雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
フィン、リヴェリア、アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤという五人も第一級冒険者がいる豪華なパーティは、アイズとティオナの
このパーティにとって稼ぎどころは『深層』に入ってから。そのため18階層に来るまでに集めた『ドロップアイテム』を売り払い荷物を軽くしようと、ダンジョン内に存在する『街』へと進路を取った。
換金をしたらすぐに19階層に向かおうとしていた一行の予定は、上級冒険者の経営するダンジョンの宿場街――『リヴィラの街』に入って
死体があったらしい宿へ向かうと人だかりで中の様子は分かりそうになかったが、ティオネが怒鳴ったり、フィンが丸め込むことであっさりと中に入ることが出来た。
その時現場検証をしていた男と一悶着あったものの、殺された人物の正体や犯人が女だろうと分かった時にとある冒険者が、
「そ、それらしいこと言ってるけどっ!! お前らの誰かがやったんじゃないか!?」
と、半狂乱でアイズ達に指を指した際に起きた騒動に比べればかわいいものだった。まあ、悪いのはティオネを
そんなこんなで自分の手に負えないと判断した男がフィンに現場の権利を譲った時、宿の外が騒がしくなった。騒ぎは次第に奥に位置するこの部屋に近づいてくる。
「――よおっ! すごく強い美女が現れたって本当か!?」
宿に入るのを止めようとしたらしき冒険者を腰にくっつけたまま、長身黒衣の男は何事もなかったかのように手を上げたが、誰もがあっけにとられて男を眺めている。
「ふむ、唐突な天才の登場に驚きを隠せんようだな。で、美女はどこだ?」
「……レイン、貴様がどんな噂を聞いたのか知らんが一発殴らせろ」
「ん? もしかしてリヴェリアが男を腹上死させた女だったのか?」
「ふんっっっ!!!」
ハイエルフの魔導士とは思えない黄金の右ストレートは、言いたい放題の男の顔に突き刺さることなく防がれた。
♦♦♦
「――なるほど。今街で流れているべらぼうに強く美しい女に男が一人腹上死させられ、死んでもいいから抱かれたいと思う男が宿に集まっているという噂は嘘だったのか」
「いろいろツッコミどころはあるけど、その噂は誰から聞いたんだい?」
「たしかモルドとかいう冴えないオッサンだ」
お前らー、モルドの野郎をシメてこいー、という野太い声が外から響いてくる。フィンとレインは遺体の周りを整理しながら情報を交換していた。
「しっかし……ハシャーナもアホだな。色事に夢中になって抵抗することも出来ず死ぬとか」
「おい、どうして色事に夢中になっていたと断言できる。Lv.4を殺せるほどの力を備えている女の可能性が高いだろうに」
リヴェリアが鋭くレインの発言を指摘する。レインは抵抗の痕が見当たらない男の死体を指さし、
「それも考えられるがオラリオにそこまで強い女冒険者はいるのか? それもリヴェリアみたいにスタイルもいい美女だぞ。そんな奴いるのか?」
「び……!? そ、それもそうか……」
女性の冒険者でLv.4以上の者は数えるほどしかいない。それも男がむしゃぶりつきたくなるような体つきとなればなおさらだとレインは話す。たまにいるナンパ野郎のような軽い調子ではなく、淡々とした言葉故に本気で言っていると分かり、リヴェリアだけではなくティオナ達も頬を染める。
「でも見た感じ情事に至った形跡もないし、強い女がいた可能性も確かにある。フィンはどう思う?」
「僕も同意見だよ。それと、この殺人とは関係ないけど一ついいかい?」
「なんだ?」
「女性がいる時に遺体とはいえ局部を見るのはどうなんだい……」
ハシャーナの遺体の下半身にあった衣服を脱がせたレインに、フィンは疲れたように伏し目になった。女性陣も別の意味で顔を赤くしている。目を手で隠したままレフィーヤが吠える。
「なんで私達がいることを考えないんですかぁ!? この変態っ!」
「? 別に初めて見るわけじゃないだろ? なにガキみたいな反応してんだ」
「そうじゃなくて、デリカシーというものが――」
「フィン、どうやらハシャーナは犯人に狙われる『何か』を極秘で30階層まで取りに行っていたらしいぞ」
「話を聞けえぇぇぇぇぇ!!!」
荷物を漁り血まみれの羊皮紙を取り出したレインはフィンに情報を告げる。
しばらくレインとフィン、リヴェリアが話し合い最終的にフィンの勘によってまだ犯人が『リヴィラの街』にいるだろうと判断し、街全体を封鎖することになった。
リヴィラの住人達が慌ただしく動き出す中、アイズ達はそっと目を伏せ追悼の念を抱く。絶対に犯人を捕まえてやろうと顔を上げ、行動を始める。
外から既に
レインも資金稼ぎのために『深層』に潜っていました。
なんというか「愛してる」とかの類の言葉って、自分と関係なくても恥ずかしくなりません?