黒い戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 あらかじめ言っておきます。レインはやると言ったらやる男です。容赦なんてありません。


 あと、難産です。しばらく難産が続きそうでキツイ。


27話 秘密の訓練

『八日後に【ロキ・ファミリア】が59階層に向かう。それに同行しつつ彼等の手助け、及びそこで見たものを報告せよ。ロキにはこちらから話をつけておく』

 

 

 日付が変わったとはいえまだ空が真っ暗な時刻。迷宮都市を取り囲む巨大な市壁の上で鍛錬していたレインは、とある人物の使い魔であるフクロウから受け取った手紙を読んでいた。手紙を運んだフクロウは図々しくもレインの頭の上で肉を食っている。肉はレインの携帯食料だ。

 

 

(【ロキ・ファミリア】が対立している派閥に所属する俺の同行を許可するなんて、普通ならあり得ない。しかし、今回は許可を出す確信があるからこうして手紙を寄越したんだろう……。それほど危険なものが59階層にはあるのか?)

 

 

 頭部を食べかすで汚したフクロウを両手で掴み、ぺいっと市壁の上から放り落としながら今回の手紙について考えるが、情報が足りないのでそこで思考を切り上げる。今レインにとって重要なのは――

 

 

「アイズ、俺はお前のことを天然なだけで馬鹿ではないと思っていた。でも今ハッキリ分かった。お前は馬鹿だ」

「……私、馬鹿じゃないもん……」

 

 

 レインの目の前で涙目で正座しながら小声で反論するアイズ。ちっぽけな勇気を振り絞って言い返した彼女の側には目を回している白髪の少年が転がっている。

 

 

「壁から落ちる方向に向かって力いっぱいLv.1を蹴り飛ばす奴を『馬鹿』以外になんて呼べばいいんだよっ。この馬鹿たれが!」

「キャンッ!?」

 

 

 知り合いの少年を地面のシミにしかけた金色の天然少女の頭を、レインはアイズの剣の鞘(横向き)でぶっ叩いた。ちなみに二回目である。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 ベルはかつてないほど汗を垂れ流していた。憧憬(あこがれ)である少女が天然であると分かったこともそうだが、目を覚ましたらその少女が涙目で正座をさせられ説教を受けていたのだ。

 

 

 色々あってアイズに稽古をつけてもらえることになったベルがエルフの少女に追いかけまわされた後で市壁の上に訪れると、そこには待ち合わせの相手であるアイズと、『豊饒の女主人』で会ったきり顔も見なかったレインがいた。

 

 

 最初はアイズとレインが逢引きしているのかと思って血の気が引いたが、レインは基本的にここで鍛錬をしているようで、そこにアイズとベルが来ただけだと教えられた。本拠地(ホーム)でやらないのはよく団員に絡まれるためらしい。

 

 

 このことは内緒にしてほしいと頼んでから訓練を始めたのだが、数分もしないうちにアイズがベルの胸を回し蹴りで撃ち抜き、意識をあっさりと刈り取った。しかも壁から落下しかけるほどの力で蹴り飛ばされたらしく、レインがいなければベルは汚い花火に、アイズは殺人罪になって【ガネーシャ・ファミリア】のお世話になっていたとのこと。

 

 

 レインは二人の訓練に口出しするつもりはなかったが、この調子だとアイズがうっかりでベルに重傷を負わせてしまいそうなので手を貸すことに。片思いの相手に殺される……笑い事ではない。

 

 

「アイズ。お前がベルを気絶させるたびに尻をぶっ叩く。三回目からはスカートとスパッツをまくって尻をぶっ叩くからな」

「えっ!? そ、それはやりすぎなのでは……」

「ならお前が気絶しなければいいだけだ」

 

 

 アイズのお尻が見れる……!? と(よこしま)な考えが頭を横切ったが自分が気絶してたら意味がないと気付き、想い人の好感度を上げるためにベルは庇ったが、レインの鋭い眼光でねじ伏せられる。そもそもこれはベルへの脅しだ。アイズは尻を見られることに抵抗はない。叩かれるのは嫌かもしれないが……。

 

 

「五回気絶させればその日はジャガ丸くん抜きだ」

「!?」

「異論は認めん。さっさと訓練を始めろ」

 

 

 アイズにとって座学と同じくらい苦痛な罰が課せられた。横暴だー! と心の中で幼いアイズが「反対!」と書かれた看板を振り回している。それとなく二人で不満の視線を向けていたが、

 

 

「これでぶっ叩くほうがいいか?」

 

 

 レインが振り下ろした長剣(鞘入り)が壁の一部を砕いたのを見て、ベルとアイズは素直に従った。

 

 

 

 

 

 

 

「アイズさん……何回も気絶してしまってすみません……」

「いや……、私の力加減が下手糞なだけだから……君は悪くない」

「……レインさんって……優しいのか怖いのか分かりにくい人ですね……」

「……そうだね」

 

 

 この日、ベルは19回気絶させられた情けなさで、アイズは尻の痛みとジャガ丸くん一日なしになったせいで惨いほど真っ白になっていた。アイズはコッソリ食べようと考えていたのだが、

 

 

「あ、俺に内緒で食べたとしても分かるから。もし食ったらリヴェリアに、お前が昨日ジャガ丸くんを食べまくったことを教えるからな」

 

 

 幼稚な作戦はすぐに見破られる。実はレイン、相手の目を見れば嘘が分かる。ジャガ丸くんを食べたかどうか訊けば、すぐに分かるのだ。

 

 

 ちなみに約三時間不屈の意思を空回りさせていたエルフは、アイズと似たような状態になっていた誰とも知れないヒューマンに嫉妬した。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

『鍛錬』二日目。

 

 

 リヴェリアの指摘に屈したくない負けん気と、白兎をモフりたい欲求が抑えきれず、アイズは今日もジャガ丸くんを食べられない。尻は回復薬(ポーション)を使わないといけないくらい叩かれた。スナップが利いていて本当に痛いのだ。

 

 

 心の中で幼いアイズと白兎が黒い犬に飛び掛かったが、尻尾で返り討ちにあった。もはやトラウマになりかけている。

 

 

 

 

 

 

 

『鍛錬』三日目。

 

 

 ベルが気絶しにくくなった。そろそろジャガ丸くんが食べられると思い嬉しくなったせいで力が入り、気絶させてしまう。馬鹿を見るような目で叩かれた。

 

 

 こんなに叩かれたらやる気をなくす、と自分がベルをしばきまくっていることを棚に上げてアイズは文句を言ったが、

 

 

「この世界には殴られて喜ぶ奴もいる。……というかこれくらいで文句言うな」

 

 

 容赦なく頭を長剣(鞘入り・縦)で叩かれてまともに取り合ってもらえなかった。Lv.6になって耐久も上がっているのに、頭が割れるんじゃないかと思うくらい痛かった。 

 

 

 

 

 

 

 

『鍛錬』四日目。

 

 

 ベルが五回気絶しなかった。少年が目に見える早さで成長していることに内心喜んでいると、明日一日中稽古をつけてほしいと頼まれた。ベルの技術向上にはまとまった時間がほしいと考えていたので、すぐに承諾した。

 

 

 ……お尻を叩かれるのが気持ちよくなってきたのは秘密である。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「レインさん、それは何ですか?」

 

 

『鍛錬』五日目。

 

 

 ベルがアイズに決死の想いで一日中訓練をしたいと交渉したこの日、アイズが指導力不足(ポンコツ)だったせいで訓練に加わったレインが持ってきたのは、白い布で包まれた長柄の物体。ベルの問いに答えるように布をはがせば、素人のベルの目でも業物とわかる真紅の薙刀が姿を現した。

 

 

「今日は俺が相手をする。敵の獲物が変わっても対応できないと意味がないだろう」

「なるほど……。その、失礼な事を尋ねますが……」

「安心しろ。俺はアイズと違って手加減ができる。気合を入れれば気絶しない力加減でボコボコにしてやるから」

 

 

 ちっとも安心できない言葉と一緒に横っ面に衝撃を受け、ベルは気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 中天に太陽がさしかかる頃、ベルはアイズの柔らかな腿の上で寝かされていた。レインはアイズよりずっとうまく手加減をしているというのに、昨日のしぶとさは何だったんだと思うくらい気絶する。

 

 

 ベルが意識を失うとアイズは膝枕をする。最初はレインと手合わせをしようかと考えていたのだが、自分が強くなりたいがためにアイズを全く疑っていない少年を冷たい石畳の上に転がしておくのは心苦しい。後はそう、心地良いのだ。それにレインはアイズと戦おうとしてくれない。

 

 

「……ほあぁ!?」

 

 

 しばらくするとベルが奇声を上げて起き上がった。小休止を挟んだアイズはベルと肩が触れ合うほど距離に座る。レインは「回復薬(ポーション)があればすぐに訓練ができるじゃないかっ」といきなり指を鳴らしてどこかへ消えた。

 

 

 二人は前を向いたまま他愛のないやり取りをいていたが、アイズが暖かな日差しに気が緩んでしまい、訓練という名のアイズが睡眠欲を満たすための昼寝の時間になった。 

 

 

 

 

 

 

 

 ……レインによって大量に購入された回復薬(ポーション)だが、ベルのアイズにキスをしようとしている瞬間が目撃されたことにより使われないことになる。

 

 

 美神(フレイヤ)といい、白兎(ベル)といい、狂戦士(ティオネ)といい……どうして相手の意思を無視する奴が多いのかと思いながら、レインはベルの頭を長剣(鞘入り・縦)でぶん殴るのであった。




ロキ「なんやっ!」
リヴェリア「どうしたんだ、ロキ?」
ロキ「アイズたんが開いてはいけない扉を開きかけとるっ、気がする!」


 レインが尻を叩くことにしたのは、頭はホイホイ殴っていい所ではないからです。


 アイズの回し蹴り……当たりどころが悪ければ、ベル君死んでたよね。

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