黒い戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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次は小話とかを書こうと思っています。シルさんの料理の腕前とかね。


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25話 犯人捜し

 場所は水晶広場。『リヴェラの街』の中心地であり、広場の中央には大きな白水晶と青水晶の柱が双子のように寄り添っており、見通しのいい開けた空間は街中でも最も広い。周囲に水晶や出店が並ぶこの広場で、冒険者一同は集結していた。

 

 

「集まるのが早かったね」

「呼びかけに応じねえ奴は、街の要注意人物一覧(ブラックリスト)に載せるとも脅したからな。この要所(まち)を今後も利用してえ奴等は、嫌々でも従うってもんよ」

「それに、一人でいるのは恐ろしい、か」

 

 

 ああ、とフィンのフィンのつぶやきに頷くボールス。そのやりとりをすぐ近くで見ていたレインが本気で驚いたように目を見開き、

 

 

「ボールス……お前にそんなことを考える知能があったんだな」

「どういう意味だてめぇっ!!」

「だってお前……いつも暴力でしか人を従わせることのできないガキ大将みたいな言動ばかりしてるじゃないか」

「黙りやがれ! くそっ、てめぇなんぞ殺人犯に殺されちまえ!」

「ボールス。周りの不安を煽るような発言は控えてくれ」

「うっ……すまねぇ、フィン」

 

 

 レインの馬鹿にするような言葉にボールスが声を荒げたが、自分達の視線の先で揺れ動いている人だかりのそれぞれの顔にあった不安と恐怖が大きくなったのを見つけたフィンにたしなめられる。

 

 

 既にボールスの口からLv.4のハシャーナが殺されたことは伝えられている。第一級冒険者に匹敵する殺人鬼が潜んでいることに対する不安を増長させるボールスの後先考えない行動に、フィンは微かに苛立ちを滲ませていた。

 

 

「全くだ! もうちょっと頭を使えよ、ボールスの脳筋」

「もうお前は黙っていてくれないか?」

 

 

 口の減らないレインをリヴェリアが双子水晶の後ろに連れていこうとするが、素早く動くレインを捕まえることは出来なかった。ボールスの額には青筋が広がりメロンのようになっている。

 

 

「さて、他に第一級冒険者がいれば楽だったが、相手も馬鹿じゃないか」

「最初から騒動を起こすつもりだったのだろう。Lv.を偽る、または変装……安易に疑われない対策の一つや二つは取っているだろうな」

 

 

 双子水晶の下で集まった冒険者達を見回すレインとリヴェリア。ざっと数えても、五百人に届いている。ちなみにボールスは怒りでどうにかなりそうだということで、フィンが水晶の後ろに連れて行ってしまった。つくづく貧乏くじを引く少年である。

 

 

「とりあえず男と女の冒険者を分けるとして……Lv.を確認させてもらえればよいのだがな」

「我が物顔で調査をすれば、都市中の【ファミリア】から反感を買ってしまいますしね」

 

 

 女性冒険者が一箇所に集められ、多くの男性冒険者に囲まれる様子を見ながらのリヴェリアの言葉に、レフィーヤが相槌を打つ。二人の言う通り【ステイタス】を確認するのが一番手っ取り早いが、情報秘匿の規律に違反してしまう。

 

 

「まずは無難に、身体検査や荷物検査といったところかな」

「よし、そういうことなら……」

 

 

 ボールスを連れて行って帰ってきたフィンが、犯人特定の助言をする。それに真面目な顔で頷いたレインは一つの小屋の前に立つと、顔を上げて女性冒険者達に叫んだ。

 

 

「女は一人ずつこの小屋に入れーっ! この中で体の隅々まで調べてやる! …………ここにいるフィンが!」

『キャアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?』

 

 

 レインのその大声を聞き、全ての女性冒険者が黄色い歓声を上げた。我先にと小屋の前に殺到し、中には直接フィンの前に並ぶ者もいる。ふざけんなーっ! もげろーっ! ちねーっ! とモテない男性冒険者から大顰蹙(だいひんしゅく)の声々が飛んだ。

 

 

『フィン、早く調べて!?』『お願い!』『体の隅々まで!』『なんならそのまま押し倒してもらっても!』

「…………」

 

 

 多くの少年趣味(おんな)に詰め寄られる、遠い目をした【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナ。オラリオにおける女性冒険者人気の一、二を争う第一級冒険者だ。

 

 

「うーん、これは笑える。見ろよ、あのフィンの顔」

「てめぇ何言ってんだ……ッ!? 団長は私のものなんだぞ!」

「ちょっとぉ、ティオネー!?」

「離しなさいっ!? 団長が変態共に狙われてんのよ!?」

 

 

 フィンに殺到する女性陣とレインのふざけた発言にブチ切れるティオネ。暴走しようとする姉を必死に羽交い絞めするティオナは「鏡見なよー!」と叫び散らす。

 

 

『フィンが押し倒されたぞー!』

『いや、お持ち帰りされたー!』

『精力剤持ってる奴がいるー!』

「――うがァああああああああああああああ!!」

 

 

 怒り狂ったティオネが妹の拘束を振りほどき、街の広場は大混乱に陥った。下手すればこの時、フィンの子供ができていたかもしれない。そのくらい女たちの顔は真剣だった。

 

 

「見ろ、ティオネがまとめて四人吹っ飛ばしたぞ。恋する乙女(笑)の力は凄いな」

「どの口でぇ……!?」

「急いで、止めないと……」

 

 

 乱闘騒ぎを見てせせら笑う元凶(レイン)に、レフィーヤとアイズは頭を痛めた。リヴェリアとティオナが慌てて乱闘を止めようと介入する。

 

 

「……?」

 

 

 ふと、そこで。アイズの瞳が人込みの中から、犬人(シアンスロープ)の少女を捉える。その少女は病気かと見紛うほど顔を青白く染め、震え、怯え、後ずさりした後、集団の混乱を利用するように、素早く広間から逃げ出した。

 

 

 不審な行動を放置する選択肢のないアイズとレフィーヤは、急いで少女の後を追った。

 

 

 レインはそれに気付き――追わなかった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 その瞳は少女達の動向を追っていた。その人物は偶然、ただならぬ雰囲気の三人の少女を見つけ、こっそりと後をつけていた。薄闇に包まれる街壁の上に立つその人物は、ハシャーナを殺した者だった。

 

 

 眼下、視線の先では、巨大なカーゴが乱雑に置かれる倉庫の一角で、ヒューマン、エルフ、獣人の少女が向かい合って会話を交わしている。しばらく観察を続けていると、獣人の少女が動き、宝玉が現れた。

 

 

 睨みつけるように(まなじり)を吊り上げり、その宝玉――緑色の胎児を瞳の中心に収めた。一瞬、多くの者がひしめく街の中心部に目をやり、殺すのに手間取りそうだと思った金髪の少女を見下ろす。

 

 

 やがて、懐に伸ばされた手が草笛を取り出す。唇と草の間から生まれる高い笛の音。

 

 

「――出ろ」

「何が出るんだ?」

「決まっているだろう。食人花(ヴィオラス)だ」

「その草笛を吹けば誰でも呼べるのか?」

「でなければ道具の意味がない…………って、何者だ!?」

 

 

 ナチュラルにかけられた声につい応じてしまったが、すぐさま我に返り振り向いた瞬間目に入ったのは、霞むような速さで振りぬかれる黒い足。街の上空を渡るはずの笛の声は、途方もない衝撃音にかき消された。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「うわあっ!? こ、今度はなんなんだよお……!?」

「ぼ、冒険者……?」

 

 

 エルフと獣人の少女、レフィーヤとルルネが進む群晶街路(クラスターストリート)。街が襲われたり、自分の荷物が気色悪いものだったりと動揺しまくるルルネの目の前の結晶に、上から降ってきた手足の先から胸元まで漆黒の鎧に包まれている男性冒険者が叩きつけられた。

 

 

 レフィーヤが咄嗟に駆け寄ろうとするが、上空からレインが現れ彼女の前に立ちふさがる。

 

 

「レインさん、どいてください。あの男の人を治療しないと……」

「必要ない。そうだろ、ハシャーナを殺した女」

「え?……ひっ」

 

 

 レインの言葉に耳を疑う。水晶にめり込んでいる身体を引き抜いている目の前の人物はどう見ても男だ。いや……顔に巻かれている包帯の隙間から、不気味に歪んだ男の顔が見えている。水晶に叩きつけられた際の衝撃で仮面(マスク)――被っていた顔の皮がずれたのだろう。

 

 

「貴様……いつから気が付いていた?」

「この街に来た時からだ。まるでモンスターと人間が混じったような気配がすれば、警戒するのは当然だろう」

「チッ……無駄に勘の鋭い奴め」

 

 

 目の前の人物から本当に女の声がしたことにも驚いたが、レフィーヤはレインが最初から殺人鬼の正体に気が付いていたことが信じられなかった。

 

 

「どうして広場にいる時に教えてくれなかったんですか!? あの時は団長やリヴェリア様もいたのに!」

「アホか。こいつは最低でも第一級冒険者の実力を持ってるんだぞ。周りの弱い奴を人質に取られでもすれば面倒だろうが」

「それは、そうですけど……。私だけにでもこっそり教えておいてくれてもいいじゃないですか……」

 

 

 後半の言葉は近くにいたルルネにのみ聞きとられた。殺人鬼の女はレインにのみ目を向けたまま鎧と肉の仮面(マスク)を強引に剥がし、兜、膝当て、籠手のみを残した軽装の状態で、腰に佩いている長剣を抜き放った。

 

 

「大分予定が狂ったが……いい加減、宝玉(たね)を渡してもらう」

「人殺しにくれてやるものなどない。負け犬のように尻尾をまいて手ぶらで帰れ」

 

 

 女がセリフと共に一気に襲い掛かり、レインの剣と衝突した。




 レインが感じていた気配。犯人の女の気配と宝玉の胎児の気配です。

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