雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

17 / 81
一気に時間を進めて、次の話で原作に入ろうと思っています。原作に入るまでの話も幕間として書こうと思っています。

 とはいっても、原作に入るまでレインはひたすら鍛錬してるでしょうがね。


十七話 こんにちは深層

(つけられているな……)

 

 数時間かけてダンジョン18階層までたどり着いたレインは、複数の視線が自身に向けられていることに気付いていた。全てダンジョンの入り口からついてきている。

 

 今すぐ視線の主のところに接近して目的を洗いざらい吐かせてもいいが、偶然行き先が重なったと相手に言い訳をされても面倒だ(地上に連れ帰って神を使う手段もあるが、面倒くさい)。なら……勝手に自爆してもらおう。

 

 レインは一気に加速し19階層へ下っていく。それを尾行する者達も全力で追いかける。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 レインのやったことは単純だ。中層域で発生するモンスターを全て殺さず後ろに流す。レインの速さに追いつけないモンスター達は、レインを諦め他の獲物へと向かっていく。

 

 尾行者達は慌てに慌てた。なにせレインは囲まれようと道がモンスターで塞がれようと殺さない。普通ならモンスターを倒して進むだろうに、地を蹴り壁を蹴り、挙句の果てには天井まで蹴って進んでいく。そんな人間離れしたことをできない彼等はモンスターを始末するしかない。

 

 だが彼等はレインに気付かれないように後を付けなければならないのだ。魔法は使えず派手な攻撃もできず、ひたすら相手の急所を狙って一撃で殺さなければならない。そうこうしている内に、レインはどんどん遠ざかる。

 

(次、顔を見たら絶対にぶん殴りますからね、()()()()()……ッ!!)

 

 視覚的には姿を完全に消している水色の髪の女性は、『黒ずくめの男がどこに行くのか調べて~』と気楽に笑っていた主神に対して、心の中で盛大に報復してやることを誓った。

 

 もうレインが追跡できる距離から外れてしまったことにも気付かず、彼女は目の前の蜂型のモンスター、『デッドリー・ホーネット』に鬱憤を叩き付けるように短剣を振り下ろした。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 途切れることのない滝の音が響いている。

 

 25階層から始まる『水の迷都(みやこ)』に辿り着くなり迷宮最大の瀑布、『巨蒼の滝(グレート・フォール)』の横の断崖絶壁を駆け下りたレインは、終着点である27階層の滝壺に着陸する。

 

 立ち上がると同時にレインは両手を上げる。次の瞬間、緋色の斜線が走ったと思えば、それぞれの指の隙間には緋色の燕のくちばしが挟まっている。その正体は『イグアス』。『不可視のモンスター』とも呼ばれる下層最速のモンスターを、レインは容易くつかみ取る。

 

 そして捕まえた『イグアス』を、空中に飛び交う幾筋もの斜線に向かって投げ飛ばした。それだけで投げた数と同数以上の『イグアス』が息絶え、発生していた緋燕(つばめ)の群れは全滅した。

 

 レインとしては大量の『イグアス』が発生していて、それを全て剣で殲滅したかったのだが、そううまい話はないかと28階層への連絡路へ足を進める。

 

 26階層の連絡路方面にある滝口の中から視線を感じていたが、害意もなかったため気にしなかった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 ダンジョンを単独(ソロ)で進もうとする人間はほとんどいない。『上層』ならソロでも問題ないが、『中層』、『下層』にもなればその数は激減し、『深層』に至っては第一級冒険者でもパーティを組む。

 

 だが一部の者は単独でも『深層』を動き回ることが出来る。主な代表としては【フレイヤ・ファミリア】の筋肉猪などがそうだ。次点で『じゃが丸くん』に目がない金髪の女剣士。

 

 そんな強者(イカレ)等でも近づこうとしない場所が37階層にはある。そこがレインの目的地。

 

 赤から青に変わった皮膚をもつ蜥蜴人(リザードマン)、『リザードマン・エリート』達が白濁色の石斧を振り下ろしてくる。骨だけの羊、『スカル・シープ』の群れがその醜悪な牙で哀れな侵入者を骨も残さず食い尽くそうとする。

 

 レインのいる広間(ルーム)に存在するモンスターは五十を超え、交戦回数は二十を超えている。ギルドがLv.3からLv.4と定めるモンスターの群れが何度も襲い掛かってくる。それは『深層』では異常事態(イレギュラー)でもなく日常(ベーシック)。これを聞いた冒険者は絶対に『深層』へ潜ろうとしなくなるだろう。

 

 壁にも見えるモンスター達は、青い軌跡が宙に走ると例外なく灰になる。もしくは紅蓮の炎に焼かれて灰すらも残らない。

 

 足を止めることなく目の前に現れるモンスターを屠り、レインは目的地へ進んでいく。金が目的ではないので、容赦なく魔石も『ドロップアイテム』も消滅させて進む。仮にここに来るまでに発生した魔石等を換金すれば、第一等級武装を買えるだけの金が手に入っただろう。

 

 しばらく走り続けたレインが辿り着いたのは特大の広間(ルーム)。そこはダンジョン内にも関わらず巨大な『構造物』があり、数えきれないほどの『数』があった。

 

 ()()の名は『闘技場(コロシアム)』。レインの目的の場所にして、モンスターを無限に産み落とす殺戮の空間。第一級冒険者のパーティも近づけないダンジョン最大の危険度を誇る死地(デッド・スポット)

 

 レインは膝を曲げると、勢いよく跳躍し……巨大な円を形を描く死の闘技場中央へ降り立った。

 

 同時に叫ぶ。

 

「いくぞ、モンスター共! 俺は貴様らに挑戦する!」

 

 そして、右手に持つ《ルナティック》の遠隔攻撃をぶっ放した。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 レインの予想では『闘技場(コロシアム)』はさほど苦労することなく一対多の練習ができるはずだった。レインと37階層に出現するモンスターとの間には単純に見てもLv.5分の差がある。

 

 だが厄介だったのが骸骨の人型モンスター『スパルトイ』。厄介なのは強さでも攻撃手段でもなく、出現方法。『スパルトイ』は必ず地面から出てくるのだ。それも狙ったかのようにレインの足元へ。足を掴もうとする骨の手を避けるため、レインは地に足をつけられない。

 

 『闘技場(コロシアム)』ではモンスターが一匹でも減れば、すぐさま補充される。決められた上限を決して割らないのがここの真の恐ろしさ。補充されるモンスターはランダムだ。

 

 レインはモンスターを凄まじい勢いで減らしていく。『スパルトイ』だろうが『リザードマン・エリート』だろうが『ルー・ガルー』だろうが関係ない。全て何の抵抗もできず死ぬ。

 

 しかし補充されるモンスターの大半が『スパルトイ』のため、レインは足を地面につけている時間がない。腕力だけでもモンスターは殺せるが、避ける方に限界がある。

 

 約一日戦い続け、レインは久しぶりにかすり傷を付けられた。Lv.9になって初めての負傷。

 

 かすり傷でももらえば地上に戻ると決めていたレインは地に足が付いた瞬間、跳躍。剣を持っていない左手を下に向け、魔法を放つ。

 

「【アイスエッジ・ストライク】」

 

 次の瞬間、『闘技場(コロシアム)』全体が凍り付いた。モンスターを産み続けるこの場所も、産むために壁や地面を壊せなければ産みようがない。それだけ分厚い氷で覆われている。

 

 レインは邪魔なモンスターの氷像を砕きながら地上へ戻り始める。青年の頭の中では、誰もやろうとはしない鍛錬方法が考えられていた。

 




 地面に足がついてない状態でどうやって躱すんだろうね? 身体を捻ったり、モンスターを足場にしたのかな……。

 魔法を使っていなかったのは縛りです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。