雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
6巻の話を書こうとしたけど、レインが介入したら話が進まなくなるので断念。レインは限界もブレイクするけど原作もブレイクするんだよ……。
今回はIFの話です。本編で没にした話かな。あと、あとがきにレインの魔法を載せています。べ、別に詠唱文を考えてなかった言い訳とかじゃないんだからね!
・『もしレインが18階層で覗きに参加していたら』
「ねぇねぇ、みんなで水浴びをしに行こう!」
場所は18階層。【ロキ・ファミリア】遠征隊が作り上げた野営地に『リヴィラの街』からアイズ達が観光を終えて帰ってきた頃、野営地の方々に散らばろうとした時ティオナがそんなことを明るく提案してきた。
実姉であるティオネは繰り返し水浴びをしに行こうとする
水浴びを提案された女性陣以外にも【ロキ・ファミリア】の女性団員達が後ろを付いて行く。メンバーの中にアイズ、ティオナ、ティオネの第一級冒険者がいようともモンスターが闊歩するダンジョンの中で、無防備になる水浴びを見張りなしで行う事には怖いものがある。
アイズ達ならば素手だろうと中層域のモンスターは殴り殺すことも容易いが、うら若き乙女として素肌に直接鮮血を浴びることは避けたい。それに殺せば血にしろ泥にしろ、水浴びをするための泉が汚れる事になって本末転倒だ。
野営地に男性陣を残し、ティオナを先頭にする水浴び組は森の中へと消えていった。
「……頃合いだな」
「何がだ」
軽く顎を上げたヘルメスがそう呟き、軽く振っていた剣を鞘に納めながらレインが聞き返す。ヘルメスは答えることなくぽつねんと立ち尽くしてベルに何事かを囁き、そのまま少年を連れてレインの方にやって来た。
「さっきベル君には教えたんだけど、俺はこの時を待っていたと言っても過言ではない。俺とベル君……そして君だけになれた、この時をね」
相手の目から本質を見抜く事が出来る観察眼を持っているレインが見ても、ヘルメスの眼差しは偽りなく真剣な物だった。普段のおちゃらけた雰囲気を消すほど切れ長の瞳は見開かれ、今この時が本当に重要であることを伝えてくるようだ。
ヘルメスはベルとレインに「ヴェルフ君達にバレないよう付いてきてくれ」と言って静かに移動を始める。レインは限りなく気配を断ち、自分達が歩いている場所から反対側の茂みを
「レインさん、どこですか? さっきまで隣にいたのに……」
気配を消し過ぎた。
レインの
「うん。この木がピッタリだな」
大人が両手を横に広げたよりも幹が太い大樹の前で足を止め、ヘルメスは長い手足を木の枝や粗い樹面に引っ掛けよじ登り始める。ぽかんとしていたベルもヘルメスに声を掛けられて慌てて登っていく。ベルとヘルメスが滑り落ちた時に備えて根元で待っているレインは自然と二人が木登りする姿を見る事になり、
「いい年した男が必死に木をよじ登る姿はなんというか、すごく情けないな!」
「聞こえてますからねレインさんっ」
「あまり大声を出さないでくれ。
「す、すみません」
「まぁいいさ。それじゃあ、もう少し進むよ」
登った木の上はいくつもの太い枝が伸びており、ちょっとした空中回廊が出来上がっていた。無駄に飛び抜けた
しばらく進んだ先で再びヘルメスが振り返った。顔にはイラッとするほど爽やかな笑み。親指で示される方向からは滝の音……に混じってキャッキャッという女の子の無邪気な声が聞こえてくる。
おそらくレインが生きてきた人生の中で最も美しく下劣な笑みを浮かべる神は、人が息をするのは当たり前と説くように語りだす。
「ここまで来たら、もう察しているだろう? ――覗きだよ」
「お前を信じた俺が馬鹿だった。ベル、こいつ見張りが哨戒している所に落としてやろう」
真顔で吐き捨てたレインが二つの意味で死にそうな場所にヘルメスを落そうとするのをベルが慌てて止める。
「レイン君、覗きは男の浪漫なんだぞっ。
邪念の塊みたいな考えをはっきりと言い切るヘルメス。その声音からは己の考えを全く疑っていない確固たる意志が感じられ、『覗きは男の浪漫』と告げられたベルの意識に黒い瘴気が溢れ出す。
「浪漫なんぞ知るかっ。それにな、男なら真正面から見に行ってこい」
言っている内容はヘルメスと同じくらい邪なのに、何故か漢らしかった。ベルの思考を支配しようとしていた闇の声も、『その発想はなかった。儂の負けだ』と言って自ら
『よくやったぜレイン君! 褒めて遣わそうじゃないか!』という
「帰りましょう、ヘルメス様! レインさんの言う通り、男なら覗きなんてしないで、正々堂々とみましょう!」
「ベル君、そっちのほうが不味いと思うのは俺の気のせいかな? というか、そんなに暴れたら……」
男三人分の体重を支えていた枝が、ボキリッ、と不吉な悲鳴を上げて折れた。レインはすぐに別の枝に飛び移り、ヘルメスは何とか持ち堪えていたが、バランス感覚も咄嗟の行動力もないベルはあっさりと宙へ放り出された。
落ちる場所には生まれたままの姿の少女達と――【剣姫】親衛隊を多く含めた見張りが待ち構えている。
【剣姫】の裸を見られれば、彼女達からは一切の慈悲が亡くなる。
『アイズさんの裸を覗いたクソ野郎を殺せえええええええええええええええ!!』
『リヴェリア様だけでなく、麗しのアイズさんまで穢すなど、万死に値する……万死に値するううううううううううううううう!!』
『刺し違えてでも奴を仕留めろッ!!』
ベル、ヘルメス、レインの三名による覗きの一件は、瞬く間に野営地に知れ渡った。
知らせを聞いた【ロキ・ファミリア】の団員達は男女関係なく武器を取り、双眼から血のごとき真っ赤な眼光を迸らせながらレインに襲い掛かる。理由は単純。一人は未だに逃走中で、もう一人は現在進行形で折檻を受けているからだ。
憤怒の感情を解き放つ団員達をレインは素手で相手取る。回避に徹するという考えは当然ながらない。攻撃を受け止める考えもない。
「
「――【解き放つ一条の光聖木の
一層、怒りを増大させた団員達はレフィーヤを筆頭に、一斉に『魔法』をぶっ放す。レインはその中で致命傷になりそうなものだけ《ルナティック》で撃ち落とし、残りは避けて他の団員にぶつける。【
「うるせえな……何の騒ぎだって――」
「ベートさん! あのクソ野郎がアイズさんの裸を見やがったんですよ!」
「は? ちょっと待て、もういっぺん説明しろ!」
「あ、遅かったなベー……失恋狼。もう少し早ければアイズの裸が見れたのに」
「ぶっ殺す!」
ベートも混じった乱闘騒ぎは二時間近く続いた。最後まで立っていたのは言うまでもなくレインだが、この乱闘に参加した者は例外なくリヴェリアの説教を受けることになる。
そして『遠征』が終わって【ステイタス】を更新した【ロキ・ファミリア】の中で、乱闘に参加した者は『耐久』の伸びが著しく高かったそうだ。
レインの持っている魔法の紹介。書く機会があるかわからないので。
【ナパーム・バースト】【我に従え、怒れる
・炎属性。 ・精霊使役魔法。 ・顕現時間、強さは魔力に比例。
【アイスエッジ・ストライク】【埋葬せよ、
・氷属性。 ・砲撃魔法。 ・
【デストラクション・フロム・ヘブン】【穿て、
・雷属性。 ・対軍魔法
【ヒール・ブレッシング】【救いを求める者に、癒しと祝福の救いの両手を】
・回復魔法。 ・使用後一定時間、回復効果持続。 ・使用時、発展アビリティ『幸運』の一時発現。