雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 前半にダンメモ・イベントストーリーのネタバレ? があります。ご了承ください。


四十一話 苦手な理由

 アマゾネス。一般的な心象(イメージ)は武闘派かつ好戦的。地域の部族によって様々な武術を持つと言われる生まれながらの戦闘民族。

 

 強くなることを至上とするレインにとってこれだけを切り取って聞けば、魔法は得意だけど武術はからっきしなエルフ、武闘派と言えば武闘派だけど職人気質で面倒くさいドワーフ、野生の勘で戦う脳筋な獣人などと言った他の亜人(デミ・ヒューマン)より好きな種族だ。

 

 

 だがしかし、アマゾネスを象徴するもう一つの特徴(イメージ)が、レインのアマゾネスに対する評価を激減させている。というか、レインの苦手な(もの)を作り出したのがアマゾネスだ。

 

 

 ヒューマンと最も近しい体型、体の構造を持ちながら『子供は女児しか産まれない』といった性質を持つ、特殊な亜人(デミ・ヒューマン)。アマゾネスからはアマゾネスしか産まれない。

 

 

 つまり、アマゾネスが子供をもうけるためには、他種族の男性と協力(にゃんにゃん)しなければならない。……アマゾネスは相手の意志に関係なく()()()()ので、協力なんて名ばかりだが。

 

 

 そんな男性限定で獰猛な習性を持つアマゾネスだが、彼女達にはほぼ共通する男の好みが存在している。それは……自分を力尽くでねじ伏せる強さを持つ男だ。

 

 

 実はレイン、アマゾネスの武術を学ぶために、通りすがる村や町の男を攫って行く”渡りアマゾネス集団”をブチのめすまでアマゾネスの特徴を知らなかった。いや、男を攫う習性は知っていたのだが、己を負かした強い雄に心を奪われるとかいうマゾな所は知らなかった。というか、理解できるかっ。

 

 

 最終的にはベルテーン……『【生命の泉】を擁する霧の国』に住むLv.4のエルフや盲目のヒューマン、Lv.2の兵士達に押しつけて解決したのだが、解決するまでは修行も休息も碌にできなかった。どこへ行こうと必ず現れ、(性的に)襲い掛かってきた。

 

 

 押し付けたエルフとヒューマンには「おいぃ! レイン貴様、私の(よわい)が百を超えていること知っているだろうが! 久々に来たと思えば何の嫌がらせだ!?」とか、「てめぇ、お嬢の教育に悪いだろうが! 国を救ってもらったことは感謝してるしいつでも力になるとは言ったが、こんな形で力になりたかねぇぞ!」などと怒鳴られたが……。

 

 

 エルフ(ウスカリ)、むしろ(おじいちゃん)のお前でもいいって言う美女、美少女に喜べよ。レインは絶対に嫌だがな。

 

 

 ヒューマン(リダリ)、お前は、まあ……がんばれ。純粋な妹(タルヴィ)がアマゾネスから変な影響を受けないように頑張ってくれ。

 

 

 この二人を見なかったことにすれば、労働力と兵力が増えて万々歳で済んだのに。

 

 

 閑話休題(それはさておき)。 

 

 

 故にレインは「犯るか戦れ!」と叫ぶ(口うるさい)女、食材に火を通すこともできない女、「子種だけでも寄越せえぇぇぇ!」と言って話を聞かない女、どれだけ痕跡を消しても乙女の勘(狂)で追ってくる女が苦手なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (スッポン)を両手に持って中腰という間抜けな姿のレインに拙い共通語(コイネー)で声を掛けたのは、結わえられた砂色の長髪を背中に流したアマゾネス。道を歩けば男が振り向く美貌を持っているにも関わらず、まるで爬虫類を彷彿させるぎらついた瞳と唇が、彼女から妖艶さを帳消しにしている。

 

 

 いつものレインなら美女に話しかけれられば、

 

 

「ふっ、中々見る目があるじゃないか。どっかの店で一杯やりながらより仲良くなるってのはどうだ?」

 

 

 と、言う所なのだが、レインの中で「こいつは関わらない方がいい奴だ」と、「こいつは酒を飲ませたらヤバい奴だ」の二つの警鐘が鳴っている。

 

 

 逃げればいい話なのだが、「逃げる」という選択肢は余程のことがない限りレインに存在しない。

 

 

 それにレイン達から少し離れた人垣の中に、女の仲間と思しきアマゾネスの一団がこちらを見ている。ただの勘だが、この女と明確に関わってしまえばあのアマゾネス達の相手もしなければいけなくなる気がした。

 

 

(ここは聞こえなかったフリ……いや、この老け顔ドワーフに押しつけるか……モテなさそうだし)

 

 

 しれっとドワーフの店主に失礼なことを考えながら面倒事を避けようとしたレインだったが、行動に移すことはなかった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 メレンの大通りの雑踏の中から一人の獣人の少年が飛び出してきた。急いでいたのか、はたまた日陰に入ろうとしたのか……理由は分からない。少年はレイン達のすぐ側を通り過ぎようとして、女の腰に()()()()()()

 

 

 肩をぶつけられた女――アルガナの視線が少年に向けられる。その目は何があったのかを確認するような可愛らしいものではなく、仕留める獲物を見つけた大蛇のそれだ。

 

 

「ってぇな! 店に用があるなら、もっと奥に入れ――ヒッ!?」

 

 

 生意気なお年頃なのか怒鳴ろうとした少年だが、途中で言葉が悲鳴に変わる。いきなり視界が何かで覆われ、それが自分の両目を潰そうとする指だと気付けば、全ての子供が恐怖を抱くだろう。

 

 

 子供の目どころか頭蓋を貫こうとするアルガナの手刀を止められる人物も、止めようとする人物もこの場所には一人しかいない。

 

 

「何考えてんだっ。肩が当たっただけのガキを殺そうとするとか、脳みそ筋肉か!」

「ワタシの国では、戦士にカタをぶつけるというのは……殺し合いの合図だ」

 

 

 アルガナの手首を掴んで止めたレインに、アルガナは手を振り解きながら向き直る。殺されかけたことを知った少年は涙目になって逃げ出した。

 

 

 大通りを埋め尽くしていた人混みは、危うさを感じ取った者の誘導でみるみるうちに減っていき、今ではアルガナの仲間のアマゾネス達しか残っていない。……ちなみに、ドワーフの店主は誰よりも先に逃げ出していた。

 

 

 アルガナはもはや興味を失ったのか逃げていく少年に目もくれない。代わりに己の腕に赤い手の跡を残した男の強さを感じ取り、闘争心と嗜虐心が剝き出しされている笑みを浮かべた。

 

 

「そして、戦士の殺し合いの邪魔をするヤツは……どう殺してもいい!」

 

 

 女戦士(アマゾネス)の聖地、『テルスキュラ』。血と闘争の国の蟲毒じみた殺し合いで作り出された生粋の狂戦士は、鋭く尖った爪による突きをレインの目に向けて放った。視界を奪って戦いを有利に進めるための戦略ではなく、甚振(いたぶ)ることに重きを置いた攻撃。

 

 

 アルガナは何も知らない。目の前の男の強さを。世界の広さを。

 

 

「ハッ、笑わせんな」

 

 

 レインが世界最強の『竜』に勝るほどの『戦士』であることを。

 

 

 外のエモノが泣くのか叫ぶのか、それだけを考えていたアルガナの耳に(レイン)の嘲笑う声が届く。レインの顔には多くの敵を歯軋りさせた不敵な笑みが浮かんでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「罪のない子供に手を出した時点で、お前は戦士じゃねえよ」

「があっっっ!?」

 

 

 アルガナの攻撃はレインの残像を貫き、握りしめられた右拳が女の頬に叩き込まれる。

 

 

 吹き飛ぶアルガナの身体は転落防止の鉄柵を引き千切り、水切り石の様に海面をはね跳び続け、最終的に豆粒程度の大きさにしか見えない程遥か遠くで盛大な水飛沫を上げた。

 

 

 目をかっ開いて驚愕していたアマゾネス達も我に返ってレインに襲い掛かったが……結果は言わずもがなである。

 

 

「――と、いう訳で。こいつらが目を覚ましたら面倒くさいから、俺は今の内にオラリオに戻る」

「なっるほど~、全部理解したから後は任せとき――ってなるかアホォ!」

 

 

 騒ぎを聞きつけてやってきた【ロキ・ファミリア】に、地面に頭をめり込ませて気絶しているアマゾネス達の後始末を押し付けて逃げようとするも、無駄にすばしっこいロキに捕まってしまった。

 

 

「なんだ? 鉄柵と大通りの修繕費は十分渡しただろ?」

「金の額の問題ちゃうわ! あの遠くでプカプカ浮いとるアルガナっちゅう戦闘中毒者(バトル・ジャンキー)をどうやって回収させるつもりか訊いとるんやっ!」

「アイズの魔法(エアリエル)で直接運んでもらうか、リヴェリアに水を凍らせてもらえばいいだろうが……」

「あ、そっか。すまんな、頭がよう回らんかったわ」

「気にすんな。じゃ、俺は帰るぞ」

 

 

 ここに来た目的である”スッポン”と”ウナギ”を箱に詰め、十分な額のヴァリス金貨を金庫に入れておく。こうしてレインはメレンから去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、なんでウチが謝っとんねん! あっ、ちょっと目を離した隙にもうおらん――うひゃあっ!? アルガナが魚に食われとるー! アイズたん、救助急いでー!?」

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「本当にコレを使うつもりで?」

「当然だ。あの女神(おんな)を堕とすことができるなら私はなんだって利用する」

 

 

 どこかで見たことのあるドワーフが、煙管(キセル)をくわえた妖艶な女神に箱を差し出す。美神の忠実な僕であるヒューマンの青年が箱を開き、中身を確認する。

 

 

「なるほど――これが()()()を容易く滅ぼす兵器か!」

「満足してくれたようで何よりだ。で、報酬だが――」

「ああ。私の身体を存分に味わうがいい」




 学校が始まる(白目)
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