雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

35 / 81
 さあ今回も無理矢理感がある気がするけど、楽しんでください。

 やっぱりね、レインには女たらし成分がいるでしょ!

 


三十三話 ホラ吹きで酒好きで女癖の悪い男

 リヴェリアが最初に聞いたレインという男の噂は、三歩も歩けば大ボラを吹き、暇さえあれば浴びるほど酒を飲み、トドメに目も当てられないほど女癖が悪い――という酷い物だった。

 

 火のない所に煙は立たない。リヴェリア自身、路地裏を走り回っていた子供達が、

 

「レインがさ、世界の彼方にいるとっても強くて、怖い『竜』に勝てるくらい強いって言ってたけど本当かな?」

「オッタルが千人いても勝てるとも言ってたけど……ルゥはどう思う?」

「……わかんない」

 

 と喋っているのを目撃した。

 

 だからリヴェリアは最初――心底、とまではいかないけれど、レインの事を軽蔑していた。

 

 娘同然である金髪の少女の悲願を嘲笑うかのようなホラを耳にしたのが発端だが、理由は他にもある。

 

 【フレイヤ・ファミリア】の入団条件はフレイヤが気に入るかどうか。つまり受け入れられたなら、必ずあの美を司る神の寵愛を受けることになる。それ故に【フレイヤ・ファミリア】の団員は老若男女関係なく、フレイヤ以外に目もくれない。

 

 リヴェリアは【フレイヤ・ファミリア】のフレイヤに対する忠誠心を尊敬している。フレイヤの『美』に酔っていようがいまいが、一人のために己の全てを捧げる姿勢は馬鹿にするべきものではない。

 

 故に、同じ派閥の人間を馬鹿にするような行動をするレインのことを、リヴェリアは嫌いになった。その気持ちはレフィーヤから報告された「アイズに対するセクハラ」でより強くなっていく。

 

 しかし、ダンジョンで起きたとある出来事から、リヴェリアはレインに違和感を覚えるようになる。

 

 とある出来事とは、そう――レインとリヴェリアが深く関わるようになった「羨ま死ね!」事件だ(ロキ命名)。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 何度目かも分からなくなる『遠征』を終えて、【ロキ・ファミリア】は18階層で大規模な休息(レスト)を取っていた。いつもなら18階層に立ち止まることなく地上に帰還するのだが、

 

「てめぇのせいで碌に『深層』を探索出来なかった上に、18階層(ここ)で時間を喰う羽目になっただろうが、この馬鹿ゾネスが!」

「あたしは悪くないもん! ベートがあんなところにボサッと突っ立っていたのが悪いんだもん!」

 

 犬猿の仲であるベートとティオナが激しく言い争っている。その全身はどす黒く汚れ、正直かなりきつい臭いが漂っている。証拠に他の団員はいつも以上に距離を取っていた。

 

 ベートとティオナ以外の第一級冒険者、つまり51階層から下の階層を目指す精鋭メンバーもアイズ以外は似たような状態だ。彼等は例外なく大量のモンスターの血を頭から被り、全身から悪臭を放っていた。

 

 ベートやティオナ、他の第一級冒険者はモンスターを屠る際、返り血を浴びるようなミスを起こさない。『深層域』では水の補給が出来ないため返り血を浴びれば、水で洗い流すことが出来ないのだ。貴重な水を必要なこと以外には使えない。

 

 モンスターの血は臭い。洗い落とさなければ生乾きになり、鼻が曲がりそうになるほどの悪臭を発生させる。ひどい臭いで指示を出すのも『詠唱』をするのも難しいと判断したフィンは、やむを得ず『遠征』を中止した。

 

 どうしてこんなことになっているのかというと、

 

「てめぇの手足は飾りかっ!! 蹴りでもいれて弾き飛ばせばいいのに、なんでそのアホみてえな武器で無理矢理殴り殺した!?」 

 

 ティオナが大双刃(ウルガ)をバットのように振るい、大型モンスターを粉砕したからだ。爆砕したモンスターは水風船が破裂したかの如く、血を辺り一面にまき散らした。

 

「あたしが大双刃(ウルガ)で『デフォルミス・スパイダー』を斬ろうとした時に、ベートが割り込んできたからじゃんか! もう蹴りも出せないくらい振り抜きかけてたし、刃の向きを変えるしか出来なかったんだよ!」

「てめぇのノロくせえ攻撃が俺に当たるかよ! そのまま振りぬけ、馬鹿が!」

「よーし分かった! 今度からアンタの事は一切気にせずにぶった切るよクソ狼!」

 

 放っておけばずっと続きそうな醜い言い争いは、二人の頭にガレスが鉄拳を振り下ろすことで終結した。

 

 そしてフィンはベートとティオナに責任を問うつもりはなかったのだが、二人が全く反省しようとせず喧嘩するのを見て、

 

「君達が水浴びをするのは最後にする。もし破れば、次回の『遠征』から君達を外す。また蒸し返すようなら、地上に帰還するまでそのままだ」

 

 割ときつめの罰を与えた。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「では、フィン。体を清めに行ってくる」

「私もお供します!」「私は御髪を清めさせていただきます!」「自分はリヴェリア様のお肌を!」「……」

 

 どす黒い血の汚れを洗い流しに行くリヴェリアの後ろを、アリシアやレフィーヤを筆頭とするエルフの女性団員達が付いてくる。リヴェリアは何度も彼女たちに王族として扱うなと言っているのだが、

 

「高貴なお方ということを抜きにしても、可憐な乙女がたった一人で沐浴するなど危険です! 下賤な男達もとい怪物にリヴェリア様のお肌が晒されてしまったら……!!」

『どうか私達を側に置いてください!』

 

 懇願してくるエルフ達にリヴェリアは溜息をつき、お前達がいるからそこに私がいると察知されるんだろうに……と思いつつも、時間の無駄だと悟って同行を許可した。

 

 エルフ達を引き連れ着いたのは、秘境の湧泉(ゆうせん)を彷彿させる狭い泉。リヴェリアは結わえていた翡翠の長髪を背中に流し、身に纏う装備を外し、生まれたままの姿になった。 

 

 一糸纏わぬ姿になったリヴェリアの体を清めにかかる数名以外は全員、厳重な警備体制を敷いている。どこまでも自分を王族として扱うエルフ達に再び嘆息しながら、リヴェリアは髪はともかく体は自分で清めると言い、一人で沐浴を始める。

 

 リヴェリアの髪に触れた者は陶然と(トリップ)し、リヴェリアがその美しい裸体を潤った水で洗う姿にレフィーヤ達は感嘆の息を漏らす。

 

 そんな絵画にありそうな美しい光景は――上から凄まじい勢いで降ってきた黒い物体によって破壊された。落下の衝撃で盛大に巻き上げられた水が、リヴェリアに覆いかぶさる。

 

「リヴェリア様ーーー!? ご無事です…………か……」

 

 敬意を払うべき王族の無事を心配するエルフ達が見たのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――依頼(クエスト)の品を採取する寸前で岩が剥がれ落ちた時にはくそったれ、と思ったが……いいもん見れた。ほんっとエルフは見栄えがいいな」

 

 ふてぶてしい笑みを顔に刻む黒衣の男が、不躾にリヴェリアの顔や胸を眺めている姿だった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 女神にも勝る容姿を持ってしまったが故に、リヴェリアは自分に向けられる視線に込められた感情が分かってしまう。

 

 だからこそ驚いた。レインの目は恥ずかしい場所に向けられていたものの、一切下劣な感情が存在しなかった。あったのはリヴェリアを崇拝するエルフ達より純粋な感嘆だけ。

 

 同性ですら情欲の籠った目を向けることがあるというのに、女癖が悪いと噂の男は欠片もそういった類の感情を見せない。それがとても気になった。でなければ裸体を見られたことをすぐに許したりしない。

 

 地上に戻ってからすぐレインの事を調べた。すると噂に反することが多々あった。

 

 美人な女性店員がいる店に入り話しかける姿は見られるが、繁華街では一度たりとも姿を見られない。大量の酒の購入履歴はあるが、それを自身で消費したかは分からない。オラリオに多く存在する孤児院に多額の寄付をしていた。 

 

 むさ苦しい野郎が嫌いだと言いながら、レインに命を救われた多くの冒険者がいた。周りに凡人だ何だと言いながら、弱者を馬鹿にしたベートに怒りを見せた。たった一人で、Lv.8になったオッタルを無傷で下した。

 

 リヴェリアがいつしか惹かれるようになる程、レインは優しく、そして強かった。 

  

 だから教えてほしい。どうしてあんなに酷い噂を立てられたのか? どうして否定しないのか? どうして誤解されるような事をするのか?

 

(知りたいんだ。優しくて強い、本当のお前を)




 リヴェリアがチョロい。

 アイズだけ血を浴びてないのは【エアリアル】があったからだよん。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。