黒い戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 レインの強さを考えると、なにもかもアホらしくなる。


30話 『頂天』

「はぁ…………」

「儂を見てため息を吐くな、鬱陶しい」

「何が悲しくてオッサンドワーフと並んで待っていないといけないんだか」

 

 

 レインが配属されたのは第二部隊。第一部隊にはレインと仲の良くない団員が多いので当然の采配なのだが、第二部隊はしばらく待たないといけない上に、メンバーはレインを恐怖か嫌悪の目で見てくるので苛立ちが溜まる。睨めば目を逸らすが。

 

 

「正直助かるわい。今まで第二部隊は儂一人で守っておったからのう!」

「フィンの奴、第一級冒険者をもう一人こっちに寄越せばいいのに……」

「本当にそうじゃな……あの小人族(パルゥム)は変なところで頭が固い」

 

 

 むさいおっさん(ガレス)が部隊メンバーであることに不満を隠そうとしない。ガレスはそれを咎めるどころかフィンの采配に対する悪口を一緒になって言い出す。止めた方がいいのだろうが、雲の上の存在であるLv.6二人に意見できる者はいない。唯一、意見できそうな椿は面白がるだけで止めようとしない。

 

 

 レインもガレスも、先鋒隊に派閥の主戦力が集中する理由も、どうしていつも第二部隊にガレスしか第一級冒険者がいないのかも知っている。でも不満は出てくるものだ。

 

 

「リヴェリアかアイズ、妥協してティオネの内、誰か一人でもこの部隊にいればいいのにな……」

「ティオネはフィンの側を離れようとはせんじゃろうし、第一部隊はリヴェリアしか魔導士がおらん。動かせるとすればアイズだけになるが、あの娘の強さと性格的に第一部隊から動かせん」

「そうなんだよなぁ……。ティオナとベートは論外だし、仕方ないか」

「? ティオナもベートも十分強いじゃろう。何故論外なんじゃ?」

「ティオナは色気が微塵もないし、俺は男と恋愛をする趣味はない。だから論外だ」

「…………お主、とことんブレんな……」

 

 

 戦力より美人で色気があるかどうかで考えるレインに、ガレスは呆れより感心が勝った。そこまで驚かなかったのは、似たようなアマゾネスを普段から見ているおかげである。

 

 

 と、その時、レインが何かに気が付いたかのように下を向いた。次いで憎々し気にバベルを見上げる。

 

 

「……本当にやりやがったか、あのクソ女神!」

「おい、どこに行く!?」

 

 

 ガレスが止める暇もなく、レインはダンジョンへ駈け込んでいった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 9階層に続く長方形の広間(ルーム)。そこでは一方的な戦いが繰り広げられていた。

 

 

「くそがァああああああああああッ!!」

 

 

 頭部から血を流す灰色の狼が雄叫びを上げて飛び掛かる。それに合わせてアマゾネスの双子が大斬撃と連撃を、怪人(クリーチャー)すら圧倒する風を纏った金髪の剣士が神速の袈裟斬りを繰り出す。

 

 

 その全ての攻撃を難なく弾くのは――

 

 

「温い」

 

 

 ()()()()すら存在しない一人の猪人(ポアズ)。【ロキ・ファミリア】の精鋭による波状攻撃を、右手に持つ大剣のみで全て無効化する。アイズの階層主専用の必殺ですら、目の前の武人は無効化した。

 

 

 戦いが始まって二分も経過していない。9階層に『ミノタウロス』がいると聞いて急行したアイズ達は、最後の道に立ちはだかる門番を超えられなかった。四人が大なり小なり傷を負っていながら生きていられるのは、目の前の武人――オッタルが自分達を殺す気がなく、ここを通さないことに重きを置いているからだと四人は既に理解していた。

 

 

 情けを掛けられている屈辱にベート、ティオナ、ティオネは捨て身の攻撃を叩き込むが、オッタルの『完全防御』を崩せない。それどころか死なない程度に手を抜かれた反撃をもらい、広間(ルーム)の壁に叩きつけられ意識を失った。

 

 

 気を抜けば一瞬で意識を持っていかれる戦闘で明滅するアイズの思考が、吹き飛ばされた仲間と三日前の襲撃者達を思い出したことで、信じられない答えを導き出す。

 

 

 アイズの反応を振り切る『敏捷』を見せた猫人(キャットピプール)。第一級冒険者四人がかりの攻撃でもかすり傷一つ負わせることの出来ない『防御』を行う猪人(ポアズ)

 

 

 まさか、まさか、まさか。彼等は、【フレイヤ・ファミリア】の幹部達は――。

 

 

「――その通りだ、【剣姫】。お前と同じように俺は、俺達は全員、()()()()()()()()()

「―――――!?」

 

 

 他の仲間が沈んでも己に挑んでくる剣士の思考を読み取った、オラリオにたった一人のLv.7――いや、Lv.

8の『頂天』は彼女の考えを肯定し、それを証明するように風を纏うアイズを大剣の横薙ぎで吹き飛ばす。気流、細剣(デスペレート)を貫通した衝撃を殺しきれず、アイズは仲間と同じように壁に叩きつけられた。

 

 

 オッタルは追撃しない。何かを確かめるように猛牛の怒号が響いてくる道を見据え、再び立ちふさがる。白い少年を助けたいという想いで戦う少女は、震える手で剣を取り立ち上がる。

 

 

「やけに親指がうずうずいっていると思ったら……これも含まれていた、ということかな?」

 

 

 間もなく、長槍を携える黄金色の髪の小人族(パルゥム)と、ここまでアイズ達を案内した血まみれの小人族(パルゥム)の少女を抱きかかえた王族(ハイエルフ)が現れた。途中から周りを気にせずに戦っていたからか、小人族(パルゥム)の少女はフィンとリヴェリアが現れた通路に吹き飛ばされていたらしい。

 

 

「やぁ……と挨拶をしたいところだけど、何故この場所で、この時に僕達と矛を交え、『遠征』に支障が出るほどの怪我を負わせたのか、理由を聞いてもいいかな、オッタル?」

「敵を討つことに、時と場所を選ぶ道理はない」

「もっともだ。じゃあ、それは派閥の総意、君の主の神意と受け取っていいのかな? 女神フレイヤは、僕達と全面戦争をすると?」

 

 

 鋭い輝きを放つ長槍を突き付けながら尋ねてくるフィンに、オッタルは口を開き――目的の人物が近づいてくるのを感じ取り、口にする内容を変える。

 

 

「フィン、お前の問いに対する答えは二つある」

「なんだい?」

「お前達とことを構える意思は俺達にはない。だが、そう捉えるならそれでも構わん。結果は分かり切っている」

「へぇ……その言い方だと君たちが勝つように聞こえるけど?」

 

 

 リヴェリアの魔法で治療されたベート達が目を覚まし、オッタルの言葉を聞いて鋭い眼差しを向ける。しかし、オッタルは【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者達に目を向けない。ひたすら天井に目を向けている。

 

 

「そうだ……あの”怪物”が現れたことで、既にお前達は眼中にない。あの”怪物”に傷一つ付ける事に比べれば、お前達から勝利をもぎ取るなど、容易いにも程がある」

 

 

「あの”怪物”とは何だ」とフィンが問う声を遮るように、広間(ルーム)の天井に斬撃を受けたような亀裂が奔り、崩壊した。降ってくる巨大な瓦礫は、【ロキ・ファミリア】とオッタルの中間に轟音を奏でながら激突する。

 

 

 崩れたのは天井ではなく、階層を区切るダンジョンの分厚い床そのもの。それが斬撃によって破壊されたことにオッタルだけは驚きを見せない。斬り崩された瓦礫の上に立つ”怪物”ならば、その程度息をするようにやってのけることを知っている。

 

 

 彼が【フレイヤ・ファミリア】に入団してからというもの、派閥内では過ぎ去ってしまった『あの時代』が可愛く見える『洗礼』――『殺し合い』が繰り広げられるようになった。

 

 

 手足が千切れた事がない団員がいなくなった。あと一秒遅れれば、命を落としてしまう重傷を負う団員が後を絶たなかった。毎月【ランクアップ】する者が現れるようになった。

 

 

【ランクアップ】した者は一度だけ”怪物”に挑む権利を手にできる。そして挑んだ者は、その心奥にマグマのごとく煮えたぎる闘争心を植え付けられるのだ。敬愛する女神の寵愛をかき消さんばかりの闘争心を。

 

 

 それはオッタルも例外ではない。

 

 

 オッタルは挑むのだ。『あの時代』の『化物』を超える『怪物』に。常人ならば心を折る『絶望』の頂きを嘲笑う様に乗り越え、天を駆け抜ける『雷霆』でも殺せない男に。自分が強くなるために捨てた物を捨てなかった『人間』に。 

 

 

「やはり、来たか……レイン」




Lv.8になったオッタル。自分をボコボコにしたゼウスやヘラの【ファミリア】をボコボコにした『黒竜』をボコボコにしたレインに勝てるのか!?

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