雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
今回、最後のまとめが雑。
「ほお……オラリオに来たのはダンジョンでかっこよく美少女を助けて、助けた美少女はあっさりお前を好きになる予定。それを何回も繰り返すことでハーレムを作りたかったから、ねぇ……。馬鹿なのか?」
「は、ハーレムは男の
「いや、なんでダンジョンでハーレムを作ろうと思ったんだ。そもそもお前好みの美少女がホイホイダンジョンにいると思ってんのか?」
「ふぐぅっ!?」
レインとベルが話しているのは『どうしてオラリオに来たのか』である。レインの方は「強くなるため」「すごいです!」で終わったのだが、ベルのダンジョンを舐め切った理由にレインが酷評しだした。
「それにお前は冒険者になって半月なんだろう? なら潜れるのは精々4、5階層、そこのモンスターなら攻撃をもろに喰らったとしても『痛い』で終わるぞ。どうやったら命の危機に晒される美少女が生まれるんだ」
「ぐはぁっ!?」
「ダンジョンに潜る女は基本的に蛮族……アマゾネスみたいな奴が多い。お前の望むような生娘は数えるほどしかいない」
「ぺぐぅっ!?」
レインの急所を抉るような
「ハーレム作るならいっそのこと娼館で娼婦を買った方が早い。まあ、買うにしても大量の金がいるからお前には無理だが」
「しょ、娼婦を買うつもりなんてありませんよっ。僕は運命の出会いで恋をしたいんです! それは既に叶っています!」
レインの言葉がフィニッシュブローとなってベルに叩き込まれるが、カウンターとばかりに自分の夢は不可能じゃなかったことを叫ぶ。周りに聞こえないように小声で。
「お前の妄想とは配役が逆の恋のことか?」
「何で知ってるんですかぁ!? 僕、誰にも言った覚えありませんけど!?」
「見てた。お前がアイズに助けられて奇声を上げて逃げていく所まで、一部始終」
「かはっ……もう生きていけない……」
カウンターはあっさり封じられ、ベルは死んだ。もともと白い髪がさらに白くなっている気がする。カウンター席に伏せてしくしく泣き始めたベルを見て、レインは慰めることなく酒を飲む。若干言い過ぎた気もするが、ダンジョンを甘く見ていたこいつにはいい薬だろう。
「ベルさん、そんなに悲しそうにしてどうしたんですか?」
「し、シルさぁん……。僕はもう生きていく自信がないですぅ……」
「重症ですね。意地悪な狼にいじめられた可哀想なベルさんには、私の胸を貸してあげましょう」
「誰が狼だって?」
が、優しい娘を装ってやってきた
もっと容赦なく言葉責めをすればよかったかとレインが思っていると、どっと十数人規模の団体が酒場に入店してきた。その団体はレインとベルのいる位置とは対角線上の席に案内される。
レインはその団体が店に入った瞬間、極限まで気配を消した。隣にいたベルが思わず目をこすってしまうほどの気配の消しっぷりだ。店から出ないのは、出たら負けな気がするからである。
彼等は種族の統一されていない冒険者達だった。代わりに全員が生半可じゃない実力を漂わせていた。その中には整った眉を微動だにさせず、静かな表情で落ち着き払った美少女――アイズ・ヴァレンシュタインがいた。
その少女にレインは顔をしかめ、ベルは心臓を飛び跳ねさせる。他の客もその団体――【ロキ・ファミリア】に様々な反応をみせた。
そこからのレインとベルの行動は似ていたが違った。どちらもカウンター席の前だけを見ているが、前者は【ロキ・ファミリア】を見向きもせず酒を飲み、後者は狩人のように息をひそめ【ロキ・ファミリア】の動向を頻繫に窺う。
「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!」
朱色の髪の人物が立ち上がって音頭をとり、それから【ロキ・ファミリア】のメンバーは騒ぎ出した。アマゾネスが尋常じゃないペースで
レインはここが【ロキ・ファミリア】のお気に入りということは知っていたが、自分が場所を変えるのは癪なのでそのまま居座り続けた。だが隣にいるベルのアイズを盗み見る真似が気持ち悪いことこの上ないし、今飲んでいる酒を飲んだら店を出ることを決める。
周囲の客から笑い声が途絶えない中、レインがジョッキの酒を半分まで飲み干したところで、一際大きい酔っぱらった声が聞こえた。声の主は【
「そうだ、アイズ! あの話聞かせてやれよ! 5階層にいたトマト野郎の!」
「あの話……?」
昨日見た光景を思い出させる単語がある。隣を見てみるとベルが顔を真っ赤にして震えている。
「帰る途中で何匹かミノタウロスが逃げただろ!? その最後の一匹を始末する時いたんだよ、いかにも駆け出しっていうひょろくせえガキが!」
綺麗な女性であるシルに声をかけられているにも関わらず、ベルは反応せず俯いている。いつもなら必ず返事はするのに。
そこからもベートの
レインは笑わなかった。ただ、止めることもしなかった。
「――雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」
ベートがその言葉を言い終わると同時に、ベルが椅子を飛ばして立ち上がり、夜の街へ消えていった。
レインがベートの話を止めなかった理由は二つ。あの言葉に耐えきらなければこの先冒険者をやっていけないし、止めればベルがよりみじめになるからだ。
それにベルのいい薬になったと思う。これで完全に夢見気分ではなくなるだろう。あのままだと近いうちにダンジョンで死んでいた。
まあ……胸糞悪くなったことに対する報復はするが。レインは空になったジョッキに水を入れ、いまだ何が起きたか把握できてない者の一人――ベートに向けて投擲した。
♦♦♦
恐らく今日あったことを忘れることの出来る客はいない。
「ガッッッ!?」
誰かが食い逃げをしたかと思えば、轟音と共に【
辛うじてベートとは反対方向から何かが飛んできたことを確認できた第一級冒険者はそちらを振り向き……硬直する。
「発情した犬を大人しくするには、水をかけるか衝撃を与えるといいらしいから同時にやってみたが、本当に大人しくなったな」
そこには疚しさのかけらもない清々しい笑みを浮かべた男がいた。その男がどのような人物かを【ロキ・ファミリア】は知っている。
アイズの剣を片手で止めた事実からフィン、リヴェリア、ガレスが手出しすることを禁止するほど警戒する男だ。『最強派閥の最高幹部』が、だ。
「てめぇ、いきなり何しやがる!?」
「失恋した狼を大人しくさせただけだが? 酔った勢いで告白してフラれて、今どんな気分なんだ?」
「ぶっ殺す!!」
レインの『フラれた』という言葉に激昂したベートが床を砕く勢いで走り出す。誰かが止める間もなくレインの傍まで接近し、深層域のモンスターを即殺する足刀を繰り出す。
「――お前みたいな『雑魚』にできるわけないだろう」
ベートの攻撃はレインの残像を切り裂き、反応することを許さない速度で放たれた拳はベートの顎を的確に打ち抜き、意識を容易く刈り取った。ベートは受け身も取れず床に叩きつけられる。
まあまあスッキリしたレインはこれ以上面倒なことになる前に店を出ようとするが、その肩を掴むのは笑みの消えた
「ちょい待ちぃや。うちの
「人を殺しそうになったのに、それを笑うような奴に謝る必要性を感じない」
ロキの手を振り払い、会計カウンターにヴァリス金貨の詰まった袋を放り込んで店を出る。
足を進めるのは
レインがイラついたところ。
自分達が人を殺しそうになったのに、それを反省せずあまつさえ死にかけた人を笑ったこと。
レインがベートのことが嫌いな理由。
レインはベートの『雑魚』の意味を理解しています。しているからこそ嫌いです。