雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 どんどんレイン教が増えていくと嬉しい。レインの二次小説が増えると更に嬉しい。


三十六話 レインの剣

「本当にベル君を助ける事だけが目的なのかい、ヘルメス?」

 

 薄闇に包まれる洞窟で言葉を発するのは、禁止事項であるにも関わらず、眷属の無事を確かめるためだけにダンジョンに足を踏み入れた神、ヘスティア。彼女が問いを投げかけるのは、ヘスティアと同じように禁止事項を破った神ヘルメス。

 

 ベルとその仲間を助けるために結成された急造のパーティの陣形は、神々(かれら)を中心にして組まれている。周囲を力ある冒険者達に囲まれながら、ヘスティアは隣にいるヘルメスをじっと見上げる。

 

 ヘスティアは一度、ヘルメスにどうしてここまで協力的なのかを尋ねた。大した親交もないのに自分(ヘルメス)の眷属を同行させたり、正体不明ながらも強力な助っ人を雇ったりしてくれるのは何故なのかと。

 

 するとヘルメスは、とある人物――ベルの育ての親からベルの様子を見てきてほしいと頼まれた、それに自分もベルに興味があると答えた。時代を担うに足る、英雄(うつわ)のであるのかを見極めたいのだと。

 

 確かにヘルメスは己の神意を打ち明けた。じっくりとヘルメスの神の面影を窺わせる静かな表情を見たヘスティアは、そう判断する。ついでに「こんな男神(おとこ)じゃなくて、ベル君の可愛い顔を眺めたいよっ」とヘルメスをディスる。

 

 しかし同時に、ヘルメスが全ての神意を打ち明けていない事も見抜いた。しかもこの男神(おとこ)、それをわざと自分に気が付かせた……?

 

「よく訊いてくれた、ヘスティア! そっちから尋ねてくれて助かるよ。俺からは切り出しにくかったし」

「……その言葉を聞いた途端、一気に聞きたくなくなったよ」

「ひどいなぁ。それじゃあまるで、これから俺が喋ることが凄いヤバい話みたいに聞こえるじゃないか!」

 

 ヘスティアの勘を肯定するように、ヘルメスの表情が軽薄なものに変わる。「他神と人類(こども)の不幸は蜜の味だよん♪」と嬉々として言う、下種な神々の顔だ。

 

「俺が今回の旅から帰ってきたのは、自称ベル君の育ての親からの頼みだけじゃない。旅の目的をすぐに果たせたというのもあるんだ」

「目的?」

「そう。今回の旅はとある人類(こども)の調査だったんだけど、分かったことがヤバすぎてね。しかもヤバさを共感できるのが神々(おれ達)しかいない上に、おいそれと漏らせない情報だ」

「そんな情報を僕に教えようとするなよ!? やめろ嫌だ聞きたくない!」

「一緒に冥界(ゲヘナ)へ行こうぜ、ヘスティア!」

 

 全力で耳を塞ぐヘスティアを見て、いい笑顔のヘルメスは指を鳴らす。ため息を吐きながらもアスフィは、無理矢理ヘスティアの手を耳から引き剥がす。

 

「俺のもう一つの目的。それは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――一度使えば不変の神々(おれ達)ですら狂気に囚われる、『古代』に人の手で製造されし呪われた魔剣――いや、()()《ファナティクス》を使っている人類(こども)に会うためさ」

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 場所は【ロキ・ファミリア】の作成した野営地。そこに想い人であるアイズによって運び込まれたベルは、絶賛大ピンチであった。

 

 ベルを窮地に追いやったのは右隣で爛漫に笑うアマゾネス、ティオナ。【ロキ・ファミリア】の善意で分けてもらった食料を仲間のヴェルフとリリ、今いる人気のない場所に案内してくれたアイズと一緒に食べていると、歩み寄ってきたティオナとティオネがベルの両隣に座り込み、

 

「どうやったら能力値(アビリティ)オールSにできるの?」

 

 派閥(ファミリア)以外には最も知られてはいけない能力値(アビリティ)、それを大勢の前でバラした。咄嗟に逃げようと考えたが、左隣にいるティオネが瞳を細めて薄く笑っており、冒険者の本能が逃走は不可能だと判断する。

 

 一宿一飯の恩として正直に答えてもよかった。しかし、ベルが「憧憬(アイズ)を追いかけてました」と若干犯罪臭のする真実を口にしようとするのを、何でもない風を装いながら、全神経を集中して聞き耳を立てるアイズが邪魔をする。

 

 仲間に助けを求めようと目を向ければ、ヴェルフは眼帯を付けた女性の鍛冶師に絡まれ、リリはティオナ達ごとベルを睨んでくる。リリが睨んでくる理由は理解できないが、つまるところ仲間の助けは期待できない。

 

 孤立無援。冷や汗を垂れ流しながら意識を手放しそうになったベルだったが、無遠慮すぎる()()()()()によって研ぎ澄まされた感覚が背後からの視線を感じ取り、藁にも縋る思いで振り向く。

 

「……いつからいたんですか、レインさん」

「お前がアイズの体臭に顔を赤くしていた時からだが?」

「素直に最初からいたと言ってくださいっ! その言い方だと僕がへ、変態みたいになるじゃないですか!?」

 

 救いなんてなかった。木に背を預けて肉果実(ミルーツ)を齧るレインの誤解を招く発言にベルは唾を飛ばしながら叫ぶ。体臭、という言葉を聞いたアイズは膝に回していた腕をほどいて鼻に寄せて、くん、くん、と鳴らす。

 

 「僕は変態じゃないんです!」と、「貴方からは清水の香りしかしませんよ!」のどちらのセリフを言うべきかをベルが悩んでいると、

 

「レインにも聞いておくことがあるわ。あんた、本当に味方?」

 

 笑みを消し去ったティオネが威圧感丸出しでレインに話しかける。ベルは自分の冷や汗の種類が変わるのが分かった。

 

「オッタルを倒したことについては、あんたの『体の無駄を無くして相手の先を読む』って言葉を信じるわ。でも、超短文詠唱でリヴェリアを超える魔法。あれは何?」

「あー! それ、アタシも気になってた!」

 

 無関係の人間もいるこの場所で『穢れた精霊』や『怪人(クリーチャー)』の単語は出せない。しかし、無関係の人間もいるからこそ、レインは逃げられない。

 

「ただの人間のあんたが生粋の魔法種族(マジックユーザー)、それも王族妖精(ハイエルフ)のリヴェリアに魔法で勝つなんてありえない。『レアスキル』、それとも……とっておきの『ズル』でもなければ」

 

 ティオネはレインを疑っている。レイン自身が怪人(クリーチャー)、もしくはそれに関係しているのではないのか? これで手柄を立てれば団長にムフフ……とティオネが内心で自分を褒めていると、

 

「俺はだな、前から『こいつって馬鹿?』とか思ってたが、俺が思うより遥かに馬鹿だったな、お前って」

「何ですってぇ!?」

「だってそうだろ。俺が味方じゃないなら、59階層でお前らを見捨ててる――」

 

 ティオナに羽交い絞めにされるティオネを論破しようと、レインが口を滑らせ始めたその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――ぐぬあぁっ!?』

 

 野営地の外側から、幼い少女らしき悲鳴が届いた。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「俺の名はヘルメス。君がフレイヤ様のお気に入りのレイン君だね。会えて嬉しいよ!」

「ああ、お前が間抜けな追跡者(ストーカー)共の親玉のヘルメスか。俺はちっとも会いたくなかったな」

 

 ベル達が貸し与えられている天幕から少し離れた所で、にこやかに笑うヘルメスと不敵な笑みを浮かべるレインが対峙していた。黒い笑みを浮かべる二人の側にいるアスフィは鳴き声を上げるお腹をさする。

 

「唐突な話なんだけどね。ある国で永久手配を受けている黒衣の男がいるんだけど、これ、君だったりしない?」

「その手配された誰かって、本当にレインって名前の奴か?」

「いや、問題の罪人は名無しの黒衣の男ってだけだよ」

「そりゃ人違いだ。俺は道端で捨て猫を見ただけで涙目になる男だぞ。そんな優しい奴が、どんな罪を犯すってんだよ、えっ」

 

 どの口でぇ……!? 必死の尾行を全て『怪物進呈(パス・パレード)』で振り切られたアスフィは拳を握る。

 

「じゃあさ、カイオス砂漠のとある国では、アラムという美少年の王子が革命を起こしたんだ。今ではその王が助けを求めれば黒衣の戦士が現れるって噂があるんだけど」

「その黒衣の戦士に名前はあるのか?」

「こっちも名前はないかな。でも特徴からして君だよね?」

「それも人違いだね。俺は外で小石が跳ねる音を聞いても、胸がドキドキする小心者だぞ。革命を起こした王の助けになれる男に見えるってのか?」

 

 神の前では嘘はつけない。だがレインは断言する。

 

「……ふふっ。期待以上の男だよ、レイン君」

 

 謎の言葉を言い残し、ヘルメスはベル達のいる天幕へ入っていった。




 レインの剣は人類からは《ルナティック》。神々からは《ファナティクス》と呼ばれている。正式名称は誰も分からない。(この設定は後から変わるかも)


 剣は使用者を必ず狂わせるので、使い捨ての兵器感覚で使用されていた。所有者には敵陣深くまで突っ込んで使わせる。


 アリィはヒロイン……なのか?

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