雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 皆さんに重要な報告があります。今までの話も文才のなさが文章に現れたり、キャラ崩壊がたくさんありましたが、次からアンチ・ヘイトが加わります。それが苦手な人はここでブラウザバックを進めます。


 それでもいい、どんな結末になるのか気になるという方は広い心で楽しんでください。




四十四話 孤狼二人

 天の恵みとも呼べる太陽の光が決して届かぬ暗い地下。ただの石の間を祭壇のように装飾した空間はいくつもの蠟燭に照らされ、全身を黒の頭巾やローブで包む多くの者で埋め尽くされていた。

 

 

 誰もが粛然としながらも瞳の奥から危うい『熱』を発していた。その『熱』は一柱の麗しい男神が現れたことで昂っていき、神が大仰に手を広げ二言三言叫んだ瞬間、爆発した。

 

 

 ある者は感極まったように身体を打ち震わせ、またある者は涙を流しながら神の名を唱和する。ボロボロの黒衣を纏う神――タナトスは眷属達の声を背に浴びながら広間の外、暗い通路に歩を進めた。

 

 

「――吐き気がするほど完璧な化けの皮だな、死神」

 

 

 ようやく眷属の声が聞こえなくなった青い魔石灯の光が揺らめく薄暗い通路を歩くタナトスの前に、燕尾服のような上衣と、それに合った黒いズボンを穿いたヒューマンの女性が立ちはだかった。

 

 

 切れ長の目で、どこか怜悧な美貌を持つヒューマンの女である。二十代前半の見た目をしているが彼女の場合、見た目通りの年齢なのか分からない。

 

 

「やあ、いつの間に『()()』から戻ってきたんだい――アリサちゃん?」

「その気色悪い呼び方をやめろ」

「アリサちゃんが俺のこと、ちゃんと『タナトス』って呼んでくれたら考えるよ」

 

 

 タナトスは数多くいる己の眷属の中で唯一、()()の目を向けてくるアリサを可愛がっていた。短いやり取りで時間の無駄と悟ったアリサは、吐き捨てるように用件を伝える。

 

 

「『もうじき【ロキ・ファミリア】がやって来る』と仮面(エイン)から報告があった。その迎撃に私も出る。これで言いたいことは終わりだ」

「えっ」

 

 

 言うが早いかアリサは長い黒髪を翻して去っていく。その姿が見えなくなるまでタナトスはぴくりとも動かなかった。

 

 

 アリサがとてつもない威圧感を放っていたから動けなかったのではなく、軽薄な笑みを消してしまうほど驚いていたからだった。

 

 

「……えっ、マジで? ここの存在を知りかけた冒険者を始末することどころか、喋るモンスターの捕獲だってやろうとしなかったアリサちゃんが自主的に行動すんの!? 変なフラグ立ったりしてないよね!?」

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「なぁ、俺は昨日娼館に繰り出したんだがな? 綺麗どころを左右に侍らせて、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをしようと思っていたのに、ヒキガエルを一匹潰したら出禁になったんだがどう思うよ?」

「……」

「団長ー!? 一瞬で目が死んだ魚並に暗くなったっす!?」

 

 

 薄暗い隧道状の通路にとんでもねぇ内容の声が反響する。「あぁこれ絶対に面倒くさいやつだ……」と理解した聡明な小人族(パルゥム)の団長はそっと心の扉を閉じた。彼を尊敬するツンツン頭の青年が心配そうな声を上げる。

 

 

 場所は地下の下水道。ダンジョンの第二の入り口を見つけるために【ロキ・ファミリア】と協力体制にあるレインだったが、隊列を組みながら周りを魔石灯で照らすことしかせず黙ったままのフィン達男性陣に痺れを切らし、弩級の話題(ばくだん)をぶち込んだ。

 

 

 十数名の【ロキ・ファミリア】の男性団員達のほとんどがレインに未確認生命体を見る目を向けた。……いや、敵の(ねぐら)かもしれないこの場所でよく言えば恋バナ(?)、普通に言えば下劣な話をしようとするレインの図太さに安心したとも言える。

 

 

 ベートやガレスを除いた下位団員は周囲を警戒することで精いっぱいだった。先程も述べた通り、ここは敵の(ねぐら)かもしれないのだ。護身用の武器以外の物資を僅かにしか所持していない自分達は、丸裸で邪悪なモンスターの元へ進んでいるのかもしれない。その可能性があるだけで気を抜くことなどできなかった。

 

 

 今までレインがやらかしてきた数々の所業のせいで【ロキ・ファミリア】は決して認めようとしていないが、どんな時でも敵を圧倒し己を貫く姿は、アイズやティオナ達幹部より安心感と頼もしさを与えていた。ベートやティオネの様に乱暴な言動がなく、アイズやフィン達最高幹部の様な近づき難さがないのも大きい。

 

 

 何名かはレインの馬鹿みたいな発言が自分達を安心させるためだと感じ、それに乗っかろうと――

 

 

「ベートはどう思う? ちょっと力が入りすぎたが正当防衛なんだぞ? なのに出禁とかひどくないか。そしてお前はどんな子が好みなんだ? やっぱりアイズか、そうなんだろ」

「くっだらねぇ事聞いてんじゃねえよ。俺は弱え女なんぞに興味はねぇ。……それと何でアイズが出てくんだよ!」

「二ヶ月くらい前に言ってただろう? 『おうアイズ何度見てもいい身体してんじゃねえか触らせろよぐへへっ』って。そしてフラれた」

「適当な事抜かしてんじゃねぇぞッッッ!?」

 

 

 ……………………………乗っかろうと……

 

 

「ん? じゃあ『無茶苦茶にされるなら俺とあのガキ、どっちがいいよ』だったか?」

「知るかボケッ! 覚えていたとしても答える訳ねぇだろうが!!」

「どっちが正しいか覚えてるか? 遠征の収入を娼婦につぎ込んだ【超凡人(ハイ・ノービス)】」

「身内しか知らないことをなんで知ってるんすか!?」

 

 

 ――嗅覚の鋭い獣人が食人花の匂いを嗅ぎ取り『オリハルコン』の扉を見つけるまで、巻き込まれていない団員はわざとらしく周囲を警戒し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男性陣がほぼ間違いなく敵の本拠地を見つけた翌日。ティオネが恋バナをしていた自分達の事を棚に上げてふざけながら調査をしていた男性陣に文句を言いつつ、ロキを含めた団員達が全て隠し扉の前に集結する。

 

 

「本当にでっかいなー。この扉を売り払うだけでもあたしの借金(ローン)全部返せるかもしれないなぁ」

「そうですね。すごく……大きいです」

「リーネ、言い方」

「へ? あっ、変な意味で言ったわけじゃ――!」

 

 

 

 眼鏡をかけたヒーラーが見たまんまの感想を漏らし、それに未だに返しきれない借金をどうにかしようとするティオナが注意する。しかし、全ての団員が同じ感想を抱くほど最硬精製金属(マスター・インゴット)の『扉』は巨大だった。

 

 

 この隠し通路が昨夜女性陣が調査していた『ダイダロス通り』に接続(アクセス)されている事や、仰々しい金属扉がわざと見つけられるようにお膳立てされていた事に対する見解を話していると、

 

 

「!」

 

 

 『扉』が音を立てて開いた。最硬金属(オリハルコン)の扉が完全に上へと昇り切りあらわになったのは、不気味な青い魔石灯に照らされる薄闇の通路。

 

 

「フィン」

「ああ、見えた。間違いなく、『扉』を開けてくれたのは仮面の怪人(クリーチャー)のようだ……レイン、急にどうしたんだ?」

 

 

 最も視覚に優れている種族のフィンが、『扉』を開けた紫紺の外套(フーデッドローブ)に不気味な仮面の怪人(クリーチャー)を確認した時だった。

 

 

 昨日から引き続いて【ロキ・ファミリア】と行動をともにしていて『扉』の奥を見ていたレインが、彼と同じように【ロキ・ファミリア】――正確にはレフィーヤ――と一緒にいるフィルヴィスの肩を掴んだ。まるで品定めをするようにフィルヴィスの赤緋の瞳を覗き込む。

 

 

「いきなり何をしてるんですかっ。女性の肩を掴んだ挙句、顔を無遠慮に見るなんて……! 失礼極まりないです!」

 

 

 余りにもデリカシーがない行為に批難の視線が集まる。すぐ側にいたレフィーヤはレインの手を叩き落とし、友人のエルフを庇う様に立ち塞がる。

 

 

「その女が美人だったんでな。衝動的に動いてしまった」

(ケダモノ)か貴様は!」

 

 

 リヴェリアの罵声が下水道に響く。他の団員達もついでとばかりに言いたかった事をレインに言い放ったが、レインはヘラヘラ笑うだけで微塵も堪えていなかった。

 

 

 そんな緊張感のない彼等の姿を『扉』の上に彫られた悪魔の彫像が見つめていた。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 ベートが乱暴な発言をして我の強い幹部達が揉めそうになったものの、リヴェリアを除いた第一級冒険者、Lv.4を主軸とした第二軍、治療師(ヒーラー)以外はLv.3で構成された下位団員達、そこに飛び入りのフィルヴィスとレインが加わったパーティが人の手で造られた迷宮に乗り込んだ。

 

 

 殿を任されたレインは石板で覆われた通路を白墨(チョーク)で線を引きながら見渡す。所々が欠けた石の壁と床からは鋼色の金属が見え隠れしていた。前方でむさいドワーフが壁を殴って金属の正体は超硬金属(アダマンタイト)だと説明していたが、

 

 

(金属は白墨(チョーク)が使いにくいからやめろ)

 

 

 壁を殴った衝撃で石板が剥がれたりヒビが入っているのを見てレインは溜息を吐いた。

 

 

 その時だった。

 

 

「団長、扉は閉じられていましたがこんな物がありました」

 

 

 分岐路が現れる(たび)に「行き止まり」の報告を持ち帰っていた斥候が一枚の羊皮紙を手に戻ってきた。受け取ったフィンが全員に聞こえるように読み上げる。

 

 

「『青く光る剣を持った男のみこの扉を開く』……」

「間違いなく俺だな。じゃあ行ってくる!」

 

 

 持っていた白墨(チョーク)を近くにいた獣人の男に渡し、レインは「食後の散歩に行ってくる」位の気軽さで斥候が羊皮紙を持ち帰った通路を進んで行く。当然全体の指揮を()るフィンは止まるよう指示を出すが、

 

 

「罠は嵌って踏み潰すから大丈夫だ!」

 

 

 一切速度を落とすことなく暗闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一分もしない内にレインは道を塞いでいる不壊の『扉』に辿り着いた。羊皮紙に書かれていた通り、目の前で『扉』がレインを歓迎するかのように開く。

 

 

 開いた『扉』の先には円形(ドーム)状の広間があった。湾曲する壁には等間隔で青い魔石灯が取り付けられており、『扉』はレインの入ってきたものとその真正面に存在するのみ。見る者が見れば闘技場(コロシアム)のようだと感じる造りをしていた。

 

 

 レインが広間に足を踏み入れた途端背後の『扉』が閉じる。退路が断たれた事()()頓着せず、世界最強の戦士は『D』という記号が刻まれた赤い球体を()()()()向かってくる女に意識を向ける。

 

 

 (アリサ)(レイン)と同じ漆黒の衣服を身に着けていた。それがどんな意味を持つか男は身をもって知っている。

 

 

 女の瞳には狂おしい何かが燃え盛っていた。男はその瞳を鏡で何度も見たことがある。

 

  

 男は青白い魔剣を鞘から引き抜く。真紅の刀を持つ女が何を望んでいるのか心の底から理解している。

 

 

「今日こそ誓いを果たす――お前を殺してやるぞっ、レイン!!!」

「己の無力を自覚するがいいっ、アリサ!」

 

 

 悪意の結晶たる暗い迷宮のどこか。黒き孤狼二人が激突した。




 アリサは『レイン』のキャラです。

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