雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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レインの【ステイタス】、どーしよーかなー。あと戦闘描写は苦手。


三十一話 『手紙』

「ちょっと前まで威勢がよかったくせに、なんだ、そのザマは?」

 

 壁際に座り込んでいるティオナ達を見つけたレインはいつものように不敵な笑みを口元に刻み、心配する素振りを微塵も見せず煽った。ティオナ、ティオネ、ベートの額に青筋が浮かぶ。

 

「ベート……お前、冒険者になりたての奴を『トマト野郎』とか『冒険者の品位が下がる』とか言って馬鹿にしていた癖に、自分はそれ以上に無様な姿を晒すとか……すごいな。俺には恥ずかしくて真似できん」

「んだと……っ!?」

「脳筋に四人がかりで戦ったにも関わらず、傷一つ付けられない上に手心まで加えられている。これを無様と言わずなんて呼べばいいんだ? よかったら教えてくれないか?」

 

 露骨に肩をすくめて首まで振るレインに、ベートは歯ぎしりするしかない。

 

「ちょっとレイン! そこまで言われる筋合いはないよ!」

「はぁ? お前ら、ミノタウロスに追いかけられていた奴を笑っていただろうが」

「それは今関係ないじゃん!」

「大ありだアホが。お前らが馬鹿にした冒険者は格上(ミノタウロス)から逃げきった。それを笑ったお前らは格上(オッタル)に手加減されなきゃ死んでる。お前らはお前らが笑った冒険者以下だ」

 

 犬猿の仲といえど仲間が貶されることに我慢できなくなったティオナがレインに噛みついたが、容赦のない切り返しに何も言えなくなる。というかそれを聞いたベートとティオネはビキビキッ! と額に盛大な青筋を走らせてる。飛び掛からないのは割と図星だからか……。

 

「ほら、脳筋は俺が相手をしておくからさっさと行け。ただの勘だが面白いものが見れるぞ」

「…………後で色々聞かせてもらうからな」

 

 右手に持つ青白い魔剣でオッタルの後ろの道をレインが指し示せば、不動の壁のように動かなかったのは何だったんだ……と言いたくなるほど簡単にオッタルは道を開けた。真っ先にアイズが道の先へ駆け抜け、レインとオッタルに睨みをくれながらティオナとベートが後に続く。

 

 少し遅れてフィンと想い人の存在でこの場に踏みとどまっていたティオネが出ていき、最後に小人族(パルゥム)の少女を抱きかかえたリヴェリアがレインに一言残し、消える。

 

 ――猪人(ポアズ)の武人と黒衣の戦士は、十M(メドル)の間合いを取って向かい合う。オッタルは大剣を正眼に構え、レインは魔剣をだらりと下段に構える。

 

「……お前はミノタウロスを始末してからこちらに来ると思っていた。あの御方に見初められた冒険者を、お前は気にかけていたからな」

「………………」

 

 油断なく大剣を構えたまま、オッタルはぼそりと言った。レインは不敵な笑みを浮かべたまま答えない。

 

「教えろ。お前はあの御方の試練を快く思っていないだろう。何故、今回は止めようとしない?」

「最初は邪魔してやろうかと思ったがな。ちゃんと『手紙』の事を覚えているようだから、今回は止めない」

「……」

「お前も問題ないと判断したからあいつらを通したんだ。違うか?」

 

 オッタルはこれが答えだと言わんばかりに急接近し、大剣の大薙ぎを放つ。大重量の武器から放たれたとは思えない豪速の一撃は、棒立ちのレインの身体を上下二つに両断した。

 

「――へぇ。残像は目で追えるようになったのか」

「っ!」

 

 声がしたのは振り切った()()()()。両断したのはレインの残像だと気が付いたオッタルは動揺をねじ伏せ、余裕の笑みを崩さないレインを得物から振り落とし、返す刃で大上段からの極斬を繰り出す。 

 

 かつて砂漠に深々とした地割れを刻み込んだ全力の斬撃は、【ランクアップ】によって激上した身体能力も相まって強風を生じさせ、レインの髪の毛を巻き上げる。

 

「―――――」

 

 しかし次の瞬間、オッタルは愕然と目を見開く。『スキル』を使っていないとはいえ、両腕を使い出すことの出来る力全てを込めた斬撃を、レインは剣を持たない左手であっさり止めてしまった。衝撃で踏みしめる地面が陥没したが、それだけだ。レインに何の痛痒も与えられていない。

 

 大剣の剣腹を五本の指で掴んで止めたレインは、何事もなかったように押し返す。得物が跳ね上がった反動でオッタルがたたらを踏んでも、レインは斬りかからない。魔剣を下段に下げたままオッタルを見ているだけ。

 

「――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 手加減をされていることへの怒りと惰弱な己への怒りを咆哮に変え、オッタルは無茶苦茶に大剣を振り回す。

 

 レインの頭上を狙って大振りに振り下ろし、横殴りの斬撃を見舞い、隙を見てガラ空きの胸元や首目掛けて閃光のごとき突きを繰り出す。

 

 ――しかし、当たらない。オッタルの繰り出す斬撃はいたずらに空を斬るのみで、命中どころかかすりもしない。

 

 ある時は身を捌き、ある時は上半身を後ろに逸らし、またある時はそちらを身もせず、一歩横に身体を引いただけで攻撃を躱した。剣は持っているだけで防ぐことに使おうとしない。

 

「オオオオオオオオオオオッ!!」

「剣筋が雑になったな」

 

 微塵も当たる気がしない故の焦りか、それとも心が折れたのか――オッタルの剣筋がブレたのをレインは見逃さない。

 

 何重にも霞むレインの残像の一つがオッタルを通り抜けた。あっ、と思う間もなく急所を避けた場所から血が噴き出し、オッタルの身体から力を奪う。大剣を地面に突き刺して倒れまいとするも、大剣の根元に裂け目が奔り、支えることを拒絶する。

 

 「とどめじゃあっ」とばかりにレインが側頭部に回し蹴りを叩き込み、オッタルの意識は消えていった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

『守りたい者がいるなら、この手紙の事を覚えていろ』

 

 9階層。出現階層から大きく離れた階層に現れたトラウマ(ミノタウロス)から自分を庇って血を流す少女(リリ)を見て、ベルの頭の奥で青い閃光が弾けた。

 

 一か月くらい前に読んだ手紙。とても汚い字で書かれていて読みにくかったけど、書かれていることは不思議と忘れることはなかった。

 

『絶望的な状況、なんて事態は滅多にない。針の穴を通すようなものであろうと、どんな時にもチャンスはある』

 

 恐怖で動かなかった身体が勝手に動き出し、回復薬(ポーション)をリリの額に振りかける。傷は塞がらなかったが、意識を取り戻した少女を思い切り横に投げ、巨躯を翻したミノタウロスと相対する。

 

『恐怖で止まるな、怒りで我を忘れるな、絶望で諦めるな。感情なんぞ全て身体を動かす力にしろ』

 

 鞘からナイフを引き抜いて構える。頭から血を流しているリリが何かを叫んでいるが、ベルの目にはベルを敵と認め、獰猛な笑みを浮かべて大剣の刃を向けるミノタウロスしか映っていない。ベルの心には目の前の敵を倒すという想いしかない。

 

『自分が屈することで守りたい人を守れない、大切な人を悲しませることを想像すれば、絶望的状況を覆すことなんて――簡単だろう?』

 

 無茶苦茶だと思う。平凡な自分は簡単に怖がるし、泣くし、落ち込むし、針の穴を通す位のチャンスを生かせることなんて出来ない。今も高すぎる高嶺の花を眺めているだけだ。

 

 でも――リリ(守りたい人)を守れないこと、ヘスティア(大切な人)を悲しませることを想像すれば、ミノタウロスを倒す勇気が湧いてくる。憧憬のいる高みに手を伸ばそうと思える。

 

「――勝負だッ……!」

 

 冒険をしよう。大切な人達のために。

 

 ベルは小さなナイフを手に、巨大なモンスターに駆け出した。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「我ながら似合わない事をした」

 

 意識を失ったオッタルを背負って地上に向かうレインは一人呟く。

 

 下の階層から膨れ上がり続ける闘気を感じ取り、口にするか悩んだが、前を見たまま言葉を紡ぐ。

 

「頑張れ、ベル。そいつを乗り越えられないと、『英雄』もアイズと付き合えるのも夢のまた夢だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お前は俺の様に、大切な人に命を懸けて守られてくれるなよ」

 

 レインの言葉を物言わぬ迷宮だけが聞いていた。 

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