ヒーリングっど♥プリキュア 〜医神と地球の戦士〜   作:ゆぐゆぐ

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第46節 のどかの贈り物、飛鳥の決意

 

「ごめんね。心配かけちゃったみたいだね」

 

そう蜂須賀先生が呟きながら、僕やのどかと共にゆっくりと旅館の外を歩く。

恐らくついでであろうが、僕とも話してみたいことがあると言うので、のどかと肩を並べて先生の後をついて行っていた。

 

空には星がちらほらと瞬き始め、山間の静けさが辺りを包み込んでいる。

旅館の灯りが所々で道を照らし、足元の石畳が夜露に濡れて、月明かりを柔らかく反射していた。

 

「……僕はのどかちゃんにお礼を言いたくて来たんだよ」

 

「え?」

 

「僕が病院を辞めたのはね、実は外国の研究機関に転職を決めたからなんだ」

 

「転職……?」

 

「病院で患者を治療することだけが医者じゃないからね」

 

のどかの反応に対して、先生は淡々と答える。

歩みを緩めつつ、夜風に当たりながら一段ずつゆっくりと階段を上っていく。

 

「のどかちゃんがうちの病院に来た時、目の前で小さな子がこんなに苦しんでいるのに何もしてあげられない。自分は医者なのに、なんて無力なんだろうって。自分の不甲斐なさに凄く落ち込んでね」

 

その無力さは、のどかが退院するその日まで払拭することはなく、何もしてあげられないまま元気になった彼女の姿を見届けたのだと、先生は語る。

 

「でも、退院する日に僕に手紙をくれただろう?」

 

「うん。病室で書いたの」

 

病で苦しんでいる時、いつも先生がそばで励ましてくれた。

諦めずに必ず治して見せる、だから諦めずに戦って欲しいと鼓舞してくれたから、病に負けずに頑張ることが出来たと、そんな精一杯の感謝の手紙を、のどかは退院の日に手紙を書いて渡したのだそうだ。

 

「僕もあの手紙に、凄く励まされたんだ」

 

「でも、励ましてもらったのは私の方で、先生の言葉があったから頑張れただけで……」

 

「そんな君の姿を思い出して、僕は力を貰ったんだよ」

 

蜂須賀先生の声と表情は、のどかが思っていたよりも穏やかで、夜の静けさに溶け込むようだった。

 

「のどかちゃんの他にも原因不明の病気で苦しんでいる子供が、まだ大勢いる」

 

「……その理由は、まだ医療が進歩していないから。何でも治せるようにも今の医学じゃ限界がありすぎる」

 

「──っ」

 

「あ、すみません……」

 

これまで静観していたのに、思わず本音を口に出してしまった。

だが、僕はそう思っている。原因や治療法の定まっていない難病を完治しようにも、今の医師では未熟過ぎる。

僕だけが思っているわけでもなく、蜂須賀先生や父さんも同じ意見のはずだ。

 

「いや、間違ってはいないと思う。だから僕は、そんな人達の為に戦い続けるべきなんだ。その人達を助ける方法を研究する、そういう仕事をしたい。そんな気持ちが強くなったんだ」

 

「だから病院を……?」

 

のどかの問いに、強く頷く。

 

「私ね、ずっと助けてもらってばっかりで。何も、出来なくて……そのせいで先生がお医者さん辞めちゃうなんて酷いことしちゃったって思って……!」

 

先生は前を向いていた。のどかの病気を突き止められなかった無力さで挫折していたのではなく、その先のあるべき姿を目指さなければならないと懸命に道を歩き続けていた。

のどかはそれを自分のせいで、と誤解していたが、寧ろのどかがトリガーとなってその道へ進む決意を固めたのだ。

 

「ありがとう、先生……!」

 

「こちらこそありがとう、のどかちゃん」

 

のどかは先生と固く、熱い握手を交わす。 互いにそれまで抱いていた不安な気持ちが晴れたような、爽やかな表情を浮かべていた。

 

「さてと、ごめんね飛鳥君。ほったらかしにしてしまって」

 

そう言って、蜂須賀先生の視線が僕の方へと向く。

ほったらかし、などとは全く思っていないと首を横に振って返事をする。

 

「君のお父さんとは、何度か意見を交わしたことがある。厳しい人だけど患者の命に対して真摯で、僕は尊敬しているよ」

 

「……父さんも、同じように先生を尊敬していると思います」

 

「そうだと嬉しいんだけどね」

 

いつもなら僕の前で口を開けばいつも父の話題だ、と彼を過剰に評価する世間の声に苛立ちを覚えていたはずなのだが、不思議にも今は悪い思いはしていない。

同じ医師に貰った言葉だからかもしれないが、何とも穏やかな気分だ。

 

「意見を交わしたのは医師としても勿論だけど、最近は1人の大人として相談に持ち掛けてくれることもあってね」

 

「1人の大人?」

 

「厳密には"1人の父親として"かな。これから飛鳥君をどう見ていけばいいんだろうとか、飛鳥君の将来の為に自分が出来ることって何なんだろうとか。そこも含めて、君のことは色々聞かせてもらっているんだよ」

 

「え──」

 

僕はぽかんと先生の顔を見つめた。

 

「君が医師になることに背中を押すべきか、それとも見守るべきか、或いはやはり危険な仕事だと止めるべきなのか──先生は本当に悩んでいた」

 

蜂須賀先生の言葉は、まるで父の心の内を代弁しているようだった。

愛想がなく冷淡で、まるで感情の一切を殺した機械のように淡々と仕事をこなす父が、僕に対してそこまで悩んでいたとは信じられなかった。

 

「……そんなこと、父さんは本当に言ったんですか」

 

「言葉にしない人ほど、深く考えているものだよ。特に、先生はああ見えて情に熱い人だからね。君に自分の背中を見せることで、何かを伝えようとしているんじゃないかな」

 

そう言われて、僕は父さんの姿を思い出す。

白衣を着て、患者に向き合う姿。

無駄な言葉はなくても、そこには確かに命と向き合う覚悟を持っていた。

だが、それを見て父さんのような医師になりたいとは、今も昔も一度も思ったことはない。

 

「……僕が医師を目指すことに変わりありませんが、なりたいのはただ病気を医師じゃない。どんな難病も治して、全ての患者の手を差し伸べられるような、父さんを超えた医師になりたいんです」

 

医師を志したあの日から、それを曲げたことは一度もないと告げると、蜂須賀先生は優し気に笑みを浮かべた。

 

「きっと険しい道のりだよ」

 

「そんなのはもう、嫌というほど味わいました」

 

皮肉めいたように答えると、隣にいたのどかは安堵の表情を浮かべていた。

 

後は三人で他愛のないことを話しながら旅館に戻り、先生とはこのまま部屋に戻るそうで別れることとなった。

一方、僕はもう少し夜風に当たっていたく、旅館の入口付近で点々と星が輝く夜空を見上げてゆったりとした時間を過ごしていた。

 

周辺の道を照らす灯りは、夜明けまで続いているのだろう。

午後8時。

これから長い時間照らしていくその光が、今は異様に眩しく、また頼もしく思えた。

 

ここ最近、父さんの意外な一面を見聞きする機会が多くなっている。

あれだけ(家庭崩壊レベル)の出来事があったから当然と言えば当然ではあるが、今となってはとても新鮮に感じる。

 

『……"俺"も、発言が軽率だった。謝罪させてくれ』

 

そう言って、深々と頭を下げる姿。

 

『君が医師になることに背中を押すべきか、それとも見守るべきか、或いはやはり危険な仕事だと止めるべきなのか──先生は本当に悩んでいた』

 

僕の将来を熱心に考えてくれていたこと。

特にこの2つに関しては、僕がこれまで抱いていた彼の人物像からは考えられなかった。

はっきり言って、プライドの塊のような人だとばかり思っていた。

──本当は、色々と考えてくれていたのだな。

 

「……ん?」

 

誰かがこちらに近づいてくる気配を感じた。

何かをしてくるでもなくただ僕の隣に立ち、小柄な少女は夜空を見上げていた。

 

「寒いから部屋にいた方がいいぞ。風邪を引く」

 

「それは飛鳥くんもでしょ?」

 

応える声は穏やかだ。

先程の悲しそうな顔とは正反対に、まるで声を弾ませている。

だが、それもほんの一瞬だけ。

 

「2人があの病室で喧嘩になっちゃった時、2人の関係性どころか家族全体が壊れていくように思えて、正直不安でいっぱいだった」

 

当時を振り返るように、寂しげな声で話す。

そんなのどかの声音は、僕に罪悪感を突き付ける。

 

「初めて話してくれた時からずっと力になりたいって思ったの。どうにかお父さんとちゃんと話し合える場を作ってあげたい、何より苦しそうに話してた飛鳥くんの心の傷を癒したいって思ったから。実際は全然手を差し伸べられなかったけど」

 

「いや、そんなことはない。気持ちは届いていたし、ただそれを無視して遠ざけようととした僕が悪かった」

 

そう、あの件の引き金は間違いなく僕だ。

初めは冷静に考えられずに感情的になって、父さんに当たった。

後々考えると上手く立ち回れたはずの行動を、ほとんど空回りさせていた。

だから、のどかが悪く思う必要はない。悪く思わねばならないのは僕の方だった。

 

「寧ろ助かったと思ってる。初めて打ち明けた人がのどかじゃなかったら、結果は今までのとは違っていたかもな」

 

改めてありがとう、と遅ればせながら、のどかに感謝を伝える。

そして、──

 

「……もう一度、父さんと面と向かって話をしようと思う」

 

そう伝えた瞬間、のどかはハッとするように目を見開く。

蜂須賀先生から話を聞いた時に決めたことだ。父さんに対する気持ちの変化を自覚し始め、まさに今がその好機だと思ったからだ。

 

「今ならちゃんとあの人に真っ直ぐぶつかっていける気がする。暴力や暴言なんて卑怯な手を使わずに、真っ当に話し合えると思うんだ」

 

なんて強がってみたが、正直不安はある。

数年間、互いに口も聞いていなかったのだから、この先も完全に拭えることはないだろう。

それでも少しずつでもいいから、泥にまみれた心を綺麗にするために動かなければ。

一歩ずつ、踏み出さなければ──。

 

「……そっか。そうなんだね」

 

僕の決意を聞いて、のどかは安心したような表情を浮かべる。

……いや、彼女も多少なりともまだ不安は残っているのかもしれない。

あんな光景を近い所で目にしたのだ。流石にそのまま受け止めきれないか。

 

「でも、無理はしないでね。私にできることがあれば、何でも手伝うから」

 

それなのに、僕と同じように強がって言ってみせる。

全く、無理をしているのはお互い様だな。

それならば、僕はその言葉を真っ当に受け止める。

 

「何でも手伝うだなんて無茶なことを。それで自分が無理してパンクしても知らないからな」

 

「大丈夫だよ。今の私、強くなったもん」

 

「ほう、それは楽しみだな」

 

お互いに声を弾ませて、笑い合う。

秋の夜は絶妙な肌寒さを感じるのだが、今夜は何故だか暖かく感じた。

 

 




いつもご愛読いただきありがとうございます。
原作的に中途半端な形になってしまいましたが、これで今年最後の更新になります。
来年も更新は前向きに進めていきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いします。

ここまでご拝読いただきありがとうございました。
よいお年をお迎えください。
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