ある人を勝手にβ版プレイヤーに設定させていただきました。
○月×日 晴れ ☆☆
『ソードアート・オンライン』を初めてから一週間。
今日は迷宮区なるエリアに訪れてみる。
流石に平原やら森やらでエンカウントする野生のモンスターとは異なり、ボス戦前のエリアとあって中々に強敵揃いだ。
自分で動き回る戦闘にも慣れてきたが、慣れてくると同時に色々と自分の弱点という奴も見えてくる。
例えば、このゲーム、ソロプレイが向いていない。
……いや、そもそもオンラインゲームでソロプレイする方がうんぬんと、色々言いたいことはあるのだが、そういう意味では無く。
単純に一人で動き回るのが危ないのだ。
何故ならこのゲームは自分が動き回ることを前提にしたゲームだ。
故に視界やら動きやらは俺が現実で行っている活動と同じようになる。
超人的な身体能力こそゲーム内故に発揮できるものの、視界は正面百八十度、跳んだり走ったりの動きは俺の反応に縛られる。
つまりは戦闘でよくある『咄嗟に』とか『背後からの攻撃を~』とかそういった動きをそうそう出来ないのだ。しかも画面越しのRPGとは違い、エリアを俯瞰のマップで見ることは出来ないし、近づいてくる相手に俯瞰視点で気づけるということもない。
自分で確認し、自分で動き、自分で判断する。
それは日常的な動作だが、だからといって刹那の判断が生死を分ける戦場で同じようにはそういかない。
ゲームとはいえ、此処も戦いの場である。
振りかぶってくる剣や槍に当たれば死ぬし、素人なのだから荒事を前に緊張を覚えていつも通り動けないこともある。
痛みがない、と分かっていても相手に攻撃されることに慣れてないから思わず竦むことだってままあるのだ。
やることの多さや心の余裕を考えるに、一人でやるにはこのゲームはやるべきことが多すぎる。
とはいえ、だからすぐにフレンドを作ろうとは陰キャゆえにいかず、そのため最近は回避行動に磨きを掛けるため、ひたすら回避しまくる練習を積むことにした。
フハハ、当たらなければどうと言うこと無い理論を実現させるのだ!
被弾零なら回復する隙も出来ないし、不意打ちにも対処できよう。
幸い迷宮区は人型のコボルドが多い。
彼らを練習台に俺はソロでもやれる
……でも流石に剣の間合いは近すぎるから槍使いに転向する。
後、使ってみて分かったが、剣より槍の方がやりやすい。
中距離からやれる分、回避や攻撃に考える時間が出来るのだ。
すまなかった、槍キャラは二番って勝手に思っていて本当にすまなかった。
○月×日 晴れ ☆☆☆☆☆
ははははは!! 圧倒的では無いかッ!!
そんな距離からソードスキルを打っても当たらんよ!
どうだ地味に遠い距離からチマチマ槍で刺される気分は!
これならボスにも勝つるッッ!!
……普通に負けました。
○月×日 晴れ ☆☆☆
昨日は若干テンションが可笑しかったのだろう。
単騎で一層のボスに挑んだが、呆気なくやられてしまった。
何だかんだで回避しまくりチマチマ攻撃しまくり、こりゃあ単騎撃墜ありかと思い始めた頃にボスが突然、ジャンプしてぐるぐるしてズパーンである。
なんやあの攻撃は……。
迷宮区から一番近い街でリスポーンした後、偶々再会したディアベルさんに話を聞いたら何でも《曲刀》のスキルかもしれないとのこと。
後、よく分からんがパターン代わりするまでよく追い詰めたな! とめっちゃ褒められた。『大したことはない』って言ったけど、嘘です。めっちゃ嬉しいです。ヤバいですね。俺、ディアベルさんについていくわ……。
それとディアベルさんと一通り語り合った後、女の子に声を掛けられた。
最初はネカマかと思ったが、
「まあオンラインゲーマーなら情報の秘匿は当然だナー」なんて言ってたけどすまない。そういう積もりじゃ無いんだ。ただ喋るのが苦手なだけなんだ。
だからそんなニヤリと訳知り顔で感心しないでくれ。
○月×日 晴れ ☆☆☆☆
今日は一番下の妹の学校が授業参観の日だったらしい。
俺は当然行けないし、両親も行くことが出来なかったんだが、代わりに偶々学校が休みだった上の姉の方が出席したらしい。
いつもより張り切って授業でも積極的に手を挙げてたとのこと。
偉いぜ、ゲーム三昧の兄貴とは違って……。
なので折り紙で鳥を作って送ってやった。
ショボい贈り物だが、喜んでくれてこっちも嬉しい。
それと最近は『ソードアート・オンライン』に掛かりきりだったので久しぶりに、攻略を中断し、妹たちとゲームを楽しむ。
上の妹が持ってきた弓を使った的当てゲームだ。
作りは単純だが、妨害アイテムとかステージ環境とか、単に射撃力が優れていれば勝てるというものではないので、割とゲーム性に富んでいる。
しかし妹たちよ、知るが良い。前世では重度の型○厨であった俺は、学生の頃から弓道に熱心だったのだ……この手の的当てゲームでは遙かに有利!
その結果、順位は妹、妹、俺の順。
何故だ……。
弓の腕は俺が確かに勝っていたが、ゲームシステムを十全に使いこなす妹たちには叶わなかったよ。
ていうか最近、確信しつつあるんだが、うちの妹たちの方が俺よりゲームセンス上じゃね? 何てことだ。
俺にも転生特典とか、補正とか、そういうものは無いのか……。
○月×日 晴れ ☆☆
『ソードアート・オンライン』攻略に戻りました。
そして戻って早々耳寄りな情報を耳にする。
何でもスキルの中に《投剣》なるスキルがあるらしい。
街で雑談していたプレイヤーが言っていた。
戦慄とは正にあの時のこと。
『ソードアート・オンライン』は大胆に魔法的な遠距離要素を全て配した己が身と剣一つのRPGゲームだと思っていたのに遠距離武器があるとは……。
早速、一つだけ余分に空けていたスキル項目に採用。
使ってみたら射程は十メートルぐらい。
スキルを上げていけば射程範囲も広がるんだろうな。
ふっ……俺の中々良いスキルじゃ無いか。
回避しつつチマチマ攻撃のうざったい戦法の幅が広がる。
迷宮区のコボルド相手に練習しまくる。
一時間ほど練習すれば、すぐに百発百中。
後半はスキルを起こさなくても当たる始末。
くく、見たか。これが前世の経験値持ちの力なのだよ。
なんて油断してたら背後からバッサリやられた。
しかもコボルドかと思ったらプレイヤーだった。
ああ……そうね、ここ最近ずっとこの狩り場に居たものね。
アイテムは貯め込んでるし、ソロですもんね、俺。
そりゃあPKからしたらカモですわ。
あはは────野郎! ぶっ殺してやるッ!!
○月×日 晴れ ☆☆☆☆☆☆
プレイヤーに対する殺意の波動に目覚めた次の日。
俺は迷宮区に陣取りあらゆるプレイヤーを刺突しまくる。
いやさ、最初は例のPKを殺戮したら終わるつもりで、実際、PK返しをすることにも成功したのだが、その時プレイヤーと殺し合う過程で、これNPCより遙かに戦闘の連中になるぞと気づいてしまったのだ。
迷宮区のコボルドはNPC、当然、予め入力されたデータに準じた行動しか返せないのだが、同じ意識があり、心があり、考える頭があるプレイヤーは型に縛られた動きをしない。
つまりはこうすればソードスキルが飛んでくる、とか。
ここで必ず守るとか。
見切ってしまえば簡単なNPCの行動よりも遙かに自由度が高く予想が付きにくいのだ。回避を主体にしようと考えている槍使いとしては格好の練習台である。
しかも殺せば報酬はコボルドよりもウマ-。
これは……
というわけで死ぬが良い俺と同じ攻略ゲーマー。
一人で鍛えまくった回避能力と槍捌きに見惚れるが良い。
その心臓、貰い受けるッ!
グリーンのカーソルが浮かんでいる相手をPKするとペナルティーが科せられ街に戻るのに幾つか苦労があるのだが知ったことかと刺突しまくる。
最近は迷宮区籠もりのソロプレイヤーに怖いものなんて無いのだ。
特に友達とエンジョイしている奴は絶対にぶっ殺してやる。
でもソロプレイヤーには寛大に応対する。
何故なら彼らは同士だから。
とはいえ、ソロでも強い奴はやはり居て、特にキリトなるプレイヤーを辻った時は危うく逆に俺が殺されかけた。
なんやあの反応速度、チートやチーターや!
と叫び出したくなるぐらいの反射神経。
うちの妹か、妹並みか!
だが槍使いとして間合いの有利は俺にある。
行くぞ
激闘の末、勝利したのは俺。
やったぜ。
でも直後、漁夫の利PKを喰らってしまった……。
おのれ、例のPK……ッ!!
ジョニーブラックとか巫山戯た名前の分際でッ!!
『次のページに続いている』