか。
「……1つ聞く。お前にとって悪意とか憎しみって何だ? どうすれば、そいつを追い出すことが出来る?」
そう思ったが故に、思わず口に出してしまった。
対して、問われたケダリーはただ此方を見つめるばかり。
「……いってること、むずかしい、わからない」
「そうか……」
やはり、聞くのは酷だったか。
それも当然か。そもそも、あっちがどれ程の時間が経ったのかは分からないが、のどかの体内から放出されビョーゲンズとして誕生してからはまだ間もないはず。良い方向に向く可能性は寧ろ無に等しかったか──。
「……でも」
「ん?」
「ぼくのやどぬしにも、あくい、あった。キュアラピウスにも、ある。つまり、ぼくにもあって、みんなにも、ある?」
「っ!」
「だから、おいだすこと、できない? うーん、わからない……」
頭を抱えながら、必死に思考を張り巡らせるケダリー。
意外だった。いや、メガパーツを体内に入れられたことで芽生えたと考えれば道理であるが、まさかのどかにも悪意の感情があったなんて到底思うまい。それほど苦しい思いをしてでも僕のことを励ましてくれていたのか──。
「あと、だれかが、いってた。みんながそばにいるから、って。そのときのやどぬし、そのことばをしんじていいんだよって、いいきかせながら、ぼくをひっしにおいだそうと、した」
信じる──。
のどかは両親や友人がずっと見守ってくれていると思う自分の情念を貫いて、ケダリーを追い出した。
つまり、大切なのは他人を信じることよりもまず自分を信じて、その信念を貫くことだということだろうか。
『どいつもこいつも、飛鳥として見てない癖に馴れ馴れしくしてきやがって』
『僕は心の奥底にいるお前自身だ』
──僕は家族や友人に本当に信じて貰えてるのか。そんなこと、本気で考えたこともなかった。
『あんな奴らは、最初から信用しない方が良い』
もしかしたら、飛鳥の言っていたことは今でも心の何処かで思っていることなのかもしれない。
だが、そんな中で僕が辿り着いた答えは"自分を信じる心が大切"だということ。
以前の僕ならこの答えには辿り着かなかったし、仮に辿り着いたとしても意味も理解出来ずに切り捨てていただろう。
正直、今の僕でもこれが正解なのかと複雑な思いはあるが、それでも周りに家族や仲間がいるんだと強く感じることが出来る。
だったら、今の僕がやるべきことは──。
「「っ!?」」
その時、突然地面が激しく揺れ動く。
その揺れは、段々と大きく増してくる。この周りが崩壊してしまいそうなほどだ。
「あまり此処に長くはいられないようだな……おい、こっちだ!」
「う、うん!」
僕はケダリーを誘導してある場所へと駆け出す。
先程の、僕を真実の楽園へと連れ込んだ壁が見えて来る。今は紋章も光もなく、何も動じていない。次々と異変が起こり続けていたことを思い出すと、その様が妙に憎たらしく思う。
「『
それもあって、壁に思いきり閃光の矢を放つ。
一刻も早くあいつと──飛鳥と決着をつけなければ。
その思いが届いたのか、壁は閃光を包み込んで更に大きく光を差し込む。辺り一面を真っ白に染め上げてみせた。
「ったく、あの女が今大変だって時に懲りずに来やがって……」
徐々に光が弱まり、僕もケダリーも伏せていた目を薄っすらと開ける。
真実の楽園に辿り着き、目の前には"神医飛鳥"が小言を交えながら待ち構えていた。
「あれ、キュアラピウス、ふたり……!?」
唐突な出来事にケダリーはかなり困惑しているが、そうしている暇もなく僕と飛鳥が対峙する。
「何度やっても同じだ。お前に僕は倒せない」
「……そうだな。お前を力づくで追い出そうにも上手く行かない。動きも全部読まれてしまってるからな」
「その通りだ。お前のことは僕が一番良く理解している」
「なら、お前ももう分かってるはずだ。さっき決めたことを……」
「……あ? 知らないな、そんなもの」
「しらばっくれる気か……まあいい、ここは自分の真実を映す場所だったっけか? なら、直接お前に見せてやる」
そう言って、僕は片手を手の甲を上にするようにして胸の前へ置く。
目を瞑る。頭に思い描いたものを実物としてイメージさせる。
「……っ!」
瞬間、飛鳥の目の前──僕の背後に現れたのは一本の大樹。
楽園を護る守護神の如く、自然の広がる大樹が発現した。
「『神医飛鳥は誓います。永遠に友達でいることを』」
「お前……!」
「……はっ、どうだ。あの時は永遠なんて信じ切れなかったし何より小恥ずかしかったからな。ちゃんと誓ってみせたぞ」
「……だから何だと言うんだ、くだらない! 永遠なんて言葉で騙されてるだけだお前は!」
真っ向から否定する。
僕のイメージを懸命に振り払おうと怒鳴り散らすが、無駄な抵抗だ。これが僕が今ある本心、真実なのだから。
「思い出してみろ! あいつらは、お前を飛鳥として見てくれてなかった! 辛かっただろ、苦しかっただろ? お前を分かってやれるのは僕だけだ! あんな奴らなんか信じるな!!」
「……ああ、そうだな。でも、それよりも先に信じなきゃいけないものがある」
「あ!?」
「まずは、のどか達に信頼されてる自分を信じてみることにする」
「……っ」
「自分でさえも信じられなかったら、誰も信じられるわけないだろ?」
「……馬鹿馬鹿しい。認められるか、そんなもの」
僕の導き出した答えを聞いても、飛鳥は首を縦に振らなかった。
表情も眼差しも変わらず怒りと哀れみが入り混じった感情。
彼は汚いものを見るように僕を見据える。
「友達なんていなくてもどうにかなるって、父さんを超える医師になって見下してやるって言ってたあの時の飛鳥は何処に行ったんだ! あれこそがお前の本質、本当の神医飛鳥だったのに!」
「だったら、力づくで追い出してみるか? そんなこと不可能だけどな」
「……調子に乗るなよ、ニセモノ!」
『
感情をむき出しに、飛鳥はクロスボウを取り出して先手を打つ。
如何なる障害物も乗り越え、必ず敵の急所に命中する百発百中の矢。対象が如何に頑丈であろうと無視出来る程の威力。
そんな相手の宝具を、僕は矢に視線を送ろうともせず難なく躱して見せた。
「何故だ、お前があれを避けれるわけが……!」
「いや、そもそも標準がブレブレだ。感情的に打つからそうなる。少し落ち着け」
「うるさい、黙れ黙れ黙れェ!!!」
怒号と共に、大蛇が召喚される。
赤黒い眼をした漆黒の怪物。まるで、怒りの感情が湧き上がる飛鳥の意志を引き継いだかのよう。
暴走状態。敵味方の区別がついているかも分からない。ただ目の前にいた奴を対象として縦横無尽に駆け上がろうとする。
「……ケダリー、またお前を利用させて貰うぞ」
「え、っ?」
「驚くこともないだろう。まあ倒せまでとは言わんが、せめてあいつの尻尾でも叩いておけ」
そう言って、飛鳥の方へと駆けて行く。
ケダリーのことなら問題ない。先程まで戦意を喪失していたものの、この場面では戦いは避けられないとすぐに戦う覚悟を決めていたのだから。例の魔獣を倒せたのだから、僕が飛鳥を止めるまでの間であれを足止めするのも難しくないはずだ。
「く、あああああ──!!」
対して、飛鳥も接近を開始する。
技も戦法も全て真似されるから普段行うことのない接近戦を考慮したのだが、それすらも真似てくるのは想定外だった。相手もそれを考慮して行動に移したのだろうか。
とはいえ、それはそれで好都合。此方が有利を取れる自信はある。
何故なら、今の僕は今の飛鳥よりも冷静に対処出来るからだ。
「ぐ、ぬっ──!?」
相手から振るわれた拳を受け止め、カウンターの如く喰らわせた一撃。
もう1人の自分に、ありったけに力を入れた拳で殴り飛ばす。
それだけでは終わらない。
相手の拳をがっちりと掴んだまま、更に二撃。三撃。四撃。五撃。そして六撃──!
殴る、殴る、殴り続ける……!
今が好機、相手の戦意を停止させる絶好のチャンスなのだ──!
「っ、あ……!!」
ようやく、相手はもう片方の拳で殴りかかる。
それも拳を振るった手で受け止めてみせた。
そして、投げ飛ばす。
両腕を勢いよく振るって、相手を明後日の方向へと投げ飛ばした。
以降は、これらの繰り返しだ。
何度も殴りかかってくれば殴り返すし、掴みかかってくれば掴み返して投げ飛ばす。
負けられない。負けるわけがない。
今のこいつに、僕を倒すことは出来ない──。
「うあああああ!!!」
これが、最後の一手。
お終いにしよう──。
「はあっ!!」
「っ!?!?」
響き渡る轟音。
顔面に衝撃が走り、勢い良く吹っ飛ばされる飛鳥。
反動で激痛が迸り、震える自身の拳。
そして、徐々に消滅していく漆黒の大蛇。
キュアラピウスの、勝利である。
「どうだ、少しは頭冷えただろ」
うつ伏せの状態で微動だにしない飛鳥に声を掛ける。
顔を伏せているので表情は伺えないが、微かにすすり泣く声が聞こえてくる。
「……どうしてだ。あんなに苦しまされてきたのに……」
「こいつ、また……!」
「安心しろ。もう戦えやしない」
よろけながらも立ち上がり此方を睨み付ける彼を見たケダリーは再び警戒するも、それを僕が制止する。
こんなボロボロの身体で僕に立ち向かえるわけがない。そんなことは、彼が一番理解しているはずだ。
「お前は、僕が邪魔なのか? だったら僕は一体何だったんだ!」
「寧ろ逆だ。お前がいたから僕は強くなれた。お前がいなかったら、自分を信じるなんて考えは出てこなかっただろうな」
「じゃあ、僕はもういらないのか!? だったら、僕は……どうすれば良いんだよォ!!!」
そう言って、飛鳥は此方に向かって多少よろけながら走り出す。
涙が溢れ出ている。消えたくない、いなくなりたくないと子供のような無邪気な抵抗。
「あ──」
「……そんなの決まってる」
──思わず、抱き留めてしまうくらいだった。
回した腕は、酷く頼りない。
何せ、自分からはしたことがないのだから加減が曖昧なのだ。強く抱きしめることも出来なければ、抱き寄せることも出来ない。
僕が出来るのはただこうして、傍にいてやる事だけだ。
「僕と一緒に、"神医飛鳥"として生きろ。お前も僕なんだから」
「っ!」
「知ってるか? 悪意とか憎しみっていうのは誰にでも持ってる感情らしいぞ? だから、僕はそれも全部受け入れて生きていくことにする」
息を呑む音。
暴れたりして抵抗することなく、飛鳥はその場で制止して困惑している。
罪悪感、後悔──この一瞬で彼は如何なる感情を抱いているのだろう。
それを否定するように、僕は精一杯の気持ちを告げる。
「……今まで色々と迷惑かけたな。ありがとう」
そう言って彼の背中を叩き、抱き締める腕力をほんの少しだけ強める。
この感謝の気持ちは、今一番の本心であると告げるように。
「……」
僕のちっぽけな行動にどれだけの効果があったのか。
あれだけ感情的で荒々しかった飛鳥の強張った身体から力が抜け始めていた。
刹那、僕達の周りを二匹の蛇が囲んでいく。
漆黒の大蛇と純白の大蛇。
まるで優しく抱いて温もりを感じさせる母のように、また初めて僕が変身した時と同じ温もりを与えながら優しく包み込む。
同時に、辺り一面に光が放たれる。
心が洗われるような感覚が、そして力が高まっていくような感覚が伝わってきた──。
----
赤黒い空を照らす黒い太陽。
地上で響き渡るは悲鳴の嵐。怪物の能力によって生み出された幾億の蛇が、人間達を逃すことなく丸呑みにしていく。
そこには負の感情しかない。どれだけ人間に哀れみの感情を持っていたとしても、それより先に空腹が勝る。故に、人間達を潰して自らの一部とするのだ。
呑み込んだモノは跡形もなく、以後は血液となって怪物を動かし続ける。
その瞬間が彼女にとっての至福の時。久方ぶりの御馳走に笑いが止まらないでいた。
そしてこの先も耐えることはない──そう思ってたはずなのに。
『ッ、アアアアア!?!?』
突然、怪物の身体に激痛が迸る。
あまりの痛みに自分の状況を冷静に分析することも出来ず、片手を地面に置き片手で口元を覆って嗚咽を混じりながら悶え苦しんでいる。
早くどうにかしなければ──怪物は口直しに誰かを貪ろうと、徐々に静寂と化している周囲を見渡す。
「お父さん! 起きてよお父さん!」
見つけた。
怪物の瞳に映ったのは、気を失った1人の中年男性を1人の少年が揺さぶっている構図だ。
──もう誰でも良い。何人でも良い。それが自分の一部として満たされないモノであっても良い。この痛み、苦しみを一刻も早く抑えてしまいたい。怪物は蛇共に飲み込ませようと命令を下した。
「っ!?」
海中を飲み込む波のように近づいてくる幾多の蛇に気付いた少年はあまりの衝撃で尻餅をついてしまう。
それがやがて自分達に降りかかってくるだろうと理解しているのだが、足が思うように動かない。非現実的なモノに対する恐怖感と父親を野放しに出来ないという使命感に駆られ、すくんでしまっている。
「うわあああ!」
その間にも蛇の接近は止まらず、少年が顔を両手で覆って叫び出す。
やがて舌先が触れ、飲み込まれる寸前で──蛇が突如消滅した。
「……え?」
突然の事態に素っ頓狂な声を上げる少年。
無理もない。この混沌とした暗闇の中で、今目の前にそれを消し飛ばせることが出来そうなたった1つの"光"が現れたのだから。
「……ったく、世界がとんでもないことになってるというのにあいつらは何やってるんだ」
そう呟きながら身に着けていた黒帽子とガスマスクのような仮面を取り、束ねていた髪を解く青年。
外科医が着用する服に似た黒服に、指先を青に染めた手袋。左手には杖を右手にはメスを持参しており、"光"とは言えども確かに恰好は少しばかり禍々しく見える。しかし、彼がなびかせる銀色の長髪がそれを感じさせないほど美しく、少年は魅了されていた。
「……おい」
「っ!」
唐突に声を掛けられ、少年は身体をびくりと震わせる。
見上げると、青年が背後にいる父親を真剣な眼でじっと見つめている。
「……その人はお前の父さんか?」
「う、うん……」
「そうか。なら話は早い」
そう答えを聞くと、蛇が襲い掛かってきた方向へと再び振り向いて遠くの怪物を見据える。
怪物の大きさにして1キロはあるだろうか。奴に近づけば、視界に広がるのは禍々しき神殿の筈だ。
あれこそがこの地獄の元凶。そして、この戦いの始まりにして終着点。
これ以上、罪のない人達を犠牲にさせるわけにはいかない。その為にも、目の前にある悪夢を断つ──。
「……っ、お父さんを助けてくれるんじゃないの!?」
「悪いが、こうしている内にもあいつらに苦しまれ逃げ続けている人達が大勢いる事態だ。1人1人に時間を要している暇はない」
「そんな……!」
「……だから、お前が父さんを守れ」
「っ!」
「散々父さんから守られたり助けられたりしてきただろ? だから、僕がお前のことも守る代わりにお前が家族にとっての"
「……うん!」
少年はしばらく黙って青年と父親を交互に見据えた後、意を決したように大きく頷く。それを見届けた青年が自然と安らかな表情を浮かべながら、少年を置いて怪物の方へと進みだして行った。
『これより、オペを開始する──!』
新たな決め台詞を交えながら、待望のキュアラピウス強化形態のお披露目となりました!
お披露目ということもあって主な活躍などは次回にお預けということになりましたが、ご期待に応えられるように気長にお待ち頂けたらと思います。