雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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二十九話 遠征開始

「全員に伝えておくことがある。今回の『遠征』だが、【ヘファイストス・ファミリア】以外でレインが同行することになった」

 

 『遠征』二日前。場所は【ロキ・ファミリア】の食堂。フィンは『遠征』の準備でいない者を除き、全ての団員を集めその情報を伝えた。

 

 全ての団員がざわついた。いい関係を築くことの出来ている派閥と一緒に『遠征』を行うことは珍しくない。【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッドに至っては多大な貸しを作ることになっても、『遠征』に同行してもらいたいと考える派閥も多い。

 

 しかし……半ば敵対していると言ってもいい派閥の団員と『遠征』を行うことは、あり得ない。指揮・伝達・連携が取りにくいというのもあるが、なにより『遠征』先で自爆テロをされる可能性もあるからだ。

 

 当然、フィンの決定でも反対する団員はいる。フィンも絶対に彼――ベートが反発すると予想していた。

 

「説明しやがれフィン! なんであの女にだらしねえクソ野郎と『遠征』に行かなきゃならねえんだ!」

 

 ベートはレインの事が嫌いだ。『豊饒の女主人』で瞬殺されたことは気にしていない。弱者は強者に何をされても文句を言えない。弱肉強食はベートが掲げている信念だ。非常に癪だが、ベートはレインが強者だと認めている。

 

 だからこそ嫌いだ。いつもヘラヘラと笑い、見た目のいい弱者(おんな)を見つければ関わろうとする強者(レイン)が。まだ鋭くなる余地を残している牙を磨くことを放棄しているようで。

 

「ベートの質問の答えだが……レイン本人から手紙を預かっている」

「手紙、だと?」

「ああ。それもベート宛にだ」

 

 フィンは懐から取り出した手紙をベートに手渡す。ベートは受け取るなり乱雑に封を破り、手紙を読む。そこにはミミズがのたうち回っているかのような下手糞な文字で――

 

『見事に失恋した狼へ

 

 お前、あの赤髪の女にボコボコにされたんだって? しかも《フロスヴィルト》を破壊されたとか……。

 

 いっつも馬鹿の一つ覚えの様に「雑魚」と繰り返し言っている割に、お前も雑魚だったみたいだな☆

 

 どうせ俺が『遠征』に同行することに文句を付けるんだろうが……俺がいなけりゃダメだと判断されるくらい弱いんだよ、お前等は!

 

 どうしても同行して欲しくないのなら、俺が納得できるくらい強くなってから言え。あ、負け犬には無理か。

 

 世界最強の天才より』

 

 ベートは何も言わず手紙を握りつぶし、食堂を出ていった。ティオナとティオネが止めようと思えないくらい怒気を滲ませて。

 

「さて……他にもレインが同行することに反対する者はいるだろう。今から読むのは僕等全員に対する、レインの手紙だ」

 

 ベートが出ていって空気が弛緩した途端、フィンがまさかの二通目を取り出す。一同が聞く体制に入っているのを確認し、よく通る声で読み上げる。

 

「――『文句があるなら結果を出せ。プライドだけは一丁前の凡人共が!』。……以上だ」

『舐めんなっ!!』

 

 こうして【ロキ・ファミリア】の『遠征』メンバーは限界まで己の身体を苛め、鍛え、【経験値(エクセリア)】を溜め込み、女好きの主神を絶叫させることになる。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 快晴の空から陽光が降り注ぐ中央広場(セントラルパーク)

 

 『バベル』の北門正面から離れた場所では、【ロキ・ファミリア】の少年、少女、偉丈夫に親交がある冒険者達が声を掛け、ある者は笑顔と共に激励を送る。

 

 【ロキ・ファミリア】が向かうのは命がいくつあっても足りない危険な場所だ。これが最後の言葉になるかもしれないと理解している彼等は、満足いくまで言葉を交わす。見渡せば似たような光景が広がっていた。

 

「いいですか、レインさん。もし重症と引き換えに相手を殺すことが出来たとしても、一切迷うことなく避けることを選択してください」

「へいへい」

「大量のモンスターが群がっている所にも突撃しない。一匹ずつ安全に倒してください」

「それは無理があるぞ。37階層ですらモンスターは基本的に群れるのに……」

「そしてこれだけは絶対に守ってください。……決して、【ロキ・ファミリア】の女性団員の方々の裸を覗いたりしないこと!」

「ええー……」

 

 アミッドが大量の試験官が詰まっている大きめな小鞄(ポーチ)を、いくつかの小言と一緒に押しつける。小言も小鞄(ポーチ)もレインは拒否しているのだが、強引に押し付けてティオナ達の所に行ってしまった。

 

「はっはっは! レインでもあの聖女様には敵わぬか!」

「おいっ、てめぇ! 離しやがれっ!」

 

 この小鞄(ポーチ)の中に入っている回復薬(ポーション)分の代金は、『遠征』が終わってから払うか……とレインが考えていると、小脇にベートの頭を抱えた椿が周囲から畏怖を集めながら近づいてきた。

 

「ムッツリと鍛冶馬鹿か。こちらが強く出たら何倍にもなって返ってくるから、大人しく受け入れるしかないんだ。アミッドが俺の事を想っての行動だって分かっているし」

「……ふむ。存外、乙女心を分かっているのだな、お主は」

「乙女心?」

「なに、こちらの話よ」

 

 よく意味の分からない事を言い残して椿は元居た場所へ戻っていった。乙女心? アミッドは優しい子だから、俺が無茶な戦い方をするのを心配しているだけだろうに……。あと、何でベートを抱え込んでいたんだ?

 

「――総員、これより『遠征』を開始する!」

 

 ぼんやりと考え込んでいたレインの意識は、フィンが声を張り上げたことで引き戻された。フィンの声は例の手紙の件で、レインに敵意を向けていた団員達の意識も引き付けた。

 

 リヴェリアとガレスを左右に伴い、バベルを背後に置く【ロキ・ファミリア】の首領に、レインもきちんと向き合った。……向き合わないでいたら、とあるアマゾネスのいる方向から邪悪な気配を感じたからでもある。

 

「階層を進むに当たって、今回も部隊を二つに分ける! 最初に出る一班は僕とリヴェリア――」

 

 フィンの宣言を聞きながら、レインは奥にある白亜の巨塔――その下にあるモンスターの巣窟に思いを馳せた。

 

 レインはエイナの手によって50階層以降の情報を制限されており、49階層までしか行くことができなかった。【フレイヤ・ファミリア】の『遠征』について行こうとしても、オッタル達はレインがいない時を見計らって行動するため、一度も自派閥の『遠征』に行ったことがない。

 

「君達は『古代』の英雄にも劣らない勇敢な戦士であり、冒険者だ! 大いなる『未知』に挑戦し、富と名声を持ち帰る!!」

 

 富も名声も自分には必要ない。望むのは力だけ。それ以外は何もいらない。

 

「犠牲の上に成り立つ偽りの栄誉はいらない!! 全員、この地上の光に誓ってもらう――必ず生きて帰ると!!」

 

 もう誰も死なせない。守れるように強くなる。

 

「遠征隊、出発だ!!」

 

 フィンの号令により【ロキ・ファミリア】、遠征開始。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、様々な思惑の絡まる冒険譚がダンジョンで紡がれようとしていた。 




 
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