雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
それぞれに第○○話ってつけましたがどうでしょう?
この作品が気に入れば、お気に入り登録、評価お願いします。
「クソッ、よりによってLv.7か!」
「そのセリフでお前の目が節穴ということがよく分かるな。残念ながら俺はLv.6だ。相手の力量を見極める力をもっと鍛えろ。もしかしてそのスタイルを磨くために疎かにしてしまったのか? ならダンジョンではなく娼館にでもいた方がいいぞ」
「――殺す」
血のように赤い髪と緑色の瞳を持つ女はレインと激しく剣と剣を打ち鳴らしながら忌々しそうに吐き捨てたが、Lv.6相当の【ステイタス】しか使っていないレインは敏感に反応して煽る。互いの姿が霞むほどの速さで、決して広くない道で何度も立ち位置を入れ替えながら命だけではなく言葉のやり取りをする二人には、明確な格差があった。
レインは無傷だが、女の全身は細かい傷でいっぱいだった。いつもならばこの程度の傷は瞬きする間に治るはずが、今も不敵な笑みを消さない男の持つ剣でつけられた傷は、治るのが
女は剣だけでなく拳と蹴りも使っている。頭部を粉砕してやろうと凄絶な威力をはらむ拳撃が黒い残像を生み、体を両断してやろうと足刀が弧を描く。その全てをレインは体さばきだけでやり過ごす。
ならばと
出せる限りの力と速度をもってしても、レインの服にすらかすりもしない。しかもその表情には全く緊張感がないのである。まだまだ全然余裕なのだと、女は嫌でも思い知り怒りで奥歯を砕くほど歯を食いしばった。
頭の冷静な部分でメリットとデメリットを計算し、奥の手を使ってでも目の前の男は殺すべきだと女が判断した時、レインの背後――街の倉庫がある場所から風の咆哮が巻き起こった。レフィーヤ達を逃がすために食人花の相手をしていたアイズが、引き付けるための逃走から殲滅に移り、魔法を使用したのだ。
「今の風……そうか、あの女が『アリア』――」
『――ァァァァァアアアアアアアアアアアッ!!』
急に動きを止めた女がアイズのいる方向を見ながら呟いたかと思えば、レフィーヤの抱えていた宝玉――
『アァァァァッ!!』
胎児は緑色の膜を突き破り、自身の総身の何倍以上もの飛距離を礫のように飛び、アイズのいる所へ飛んでいった。すぐにそちらへ向かおうとしたレインだが、女がレフィーヤ達を狙ったため断念する。
数合女と剣を交えていると――
『オオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』
唾液まみれの汚い悲鳴と共におぞましい超大型級のモンスター、極彩色の女体を象った上半身と蛸のような下半身を持つ、まるで
♦♦♦
「お前らは水晶広場に行ってフィン達と合流しろ、こいつは俺が始末する」
「こんな狭い場所じゃ無理ですよ! それにあのモンスター、アイズさんが魔法を使ってようやく倒せたくらい強いんです!」
「アイズにできたことがこの
「あのモンスターがたくさん魔石を食べてるのが見えないんですかぁ!? しかも階層主の魔石まで食べていたでしょうがっ。舐めているのはどっちですか!」
もりもりと魔石を食べる女体型を前にレフィーヤとレインの口論は続く。
あの女体型が現れたところで赤髪の女は盛大な舌打ちを放ちこの場から離脱した。女体型のモンスターは最初魔法を使っているアイズを追いかけていたが、彼女が魔法を解除したため足下にあるカーゴに詰められている中身――魔石を食べ始めた。大中小様々な大きさの魔石の中には、階層主のものと思わしき巨大な魔石もあった。
魔石換金所を経営し魔石を管理するためにこの倉庫を使っていた眼帯の大男が血涙を流す勢いで泣き喚きそうな光景だが、レフィーヤ達にとってはどうでもいい。彼女等にとって重要なのは、どうやってこの男を説得するかだ。
アイズは口下手、ルルネは早く逃げたいのに誰も逃げようとしないためひたすらビビるだけで口論に参加できなかった。
「ぐちぐち言ってないでサッサと行け。理由は分からんがあの赤髪の女はアイズに興味を示していた。もしかしたら狙われるかもしれん」
「それならレインさんも一緒にいたほうがより安全じゃ――」
「レフィーヤ、お前は
「――――――」
笑みを消したレインの言葉にレフィーヤは頭を殴られたような衝撃を受けた。そうだ、あの時誓ったではないか。大切な人を守れるように、助けられるように、側にいることを許してもらえる程に強くなると。何もできない
悔しさを決して忘れないと!
誓いを忘れただ楽な方へ逃げようとしていた自分への戒めとして、赤く腫れるほどの強さで頬を叩く。レフィーヤの突然の奇行にアイズとルルネがギョッとしたが、レインは他者の心を暖かくするような、今まで見たことのない笑みを浮かべた。思わずレフィーヤはその笑顔に見惚れた。
一瞬でいつもの夢にでてきそうなふてぶてしい笑みになったが。
「まっ、俺より弱いとはいえ第一級冒険者が五人いるんだ。お前が何もしなくても返り討ちにできるだろうよ」
「~~~ッ! 相変わらず一言多い人ですね! アイズさん、ルルネさん、団長の所まで急ぎましょう!」
「お、おう……」
「レフィーヤ、こわい……」
顔を真っ赤にして指示をだすレフィーヤに、ヒューマンと獣人の少女は「そんなにレインの言葉がムカついたのか……」と若干ビビりながら従う。果たしてレフィーヤの顔が赤かったのは本当に怒りが原因だったのか……それは本人にも分からない。
水晶の道から三人の少女の姿が見えなくなったところでようやく女体型は魔石を食い尽くしたのか体を起こした。口以外の
任せてもらったはいいが……生理的に嫌すぎて近づきたくない。それに――
「三ヶ月くらい前に倒した
右手に持っている剣に
「滅多にやらない奥の手だ、しっかり味わいな!」
勢いよく長剣を振り下ろす。一瞬、空間そのものが剣筋そのものが剣筋によってズレたように見え――その刹那、数十
♦♦♦
「よりにもよって取り逃がすか? 第一級冒険者が五人もいて? 俺がボコボコにしておいたのに?」
「ティオナ離しなさいっ。こいつは今ここでぶっ殺す! ここなら証拠も残らない!」
「ウザいけど殺しはダメー! それにティオネじゃレインには勝てないよー!」
『リヴィラの街』で勃発した事件から既に六日。あの騒ぎの後、レインとアイズ達【ロキ・ファミリア】パーティは地上に戻った。事件の後始末もあるが、赤髪の女との戦いで消耗してしまった物資の補給もしなければならなかったからである。
やることを済ませた後、再び18階層に赴くと、既に再興され始めている『リヴィラの街』の姿があった。住人のなかでもボールスは再興に最も力を注いでおり、時折涙を流しながらとある倉庫のあった場所を眺めていた。彼が涙を流す原因になった金髪と黒髪の剣士は知らん顔をしていた。というかレインは「おっさんが泣いてもキモいだけなんだよっ」と血も涙もなかった。
でもって現在、『深層域』37階層で一緒に資金稼ぎをしているのだが、フィンとリヴェリアが事件の話をするたびレインがポソッと赤髪の女を取り逃がしたことを責めてくるのだ。ちなみに最初に取り逃がしたことをフィンがレインに伝えた時、レインは【ロキ・ファミリア】を虫けらを見るような目で笑い、いつも冷静なフィンに青筋を浮かばせた。
ティオネを抑えるティオナの会話が隣で交わされる中、アイズは内面に意識を落とす。レインの言葉にティオネは怒っているが、アイズはその言葉を事実だと受け止める。レインは一人であの赤髪の
今も余裕の表情でモンスターの群れを屠っているレインを見て決意する。自分も壁を乗り越えるために冒険をすることを。
この男と同じ単独階層主討伐を。
アイズの願いにより、アイズとリヴェリアがここに残ることになるまであと少し。
アイズは一度もレインに憎悪を抱かないことに気付けなかった。
レインがウダイオス討伐に行った理由。異変があるから調査し、可能ならそれを始末しろとギルド……というかウラノスに頼まれた。そしたら女体型がいた。
アイズがレインを睨みつけたりしなくなった理由は別の話で……(もし書けなければあとがきにのせるかもしれない)。