雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 五十話で終わるのが一番よかったんじゃ……と思う今日この頃。

 五十話以降の話の横にある「削除」のボタンをチラッと見た後、完成はしているプロットを見ながら文章を考え、文才がない作者はネタを混ぜる。

 次からは、次の話からはちゃんと書けるはず……!


五十七話 動き出す状況

「あれは……なぁに?」

 

 【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)、『竈火の館』の中庭。そこには留守番として残ったベルと春姫、正体及び慎ましい胸もとやほっそりとした脚を隠すための火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)で身を包む竜女(ヴィーヴィル)の少女、ウィーネがいた。

 

 疑問の声を漏らしながらウィーネが指を向けるのは、雲一つない青空で光り輝く太陽。ダンジョンに存在する疑似的な巨大水晶(たいよう)と違い、そろそろ夏に差し掛かろうとするオラリオの日差しは暑いし眩しい。しかし『竜種』としての頑丈さ故か、ウィーネは汗をかいているものの、目を見開いて太陽を見上げている。

 

「あれは太陽……お日様でございます」

「おひさま……」

 

 メイド服姿の春姫が笑みを浮かべながら教え、ウィーネが教えられた言葉をそのまま呟く。空から降り注ぐ日の光を浴びるウィーネは目を細め、太陽に負けないくらい眩しく笑う。

 

 その笑顔を見るたびにベルは嬉しくなり……ほんの少し胸が痛んだ。自分達が当たり前のように知っている日の光、その光の温かさをウィーネはちっとも知らない。知らないからこそ、今も日の下ではしゃぎ、彼女にとって地上で唯一の箱庭を走り回る。

 

 その度に(ひるがえ)火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)から見える青白い肌と鱗が現実を伝えてくる。彼女はモンスターで――人類の敵。人間と大差ない彼女を助けたい気持ちに偽りはないけど、怪物を拒絶しようとする心が自分の中にある。

 

 情けない。助けたい、見捨てたくないと言っておきながら、無邪気に笑う少女(ウィーネ)を警戒する自分の弱さに嫌気が差す。

 

(神様達はどうなんだろう? 少しでもウィーネの事が分かればいいんだけど……)

 

 壁の向こう側にある街に目を向ける。情報を集めるためにリリは北西のメインストリート、ヘスティアはバイトも兼ねて『バベル』、ヴェルフはギルド、命は『青の薬舗(やくほ)』へ出払っている。それぞれが信頼できる神様に相談するなりしているはずだ。

 

(……皆に負担をかけてばかりだ)

「ベル?」

「ベル様、そろそろお食事にしませんか? よいお時間ですし、ウィーネ様は朝食も召し上がっていませんし」

 

 はっ、となって顔を下げると、いつの間にか近くまで来ていたウィーネがベルの顔を覗き込み、回廊に置いてあった籐籠(バスケット)を持つ春姫が庭の芝生に腰を下ろしていた。

 

「ベル、おしょくじってなぁに?」

 

 ウィーネが不安そうな顔でベルを見つめてくる。自分が暗い顔をしていたせいだろうか。これじゃダメだと、ベルはウィーネを安心させるために笑いかける。

 

 その直後だった。二度の器の昇華(ランクアップ)を果たして通常の獣人より優れたベルの聴覚が来客を告げる呼び鈴が鳴る音を拾う。

 

 ベルと春姫に緊張が走り、ウィーネが小さく震えてしがみつく。前者二人の緊張は客人に対して嘘が下手な自分達だけで、どうやって爆弾(ウィーネ)がいる事を悟られないように対応するか。後者はベルと春姫のように『竜種』の優れた五感能力で呼び鈴の音を聞き、未知の到来に怯えていた。

 

「……春姫さん。とりあえず、ウィーネに急いで僕の部屋に隠れてもらいましょう」

「それがいいでしょう。申し訳ありません、ウィーネ様。お食事はお預けになります」

 

 芝生の上に広げかけていた昼食を籐籠(バスケット)の中に戻し、三人は走って館に入る。

 

 ――一番の対策は居留守を使う事なのだが、根っからの善人である二人と生まれて一か月も経っていない『ヴィーヴィル』の少女にそんなことは思いつかなかった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 ウィーネはベルの部屋にある寝台(ベッド)(シーツ)を被って隠れた。正直、子供同士のかくれんぼでももっとマシな場所に隠れそうなものだが、物置と化している空き部屋はウィーネが嫌がった。ベルの部屋に一人きりで隠れるのも、寝台(ベッド)にベルの匂いがして安心するからである。改造戸棚(クローゼット)に隠れないのもそれが理由だ。

 

 (シーツ)にくるまるウィーネを何故か羨まし気に見る春姫が気になったが、二人で一階まで降りる。どちらかがウィーネを見守るために部屋に残ればいいのに、チキンな二人は一緒なら心強いと、二人で出迎えるつもりである。

 

「では……行って参ります」

 

 勝ち目がない戦場に赴く兵士のように覚悟を決めた春姫が扉に手をかける。ベルは後方の柱の陰に隠れ、いざという時に飛び出せるよう備えた。

 

 (チェーン)はかけない。あからさまに館の中に何かありますと教えるようなものだからだ。

 

 春姫がゆっくり扉を開くとそこには、

 

「よっ、エロ狐! 今日は金がないお前等にいいもんを持って来てやったぞ」

 

 凝った作りの剣を二振り腰に佩き、ふてぶてしい笑みと傲岸不遜かつ不躾な言動であまり良い印象を持たれにくい男、レインがいた。どうしてか大量の紙束が入った箱を持って。

 

 当然、春姫は困惑の表情を浮かべて紙の山に目が引き寄せられる。それでもちゃんとした返事を返せたのは家政婦(メイド)が板についてきたからか。

 

「えぇっと……いい物でございますか? あと、エロ狐はやめてほしいのでございますが……」

「おう、少し前の頼み事の礼だ。お前等はフィーネに沢山の技術(スキル)を教えてくれた……全く知る必要がないものも含めてなっ。誰だろうな、口移しだの女体盛だの『男の人は朝が大変だから楽にしてあげましょう』だの吹き込んだ頭に精力剤でも詰まってそうな馬鹿は?」

「…………」

 

 頭に精力剤でも詰まってそうな馬鹿は盛大に目を泳がせた。レインの紹介でこの館に来た少女に命や春姫が何を教えたのか知らなかったベルは、娼館時代の名残りを引きずっていたとしても、未だにそーいう事を人に教えてしまう春姫の中の常識に少し引いた。

 

「俺に過ぎた事を蒸し返す趣味はない……が、何らかの罰があった方がいいだろう? ほら、この常軌を逸した気色悪さの恋文(ラブレター)の山をやろう。暖炉の火種にするといい。もしくは、さっきから隠れてるつもりの奴の『魔法』の的にでもしろ。というかして燃やせ」

「ちょっと待ってください」

 

 聞き捨てならぬとベルが柱の陰から出てくる。

 

恋文(ラブレター)って言いましたか? 好きな人に気持ちを伝える、あの恋文(ラブレター)!?」

恋文(ラブレター)と呼ぶのもおこがましいが、一応そうだ」

「なら読んであげましょうよ! 数が多いからって燃やすのはひどすぎます!」

 

 僕なんて一通も貰ったことがないのに! とベルは内心で憤るが、実はベルにも週に三回の割合で来ている。全部リリとヘスティアが何食わぬ顔で処分しているからベルが微塵も気付けないだけで。

 

「これは俺の物じゃない、全てフィーネ(あて)だ」

「もっとひどいじゃないですか!? 他の人に送られた手紙を勝手に燃やそうとするなんて最低です! しかも自分じゃなくて僕にやらせようとするなんて!!」

 

 『バベル』と日の光が当たらない路地裏にて。薄汚い嫉妬で他の人(想い人)に送られた手紙(ラブレター)を勝手に処分した小人族(パルゥム)と女神は胸を抑えた。

 

「一通り目は通したさ。その上でこの世に存在してはいけない物だと判断した。お前は『魔力』の能力値(アビリティ)が上がって嬉しい、俺とフィーネは呪いの産物が消えてうれしい……誰にも損はないだろ?」

「手紙を書いた人達が損していますっ」

 

 ベルは手紙の書き手に感情移入していた。他人事とは思えなかったからだ。彼の脳裏ではアイズに送った手紙がロキ、リヴェリア、何故かベートに回し読みされた挙句、本人には届くことなく燃やされる光景が映る。何だこの妄想。

 

 何はともあれ、レインが手紙(ラブレター)を処分しようとするのを阻止しなければ。顔も名前も知らない同志のために、ベルはレインを説得しようとして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら三階にいる『喋るモンスター』の玩具として使え。落書きするにしろ紙細工にするにしろ、誰かのためになるなら手紙の書き手(こいつら)も本望だろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い切り顔を引きつらせた。隣にいる春姫は青ざめながら尻尾を不自然に跳ね上げている。

 

 二人の前にいる衝撃的発言をした男の表情は変わらない。いつもの笑みを浮かべたままだ。

 

「な、何を言って……」

「ダンジョンから出てきたばかりなら、手紙(これ)がどれだけ珍妙でも問題ない。まだ地上の知識が足りないんだからな。知らないなら怖がったり気持ち悪がったりしないだろう」

「そう意味じゃないっ!」

 

 レインには常に敬語を使っていたベルの口調が荒くなる。

 

「いつから気付いてたんですか!?」

「それはこの家にいる『喋るモンスター』についてか? それとも『喋るモンスター』の存在そのものか?」

「どちらもです!」

 

 レインがあえてそのような言い方をしたのかは分からないが、彼の言葉はウィーネ以外にも『喋るモンスター』がいる事を示唆している。どうしてウィーネがいる事に勘付いたのかも含め、レインには知っている全てを説明してほしかった。

 

 だが……、

 

「俺がここに『喋るモンスター』がいると気付けたのは、特殊な技能(アビリティ)の効果で気配の感じ方が他とは違うからだ。それと『喋るモンスター』が何なのか……それは教えない」

「ッ、どうしてですか?」

「お前等が『喋るモンスター』を庇う事がどういうものなのか、ちっとも理解できていないからだ。獣人かLv.の高い冒険者なら一発で分かるほど、この館からはモンスターの臭いがする」

「あ……」

「それに俺が教えずとも、近い内に知れるはず――さっ」

 

 肝心な事は何も言わないまま、レインは最後の言葉が遅れて聞こえるくらい素早く消えた……扱いに困る手紙の山を残して。

  

 その後、ベルと春姫はヘスティア達が帰ってくるまで玄関から動けなかった。

 

 戻ってきた【ヘスティア・ファミリア】の参謀は強引にでもレインから情報を吐かせるべきと意見し、それに他の面々も同意したものの、その日からレインが見つかることはなかった。   

 

 【ヘスティア・ファミリア】が竜の少女と出会ってから六日後。彼等彼女等はレインが残した言葉の意味を理解する事件を引き起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺の髪は餌じゃない、千切ろうとするな。俺にも考えがあってやったんだって……怒るなよ」

 

 都市の何処かで、縦縞模様の梟がレインの頭を突いていた。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「いよーう! 元気だったか!」

 

 そして。

 

「どうした? 俺が挨拶をするのがそんなに以外か? いや、お前なんぞに声をかける事自体が珍しいか」

 

 都市に潜む闇に挑む【ロキ・ファミリア】のあずかり知らぬところで。

 

「あ、こう呼んだ方がいいのか。――今から死ね、エニュオ」

 

 停滞していた状況が動き出す。




 【ヘスティア・ファミリア】の本拠の近くを獣人が通ればモンスターがいるって分かりそうだけどね。冒険者だからモンスターの臭いがしてもおかしくないって思うのかな?
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