ヒーリングっど♥プリキュア 〜医神と地球の戦士〜   作:ゆぐゆぐ

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第40節 一時の気分転換(前)

 

「本当に、申し訳ありませんでした」

 

 僕はのどかの病室にて、両親に深々と頭を下げる。周りには僕やのどかの両親だけでなく、ちゆやひなた、アスミもいた。

 あの騒動から急いで神医総合病院へと戻り、のどかは両親や医師に体調が良化したという旨を伝えた。僕が病室を飛び出してから今に至るまでおよそ1、2時間が経過したと考えると、それまでとは見違えるくらい顔色を良くした彼女を見て、両親は勿論、仮面を被っているのかと疑われるくらい冷徹な表情の持ち主である医師も流石に唖然としていた。

 同時に、2度目なこともあってかまた体調を悪くするのではないかと不安を募らせていたが、のどかは仮にそうなったとしても負けないように全力で病気と闘っていくと決意を固めたことに、彼女の両親はただギュッと彼女を抱き締めていた。

 

 さて、次は僕の番だ。

 この件に関しては、頭の中で冷静に考えて僕が悪いという結論に至った。どれだけのどかのことが心配だったとはいえ、面会には時間という"ルール"が設けられた上で行われている。病気がいつどのタイミングで悪化するかも分からないリスクもある中で、僕は自分勝手な物言いでそれを否定したのだ。そんなルールも守れない、それに仲間の苦しみが悪化することも考えていない人間が医師になるなど、くだらない夢と言われたところで間違ってはいない。それで感情的になって家族を怒鳴って殴りかかるなんて以ての外だ。下手したら家族関係を断たれてもおかしくない。

 そんな思いで、僕は誠意を込めて謝罪した。

 

「……でも、だからといって夢を諦めたわけじゃない。これからも、どんな病気も治せる医師を目指して精進してみせます」

 

 同時に、僕も決意を固めた。

 頭を上げると、その言葉に母さんは何も告げることなく優しく微笑んでくれた。対して、父さんも何も言わずに僕の瞳を一心に見つめている。

 

「……そうか」

 

 そして、ただいつもの一言だけを残して僕達に背を向ける。

 病室の入り口まで歩いていくと、そこで一度足が止まり再び振り返った。

 

「……"俺"も、発言が軽率だった。謝罪させてくれ」

 

「っ……!」

 

「失礼します」

 

 そう言って深々と頭を下げ、挨拶を告げて病室を後にした。

 意外過ぎて心が揺らぐ。当然、医師という仕事に就いているにはこういった誠意は必要不可欠であるにしろ、まさかこの人に頭を下げられるなんてと面を食らった。

 だが、嫌な気分にはならなかった。重圧に押されていたおかげで、張り詰めた緊張感が消し飛ぶように和らいでいった。

 

「あ、そういえば!」

 

 僕とのどかの騒動が一件落着したことに周囲が安堵している中、母さんは何かを思い出したように両手を叩き、制服のポケットから数枚の紙を取り出す。

 

「この前のテーマパークの記念キャンペーンの抽選でね、無料クーポン5枚分が当たったの!せっかくだから皆にあげる!」

 

「え、本当に!?」

 

 差し出されたクーポンに、ひなたが豪速球で食いつく。

 曰く、この紙は抽選で僅か数名様限定とのこと。入場料、食事代などこれを差し出してスタンプを貰えば全てが無料となるとんでもない代物。

 両手の十本指に入る程の確率を身近な人が引いたとなれば、「ありがたや~」と神を崇め奉るように感謝の意を示すのも分かる気がする。

 

「でも、母さんが欲しくて引いたんだろ?良いのか?」

 

「良いの良いの、元々皆に渡す予定だったから。のどかちゃんの退院祝いでもあるしね」

 

 まあ、クーポンは丁度ここにいる5人分だから貰えるのは有難い。だが、こんな凄い物を貰ってしまうと逆に申し訳ない気持ちも芽生えて来る。

 

「それに、私が欲しかったのはその上のマスコット超ジャンボぬいぐるみだから!」

 

「……マジか」

 

 マスコットって確か、棍棒を片手に持った蛮族みたいな服装の熊だったはず。

 ラベンだるまといいコレといい、母さんが可愛いとか好きと思えるものって少しズレている気がする。

 

「分かる~、あれめっちゃ可愛いよね!」

 

「えっ」

 

「あっ、この子!?本当だ、可愛い~!」

 

「あのつぶらな瞳がまた良いわよね……!」

 

「皆さんがそこまで仰るなら、よほど愛らしいキャラクターなのでしょう」

 

 ──どうやらズレているのは僕の方らしい。

 今一度そいつを見てみたけど、そこまで過剰に評価されるほど愛くるしいのか。男女の感性に差はあるということを証明された瞬間でもあった。

 

「……いや、これならボクの方が可愛いと思うんだけど。ねえ?」

 

「50:50」

 

「うそん!?」

 

「まあとにかく、これは有難く貰うよ。日程とかプランとかは追々決めていく感じで良いか?」

 

「うん!楽しみだね、飛鳥くん!」

 

 ──だが、この時は知る由もなかった。

 

「……ねえねえ、あっくんママ。ちょ~っとよろしくて?」

 

 神医飛鳥が、周囲の罠にハメられていることに──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ビョーゲンキングダム。

 

『グアイワル、ダルイゼン。メガパーツを使った試みはどうだ?』

 

 ビョーゲンズの王と呼ぶべき存在、キングビョーゲン。本来はあまり顔を出すことはないのだが、幹部が利用しているメガパーツの実験結果の報告を聞くべく3人を招集させた。そのはずなのだが、キングビョーゲンが呼んだ名前にシンドイーネの名前は入っていない。

 

「少しずつ結果が出てきているところです」

 

「こっちもそんな感じかな」

 

「はーいキングビョーゲン様!私もメガパーツを使って──」

 

『特にダルイゼン。お前のテラビョーゲンを増やすという試みは実に興味深い』

 

 シンドイーネの話には耳も傾けずに軽々とぶった切っていく。

 誰もそれに突っ込もうとせず、淡々と話は進展する。

 

「はいは~い!このシンドイーネもキングビョーゲン様の為に──」

 

『だが、キロンが裏切ったことは実に腹立たしい。奴を見つけ次第、此処に連れ戻せ。この私が天罰を下してやろう』

 

「はっ!」

 

「了解、っと……」

 

「お、お待ち下さいキングビョーゲン様!私とのお話がまだ──」

 

 少々荒げた声で言い残すと、キングビョーゲンは幹部の視界から姿を消して行った。

 

「そ、そんなぁ……」

 

「フッ、役に立たない者の姿はキングビョーゲン様には見えないようだな」

 

「ッ!」

 

 上から目線で言い放つグアイワルに、シンドイーネは思わず唇を噛む。

 だが、それは事実。この中でもメガパーツを利用してテラビョーゲンを生成させたダルイゼンがずば抜けて成果を上げている。グアイワルもそれには劣るものの、プリキュアを戦闘不能寸前にまで追いやったという一応の成果はある。

 対して、シンドイーネはメガパーツを使ってもあっさりと仕留められず、目立った成果を上げられていない。故に、キングビョーゲンにとっては眼中もないということなのだ。

 

「まあ成果云々はさておき、またメガパーツを取りに行くか」

 

「いいや、私が行くわ」

 

 腰を降ろしていたダルイゼンはゆっくりと起き上がり、再び成果を上げるために人間界へと足を運ぼうとする。その道を、シンドイーネが通せんぼして塞いでいく。

 

「……どいてくんない?」

 

「だから、私が行くっつってんの!あんたたちはここでお留守番してなさいよ!」

 

「お前が行ってもボコボコにされて帰って来るだけじゃん。足手纏いは足手纏いらしくおままごとでもしてなよ」

 

「ぐぬぬぬぬ……うるさいわね!だったら、あんた達よりも……いや、どん底からその倍の成果を上げてキングビョーゲン様を振り向かせて見せるわよ!」

 

更に不機嫌さを増しながら、シンドイーネは瞬時に人間界へと移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「集合時間5分前なのに、どうして誰も来てないんだ……」

 

 いよいよ、作戦決行の時が訪れる。

 ~ここからは、遠くで浮遊しながら傍観を続けるポポロンの提供でお送りします~

 

 まず、話は前日に遡る。

 

『飛鳥とのどかのストレス解消デート作戦?』

 

 のどか、ちゆ、アスミが初めてその単語を聞いたのは、平光アニマルクリニックの付近にあるカフェで集まった時だ。

 そこにはのどかはいるが、飛鳥はいない。集まったメンバーは3人に加え、作戦を提案したひなたと、飛鳥の母である照美の5人だ。

 

『そう!最近のどかっちはらしくないし、あっくんもずっと考え込んでる感じじゃん?だから、2人っきりのデートにしようって決めたの!』

 

『デート……というか、普通に皆で遊ぶじゃ駄目なの?』

 

『ただ遊ぶだけじゃつまんないじゃん!』

 

『えぇ~……』

 

 のどかからすれば中々の暴論だ。

 別に、飛鳥といることは全く悪い気はしないし寧ろ楽しい。だが、せっかく遊園地に行くのであれば大人数で行った方が楽しいのではないかと、あわあわと顔を赤らめながら疑問を浮かべる。

 

『大丈夫大丈夫、あたし達もスマホという名の遠隔操作でエスコートしながら尾行するから!』

 

『それなら私も賛成です。ちょうどその日、テレビで見てるヒーローアニメのショーが行われるそうなので』

 

『アスミちゃ~ん!』

 

『飛鳥とのどかの二人っきりのお出掛け……確かに興味深いわね』

 

『ちゆちゃ~ん!』

 

 自分に賛同してくれると思っていたアスミとちゆでさえもひなた側についてしまい、結果的に誰も自分を擁護してくれる者がおらず、「うぅ……」と声を漏らして縮こまってしまう。

 

『でも、ちょっと自信ないかも。飛鳥くんが私といて楽しんでくれるのかなって』

 

 結局、のどかは飛鳥の悩みを手助け出来なかったと思い込んでいる。

 飛鳥の悩みは彼女の想像を超えるものだったのだ。目の前で聞いた友人の怒号、それを意地でも止めようと叱責する友人の母親。とてつもない親子喧嘩の現場を見て、上手く言葉を発せなかったしその場から動くことも出来なかった。仲直りしてくださいの一言でも言えたはずなのに、何も出来なかったとのどかは自分を責めていた。

 

『……のどかちゃん』

 

 そんな彼女に、照美は頭を撫でて優しく声を掛ける。

 

『大丈夫よ。あれだけのどかちゃんのこと心配してたんだから、のどかちゃんが思うより飛鳥は思ってないはず。自信もって良いと思うの』

 

 それは、ずっと彼の側にいた母だから断言出来ることなのだろう。その瞬間、説得力のある言葉のおかげでのどかは意を決したという表情を見せた。

 

『分かったよひなたちゃん。私、頑張ってみる!』

 

「「交・渉・成・立!!」」

 

 ということで、我らは作戦を実行する態勢へと入った。

 念の為、彼に気付かれないように皆してカツラを被ったりサングラスを掛けたりと変装はしているものの、現地集合である故に端から見れば公の場で良く分からない言葉を大声で発している少し頭のおかしい奴ら(ひなた&照美)と思われてそうだ。というか、この時点で色々とツッコミどころはあるわけで──。

 

「照美さんも来られていらしたのですね」

 

「あの子が女の子とデートするってなったら、来ないわけには行かないじゃない?」

 

 サングラス越しに左目でウインクしながら答える。

 向こうからしたらデートさせられてるって思いそうだ。どちらにせよ、息子の色恋沙汰を傍観して楽しもうとする母親なんて中々存在しない。

 ツッコミたい箇所はまず1つ。もう1つは──。

 

「……今日のひなたの髪の毛、なんか異様な立ち方してない?」

 

「うぇ、またアンテナ立った!?」

 

 金髪のカツラ越しではあるが、よく見ると茶色の髪の毛が下敷きで擦られたあとの静電気の如くピーンと上に伸びている。

 ひなた曰く、これを"アンテナ"と呼んでいるそうだが、確かに不自然過ぎる立ち方だ。

 

「朝起きたらものすんごいボサボサになっててさ。寝癖にしたってもうアフロに近い感じになってたから梳くのに1時間は掛かったんだよね。それにドア開けようとしたら静電気がバチバチ流れてきたりして、もう散々だよ~!」

 

「た、大変だったのね……」

 

「……恐らく、エレメントの力の副反応でしょうか」

 

「「副反応?」」

 

「はい。私のような精霊はエレメントの力を使っても特に大したことは起こらないのですが、普通の人間が過剰に使ってしまうと起こる症状です」

 

『確かに、アースみたいに力を身に纏って戦うことはプリキュアである君にも出来る。ただ、君の場合……いや、ニャトランにもかなりの負担が掛かるかもしれない』

 

 以前、ポポロンが忠告した事象は概ねこういうことだ。エレメントの力を身に纏うと相応の強力な力を持つことが出来る反面、かなりのリスクを得る可能性が今ここで訪れていた。

 また、その症状はエレメントの力によって異なる。雷のエレメントの場合、一定期間で身体中に静電気を浴び続けるといったところか。とはいえ、言わば症状は軽症とも言える。落雷を喰らうのと同様の反動が起こり得る可能性だって考えられていた故、ある種運が良かったと思うべきだろう。

 

「じゃあ、これどうすれば治るの?」

 

「1日経てば治るんじゃないかなと、ポポロンが言っておりましたが」

 

「え、何でそんな曖昧なの……」

 

 眉間に皺を寄せて不満な表情を抱くひなた。

 まあ、人間がエレメントの力を身に纏うなんて前例は今までなかった故、良く分からないのだ。

 

 その時、突然"ピロリン"という音と共に各々のスマホから通知音が鳴り出す。

 

「お、のどかちゃん来たよ!」

 

 照美が指差す方向の先には、スマホを持ちながら両手を後ろへ組んで飛鳥へと歩み寄るのどかの姿。おめかしも気持ちも整えて、ややおそるおそるに足を運んでいく。

 ──始まりの時が、訪れた。

 

 Phase 1 ~誘導~

 提案者:平光ひなた

 

 簡単に言えば、対象を自分に注目させようと振り向かせる作戦だ。

 飛鳥は今も皆が来ると思い込み、スマホを片手に辺りを凝視している。のどかが来たとしても「あいつらまだ来ないな」と意識がそっちに向いたままだろう。その意識をのどかに方向転換させるよう、ひなた達が台詞をLI○Eという名の遠隔操作で書き込んでいき、のどかがそれを扱いながら行動に移していく。

 

「お待たせ、飛鳥くん」

 

「ん、のどか、か……」

 

 のどかの挨拶に飛鳥が振り向いた途端、動きが石化するように固まる。

 彼女の私服が大きな要因だろう。胸の辺りにピンクのリボン、膝まで見えたピンクの花柄のスカートに白のフリルがついている。動きやすい服装にしたのもあるだろうが、大きなテーマパークにお出掛けするということで普段とは違っていつもよりファッションを決めて来ていた。

 

「新しい服着てみたんだけど、ど、どうかな……」

 

「……ああ悪い。雰囲気が全然違っていたんでな。その……上手く言えないけど、凄く似合ってる」

 

「っ、良かった。似合ってないって言われたらどうしよっかって思ったよ」

 

 ぎこちない感想。

 もっと気の利いたことを言うべきなのだが、本心であるのは確かだし当人も嬉しそうに笑みを溢しているのでここは一旦目を瞑ろう。

 

「っ──」

 

「……どうしたの、飛鳥くん?」

 

「どうしたって──どうもしないけどさ」

 

 ──何というか、まさか服の感想を聞かれるとは思わなかったし、上手く感想言えなかったのにそんな笑顔でいられると色んな意味で恥ずかしくなるだろ。

 

 のどかの太陽さながらの眩しさに、飛鳥は思わず顔を真っ赤に染めてクラッと一瞬だけ目まいを起こす。

 この男は我々の想像よりも恋愛関連の耐性がないのかもしれない。それはもう倒れそうにもなるくらいに。

 

「そうなの?具合悪かったら無理しないで言ってね?」

 

「いや、せっかくテーマパークに来たんだからリタイアなんて出来ない。ところで、その服って自分で選んだのか?」

 

「うん。ファッションのことはちょっと分からなかったから、ひなたちゃん達に任せたんだ。皆が選んだものから私が良いなって思ったものを着るって感じで──」

 

 ここまで言った途端、言いづらそうにごにょごにょと口篭もる。

 

「……ん、どうした?」

 

「う、ううん。あのね、最初は動きやすい服を中心に2着に絞ってそこからまた選んだんだけど……な、何となく今着てる服の方が飛鳥くんに似合うって言われるかな、って……」

 

「「「ゔっ!」」」

 

 不安そうに見上げてくるのどかを目撃したアスミ以外の仕掛け人共は、まるで心臓を貫かれたようなドスい声を漏らす。対して、アスミは純粋な眼差しでジッと現場をガン見している。

 

「……そうか、それは嬉しいな」

 

「っ、私も嬉しい!」

 

 気付かれないように急いで他人のフリをしたものの、どうにもニヤニヤが収まらないでいる。

 実際、これは一応送った台詞概ねそのままであるが、大体はアレンジされている。というか、本心によるアドリブかもしれない。仮にあれが演技だったら秒で主演女優賞もぎ取れるレベルだと思う。

 だが、そんな甘い世界はずっと続くのだろうか。いつしか苦くなってしまうのだろうか。そんな不安はこの瞬間に過った──。

 

「……そういえば、あいつら遅すぎないか。アスミとかお前と一緒に来るもんだと思ってたんだが」

 

「え」

 

「「「嘘でしょ……」」」

 

 一同、そこに戻ってくるのは予想外だった。

 服のことを聞いたりして、上手くのどかに意識を持っていると順調だった矢先に、フッと我に返ったかのように飛鳥は地雷を踏んでいった。

 上がっていた口角も一瞬にして下がり、仕掛け人らはジト目で彼を見据える。軽蔑まではいかないが、物凄くモヤモヤする感情を抱いた。

 同時に焦りも感じている。特にこうなるまでの対策を何も考えていなかったからだ。

 

「……ねえ飛鳥くん。先に行ってようよ」

 

 と、のどかはやや強い口調で飛鳥に言い放つ。

 

「いやでも、流石にそろそろ来るんじゃ」

 

「良いから!行こう!」

 

「っ……!」

 

 抵抗する彼の腕を強引に掴んで遊園地の中へと引っ張っていく。

 

「お、おい待て。一旦落ち着いてくれ。怒ってるのか……?」

 

「怒ってないし、落ち着いてるもん!」

 

 などと言うが、絶対のどかは怒ってると思う。或いは嫉妬か。彼女の今の行動は飛鳥は勿論、尾行組にも口をあんぐりさせるほど衝撃を受けた。

 まあ何はともあれ、園内に引きずり込むことには成功したので、次の作戦へと移る。

 

 ──あ、コーヒーカップの方に行っちゃった。

 

 

 

 

 

「ふわぁ~、何か鬱憤が晴れたって感じ!」

 

「そうか、良かったな……ぅぷっ」

 

 尋常じゃないくらいの勢いで回されたおかげで一瞬口を両手で覆って吐きかけた飛鳥であったが、間髪入れずに次のアトラクションへと足を運ぶ。

 

 Phase2 ~お化け屋敷~

 提案者:沢泉ちゆ

 

『アトラクションと言えば、これが無難じゃないかしら』という理由で決まった作戦。

 飛鳥は性格上ホラー耐性はついていると断言できるが、のどかに関しては正直未知数で本人も割と曖昧な回答をしていた。なので、ここは純粋に楽しんでくれば良いという、ちゆの優しさが滲み溢れた案だった。

 

「……ちゆちー、マジで行くの?」

 

「ええ、どうして?」

 

「……だってここのお化け屋敷、"全国最凶お化け屋敷ランキング"で5本の指に入るレベルなのよ?私も飛鳥と行ったことあるけど、ずっとあの子にしがみつきっぱなしだったもん」

 

 そう気負いしている尾行組の裏で、デート組は流れるように入っていき1枚の紙を貰う。

 

 ──貴方の隣の席にいるのは、おっとりとした普通の女の子。

 いつも貴方に話しかけます。しかし、他のクラスメイトと会話をしているところは見たことがありません。

 そんな彼女ですが、ある日突然机の上に手紙を置いて姿を消してしまいます。

 手紙の内容はところどころ文字が抜けている1通のラブレター。

 それに伴って起こる様々な謎を解き明かしながらラブレターを解読し、彼女を見つけ出さなければなりません。

 お友達と協力するのも有り。しかし、くれぐれも気をつけてください。

 もしかしたら────かもしれませんから。

 

 意味深なナレーションを聞きながら、貰った紙の内容を確認する。

 確かに、絶妙な箇所に文字が抜けている。これを最大2人までの人数で解き明かせというアトラクションだそうだ。

 

 なので、尾行組はちゆとひなたペア、照美とアスミペアに分かれて恐る恐る屋敷の中へと入っていく。

 

「えーと、これはこうで良いのよね」

 

「……ちゆちー解くの早すぎない?もうちょいゆっくり解いて行こうよ!?」

 

「僕は早く終わりたいペエ、ここ怖すぎるペエ!」

 

「私はどちらでも良いのだけれど……」

 

 そう言って、ちゆはある方向を指差す。

 

「凄いね飛鳥くん、すらすら進んでる」

 

「以前も行ったことがあるからな。かなりうろ覚えだけど」

 

 ──ここはお化け屋敷なんだから淡々と行かずにもう少し躊躇ってはくれないものか。

 とはいえ、こういう状況ならば致し方ない。怖いけど、進まなきゃ尾行の意味がない……。

 

 ザァァァァァ!!!

 

「ぃぎゃあああああ!!!」

 

「ペエ”エ”エ”!!!」

 

「大丈夫、テレビの砂嵐よ」

 

「やだ!無理!怖い!ちゆちー助けて~!」

 

「あはは……」

 

 ひなたに抱きつかれ、ぺギタンに右目を被せられるちゆ。

 ここまで怖がっていたら尾行どころじゃない。思わず笑みを溢しながらぺギタンをポケットにしまい、離れないひなたを引きずるような形で先に進んでいく。

 そういえば──。

 

「……アスミ達は?」

 

 先程までちゆ達のすぐそばにいたはずなのに何処にもいない。

 先に行ったとは考えられないこともないが、どちらかと問われるなら前の場所で詰まっているという考えを推したい。

 

「照美さん、この文はこれで合っているのでしょうか?」

 

 その予想は的中している。

 アスミの場合、この世界兼この国における言葉の読み書きを勉強している最中であり未だ人並みより乏しい。それでも生きるためには最低限の言葉でも覚えておかねばと、このアトラクションの謎解きを率先している。

 それを照美が側でフォローすることを任されているのだが、何時何処で仕掛けて来るか分からない故、周囲に怯え続けていて謎解きどころではない様子だ。

 

「う、うん。合ってるよ~。だから……もうちょ~っとだけペース速めて貰っていい?あ、何だったらリタイアでも」

 

『ア"ア"ア"ア"ア"!』

 

「いやあああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

「ふわぁ~、楽しかったね!」

 

「まあそれなりに……にしても、最後の怒涛の脅かしに良く怖がらなかったな」

 

「うん。でも、女の子の正体が主人公を地獄に叩き落そうとする魔女だったってところは凄く怖かったけど」

 

「……え、そこ?」

 

 結局、このお化け屋敷のストーリーのクライマックスは襲い掛かって来る魔女から身を守って生き延びようとする逃走劇であった。

 だが、のどかにとってはその前の描写の方が怖かったという。正直、ストーリー自体もそうだが中々にSF感があって見方によってはギャグのようにも思えてしまう。だからこそ、そんなギャグ展開を帳消しにするような怒涛の仕掛けが待ち望んでいる。それが、このアトラクションの魅力でもあるのだろう。

 

「……良い時間だし、何処かで休憩でもするか」

 

「そうだね、そうしよっか!」

 

 こうして、デート組は次の場所へと足を運んでいった。

 

 

 

 

 

「やーっと外の世界に出れた……!」

 

 間もなくして、尾行組も無事に脱出する。

 ひなた達が大声を出しまくるおかげで尾行どころじゃなかったものの、ちゆにとって彼らに何か特別な展開があったわけでもなさそうだった。純粋にアトラクションを楽しんでいて、正に普通だった。

 

「アスミンもあっくんママもお疲れ~……」

 

「お疲れ様でした。中々にスリルがあって楽しめました」

 

「え、マジで楽しかったの……?」

 

「はい。特に照美さんがお化けを倒す瞬間がとてもカッコ良くて……!」

 

「お化けを倒す……?」

 

「……えっと、ビビり過ぎてスタッフさんぶん殴っちゃった」

 

「「えぇ……」」

 

 てへっと拳を頭部にぶつけてあざとさを見せる照美に、ちゆとひなたはただ困惑するしかなかったのだった。

 

 つづく。

 

 





次回でオリストは最終回となる予定です。
オリストが山頂だとして、そこからは終盤まで下り坂になるのかなーと考えています。
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