雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 ごめんなさい。作者の頭が悪いせいで一週間投稿ができなさそうです。成績がマジでヤバイです。最低でも月に二回は投稿したい。


 ・フィーネを人質にした【ロキ・ファミリア】の説明。

 彼は【ロキ・ファミリア】に入団できたことを誇りに思っていました。年齢や種族に関係なく仲間には平等に接していましたが、徐々に性格が歪み、派閥の仲間以外を馬鹿にするようになりました。例えば入団希望者に難癖を付けて追い返すなど。

 原因は【ファミリア】に対する歪んだ愛。それ故に、レインの影響を受けて変わっていく【ファミリア】に不満を持つようになり、レインには敵意を持つようになりました。嫉妬したと言ってもいい。

 そこに現れたレインの大切な人であるフィーネ。リヴェリアに注意を受けてから危害を加えはしませんでしたが、『豊穣の女主人』で水をすぐに飲みほして補充させる、メニューを選ぶのに時間をかけるといった陰湿な嫌がらせはしていました。最初は足をひっかけて転ばせる、といった嫌がらせをしましたが、積み重ねたリンゴ箱に隠れていたレインに睨まれてやめました(それでも嫌がらせとも言えない、身体を張った何かは続けた)。

 今回の騒動でレインが罪人になると知った途端、フィーネも始末できると考えました。彼にとっては直接手を下してなくとも、フィーネは仲間を殺した『敵』と同じでした。

 この短絡的な考えが悲劇を生むとも知らずに、男はフィーネを傷つけます。
 


六十四話 『悲劇』の始まり

 煮え滾るマグマの如き憤怒が臓腑を焼き焦がしている。

 

 黒い激情の言いなりになろうとする自分を理性(つよさ)が押さえつけている。

 

 ――このまま力を振るうものなら、守るためではなく殺すための殺戮を重ねる。それは忌避し続けた醜い獣へ身を堕とすことであり、フィーネが最も嫌っていた存在になるのと同義だ。彼女を理由に罪を犯す気か? この惨劇でミア達が彼女を見捨てるかもしれない。彼女を独りにして、悲しませるつもりなのか?

 

 感情(よわさ)が狂おしいほど猛っている。

 

 ――だったらなんだ!? もう引き返せない! 既に俺は大罪人、繋がりがあるフィーネを(ごみ)どもは絶対に狙う! そんな真似を考える余裕が消し飛ぶほどの恐怖と絶望を与えるべきだ! 半端な慈悲を見せれば奴等は付け上がるっ、その結果がこれだ! 彼女の為に、彼女を傷つける『敵』は全て滅ぼす……俺が力を求めてきたのはこの時のためだ、救う命と切り捨てる命を選ぶ強さ(けんり)を手にするためだ!

 

 永遠に等しい時間の狭間でもっともらしい言葉が渦巻く。

 

 全てが嘘で、建前で、虚飾だ。答えは最初から目の前にある。

 

 ()()

 

 初めて雨の日の(よわかった)自分以外に憎悪を抱いた。人も世界も何もかもを壊してやりたいと思った。目に映る全てに殺意が沸いた。

 

 フィーネを傷つけた塵がこの世界で生きていることが許せない。塵がこの先も生を謳歌することを許さない。塵が今日を忘れて幸せになるなど許されない!

 

 本能が、心が、魂が。黒い炎を纏って雄叫びを上げている。慈悲を捨て去り、狂い果て、全てを滅ぼせと叫んでいる。

 

 彼の逆鱗(たいせつ)に塵が汚い手で触れているのを見るだけで腸が煮えくり返る。塵の意味を成さない濁った声に血潮が燃え盛る。フィーネの涙に漆黒の衝動が全身を駆け巡る。

 

 視界が赤い。突き抜けた怒りが瞳から血を吐き出している。もしかしたら、その血は彼の中に残っていた『優しさ』や『甘さ』だったのかもしれない。

 

 ――フィーネを害した。獣に堕ちる理由は十分だ!!!

 

 感情(よわさ)が象った竜が、理性(つよさ)の鎖を引き千切る。彼を縛るものはもう何もない。

 

 黒い戦士の内に封じられていた最凶最悪の怪物が産声を上げた。

 

 『悲劇』の幕が、今……開かれる。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「――【竜戦士化(ドラゴンモード)】」

 

 軽くうつむいたレインの呟きはとても小さかった。レインの問答が狂気を含んでいた影響で大きく聞こえたせいかもしれない。それなのに、【ロキ・ファミリア】の中で聞き逃した者は一人たりともいなかった。【ヘスティア・ファミリア】と『異端児(ゼノス)』達も。

 

 誰もが動きを止める。フィーネにナイフを突き付け、レインに向かって偉そうに大喝していた男も口を閉じ、怪訝そうな顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レインの背中が()()()()()。皮膚と服を突き破って生えてきたのは二本のどす黒い肉の触手。二つの触手はうねりながらその身を伸ばし、ある程度まで伸長すると分裂した。枝分かれした細い触手と大元の触手は更に伸び続け、七M(メドル)程の長さで止まる。

 

 触手はそこから()()()()。枝分かれした触手から発生する灰色の肉膜は、大元の触手の先端と根元の間を埋めるように広がり、繋がる。硬質化したことを伝えるように、黒い触手は光沢を纏う。

 

 ベルは気付いた。あれは()()()だ。先の見えない暗闇のように黒い触手は骨格であり、灰色の肉膜は大翼の皮膜なのだと、皮肉にも竜の少女(ウィーネ)の変貌を見せつけられた少年だから気付いてしまった。

 

 ボコリボコリという人の(かたち)が歪む音は止まらない。バキバキバキィッ! という人の(すがた)が砕ける音は鳴り止まない。レインの変化は終わらない。

 

 手袋が裂ける。露わになるのは、黒曜石のような体皮となっている鋭利な手。あらゆるものを両断し、万物を貫く『竜の爪』。

 

 腕と足の袖が破られる。長い四肢と胴体を覆いつつ、ささくれ立った黒色の鱗。竜の急所を守るために堅牢の極致へ至った『逆鱗の鎧』。

 

 腰から黒い何かが生える。高熱を宿す蒸気を放ちながら、紅色の液体を滴らせて這い出てくるのは十M(メドル)を超える爬虫類の尻尾。鞭よりしなやかでありながら大剣や大戦斧以上の破壊力を秘める『竜の尾』。

 

 変わるのはレインだけではない。まるでレインの変貌に引きずられたかのように、雲一つなく晴れ渡っていた青い空には、今や一片の光も通さない暗雲が見渡す限り広がっていた。雲と雲の狭間で雷光が荒れ狂い、雷鳴が轟いている。

 

 一瞬にして迷宮都市は闇に飲まれ、とあるエルフは絶望が希望を喰い尽くそうとしているように感じた。

 

「……本当に愚かだなぁ、道化の眷属達。お前等みたいな雑魚に、本来なら逆らう資格も吠える資格もなかったのに……。せめてもの慈悲で、手足を削ぎ落として肯定しかできない人形にはしなかったというのに……」

 

 ただ喋っているだけなのに空気が震える。レインから発せられる、空間が歪んでいると錯覚してしまうほどの威圧感(プレッシャー)のせいだ。……これがただの存在感であり、彼の本気の威圧は自分達を肉塊を通り越して血溜まりにすると知った時、【ロキ・ファミリア】は何を思うだろうか。

 

 ゆっくりとレインの面が上がる。暗影に塗りつぶされていた都市を切り裂く一条の雷霆が、その全貌を明らかにした。

 

 額には純黒の『竜角』が生えていた。耳元まで裂けた口から覗く歯は鋭くとがった『牙』となり、人の口は『竜の(あぎと)』へと変わり果てている。

 

 光の恩恵を与えた雷が消え去り、再び闇に包まれた世界の中で、レインの真紅に染まった右目――()()だけが禍々しく、獰猛に、鮮烈な輝きを放っていた。

 

「黒い…………隻眼の…………竜…………」

 

 英雄譚に綴られた一節。怪物達の頂点たる『竜種』。最強の大英雄が命と引き換えに片眼を奪い、追い払うことしかできなかった竜の王。

 

 白髪の少年と金髪の少女と黒髪の女神は、竜の威光で成り立つ村を知っていた。(いにしえ)の竜が討たれればその村が崩壊してしまうことも。その村が成り立っていることが、竜が生きている証明だとも。

 

 なのに。

 

 三人は直感した。あれが、あれこそが『隻眼の黒竜』。

 

 生きる災禍、黒き終末、世界の終焉!

 

「全部、ぜんぶ、ゼンブ――消え失せろ」

 

 いつの間にか(レイン)の腕に抱かれている財宝(しょうじょ)人質()を失い硬直する一部の【ロキ・ファミリア】。人と竜の少女を魔法結界(マジックシールド)で包み込んだ竜は(あぎと)を開く。

 

 竜の口腔で輝く小さな紅光炎(クリムゾン・フレア)。臨界まで蓄力(チャージ)された竜の息吹(ドラゴン・ブレス)

 

 密かに【ヘスティア・ファミリア】の背後の建物に回り込んでいた『異端児(ゼノス)』達が生存本能を刺激される攻撃の前触れを察知し、畏怖で動けなかった【ヘスティア・ファミリア】を建造物の裏に引きずり込む。

 

 【ロキ・ファミリア】も、覚醒直後の四名を含んだ第一級冒険者だけが動けた。すぐ傍の団員を掴んで屋根から転げ落ちるように建造物を盾にする。オッタル達はとっくに身を隠していた。

 

 直後。

 

 何もかもを灰燼に帰す灼熱の光が、解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッッッ!!??』

 

 直径二〇C(セルチ)に満たない光球。58階層に生息する砲竜『ヴァルガング・ドラゴン』の五M(メドル)を超える大火球に比べれば、あまりにも貧弱に見える規模(サイズ)

 

 しかし、その光球は()()()()()()()()()残光しか視認できない速さで飛翔する。人の身体に竜の力を宿した故に、レインの竜の息吹(ドラゴン・ブレス)は拡散しない。全ての破壊力を一つに凝縮し、射出される。

 

 衝撃波を振りまきながら突き進む竜の砲撃は無慈悲だった。直撃しようが僅かに触れようが、等しく人の身体を蒸発させる。『灰』という何かが存在していた証も遺させない、モンスターよりも惨たらしい最期。死んだ者は最期まで何が起きたのか理解できなかっただろう。

 

 石造りの建造物を紙屑のように貫通していく竜の炎弾。炎弾は貫いた物体に破壊(あか)の爪痕を刻み付けて進んでいき、爪痕を刻まれた物体は獄炎(えんごく)徒花(あだばな)となって爆散し、絶望の花弁をまき散らす。

 

 悲鳴、絶叫、阿鼻叫喚。それらは全て爆発音に掻き消される。劫火の舌は、人の命も断末魔も貪欲に貪った。誰かの名前を呼ぶために息を吸おうとした者は、肺と喉を焼かれて息絶えた。無念の涙と亡骸は、劫火の舌に飲まれて消える。

 

 一撃。

 

 たった一撃で万を超える命が奪われた。

 

 建物を盾として使い、目と口を塞いで熱波と衝撃波を凌いだ【ロキ・ファミリア】、【ヘスティア・ファミリア】、『異端児(ゼノス)』は目の前の光景――黒き竜に蹂躙された地獄絵図を見て、残酷な現実と隔絶した力の差を理解した。

 

 同時に、レインの()()も。レインの言ったことは本当だった。彼はいつでも蹂躙できたのだ。それでも力を使わず、言葉だけで相手をしていた彼は『優しかった』。

 

 もう時間は戻らない。もう一度やり直すことはできない。彼等は抗いようのない破滅の道を選んでしまっている。

 

 フィンは溶接されたように動かない口をこじ開けて、何かを叫ぼうとした。徹底抗戦の意志は那由他の彼方へぶん投げた。きっと「逃げろ!」とか、「撤退するぞ!」といった類の言葉だった。

 

 指示を飛ばそうとした矢先。北東の市壁を越えて突き進んでいた炎弾が名もなき山脈に着弾した。

 

 次の瞬間。

 

 ()()()()()()()()()

 

 比喩抜きに世界が揺れる。激しく視界がブレる。絶叫を上げる暇もない。

 

 武器を壁に突き刺して耐え凌いだフィンの目に映ったのは、遥か遠くの大地で燃え盛る太陽。一部が爆砕した市壁から見えた凄烈な爆炎に、フィンは目を()かれた。竜の業火に心を焼かれた者の手から武器が滑り落ちる。

 

「【デストラクション・フロム・ヘブン】」

 

 炭化した心を木っ端微塵にする追い打ち。

 

 絶望の暗雲から降り注ぐ破壊の鉄槌。極光の雷は百M(メドル)を優に超す迷宮都市の壁……『古代』の人類が築き上げた巨大壁を欠片も残さず消滅させた。

 

 都市の外へ逃げ出そうとしていた人々の足が止まる。市壁の跡は、不可視の檻に変わり果てていた。

 

 オラリオの人間、子供から老人に至るまでが思い知らされる。

 

 ――もう誰も生かさない。

 

 世界の絶対者が掲げる『滅亡』の判決を。

 

「……フィン・ディムナ。君が愚かではないのなら、今だけは我々を仲間と認めてほしい」

「……モンスターの統率者。いや、神ウラノスの遣いか」

 

 呆然としていた勇者の背後に優秀過ぎる『賢者』が立つ。

 

「そうだ。事態は人類だけで解決できる範疇を超えている。人類と怪物、敵同士でも手を組まねば生き残れない。……レインを倒すことは、それこそ世界が滅びるよりあり得ないと思ってほしい」

「……何なんだ、レインとはいったい何者なんだ!?」

 

 八つ当たりにも似たフィンの絶叫。黒衣を揺らすフェルズは感情を排した声音で答える。そうしなければまともな声にならないから。

 

「【ステイタス】の能力値(アビリティ)合計(トータル)50000オーバー。『精癒』、『治力』、『耐異常』等の発展アビリティの評価は最高。更に【ステイタス】の成長速度を底上げし、尚且つ自動的に更新する『スキル』を所持している」

 

 竜の真紅の瞳がこちらを射抜く。それだけで激しく震えだす骨の身体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして……たった一人で『黒竜』を倒した、正真正銘、世界最強のLv.9だっ!!!」

 

 『悲劇』はまだ始まったばかりだ。




 ぶちぎレイン。
 今のレインの左目は仮面のような鱗に覆われてます。
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