雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
今回はずっと書きたかった話です。
『あんたはそれでいいのか? どうしてあんなクズ共を見逃すんだ!?』
意外なほど激しい口調で少年が叫ぶ。初めて出会った時から常にクールだった彼の怒りに、女神はただ悲し気な笑みを浮かべる。
『……私と君は似ているんだよ。あの時、あの場所で、何もできなかった自分を責めることはできるけど、周りに理由を押しつける事だけはどうしてもできなかった』
『あんたと俺は違うっ。あんたには悪い所なんて一つもないだろう……!』
少年は表情をくしゃっと歪めそうになったが、辛うじて堪え、いつもの冷静な表情を取り戻した。でも、心の内では今も激しく感情が荒れ狂っているせいか、声は微かに震えを帯びていた。
本当に優しい……優しすぎる
もう諦めてしまった自分とは違い、強い子だ。彼はきっと否定するだろうけど、自分より彼の方がつらい。自分と似ていると言ってしまったことが申し訳ない。
世界で誰よりも優しいのに、それでいて誰よりも強い彼は、弱音を吐くことなくこの秘密を背負うだろう。逃げたとしても誰も責めやしないのに、彼は決して目を逸らさず逃げようとしない。
それが女神にとって悲しく――それ以上に嬉しかった。かつて最強だったゼウスの眷属を遥かに超えるこの子になら、自分の
女神はそんな自分を殺したくなった。
♦♦♦
野営地から遠く離れた、深い森の一角。巨大なクリスタルで囲まれたその場所には、暗色のローブを身に纏ったエルフとヒューマンの青年が地に横たわっていた。彼等の四肢の腱は無残に切断されており、身動き一つ取れなかった。
「何回も邪魔をしたからか、お前ら全く姿を見せなかったよな。無駄に手間取らせやがって」
18階層にいる全ての者達を騒然とさせた光の奔流――レフィーヤとベルが
そして見つけた。重症を負ったレフィーヤとベル、二人を庇いながら
『
同時に
「聞きたいことがある。Lv.5相当の『バーバリアン』、『セイレーン』、『アラクネ』を知らないか?」
【ヘルメス・ファミリア】が24階層の調査を終えて少し経った頃、三体の
フェルズからその情報を伝えられてから、レインはしらみつぶしにダンジョン内を調べ回った。エクシードを全力で使用しながら、しかもLv.9の【ステイタス】を存分に発揮して行ける限りの場所を向かった。
故にレインは探す対象を隠れながらコソコソ動き回る
「さっさと吐け。急がないと面倒なエルフが来る」
「ぐうぅっ……」
『D』という記号が刻まれた球体をポケットにしまいながら、レインは男達に圧力をかける。距離的に二分もしない内に
「は、はははっ! まさか私の所へ来てくれるとは……。確かに生きる亡霊となった男だ」
「……何がおかしい」
エルフの青年が顔を引きつらせながら嗤った。当てずっぽうか確信を持ってか告げられた青年の言葉に、レインは圧力を強くする。だがエルフの笑い声は止まらない。
「未だ敗北を知らぬ男よ。お前の願いは叶わない。我等が主の怒りを買ったお前にはな」
「……意味が分からん」
「ふは、ふはははははっ、はははははっはは――ヵ」
「!」
理解できないことを口にしながらエルフの青年は笑い続け、唐突に灰となって消えた。すぐそばにいたヒューマンの男も同様だ。僅かに感じた魔力から察するに、恐らく『
「俺の願いだと……馬鹿馬鹿しい」
少しの間レインはエルフの青年の言葉を反芻した後、素早くその場から立ち去った。
♦♦♦
翌日。【ロキ・ファミリア】は昨夜届いた特効薬のおかげで、全員が動けるようになった。既に主力構成員が組み込まれた前行部隊が出発しており、もうすぐ野営地後に集まっている後続部隊も出発する。
第一級冒険者のレインはもちろん前行部隊。一太刀で17階層の階層主『ゴライアス』を仕留め、悔しがるベートやティオナを馬鹿にしながら地上に帰還している――はずだった。
「知ってるか? 極東には『馬鹿は高い所に上る』という言葉があるそうだ」
中央樹の真東に存在する一本水晶。その近くには周囲より一段高く隆起している
人の悪意、敵意、害意の渦巻く神の試練を作り出したヘルメスは、
「……いつから気付いていたんだい?」
「最初から。止めなかったのは、こうして尻尾を掴むためだ。悪趣味な企みを実行した神が木から落ちても、なんら不自然ではないだろう?」
「どうすれば見逃してくれる?」
直球でヘルメスは聞いた。バレたら不味いが神威を使ったとしても、この子供は絶対にやる。この子は決して強大な力には屈しない。
「直球だな。ならこちらも――俺の過去をどこまで知った?」
――強すぎる殺気を放てる者の顔は見えなくなると、アスフィは二十二年生きて初めて知った。
「君が冒険者になった理由を知っている……そう言ったら?」
「オラリオから一柱、神がいなくなるだけだ」
「俺の眷属も何人か知っている。あの子達はどうするんだい?」
「口止めだけする。敵対しない者なら俺は殺さない」
「ここで俺を殺せば
「問題ない。今からお前の意識を奪って、地上で息の根を止めればいいだけだ」
レインが拳を引き絞る。アスフィが主神を守ろうと必死に身体を動かそうとするが、レインから放たれる力の波動で意識を失わないようにするので精いっぱいだ。指先すら思う様に動かせない。
「……じゃあ一つだけ質問だ。これが聞くに値すると感じたら今回だけは見逃してくれないかい?」
「それが遺言になるだろうが、なんだ?」
ヘルメスは冷や汗で服が重くなっていくのを感じながら口を開いた。
「レイン君の恋人……フィーネちゃんだっけ? 君はフィーネちゃんの遺体がどこにあるのか知っているのかな?」
結末がどうなったのかは分からない。一柱として神が送還されず【ヘルメス・ファミリア】が消滅しなかったことだけが事実だ。
書いたのはLv.5の時の【ステイタス】です。Lv.9は別の所で使います。
レイン(Lv.5最終ステイタス。期間は半年)
Lv.5
力:Ex 8723
耐久:SSS 1476
器用:Ex 24511
敏捷:Ex 19465
魔力:SSS 2837
レインはアミッドに出会うまで防ぐことをしませんでした。全部ぎりぎりまで引き付けて避けており、極稀に弾いて防いでいました。Lv.5になる以前は『耐久』は更に低いです。元々『耐久』が伸びにくいのもありますが。
魔法も似たように滅多に使わなかったので『魔力』が低いです。
レインの【ステイタス】は力・器用・敏捷が丸二日三日でカンストします。Sを超えてからは上昇値が減ります。それでも一日鍛錬すればトータル300以上伸びるという化け物っぷり。
原作レインは一秒でも強くなる成長チート。でもそのままだとダンまち世界を舐めすぎているので、以上の【ステイタス】になりました。……一秒で強くなってたら、一日で上昇値が一万超えちゃうよ……。
レインは黒竜戦以降、本気になったことはあれど全力は出していません。そうしないと鍛錬にならないので。『魔法』だけは『スキル』も使って威力増強。
こんだけ【ステイタス】お化けのレインでも倒しきれなかった黒竜っていったい……!?