黒い戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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13話 もう一つの目的

 地上では太陽が若干西に傾いている時刻。

 

 

 エイナの座学を終えたレインが歩くのは、ダンジョンの12階層。まだレインをLv.1の無駄な自信家と思っているエイナからは4階層までしか潜ってはいけないと言われているが、当然のようにレインは無視した。

 

 

 レインがこの迷宮都市(オラリオ)に行きたかった理由は()()ある。一つは強くなるため。もう一つは届け物だ。届け物は預かってから一年以上が過ぎてしまっている。預かったのは傷ついたモンスターの爪。それはレインの背嚢の中に入っている。

 

 

 渡さなければいけない相手――同胞とやらは()()()()()()()にいるということしか分かっていない。具体的な居場所を教えてもらう前に依頼主は力尽きてしまったが、レインならばしらみつぶしに探すことで何とかなる。

 

 

 レインは霧が濃い所に入り、周りからの視線が途絶えた瞬間、Lv.9の身体能力をフルに使って迷宮を下へ下へと潜っていった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「ここか」

 

 

 レインの現在地は20階層の正規ルートを大きく外れた場所に位置する長方形の広間(ルーム)。壁や天井は樹皮と発光する青光苔(アカリゴケ)に覆われ、広間の随所に美しい花畑が広がっていた。

 

 

 何より目を引くのは石英(クオーツ)。地上では見ることのない美しい濃緑の石英(クオーツ)広間(ルーム)の至るところから生えていた。その光景にレインも僅かに感動した。「きれいだなー」位にしか思っていないが。

 

 

 レインがここに来たのは覇気(アビリティ)を使った結果だ。覇気(アビリティ)は闘気などに物理性を持たせるほかに、壁などの障害物を無視して生物や無機物の場所を探ることが出来る探知機(レーダー)としても使用できる。レインは階層を下りるごとに階層全域を調べていた。

 

 

 とはいえ、探ることが出来る範囲に制限がないわけではなく、正直21階層までが限界だった。それでも広大な20階層全域を調べることが出来る時点で破格の性能だが。

 

 

 レインが捉えたのは複数のモンスターの気配。だがその気配が人間を見るなり襲ってくる普通のモンスターと大きく異なっていた。これが自分の探している奴等だと判断したレインは、モンスターを蹴散らしながらここに来た。

 

 

 レインは今も気配を感じる方向にある壁を探ってみる。そこは広間(ルーム)最奥に位置しており、壮麗な石英(クオーツ)の塊があった。一見何の変哲もないように見えるが……一箇所、発光の弱い水晶がある。そこを蹴り砕くと、塞がれていた穴が露出した。

 

 

「……金にがめつい奴が来たら見つかりそうだな」

 

 

 隠れていた樹穴にレインが厳しい言葉(コメント)を呟く。地上ではとある小人族(パルゥム)の少女が安宿の部屋の中でくしゃみをした。

 

 

 通常より速い速度で修復が始まっている石英(クオーツ)の壁を跨ぎ、素早く身を滑り込ませたレインの視線の先には清冽な蒼い泉があった。奥行きと横幅、深さともに五M(メドル)といったところで、池と呼べる程度のものだ。

 

 

 レインは躊躇なく泉に飛び込む。すると水面上では行き止まりとなっている壁の奥へ続く、横穴があった。剣の重みで水底を歩いて進んだレインは横穴の突き当りまで進み、緑光が差し込む真上を仰いだ。水底を蹴り、一気に浮上する。

 

 

 水面から顔を出したレインの視界に飛び込んでくるのは、樹洞から様変わりした鍾乳洞に似た洞窟。そこには奥へと続く岩盤の通路があった。……複数のモンスターの気配もその先から感じられる。

 

 

 レインはいつもと変わらぬ調子で歩き始めた。つまるところ、なんら警戒することなく暗闇の穴に進み始めたのである。暗闇だろうと昼間と変わらない景色が見えるレインは魔石灯を使わない。光源と呼べるのはほとんど見当たらなくなった、石英(クオーツ)の僅かな光だけだった。

 

 

 一分も歩けば、細い通路は終わりを迎えた。奥にあったのは特大の広間(ルーム)。もし魔石灯があったとしても細部まで光が届かないほど広く、そして暗かった。完璧な闇がこの広間(ルーム)を支配している。

 

 

 レインが見える範囲ではモンスターはいない。なので、向こう側から自主的に出てきてもらうことにする。背嚢から届け物――モンスターの『ドロップアイテム』である『ラミアの爪』を取り出す。

 

 

 すると、次の瞬間。

 

 

 濃厚な『殺意』が膨れ上がった。

 

 

 ザザザザザザザッ!! といくつもの足音が周囲から接近してくる。同時に、ばさっという複数の羽を打つ音も宙を舞った。

 

 

 最も速く近づいてくる存在にレインは視線を向ける。その正体は赤緋の鱗を持つ蜥蜴のモンスター『リザードマン』。

 

 

『――ルォオオオオオオオオオッ!!』

 

 

 咆哮する蜥蜴の戦士は双眼を血走らせ、左手に持つ銀の光――曲刀(シミター)――を豪速の勢いで薙いだ。その太刀筋はレインの首を正確に狙っている。

 

 

 レインはその攻撃を首を後ろに傾けるだけで回避する。刃が通り過ぎていった瞬間、レインは蜥蜴人(リザードマン)の左腕を掴み取り、強引にぶん投げる。

 

 

『グァッッ!?』

 

 

 その先にいたのは羽根の弾丸を放とうとしていた半人半鳥(ハーピィ)。ぶつけられた蜥蜴人(リザードマン)と一緒に苦悶の声を上げながら吹っ飛んでいく。

 

 

 それが開戦の合図(ゴング)だったかのように、石竜(ガーゴイル)鷲獅子(グリフォン)半人半蛇(ラミア)一角兎(アルミラージ)獣蛮族(フォモール)戦影(ウォーシャドウ)人蜘蛛(アラクネ)一角獣(ユニコーン)……『上層』『中層』『下層』『深層』、あらゆる階層域から集まった多種多様なモンスターの群れが、一人の人間に襲い掛かった。

 

 

 種族の異なるモンスター達の間で共通していることは、曲刀(シミター)手斧(ハンドアックス)、鎧や盾を装備していることだった。

 

 

 明らかに通常種ではないモンスター達を、レインは剣を抜くことなく迎え撃つ。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 戦いは一方的な蹂躙だった。蹂躙されるモンスター達は目の前の人間――レインがどれだけ強いのか見当もつかない。

 

 

 獣蛮族(フォモール)が振るう鎚矛(メイス)をレインは真正面から受け止める。当たればひき肉になること間違いなしの一撃を、あろうことか片手で受け止め、周りのモンスターを巻き込むようにして投げ飛ばす。

 

 

 空を飛ぶ石竜(ガーゴイル)鷲獅子(グリフォン)などのモンスターは、レインが壁を蹴って凄まじい速さで飛び上がり、接近されることで叩き落されるか、不可思議な力で叩き落されるかのどちらかだ。

 

 

 『ゴブリン』などの小型のモンスターはデコピンで沈められた。彼等は基本的に一発で意識を失った。

 

 

 今も戦っているのは二刀流の蜥蜴人(リザードマン)のみ。それ以外のモンスターは気を失っているか、意識はあるが戦意を折られたのか動かなくなっている。

 

 

 そしてついに蜥蜴人(リザードマン)も膝をついた。動けることには動けるが、得物である長直剣と曲刀(シミター)を持てるほど腕に力が入らない。身に纏う防具はベッコベコにへこんでいる(レインが重点的に防具のある所を殴った)。

 

 

 レインは殺意や敵意は向けてきても襲い掛かってくるモンスターがいないことを確認すると、目の前の蜥蜴人(リザードマン)に話しかける。

 

 

「おい。お前らの仲間の遺品を持ってきてやった恩人に対する仕打ちがこれか? ん?」

『……ギャ?』

 

 

 間抜けな声を漏らす蜥蜴人(リザードマン)。その反応にレインは笑いながら、

 

 

「何知性のないモンスターぶってんだ。喋れるんだろうが、貴様ら。今更言葉が分からんふりしても遅いんだよ、コラ!」

「――いっ、イダダダダダァアア!? す、すまん! すいませんでしたぁ!?」

 

 

 容赦なく蜥蜴人(リザードマン)の頭を掴み、力を籠める。痛みにジタバタしながら謝る蜥蜴人(リザードマン)――リド。

 

 

 こうしてレインと喋るモンスタ――異端児(ゼノス)は出会った。

 




 レインがゼノスの一人に出会ったのは、オラリオの外。闇派閥が怪物趣味の貴族にゼノスのラミアを売り払いに向かっている時、ラミアが入れられていた檻を破り脱走。ラミアが逃げた先にレインがいて、ゼノスを見られた闇派閥が口封じのためにレインを殺そうとする。


 最初はラミアを即殺しようとしたレインだが、敵意がなかったのと闇派閥が殺そうとしてきたので後回しに。


 闇派閥を殺した後、逃げ出す際に重傷を負っていたラミアがレインにドロップアイテムを届けてほしいと依頼。それをレインは引き受けた。傷は呪武器でつけられていたため、治せなかった。



 ちなみに今回の戦いでレインは一匹も殺していない。

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