雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 作品のタイトルを変更しました。理由:どっかの黒の剣士と被る気がするから。

 最近スランプ気味。理由は判明している。

 作者は「事」と「位」を意図的にひらがなにすることがある。


五十五話 正義の妖精 下

『レイン、これから話すのはもしもの話だ。本当にある話じゃない』

 

『……いきなりどうした?』

 

『いいから黙って聞け軟弱もやし野郎。どうせ体力を使い果たして動けないだろう』

 

『……まだぼ……俺は動ける。休んでいるのは親父が「訓練はやりすぎても意味がない」と言ったからだろう。俺がもやしなわけじゃない』

 

『まだ訓練始めて一か月も経ってない上に剣も持ち上げれねえガキが何ほざいてやがる。それにお前が弱くなけりゃ、お前はこんなことしてねえだろ』

 

『…………貴様ッ!』

 

『親にふざけた言葉を使うんじゃねえよ。俺は謝る気は微塵もねえし、間違ってた事を言っているつもりもない。何度も言っただろうが。お前には俺を遥かに超える戦士の才能があるってな……下手すれば俺が指一本触れられなかった世界最強の団長以上に。なのにお前は人を傷つける力なんていらないとか言って、剣に興味を示さなかった』

 

『それは!』

 

『好きな子が乱暴な男は嫌いって言ったからって? 好きな子がお前みたいな優しさを捨てないんじゃなくて、甘さを捨てきれない男が好きだって言われたからだって? 女を理由にするクソみたいな言い訳しようとすんじゃねえぞっ!』

 

『ぎッッ!?』

 

『この世界は「力」がなけりゃ生きられねえ! 超が付くお人好しで十割そいつが正しい事をしていようが、「力」を持つ屑どもに絶対に負ける! 惚れた女を本気で守りてえなら、女に嫌われようが「力」を付けるしかねえんだよ! 今だってちょっと()()()だけで寝る奴を「弱い」以外にどう呼ぶんだ? 好きな子死なせておいて今更足掻く奴を「惨め」以外に何て呼べるんだ? そうとしか言えないだろうが!』

 

『くっ……ゲホッ!』

 

『睨んで俺に当たろうとすんな。それは逃げてんのと一緒なんだよ。自分が無力で何も出来ない苛立ちを人に押し付けてるだけだ。そうでもしなきゃ生きられない弱い奴の習性だ』

 

『……』

 

『弱い自分を許さず、憎め。憎しみに負けて殺戮に快感を覚える獣にならないよう、お前のクソッタレな甘さで感情を制御しろ。死にかけながら死なないように戦え。それだけが、好きな子が殺されるのを見ているしか出来なかったお前にできる、唯一の贖いだ。死んで償うとかほざくのは罪の意識に耐え切れなくなった馬鹿がする、罪の清算を他人に押し付けるだけの「逃げ」だ』

 

『……分かった』

 

『よし、そんじゃ話を元に戻すぞ』

 

『息子の肋骨へし折って血を吐かせているくせに、よく平然と話を再開できるな……ゴフッ』

 

『お前、俺の器の小ささを知らんのか? 俺は自分が悪くても頭を下げたくなければ下げない男だぞ。何回も話を遮るなら物理的に口をきけなくすんぞ』

 

『あんたも俺を怒らせない方がいい……俺は母さんに、知らない子から「腹違いのお兄ちゃん、はじめましてっ」と話しかけられたと――』

 

『レイン、憎しみは争いしか生まない不毛な物なんだ。逆に言えば争いは憎しみしか生まないんだ。そんな訳で仲直りしよう』

 

『さっきと言ってる事が全然違うじゃねーか』

 

『うっせー! 確かに昔の俺はあの爺さんに負けず劣らず娼館に通っていたがな? ちゃんと避妊はしてたし、母さんを好きになってからは他の女には目もくれてねえっ。だから本気(マジ)で言うなお願いします!』

 

『言葉から説得力がどんどんなくなっているぞ【乱交王(バビロン)】。プライドはないのか?』

 

『その勝手に付けられた二つ名で呼ぶんじゃねえ! お前はヤンデレの恐ろしさを知らねえからそんな事が言えるんだ。とりあえず、その嘘は洒落(シャレ)にならないから本気(マジ)でやめろ』

 

『で、話とはなんだ?』

 

『後で覚えてろよ貴様。……例えばだ、善意で悪い奴をやっつける「正義の味方」がいるとする。助けを求める声が聞こえれば、すぐさま駆けつけて「悪」を殺すなりして滅ぼす。見返りも求めず、助けを求めた奴が知らん人でもな』

 

『命を奪っている時点で正義も何もないがな』

 

『本当にな。大概の「正義の味方」を名乗る奴は、「正義」を人を殺してもいいと正当化できる道具にしか思っていない。俺が今まで見てきたのもそんなんだ』

 

『話が逸れてるぞ』

 

『お前のせいだろうが……! ったく、俺の話に出てくる「正義の味方」はまともな奴だ。で、その「正義の味方」はある日失敗するんだ。自分が良かれと思ってやった事が、何人かの命を奪うことになっちまう』

 

『……それで?』

 

『そんな「正義の味方」は自分の命で償うとか言い出す。そこでだレイン、お前はこの「正義の味方」をどうする? ちなみに、この話で奪われた命は自分の命より大切な人のものとするぞ』

 

『やたらと具体的な作り話だな。頭に猪の脳みそが詰まっていると思う程がさつな親父が考えられるとは思えん』

 

『シンプルに殴っていいか?』

 

『よくないに決まってるだろ……そもそもあんたはどうなんだ? 例えば母さんがやられたら』

 

『俺か? 絶対に許さん。そいつが限界まで苦しんで死ぬように体を刻む。人体の急所は知り尽くしているから抜かりはない』

 

『意外だな。自分の弱さこそを憎めと言ったあんたはてっきり見逃すのかと思ったぞ』

 

『それはそれ、これはこれだ。「正義の味方」が世界中から慕われる奴だとしても、俺は絶対に許したりしない。悪人と罵られようと必ず殺る……ほれ、お前はどうする?』

 

『……俺は――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――なるほど。いかにも甘っちょろいお前らしい答えだ』

 

『黙れ【雑食(オールオッケー)】』

 

『殺す』

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 微かな風切り音を立てて、青白い魔剣が鞘に納められる。

 

「ずっと考えてた。仮に俺の守りたい人を傷つけた奴がいたらどうするかを」

 

 レインの言葉と一緒に、狭い路地裏に満ちていた威圧も消え去る。

 

「見逃せと言う奴は容赦なく殺す。命で償うと言う奴は一切罰を与えず生かし続ける。後者は大抵が罪の意識を軽くしたいがために罰を求めるからな。罵声の一つもくれてやらん」

 

 レインが視線を下に向ける。そこには()を抑えてうずくまるエルフがいた。

 

「ただし……【疾風】のリオン。俺は、お前だけは一発殴って許すと決――」

「――ウオェェェェェ……ッ」

「……」

 

 ……路地裏にキラキラした水たまりができた。あまり嗅ぎたくないすっぱい臭いが漂う。レインも思わず口を閉ざし、目も逸らしながら冷や汗を流す。

 

「……いや、最初は普通に剣で殴ろうと考えていたんだが、覚悟を決めきったお前の顔についイラッとしてな。予想外の所からの攻撃は衝撃が大きいと思って蹴りにしたんだ。ほら、キックはパンチの二倍の威力があるって言うだろ? 罰を欲しがるお前にはこっちの方がいいかなって……」

「……が……せ…………」

「おーい、リオン?」

 

 体液を吐き散らかしてから喋らなくなったリューを心配し、レインはしゃがみこんで彼女の顔を覗き込もうとする。しかしその前にリューは顔を上げて――

 

「クソがっ! いっそ殺せ!」

「俺の話聞いてなかったのか? 許すと言っただろうが」

 

 自分のキャラをかなぐり捨てて叫ぶ。女とかエルフとかの矜持(プライド)がバッキバキになってしまったリューは懐から小太刀を取り出し衝動的に己の喉に突き刺そうとしたが、真顔のレインが手刀で叩き落した。

 

 あっ、小太刀が(ゲロ)たまりに落ちた。

 

「ああああぁっ!? か、輝夜ー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分から命で償うと言ったくせに、何で人前でゲロ吐いただけで死のうとするんだ」

「ある意味死んだ方がマシだと思いますが!? 貴方に人の心はないんですかこの外道!!」

 

 キレたエルフに胸ぐらを掴まれて前後に激しく揺さぶられるレイン。今度はこっちが吐きそうになるからやめてほしい。あとすっぱい臭いがするから離れてほしい。

 

「人の心はあるつもりだ。だから水の『魔法』で証拠を隠滅してやっただろう? それにゲロを吐くのも罰と思えばいいじゃないか」

「汚い言葉を連呼しないでください!」

 

 レインが言った通り、路地裏は綺麗になっている。まだ微かにすっぱい臭いがするが吐瀉物なんてなかった。いいね?

 

「言いたいことは分かりますよ。確かに肉体的、精神的に十分な罰になってますよ! でもっ、もうちょっとこう、あるでしょう!? 鞭打ちとか水責めとか蠟燭(ろうそく)責めとか! 友の形見を吐瀉物の中に落とすのは人としてどうかと思います!」

「それに関しては本当(マジ)ごめん。けど一個つっこませてくれ。罰の中に何で蝋燭責めがあんの?」

 

 ぷしゅー! と頭から蒸気が出そうなくらい真っ赤になって怒るリュー。エルフは思いのほか怒りっぽい種族なのだろうか? ヘグニとヘディンも全裸のフレイヤを寝台(ベッド)に入れておいたら鼻から血を流しながら殺しに来たし……。いや、むしろムッツリか?

 

「……今、途方もなく最低なことを考えませんでした?」

「失礼な。ちょっと臭いから離れてくれないかなー、と思っただけだ」

「そんなものじゃない気もしますが……」

 

 ようやくリューがレインの服から手を放す。さて、リューをからかって大分空気も軽くなったし、そろそろ話の続きをするか。

 

「それより気になってるだろ? 何で俺がフィーネを死なせる原因を作ったお前を許すのか」

「はい、正直心当たりがありません。私が女だから、という理由で許せる程、貴方にとってフィーネさんは軽い人ではないでしょう」

「そうだな。()()()()『お前の罪の意識なんぞ知るかっ』で済ませていた」

「普通なら、ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前はフィーネの命の恩人なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 思わずリューは聞き返す。それも当然、リューには全く覚えがないのだ。

 

「覚えてないのも無理はない。お前にとってフィーネは無償で助けた大勢の一人にすぎなかっただろうし」

「待ってください。まさか、フィーネさんは――」

「うん、フィーネは迷宮都市(オラリオ)生まれだ。『暗黒期』の真っ只中の、な」

 

 フィーネがレインの故郷の村に来る前、何処に住んでいたのか聞いた時にはかなり驚いた。昔のレインは父親から迷宮都市がどんなものか聞かされていた。どんな願いも叶う代償に、想像もつかない悪意が渦巻く場所。力が無ければ生きられない、一時も気を休められない魔窟。

 

「フィーネが教えてくれたんだ。見知らぬ男に犯されそうになった時、『リオン』と呼ばれるエルフに助けられたって」

 

 恋人になって最初の頃、フィーネはいつも「自分をかっこよく助けてくれたエルフ」の話をしてきた。どのくらい話してきたか……正直思い出したくない。何度か話を止めようとしたけれど、こうしてフィーネと恋人になれているのがそのエルフのおかげだと知ってしまえば、止めれるものも止めれない。

 

「……やはり、私は裁かれるべきです。『暗黒期』のオラリオから逃げ出すことができた人を、私の無責任な行動で死なせてしまった。私にはこの命しか差し出せる物がな――」

「ごちゃごちゃうるさいぞ、馬鹿たれっ」

 

 再び自分の中で短絡的な結論を出そうとするリューをしばく。突然の衝撃に目を白黒させるポンコツエルフ。

 

「別に自分を無理に許せとは言わん。フィーネは結果的に無事だったけど、フィーネのばあちゃんは死んでしまった。それは紛れもない事実だ」

「では――」

「でもな、お前は死なせた以上の命を救ってきただろう? そもそも仲間や家族でもない限り、他人の命の責任はお前にはない。なのに一度や二度の失敗で死ななければいけない訳がない」

「……」

「それにお前の理屈だと、俺は何回も死ぬことになる」

「それが本音ですか?」

 

 レインは思い切り顔をしかめる。チィッ! やっぱり気付くか。似合わない話はするべきではないな。

 

「とにかくだ。俺が言っても説得力がないかもしれんが、お前の今と昔の仲間はお前に生きてほしいと願ったんじゃないか? なら罪を償うために死にたいですー、とか言ってうずくまるより、償う(生きる)ために前を見ろ。ちょっとやそっとのことで立ち止まるのは『正義』じゃない。己の信じたものを最後まで貫くのが『正義』だ」

「――――」

 

 適当なことを言いながらレインは背を向ける。これ以上リューが帰って来なければ『豊穣の女主人』の店員が不審に思ってしまう。有象無象にどのように勘繰られても何とも思わないが、フィーネに変な勘違いをされるのだけは避けたい。

 

 十歩も歩くと後ろにリューが追いついてきた。ちらりと様子を見てみると清々しい顔をしている。まさか、あの適当なアドバイスで納得したはずはあるまい。きっと蹴りを罰だと思えたんだろう、きっとそうだ。

 

「……ありがとうございます、レインさん」

 

 んー、そのお礼は何に対して?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リューとの密会(?)は三十分にも及んでいた。その半分は彼女の名誉を守るために消費されていたので仕方ないが、間違いなく時間をかけすぎた。

 

「お帰りなさい、レインにリューさん。お願いなんだけど頑張って作った料理(これ)、試食してくれないかな?」

 

 だって、もっと早く話を終わらせていれば、目の前の匂いを嗅ぐだけで涙が出てくるピンク色の固形物を食べなくて済んだはずだもの! もしくは作るのを阻止できたはずなのに!

 

 隣で「どうやらフィーネさんは私を許さないようです……」と呟いているエルフにイラッとしつつも、レインは(表面上)にこやかに尋ねる。

 

「フィーネ……劇物(これ)、誰に教えてもらった?」

「シルさんだよ?」

 

 なるほどーそうかそうか許さんぞあのクソ女!

 

(お待ちをっ。荒縄を持って何処へ行くつもりです?)

(毒を含む鉛と同じ髪色の女の所だよ! あの女、縛って動けなくして近くの民家の屋根で三角木馬の刑にしてやるっ!! 社会的にぶっ殺してやる!) 

(なんて斬新かつ残酷な処刑方法を思いつくんですか!? シルの代わりに私が罰を受けるので、シルを許してください)

(お前絶対に俺のありがたい話を聞いてねえだろ! シルの身代わりになるくらいなら劇毒(これ)を食え!)

(いえ、私は仲間の遺言で『生きて』と言われているので……)

(少し前まで死にたがっていたくせに!)

 

 エルフとヒューマンの醜い争いは数分間続いた。

 

 更に数分後。「やっぱり……おいしくなさそうだよね……」とフィーネが涙目になった。

 

 更に更に数分後。エルフの女とヒューマンの男が仲良く床に倒れていた。  




アンチ・ヘイトが仕事をしますな。

本当にレインが大切な人を傷つけられて許すかは不明、
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