雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
今回の話は一気に進みます。書きたい話が近いので。
二週間ぶりの投稿。時間を開けると文を書く手が鈍る鈍る……。
ダンまち小説書く上でのむずい事。人類が意味を理解している言葉。
『リゾート』『コスプレ』は知らないのに、『バグってる』は知ってる。
――『英雄』の寿命は短い。
途方もない偉業を成し遂げようと、『英雄』は所詮『
――『武器』の寿命は長い。
一級品の武器は頑丈だ。確かな技術を用いれば、頑丈な鋼鉄だって切り裂ける。重い攻撃だって受け止められる。いっそ戦いに使わず定期的な手入れをしておけば、いつまでも傷つかず錆付きもしない。至高の武器なら永遠に壊れないし、性能も不変だ。
だから『英雄』にするとは口にしなかった。『英雄』は見知らぬ誰かのために自身を使い潰す。そんなものになってほしくない。
だから永遠で最強で無敵で絶対の『
少年の親はそう願った。
血がつながっていなくとも、大切な家族という事実は変わらないのだから。
♦♦♦
さあ、困ったぞ。
ダンジョン18階層『
フェルズの依頼通り【ヘスティア・ファミリア】の護衛をしているのだが、ダンジョンに入る前から様子がおかしい。特にベルが挙動不審だ。
モンスターと戦っている間も注意が散漫で、
別に集中しきれてないせいでモンスターに殺されないかを心配しているわけではない。【ヘスティア・ファミリア】が何も考えず足さえ動かしてくれれば、レインは全員を無傷で50階層まで連れていける自信がある。
(でも……今回はダメだな)
問題なのは
そして何より――自分ばっかり戦うのはなんか嫌だ! という形容し難い不満がある。
早速、問題解決のために思考を回す。
(『
当たり前のようにベルの葛藤、そして覚悟を読み取るレイン。恋愛感情にはてんで鈍いのに、それ以外なら容易く読み取る。どれほどの女性がこの鈍感さに泣かされてきたことか。
(視線――も違う。【イケロス・ファミリア】も【ヘルメス・ファミリア】も、待ち合わせの
前者は魔剣による『不可視の斬撃』で、後者は威圧をして。イケロスの眷属の腕を奪った感覚はあったからヘルメスの眷属に追ってほしいが……多分追わないだろう。『隠し玉』を警戒して撤退する。便利屋を名乗っているくせに肝心な所で使えない。
(一番の心当たりは『ハード・アーマード』でモンスターの群れを始末したこと。こいつらにとって衝撃的だったろうが……時間が合わん)
――『ボウリング』、と神々が呼び出した娯楽がある。三角の形に一〇本のピンを並べ、一定の重さの
どれも繁華街にある娯楽施設で楽しめるが、どの遊びもレインは一度もしたことがない。
理由は単純。【ファミリア】が出禁を喰らっているからだ。
レインが所属している【ファミリア】は繁華街の中心にあり、繁華街の施設の
下劣な欲望を丸出しにしてさえいなければ、年がら年中部屋に引きこもって暇をもてあそび、眷属が汗と血を流して稼いできた金で豪遊することが最近の
するとどうなるか。娯楽施設が半壊し、
身も心も捧げる女神にかっこいい姿を見せようとする眷属達は、加減をしない。
後はいつもの流れ。飛来してくる物体を弾いて、それが別の眷属に当たる。そこから全員が敵の殺し合いに発展し、いろんなものが壊れる。からの出禁。
施設が利用できない事とその原因を知ったのが四日前。レインは自分も似たような理由で歓楽街を出禁になった事を棚に上げ、盛大にオッタル達を罵った。
閑話休題。
玉と矢を狙った場所に撞く、もしくは投げる
真夜中から朝にかけてダンジョンを探索する冒険者は少なく――凶悪な冒険者が出没しやすいなど――そのせいで大量のモンスターが18階層直前、『嘆きの大壁』に溜まっていた。
ベル達に任せたら時間がかかるしここは俺が済ませるかー、と魔剣を抜いて前に出たレインに向かってきたのは、丸くなって転がる『
ここで『ボウリング』をしない選択肢はレインになかった。
『キラーアント』の硬殻より頑丈な『ハード・アーマード』の甲羅を指の力で突き破る。そのまま持ち上げ、迫りくる『ミノタウロス』に転がした。結果は
――実際には”転がした”ではなく”投げた”。凄まじい速さで投擲された『ハード・アーマード』に当たった『ミノタウロス』は弾け飛び、それ以外は投擲によって生じた衝撃波で死んだ。投げられた『ハード・アーマード』は壁の奥深くまでめり込み、摘出不可能になっている――
思考の波から意識を引き上げる。
もう一度【ヘスティア・ファミリア】を見れば、何かを言いたそうにしているベルを全員がじっと見つめていた。恐らくレインに物申したい事があるのだろう。しかし、ぶっちゃけ、その物申したい相手が怖い。だから
失礼な奴等だ。俺は海よりも深い慈悲を持っているというのに。そりゃ偶に隙間風が吹く隙間並みに心が狭い時もあるけどさっ! レインは勝手に【ヘスティア・ファミリア】の心境を決めつけ憤った。
とりあえず言いたい事を言わせてやろう、とレインは軽口でもたたいて空気を軽くしてやろうと口を開き、
「レインさん――マジメンゴです!!!」
――声ではなく拳が出た。叩くのは軽口じゃなくて白い頭になった。
いきなり土下座をかましてきたベルの言葉を脳が理解するよりも早く、反射で繰り出された鉄拳はベルの頭部に命中する。
ガゴォッッ!! という人間の頭から決して聞こえてはいけない音がした。その鉄拳は本人以外には視認するどころか拳を使ったということさえ理解させず、被害者は『説明のできない力』が自身を襲ったとしか分からない速さを誇る。
これぞ竜人鉄拳ドラゴン・パンチ! この技は頭蓋骨を歪ませず亀裂も入れず、更に脳にダメージを与えない絶妙な力加減でありながら、頭皮を内出血で拳の範囲分持ち上げる破壊力を秘めている!
「喧嘩売ってんのか? いつもなら整理券渡して最後尾に並んでもらうところだが、今すぐ相手してやろうか?」
「……ッ!! ………!? …………ッッ!!?」
ベルが殴られた頭を押さえつつ、まな板の上に載せられた鮮魚のようにのたうち回りながら口をパクパクしている。あまりの痛みと衝撃に言葉が出ないようだ。
「ベル、大丈夫っ?」
ベルの一番近くにいたウィーネが駆け寄ったのを皮切りに、他の面々も心配の声を掛け始める。
「しっかりしろベル! あれだけその謝罪の仕方はやめとけって言ったじゃねぇかっ!!」
「ヘルメス様も根っこの所は他の神様と一緒です! 以前言葉巧みに娼館に連れていかれそうになった事から学んでないのですか!? ああそうですね学んでないからこうなったのでしたねぇ!!」
「ヴェルフ殿、リリ殿、その話は後です! ベル殿のたんこぶの大きさが尋常ではありません!
「ベル様、春姫に合わせて息をしてくださいませ。ひっひっふー、ひっひっふー」
……違った。心配もしてるっちゃしてるけど、半分ほど怒ってもいるようだ。しかもあの舐め腐ったセリフはヘルメスの入れ知恵らしい。まあ、もしあのセリフを自分で考えていたならあと二、三回は殴っていたけど。
レインは自分の小さいバックパックから
ベルが大人しくなるのを待つ。他の面々が睨んできたが、握りこぶしを見せると目を逸らした。
「説明してもらおうか。さっきの行動は何の真似だ? 俺が納得できるだけの理由じゃなけりゃ、お前の首から下は歴戦の傭兵にしか見えないむきむきのマッチョになる。ついでにブルマ好きも」
「………………!?」
ブルマ好きは戦慄した。こいつ、ベルの首から下だけをマッチョにするだと? そんなことされたら防具を一新しなくちゃいけなくなるだろうが! しかもベルの顔立ちでマッチョとか想像するだけで気持ち悪い!
……ついでで巻き込まれた事は気にしていないらしい。
「歴戦のマッチョ……ですか?」
「どうして期待する目になるんだ」
レインはドン引きした。え? 普通マッチョにされるのに抵抗あるよな? なんで期待してんの? もしかして「かわいいー」「兎みたいー」と言われるの気にしてた?
変な方向へ流れるそうになる思考と立て直すために軽く頭を振る。
「……はぁ。なんであんな謝罪の仕方になったのかは聞かん。なんとなく元凶は分かるしな。でもな、お前が何について謝りたいのかは教えろ」
レインにはモンスターが前にいるというのに注意散漫になるほど罪悪感を抱くことをベルにされた覚えは全くと言っていいほどない。心底不思議だった。
故に尋ねる。どうして自分に謝るのかと。
「……僕が謝りたかったのは、その……【イシュタル・ファミリア】との抗争についてです。あの時、レインさんには命さんの治療をしてもらったのに、本当に酷いことを言ってしまってので……ごめんなさい」
少しまごつきながらベルが話し始める。まとめると、意図してではないが手助けを受けたにも関わらず、お礼どころか『人殺し』と言ってしまった事を謝りたかった。しかし、二度も顔を合わせる機会があったのに謝罪が出来ず気にしていた。今度こそ謝ると決めていたもののタイミングが計れず、最終的に混乱してあのワケワカメな言葉が飛び出てしまったらしい。
なるほどなるほど。レインは分かりやすく頷く。
「よし。俺から言えるのは一つだ。気にせず忘れろ」
「えぇっ!? いや、忘れていい出来事じゃないと思うんですけど!?」
目立たないよう隠れているのを忘れてベルが大声を出す。
――そもそもベルが自分に謝る必要などない。彼の反応は人として極めて正しい。誰だって大事な仲間に、こんな人もモンスターも
「おらっ、そろそろ行くぞ」
「【噛み殺せ、双頭の雷竜】――【ツイン・サンダーブラスト】」
「【願わくば
「【埋葬せよ、無慈悲なる氷王】――【アイスエッジ・ストライク】」
――
その後、レインの手で引き合わされた『
しばしの宴を楽しんだ【ヘスティア・ファミリア】は、
♦♦♦
「痛ぇ……! ちくしょう、痛ぇよ……!!」
「本当にどこまでも厄介な男だね! なんで【ヘスティア・ファミリア】にくっついてやがるのさ!」
「どうするんだよ、ディックス? あいつがいる限り、狩りは簡単に出来ねえ。しかも喋る化物を捕まえるのを協力していた化物女もいなくなっちまったし……」
ディックスと呼ばれた
「どうもこうもねえ。奴が『
だから、と男は一拍置き、
「
椅子代わりにしていた物――瀕死の
最後のセイレーンは狩りを邪魔されまくった闇派閥が念のため残していた異端児です。化物女とはフィーネ。
レインの血筋がどんなものなのかは別の機会。ヒント? は一応これまでの話に書いてあります。