雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 レインの言動の書き方が難しすぎる。

 今回で砂漠編は終わりです。雑かもしれませんが許して。


十一話 砂漠の旅の終わり

「レイン」

 

 自室で鍛錬をしていたレインの所へ訪れたのは、前回来た時よりも晴れやかな顔をした少女。レインを見る少女の瞳に、怯えの色は残っていない。

 

 レインや【フレイヤ・ファミリア】はまだ『リオードの町』に留まっている。オッタル達ならものの数時間、レインならそれ以下の時間で『決戦の場所』につく。ここにとどまっているのは、自分が演説をすることでここにワルサが手出しをするかもしれないから、ギリギリまで守っていたい、というアリィの我儘だった。

 

「まずは謝らせてくれ。この町を救ってくれた貴方に失礼な感情を向けてすまなかった」

「気にするな。あの時は俺にも非がある」

「そうか……でもこれは、私のケジメのようなものだと思ってほしい」

 

 そう言ってアリィは頭を下げる。すぐに顔を上げるとレインの瞳と目を合わせ、偽りのない言葉を告げる。

 

「次に礼を言わせてほしい。私に力を貸してくれて。アレン達が力を貸してくれたのも貴方のおかげだろう。気が早いと思うが……この感謝の想いを伝えたい。だから――ありがとう」

「……こちらこそありがとう」

 

 レインの言葉は小さくて、アリィの耳に届かなかった。アリィは知る由もないが、救った人々から嫌悪の目で見られていたレインにとって、アリィの言葉はとても救いになった。それこそ彼女が頼んでこなければ、自分の方から力を貸しに行こうと思っていたほどに。

 

「明日も早いんだからさっさと寝ておけよ」

「分かっている。……なあ、レイン。私が……私が国を……」

「国を、なんだ?」

「……いや、なんでもない。これで用事は終わった」

 

 何かを告げようとして迷っていた少女は、それ以上何も言わないまま部屋から去っていった。しばらく彼女が何を言おうとしていたのか考えていたレインだったが、本人が喋らなかったのだから、自分が気にすることではないと思考を止め、鍛錬を再開した。

 

 集中しすぎて、深夜の屋敷に響きわたった二つの『あぁーーーーーーーーー!?』に気付くことはなかった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 その日も、カイオス砂漠は乾燥し、よく晴れていた。

 

 アリィが演説で指定した戦場である『ガブーズの荒原』は見晴らしの良い大地で、大軍の合戦にうってつけの場所であった。今日この日、シャルザード軍も、ワルサ軍もこの地を目指している。

 

 アラム王子の自分の身を顧みず打った号令はシャルザード軍の胸を震わせ、およそ二万もの兵が集まろうとしていた。全員の士気が高まっていた。

 

 だが。

 

 意気揚々と集まったシャルザード軍は、肝心のアリィやワルサ軍が『ガブーズの荒原』に見当たらなかったことで、石のように固まった。兵士たちの間を砂漠の乾いた風が吹いた。カサカサと枯草の塊(タンブルウィード)が通り抜ける。

 

 ――彼等どころか、誰も見抜けなかったであろう。

 

 『ガブーズの荒原』に集めさせたシャルザード軍は『餌』で。『決戦の場』はワルサ軍が五つの部隊に分かれて移動している砂漠地帯で。八万の軍を相手にするのがたった『八人の眷属』であることを。

 

「下準備はすべて終えた。後は一人も残さず――殲滅しろ」

 

 全てを考案したヘディンが眼鏡を押し上げ、告げる。満ちるのは冒険者たちの戦意。

 

 直後、『蹂躙』が始まった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「うん。気持ちいいぐらいボコボコにしてるな」

 

 甲板の上でそんな発言をするのはレイン。彼はフレイヤと共にファズール商会の『砂海の船(デザート・シップ)』に乗船していた。遠く離れた戦場が見える位置で、ゆるりと巡航している。

 

 最初はレインが魔法を使って、小分けにされる前のワルサ軍をまとめて消し飛ばすつもりだったのだが、それに【フレイヤ・ファミリア】が待ったをかけた。ヘディンは「お前ばかりに負担をかけるわけにはいかない」と言っていたが、レインの予想では彼等もワルサ兵にイラついていたので自分たちが殲滅したかったのだろう。

 

 証拠に、レインの視線の先でヘディンが無数の雷弾と一条の迅雷を放ってワルサ兵を蹂躙し、ヘグニが気弱な表情から目の吊り上がった戦士の形相となって死体を量産する。

 

 ガリバー兄弟は後に『たった四人で行う画期的な包囲殲滅陣』と呼ばれるようになる当人たちにとってはただの連携で二万の兵を駆逐し、アレンがその人外の疾駆で風を巻き上げ砂嵐を引き連れ、標的である師団を文字通り『全滅』させた。

 

 そしてオッタル。彼は無駄な殺生をせず、ただ悠然と敵本隊に向かっていった。しばらくすると敵の補給部隊の方角から体長二〇M(メドル)を超える巨蛇の魔物、『バジリスク』が現れたが、オッタルはたったひと振りの斬撃で、()()()()()()()()()()

 

 オッタルの斬撃は戦場全域を揺るがす衝撃を発生させ、ワルサ軍はおろかシャルザード軍、遠くで見守っていたアリィにも届いた。

 

「こんなもの見せられれば、当然心折れるよな」

「レイン殿は平気なのですか? 私には見ているだけでも恐ろしかったのですが」

 

 敵の本隊から何本も上げられる白旗を見て、レインが呟く。その言葉に律義に反応したのは用意された椅子の上で足を組むフレイヤの横にいた、褐色の偉丈夫である。

 

「俺に怖いものなんてない。それより……お前、誰だ」

 

 あまりにも自然に話しかけてきたから突っ込むのが少し遅れたが、レインはこの偉丈夫を知らない。褐色の偉丈夫はごく普通に答えた。

 

「ボフマンでございます」

「……冗談だろ?」

本当(マジ)でございます」

 

 レインの知っているボフマンはデブだ。間違っても筋骨隆々のちっちゃいオッタルみたいな奴ではない。昨日までは肥え太った肉の塊だったのに、一晩で何があったんだ。

 

 一夜の変身にびっくりしていたレインだが、見逃せない奴を見つけて意識を切り替える。そいつは『リオードの町』が蹂躙された時、必ず始末すると決めていた。

 

 誰かが止める間もなく、レインは『砂海の船(デザート・シップ)』から飛び降りた。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 地平線に日が傾き、西の空が暮れなずむ。戦場から遠く離れた砂漠との境界線の森に潜むのは、先の尖った帽子を被った小柄な神。戦火を拡大させた張本人である神ラシャプである。

 

 彼は相手が【フレイヤ・ファミリア】と分かった途端戦場から離脱し、いかなる手段を用いたのかこの森まで逃げ出していた。

 

「いや~、フレイヤ様が出てくるとか予想外にもほどがあるでしょ。おかげで眷属み~んな死んじゃった。眷属だったみんな、君たちのことは忘れるまで忘れない☆」

 

 眷属が死んだというのに、神々にありがちな軽薄な態度を崩さぬまま笑う。彼にとっては眷属の死より、これからどうやって下界を楽しむかが重要だった。

 

「どうしよっかな~。王国(ラキア)に行って遊ぶのも面白そうだけど、アレスが面倒くさそうだし――」

「お前に今後を考える必要はない」

 

 ラシャプは後ろを振り返ろうとして、()()()()()()。声に反応した瞬間、ラシャプの身体は()()()()()()()()()包まれ、何もできぬまま意識は消えていった。

 

 その日――神が天界に送還される際に発生する光の柱が確認された。

 

 そして今回の戦争以降、暗躍していたとされる【ラシャプ・ファミリア】はシャルザードを脅かすどころか、どこにも姿を見せることはなかった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 やるべきことをやったレインがフレイヤと合流したのは、シャルザードから遠く離れ、オラリオに近い砂漠地帯だった。砂漠といっても少し歩けば緑の大地になるが。空は夜のカーテンに包まれ、月が輝いている。

 

 フレイヤの近くにアリィの姿はなかった。女神に惹かれ、少女自身も女神に惹かれていたというのに、少女は『王』としての道を選んだらしい。フレイヤの顔は大分不満そうだった。

 

「かなり不満そうな顔をしているな」

「……あの子は『王』だからこそ美しかった。なら私は美しく輝く方を選ぶわ」

 

 互いに言葉が少なくとも、言いたいことは伝わった。レインは少女と最後に話した時、彼女が悩んでいたことに答えを出せたことを喜んだ。

 

 しばらく無言で歩き続けていると、レインの目的地であるオラリオの外壁が見えてきた。予定より数日遅れて入ることになるが、レインは今回の砂漠での旅を無駄とは思わなかった。

 

 時間が時間だけに門に並ぶ人の列はない。レインは砂漠の旅に無理矢理突き合せた女神に向き直る。表情は砂漠の旅の間に身に着けた不敵な笑顔ではなく、柔らかな微笑だった。

 

「フレイヤ、最初は無理矢理付き合わされて嫌々だったが、楽しい旅だった。礼を言う」

「あら、喜んでもらえると嬉しいわね」

「今後関わることはほとんどないと思うが、あんたの『伴侶(オーズ)』が見つかることを祈ってるよ」

 

 そこまで告げるとレインは門に向かう。しかし、どこの【ファミリア】に入ろうかと考えるレインに、聞き捨てならない声が聞こえた。

 

「貴方はもう私の【ファミリア】に入っているから、関わらないことはできないと思うわよ?」

「おい今なんて言った」

 

 月の光を浴びて笑うフレイヤはとても美しい。そんな笑顔の美の神に詰め寄るレインはさっきの微笑が嘘のように無表情だ。フレイヤはいたずらが成功した子供のように、無邪気に笑う。

 

「貴方は既に私の眷属。オラリオに入ったら私達の『本拠地(ホーム)』に行くことになるわ」

「待て。俺はお前に背中を見せた覚えは――」

「知らなかった? 神血(イコル)は服の上からでも効果があるのよ」

 

 レインの脳裏によぎるのはフレイヤが水浴びをしたオアシスでの夜。あの時、フレイヤはレインに助言をしながら背中を指でなぞっていた。あれは【ステイタス】を刻むための行動だったのか!  

 

「……は、ハメやがったなクソ女神!!」

 

 夜空に少年の怒号が響き渡った。こいつ(フレイヤ)もやっぱり神だったということを改めて認識したレインであった。

 




 最後のやり取りを書くためにこの砂漠編を書いたと言っても過言ではない。

 ラシャプを始末したのは魔法。どの魔法を使ったのかは大体みんな分かってると思う。

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