ヒーリングっど♥プリキュア 〜医神と地球の戦士〜   作:ゆぐゆぐ

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間抜けな面を見せて、3年越しに更新させていただきます()
すみません、流石にエタりすぎました。


第43節 羽ばたけ、何処までも(前)

 

 "運動の秋"、またの名を"スポーツの秋"。

 そういった健康に関するテーマが掲げられているこの時期、すこやか市にある競技場では『秋の対抗陸上大会』が開催されている。市内の中学校からそれぞれの競技の代表の陸上選手が全力プレーで競い合っていた。

 陸上部と言えば、当然ちゆもそれに出場している。勿論、すこ中のハイジャンプ代表としてだ。

 

「ちゆちゃ~ん!」

 

「いっけぇ~!ちゆちー!」

 

 ハイジャンプは観客席の目の前で行われるので、選手に直接的に声援を届けやすい。ちゆの出番を迎えたところで、のどか達は以前作った横断幕を広げて大声で応援する。

 その応援を背に、スタンディングスタートで助走をつけ始める。

 

「……っ!」

 

 リズムの良い駆け足で高く設定されたバーに近づき、力強く足を踏み込んで跳んでみせる。彼女の身体はバーの上を行き、マットへと着地するとバーが崩れていないことを確認する。

 

「「クリアー!!」」

 

 僅か1秒にも満たない瞬間、審判が白旗を上げたことでのどかとひなたは歓喜する。喜びを共有する者、選手に暖かい声援を送る者、盛大な拍手を送る者など喜び方はそれぞれだった。

 

 だが、競技は止まることなく進む。

 係員がちゆの跳んだ高さを記録すると、今度は彼女が跳んだ高さよりも数㎝ほど高い位置にバーを設定する。

 

「西中、高美ツバサさん」

 

「はい!」

 

 次の挑戦者は、西中代表の陸上選手である高美ツバサ。ちゆが跳んだ高さは彼女も成功しており、それよりも高い位置に挑戦する。

 

「……っ!」

 

 同じくスタンディングスタートで助走をつける。先程よりも駆け出す速さに勢いがあるのだが、跳び越えるにはあれが相応のものなのかもしれない。

 バーに近づいたところで足を勢いよく踏み込み、華麗に跳び越えたように思われた。

 

「くっ……!」

 

 しかし、片足がほんの少しだけバーに引っかかってしまい、それによってバーが落下してしまう。赤旗を振られ、高美はこの高さに失敗してしまった。

 

「これ、ちゆちーが跳べたら優勝じゃん!」

 

「ふわぁ、ドキドキする……!」

 

 ひなたの言った通り、ハイジャンプは1ターンゲーム。一度の挑戦を交代で行っていく。

 つまり、ここでちゆが跳ぶことに成功すれば優勝することが出来る。高美が失敗したことでかなりプレッシャーを与えられることになるだろうが、それをどう克服するかが鍵となる。

 

「ちゆ、しっかりペエェ……!」

 

「ペギタン、見ないのですか?」

 

「心配で見てられないペエェ……」

 

 観客席のベンチの下で、ペギタンも目を両手で覆いながら声援を送る。だが、ラビリンとニャトランが意地でもパートナーの活躍する瞬間を見せようとその両手を引きはがしていた。

 

「すこやか中、沢泉ちゆさん」

 

「はい!」

 

 手を高々と上げて審判に始まりの合図を送り、一呼吸整えて駆け出す。

 簡単に跳び越えさせてくれないのは周知の事実。だが、勝つには成功するしかない。

 

「……っ!!」

 

 踏み足に力を入れる。

 今度は足に体重を強くかけるように、自分の全てを振り絞るようにして高く跳躍した。

 

 

 

 

 

 同日、夕方に差し迫る時間帯。

 

「「「乾杯!!!」」」

 

「優勝おめでとう!」

 

「感動しました!」

 

「皆ありがとう!」

 

 この盛り上がりの通り、ちゆは見事華麗に跳び越えて優勝することが出来た。

 その祝勝会として、僕達は平光アニマルクリニック近くのワゴンカフェで特製フルーツドリンクで乾杯をした。いかにも中学生らしい祝い方である。

 

「すこ中で優勝したのハイジャンプだけなんでしょ?すごいじゃん!」

 

 すると、恐らくひなたが2杯目を頼んだのか、めいさんがドリンクが置かれたトレイを持ってやって来る。

 

「いえ、そんな……!」

 

「今日はお祝いに、私の奢り!」

 

「やった!」

 

「ありがとうございます!」

 

 ガサゴソと聞こえる近くの茂みにはヒーリングアニマル達が隠れている。僕の位置からはその様子が見えるのだが、競技場から今まで喜びで泣き叫んでいるペギタンをラテ達が泣き止ませ、その隣でポポロンが鬱陶しそうに横目で睨んでいるのが見えた。

 それを横目に、僕はちゆに1つあることを問う。

 

「お前、このまま陸上選手として目指す気はないのか?」

 

「あ、世界の陸上大会に出るとか?」

 

「世界……」

 

 世界という単語に反応して言葉が途切れる。

 そういえば優勝した直後、惜しくも銀メダルを獲得した高美に何かを言われていたのを見た。何か関係しているのだろうか。

 

「考えたことないわ」

 

 しばらく考え込んだ後、ちゆは振り払うように言い放った。

 

「え、目指せばいいのに~」

 

「どうして目指さないのですか?」

 

「私よりも凄い人、いっぱいいるもの」

 

 彼女がそういう性格でないとはいえ、すこ中で唯一優勝した選手なのだからもう少し軽はずみになってしまっても許されると思う。

 だが、これ以上は何も出ないと悟った僕達は彼女の事情に首を突っ込むことはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう。ちゆちゃん」

 

「おっはー!」

 

「おはよう」

 

 次の日、登校日であるため僕達は早朝から学校へと向かい、正門でちゆと出会ったので挨拶を交わす。僕も手を軽く振って挨拶をした。

 

「おはようございます!」

 

「ひゃっ!?」

 

 そんないつものメンバーに加わったかのように、背後から気配を殺してバカに元気な挨拶をする声が聞こえ、一番近くにいたちゆが思わず声を上げる。

 そいつの正体は声音を聞いていれば大方察せる─例のメガネだ。

 

「久々に現れたな、鈍感ジャーナリスト」

 

「敏腕ジャーナリストですよ!び・ん・わ・ん!」

 

「それで、今度は何の用だ」

 

「当然、取材です!」

 

「取材?私に?」

 

「オフコース!昨日の対抗陸上大会で、わが校唯一の優勝者・沢泉ちゆさん!その特集号を組むことになりました!タイトルはずばり!

『すこやか中のハイジャンプリンセス!大空を跳ぶ可憐なるその姿は鳥か!?はたまた蝶か!?ちゆ・沢泉!!すこやかに舞う!!』」

 

「長い。出直せ」

 

「どうしてですか!?」

 

 どうしても何も、ジャーナリスト兼新聞記者として見出しは肝心なはずだ。一番に目を通すことで、読者はこの記事を読む価値があるか判断する。大見出しであれば尚更だ。それも出来ずして何が敏腕ジャーナリストだ。

 

「沢泉先輩!」

 

「ほげっ!」

 

 わざわざ言ってやるのも面倒だったので心の中で説教をした途端、数人の女子生徒が駆け寄って来る。

 しかも豪く全力疾走だ。真正面にいるはずの益子は彼女らの視界に入っていないのか。はたまた良く分からない障害物だと思い込んでいるのか。軽々と突き飛ばしてちゆに接近する。

 

「昨日のジャンプ見てました!素敵です~!」

 

「次の大会も頑張ってください!」

 

「負けないでくださいね!」

 

「あ、ありがとう……」

 

 流石は素晴らしい成績を残したアスリート。今では相当な人気者である。

 以前から"沢泉ちゆ応援隊"なるものが本人に熱い声援を送る姿は時々見かけたことはあるが、それより人数が増えて規模が大きくなっている気がする。それほど、ちゆが後輩達から慕われる存在になっているということか。

 そんなことを思いながら、未だに横たわっているメガネを叩き起こしに行く。

 

「罰が当たったな」

 

「何も悪いことしてませんよ……」

 

 

 

 

 

「凄い見学の数だね」

 

「ちゆちー人気、凄い!」

 

 放課後、陸上部の活動場所であるグラウンドにて多くの生徒の注目の的になりながら、ちゆは益子からのインタビューを受けていた。

 

「すると、旅館のお手伝いもしながら家ではどのようにハイジャンプを?」

 

「基本家では跳んでないけど……」

 

 中身を見出せない取材を受けられて、当のアスリートは終始苦笑い。もはや軽い公開処刑で不憫に思えて来る。

 

「沢泉さん。明日の放課後、『週刊陸上TOP』がインタビューをしたいんですって」

 

「えっ、私にですか?」

 

 そこへ救いの手を差し伸べるように、顧問の教師が雑誌の出版社からの取材依頼が届いている旨を伝えに来た。陸上界隈では全国的に有名な雑誌であり、ちゆは驚きの表情を隠せないまま思わず聞き返す。

 

「未来を担う期待の陸上界のホープって事で、西中の高美ツバサさんとのダブルインタビューになるそうよ」

 

「陸上界のホープって……」

 

 渡された記事の内容を見るも、喜びを見せていない。それどころか、何処か不安がっているような複雑な表情であった。

 それが何を意味するのか、ちゆの本心を知らない僕には知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビョーゲンキングダムにて。

 ダルイゼン達は主であるキングビョーゲンに召集され、唐突にあることを提案された。

 

「えっ、俺達もメガパーツを?」

 

「シンドイーネがあれほどの成果を得られたのだ。お前達もメガパーツを取り込み、後に続くがよい」

 

 進化。

 シンドイーネが自身に起こした現象にはこの名称が割に合っているだろう。それを他の幹部にも実行させようと促し、新たなる力で地球を支配しようという魂胆だ。

 

「えぇ!?進化は私1人で十分だと思いますっ!大体、グアイワルとダルイゼンではギガビョーゲンは扱えないかと!」

 

「よいかグアイワル、ダルイゼン。分かったな」

 

 進化したとて、主様によるシンドイーネの扱いは変わらない。見向きもせずにそれだけを言い残してこの場から姿を消した。

 

「言われなくても、後々するつもりだったがな」

 

「ふん!私はたまたま身体がもったけど、あんた達がメガパーツを取り込んでただで済むって保証は無いんですからねっ!」

 

「まあ、だよね」

 

「お前に出来た事が、この俺に出来ぬ訳がないだろう」

 

 グアイワルは手に取っていたメガパーツを頭上に掲げ、そのまま体内に取り込んだ。

 

「うぅ……うあああああああああああ!!!」

 

 瞬間、禍々しいオーラが放出され、黒い靄が全身を包み込んでいく。

 それを苦しむも、どうにか耐えようと悲痛の叫びを上げるグアイワル。

 ここまでの過程はシンドイーネと同様だが、あの屈強な漢が苦痛な声を上げるほど凄まじい力を蓄えられるのかと悟る。

 

「う、うおおおおおおおおおおっ!!」

 

 とはいえ、それを耐えしのぐまでの時間は早かった。

 雄叫びをあげながら靄を振り払い、進化した姿を露わにする。

 

「どうだ!俺も進化したぞ!」

 

「……ふん」

 

 背中に生えた黒い翼。赤黒いロングコート。より先鋭なものとなった頭部の2本の角。

 まるで悪魔に近い姿に進化した身体を自慢するように、マッスルポーズを取ってアピールする。

 

 そんなグアイワルを見たシンドイーネは、非常に不機嫌な表情を浮かべた。

 何度も躊躇った末に取り込んだ自分の努力を、同僚が踏みにじるように難なく進化を遂げたのだ。ほんの僅かだが同情出来る。

 

「あぁ、身体中に力が漲ってくる……!早速この力でひと暴れしてきてやる!」

 

「駄目よ。今日もあたしが行くんだから」

 

「なっ……おい待て!進化した癖にやられたお前が行ったところで時間の無駄だ!!」

 

 聞く耳持たずスタスタと人間界に向かうシンドイーネの後をグアイワルは慌てて追っていった。

 

 これでビョーゲンキングダムにいるのはダルイゼンのみとなる。

 

「……少し様子を見るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、放課後。

 ダブルインタビューとやらがどうなったのか、ちゆに聞き込む為にのどかの家に集まったわけだが。

 

「……ちゆちー?」

 

「っ……な、何?」

 

 当の本人は先程から無表情でマグカップの飲み物を飲んでいる。それどころか容器の中身がなくなっていることに気付かずに口に入れようとするほどに呆けている。

 学校でもこんな場面が多く、その度にひなたがこうして彼女の頬をつついて声をかけていた。

 

「何かあったのですか?」

 

「う、ううん、別、に……」

 

 そう言って、ようやくマグカップの中身が空なことに気が付き、ゆっくりとマグカップをテーブルに置いた。

 

「……高美さんに、私のハイジャンはお遊びって言われたの」

 

「あの西中の子?何それ」

 

「私だって真剣にやってる。負けたら悔しい。でも私は、海と空が溶け合うあの青い世界に近づきたい!その想いでやってることの何処がいけないの!?」

 

 言葉の強みが怒気へと変化していく。

 これがちゆの胸の内に秘めていた"本音"なのだろう。

 

「いけなくない!いけなくないよ!」

 

 ひなたは首を横に振ってちゆに同情し、ラビリン達もひなたに同意するように首を縦に振る。

 

「彼女、海外に行くから日本ではもう私と戦えないって。それで私がハイジャンで世界とか考えてないって言ったから……」

 

「それくらい、悔しかったんだろ」

 

「え……?」

 

「自分は世界で活躍するのを目標にしてここまでやってきた。それなのに、自分より優れたポテンシャルを持つアイツは世界とか考えてない。趣味の一環でやってるそんなヤツに負けたんだって、高美なりのプライドが許せなかったんじゃないか?」

 

 "趣味の一環"は語弊があると思うが、ちゆのハイジャンをお遊びと呼んだ高美がそう思っていてもおかしくはない。

 

「でも、逆にそれくらいちゆちゃんとまた勝負したかったんじゃないかな」

 

「ッ」

 

 のどかの言葉で、ちゆは腑に落ちた表情を浮かべた。

 

「だがまあ、高美には高美の、お前にはお前の道があるんだから、無理に人に寄り添わなくてもいいだろう。大事なのは……」

 

 と、言葉を続けようとしたところで止める。

 伝えたい思いとはまたズレた話をしそうになっていたからだ。最近、想いを伝えようとして変に語り口調になり出す自分が気に食わなくなっている。

 

「……そうよね。悩む必要なんて最初からなかったのよ。私は、私の思いで跳ぶ!」

 

 そう決意すると、ちゆはきびきびと手荷物を片付けて手に取る。

 

「どこ行くの?」

 

「高美さんに伝えてくる。私はこうなりたいんだって、思いを……!」

 

「あ、ちゆ、待つペエ〜!」

 

 そうして、ちゆは部屋を出て行った。

 まるで、今まで心に潜んでいた悪いものから解放されたような、爽やかな表情で。

 

「伝えてくるって、わざわざ探しに行ったのかよ。どこにいるかも分かんねえのに」

 

「でも、ちゆちゃんには分かるんじゃないかな。夢に向かって今もあの場所で練習してるって」

 

 のどかの言葉は妙に納得がいくというか、いつも勘が鋭い。

「まあ、そんなもんか〜」とニャトランが腑に落ちる中、僕は未だに反省の思いでいた。

 

「そんなに気にすることなの?」

 

「いや……あの1件があってから、妙に話し方が父さんに似てきている節があってな」

 

 特に、父さんの納得を促すような話し方が譲られているような気がしている。

 とうじに説教した時はそんなことは感じなかったのに、ちゆには違和感を感じる。

 色々と事情を抱えた同年代相手であったからか、何とも言えない気に食わなさと罪悪感に見舞われていた。

 

「でも、飛鳥は以前よりも顔が穏やかになったと思います」

 

 そんな僕を、アスミは肯定してみせる。

 以前よりも、ということは、やはりそれまでは棘があったのか。

 当然、意図してそうしていた時期もあったり、敢えて冷たい態度を取ることもあった。

 改めて面と向かってそうであったと言われると何とも言えない気持ちになる。

 

「初めからそうしていた方が良かっただろうが、生憎僕はそこまで器用じゃないんだ」

 

「知っています。でも、あの一件から気持ちに余裕が出来たように見えます。だから、誰かに寄り添うことができたのではないかと思います」

 

「……そうか。確かにな」

 

「飛鳥は、本当にお優しい方です」

 

 ないものであって欲しかったが、あの一件があったからこそ僕自身を見つめ直すことができたし、僅かながら変わることができた。

 ただ、それでも父さんとの関係が睦まじくなったわけではなく、まだ互いに壁がある関係性だ。いつか、そのような日が来るのだろうか。

 

 とはいえ、まずは今の自分を前向きに捉えるのが良さそうだ。

 

 




更新再開、と言えるほど活発にやっていくわけではありませんが、モチベーションがあるうちに更新させていただきました。
ただ、今後は原作1話分を1話で収める、なんてことはせず、分割して更新する予定です。そうしないとモチベーションに響く()
引き続き、ご迷惑をかけますが気長に待っていただけると幸いでございます。
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