雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
どうやってフレイヤとロキはゼウスとヘラを追い出したんだ?
あと『耐久』。指で武器を受け止める描写があったり、それでも武器が肌に当たれば傷ついたり。作者は『耐久』は冒険者の身体を頑丈なゴムにするものなんじゃね、と考えてます。
最初は無理を言ってでもオラリオから出てよかったと思った。
逃げた『悪』は一人がLv.3、二人がLv.2、残りがLv.1の二十人の男達。同じLv.3でも
そんな奴等がオラリオを出て何を思うか? 答えは決まっている。
オラリオの中で欲望のままに動こうとすれば『正義』を掲げてやって来る、都市でも上位の冒険者達。しかし都市を出ればどうだ。何処を見渡しても『弱者』に助けを求められる『強者』は取るに足らない程度の強さしか持っていない。
『迷宮都市オラリオの外は『悪』こそが頂点に立ち、好き放題できる
『悪』に染まった男達が目についた村や街に襲い掛かるのに時間はたいしてかからなかった。不運としか言いようがない人々も蹂躙されるはずだった。
男達にとって予想外だったのは今も残りかすとはいえ、男達以上の『悪』が蔓延っているオラリオから自分達以上の強さを誇る冒険者が飛び出して来たこと。大局は仲間を信じて任せ、小さな『悪』であろうと見逃さず滅ぼす意志を秘めた『正義』の妖精――リューが現れたこと。
リューはとことん『悪』の邪魔をした。村の井戸水に毒を混入された時は『魔法』で毒に侵された水を吹き飛ばし、行商人達が襲われそうになれば先回りして守り、か弱い女性を獣欲に従うまま犯そうとした『悪』の男の
オラリオから逃げ出した『悪』だけではなく、元から外に存在していた『悪』もリューは滅ぼしていった。
(見ろ輝夜! 貴方は大局のために少数を切り捨てるべきだと言ったが、私は切り捨てるべき
人々はリューに感謝した。人々の笑顔と声援を受けた冒険者は自分は間違っていないと確信できた。最も厄介なLv.3とLv.2は既に倒し、残っているのはLv.1の三人の下っ端だけ。その残った三人は人のいなさそうな森の中へ逃げ込んだ。
それ故に、『正義』の妖精は
普段のリューならすぐさま残りの『悪』を追いかけただろう。しかし間の悪いことに激しい雨が降り出し、助けた人々から少しでもお礼をさせて欲しいと懇願された。これだけひどい雨だと『悪』を見逃す可能性があると考えたリューは休息も兼ねて、それを受け入れた。
――招き入れられた家屋の壁にあった地図を見て、『悪』が逃げ込んだ森の中に小さな村があると気が付いた時には全てが遅かった。
ドアを破る勢いで外へ飛び出しても、速度を緩めさせる要因となる雨粒にとても腹が立つ。急がなければと逸って地を蹴れば、ぬかるんだ土に足を取られる羽目になる。あまりにも激しい雨は目と耳を使い物にならなくする。
身体を木々で傷つけながら抜けた先に見えた村。森のすぐ近くにあった家に駆け込み、この周辺にオラリオから冒険者崩れがやってきたことを説明して、まだ『悪』がこの村を襲っていないと安堵して――もう一つの小さな森に家主の息子と、その息子と恋仲の少女と少女の祖母がいる小屋があることを教えられた瞬間、顔から血の気が引いていった。
家主が剣を取って家を飛び出して行くのを、リューは呼び止めることも追いかけることも出来なかった。家主がLv.4のリューですら捉えきれない速さだったのもあるが、残った『悪』の三人が別々になっている可能性があったため、リューは村に残っているしかなかった。
そこからは自分の身体をどうやって動かしているのかさえ定かではなかった。家主が抱えて戻ってきたのは重傷の少年ただ一人。その意味をリューは一目で理解してしまう。
家主とその奥方が治療の準備をしている間、リューはずっと少年を見ていた。
『フィーネ……ごめん……弱くて……守れなくて…………ごめん』
少年の言葉は治療が始まるまで途切れなかった。
少年の父親と母親はリューを責めなかった。
少年の
♦♦♦
「――これが、あの雨の日の真相です。貴方の父君から聞かされていると思いますが、私は貴方に殺されても仕方がないエルフです」
地面に頭を伏せたまま罪を吐露し続けるリュー。
「貴方が初めてお店に来た時、すぐに貴方の素性に気付いていました。それにも関わらず話しかけようともしなかったのは、私の愚か極まる浅慮が理由です」
リューが五年ぶりに見たレインに抱いた感情は――憤怒だった。
今も私は大切な
どうしてよりにもよって
申し訳なさより怒りが遥かに勝ったリューは絶対にレインと会話をしないと決めた。もし彼が復讐を望むなら無抵抗で命を差し出そうと考えていたが、その気持ちも遥か彼方に消え去った。
「少し考えれば分かったはずでした。貴方が本当にフィーネさんのことを忘れているなら、貴方はLv.6になっていない。そもそもオラリオにだって来ていない」
そう……少し考えれば分かる。剣を取ってこの迷宮都市に来たということは、世界で最も人類の命を奪っているダンジョンに潜る覚悟があるということだ。泣くことしか出来なかった少年がダンジョンに潜る……つまりはそういうことだろう。
レインの身体もそうだ。いつだったか食事をしている時に「俺は天才だから鍛錬なんてしない」と言っていたが、その身体には無駄を極限までそぎ落とされた筋肉が付いている。足運びも超一流のそれだ。たった五年の月日でこれらを手に入れるには、血の滲む、という表現が生温く感じる鍛錬を重ねなければ手に入らないはずだ。
「何故フィーネさんがここにいるのかは分かりません。『
レインに対する認識が改まった時を思い出す。
『いいか? この子は……フィーネは俺の命より遥かに大切な人だ。この子が意味もなく傷つくことがあれば世界地図からオラリオが消滅すると思え』
笑顔のレインの言葉をフィーネは冗談だと思っていたが、死線を何度もくぐった他の
「幸い、私はギルドの
全てを語り終えたリューは目を閉じて顔を上げた。
レインにとってフィーネがどれだけ大事なのか分かっている。きっと彼は
「さあ、どうか一思いに――」
「――覚悟を決めきった顔をしているとこ悪いが、お前が地面と顔をくっつけて喋ってたせいで全く内容が分からんかった」
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思わず見開いた空色の瞳がレインの黒い瞳とぶつかる。
「申し訳ありません、今何と?」
「お前が額を擦り付けながら話していた上に声が小さいから、俺にはお前の言葉が何一つ聞こえなかった。強いて言えば『モゴモゴゴ、モゴォ』としか」
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聞こえなかった? 罪悪感で胸が押しつぶさそうなのを堪えながら語った罪状が? よりにもよって謝意を示すために土下座をしていたせいで? そもそもどうして「モゴォ」と聞こえる?
リューの顔が怒りと羞恥で赤くなっていく。怒りはちゃんと話せなかった自分へか、はたまた聞き取ってくれなかったレインにか。
仕方ない、次は顔を上げて、
「まぁ全部聞こえてたがな。聞き取りにくかったのは本当だが……そうか、お前だったか」
――目の前の男から発せられた威圧で空間そのものが悲鳴を上げた。石畳に亀裂が走り、路地の壁の欠片が上からパラパラと落ちてくる。
「……ッ!?」
レインに反射的に「こんな時にふざけた真似をっ!」と怒鳴りそうになっていたリューの喉が干上がる。言葉を吐き出せなかった口が空気を求めるようにはくはくと動く。全身から冷汗が噴き出し骨が軋む。手足も指一本動かせない。
逸らすことも閉じることも出来なくなった瞳に、レインの腰から引き抜かれる青白い魔剣が映る。
ゆっくりと魔剣が振りかぶられる。リューは薄暗い路地裏で輝く剣が断罪の光に見えた。
処刑場所はかつて死を覚悟した時と同じ路地裏。最期の時がそこまで来ている。
(アストレア様……アリーゼ……シル……クラネルさん……みんな……ごめんなさい。皆さんに与えられ、導かれ、拾われ、向き合ってくれた
それでも、浅ましくても、崇高とはかけ離れた『復讐』でも。誰かのために命を捨てるなら、私を
五年間、仲間を失った時から心の底で待ち望んでいた断罪の刃が、リューの頭に振り下ろされた――。
まさかの上・中・下の構成になった。
ダンまち原作みたいにシリアスな空気でもギャグ要素を入れるのは難しいね……。