雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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六十七話 『絶望(黒竜)』の力・『憎悪(レイン)』の力 下

 何処までも突き進む破滅の雷霆。

 

 ベルの蓄力(チャージ)によって光線(レーザー)に変貌した『クロッゾの魔剣』の砲撃がちっぽけに見えるほどの威力と規模は常人の意志を……なんとか立ち上がろうとする【ロキ・ファミリア】の戦意を圧し折るのに十分過ぎる破壊を振りまく。

 

 勇気を振り絞って戦場へ向かっていた冒険者達が(ちり)も残さず蒸発し、建物と武器は跡形もなく消し飛んだ。都市東部に向かって放たれた雷は『セオロの森』を飲み込ながら遥か彼方へ進んでいき、見えなくなった。

 

 雷光が駆け抜けた場所には何もない。進路上の地面が砂漠世界に生息する大蛇、『バジリスク』が砂地を這うよりも深く、広く削り取られ、地下水路や『人造迷宮(クノッソス)』の構造(アダマンタイト)が露出しているくらいか。いや……追加が()()()()()()()

 

 ドンッ!! と。黒雲を貫き天に突き立つ光の柱。『神の力(アルカナム)』を発動させ、下界の規則(ルール)に抵触してしまった神が『天界』に送還される際に発生する光の大瀑布。

 

 その数、()

 

 『暗黒期』でさえ上回るようなこの惨状で発生した神の送還。それが複数も起これば、全知零能の神々も平々凡々の人類も等しく一つの答えを導き出す。

 

 神が致命傷を負った。常人と同じ状態になっている超越存在(デウスデア)が、人の(まほう)によって死に至る損傷(ダメージ)を与えられた。

 

 『神殺し』。闇派閥(イヴィルス)の人間でさえ犯すことはなかった下界最大の罪。耐え難い怒りと憎しみを抱こうが、上位の存在である神に逆らえぬ――正確には神威で抑えつけられてしまうから――人類が超えられない一線。神を裁けるのは神だけであるという絶対の摂理を破壊する世界への反逆。

 

 神を弑せる人間に恐れがあると思えない。その事実は、とうの昔に折れていた人々の心を入念に潰す。

 

 空に昇る光の柱は『ダイダロス通り』に含まれる位置から発生していた。怖いもの見たさの愉快犯かどうかは知らないが、大方神である自分がこの騒動の元凶――人類(レイン)に殺される訳がないとでも高を括っていたのだろう。

 

 つらつらと淀みなく思考を回していた人物は、ここでようやく別の物事を考える。

 

(……どうして僕は……ベル・クラネルは生きているんだ?)

 

 深紅(ルベライト)の瞳を灼く光を目にした瞬間、(ベル)は全てがどうでも良くなっていたはずだった。夢も仲間も憧憬も。必死に選んで歩んで掴み取った人生が滑稽に思える絶対の『力』。かつて宿敵(ミノタウロス)との戦いの際に立ち向かう勇気をくれた『手紙』のことも頭からすっぽ抜けた。レインの魔法はそれほどまでに巨大な恐怖で……最高の絶頂と恍惚を与えた。

 

 迫りくる大嵐が言葉にできない感動を与えるのと同じように、ベルもレインの雷に神々しさを感じた。これに引導を渡されることが一番の幸福であるとすら考えた。それなのに何故、自分は生きている?

 

 わからない。思い出せない。覚えていない。どうして生きてる。あのまま殺されたかったのに――。

 

 そんな時である。

 

「ぶぎっ!?」

 

 衝撃と共に目の前が真っ暗になったのは。ついでに顔面が……主に鼻頭が熱くなった。尻を蹴り飛ばされた豚のような汚い悲鳴が漏れる。

 

 衝撃で地面に後頭部をぶつける。痛みで反射的に呻き声を出しそうになったが、できなかった。何故なら顔面にぶつかった何かが口に圧力を掛けているから。謎の圧力は刻一刻と強くなっている。

 

(――って、痛い痛い痛いっ!? 凄くジャリジャリしてるこれは……砂? どちらかと言えば砂利? というか感触的にこれ靴!? 僕誰かに踏み潰されてるの!? こんな時に!?)

 

 訳の分からない状態になったベルは混乱しながら、誰かの足と思しき物をどかそうと手を伸ばそうとし……その手が温もりに包まれていることを認識した。

 

 手だけではない。お腹と腰と背中に同種の温もりを感じる。……肌を震わせる鼓動も。

 

 ベルの変化を察したのか顔を踏んでいた足が消える。下手人がいる方には目もくれず、温もりの正体確認を優先する。

 

「え?」

 

 綺麗な漆黒の髪をツインテールに結わえていた髪紐が片方ない。シミ一つなかったはずの柔肌はたくさんの擦り傷で汚れている。ベルの腹部にうずめられている顔に安堵はなく、苦悶の表情で歪んでいた。

 

「神……さま?」

 

 どうして神様(ヘスティア)が覆い被さっているのか。そんなことを考えるのは後回しだ。それよりも……神様のご尊顔が血まみれだ。血は彼女の頭から流れている。早く治療をしないと……。

 

 緩み切っていた筋肉を叱咤して身体を起こし、ヘスティアを横抱きにする。回復薬(ポーション)の入っているレッグポーチの蓋に指をかけ、引っ張った。

 

 ……指が滑って開かない。そうだ、激しい動きをする冒険者御用達のレッグポーチだから簡単に開かないよう頑丈なんだ。もっと力を入れないと。

 

 開かない。もっと力を入れる。開かない。さらに力を入れる。開かない。何度やっても指が滑る。汗で滑るのかと思って手は拭った。留め金が歪んだ様子もない。ナイフで切り裂こうと考えたが、何故かナイフも抜けない。

 

「おい、クソ兎」

 

 冷ややかに蔑称をぶつけられた。ナイフを抜く手とレッグポーチを開こうとする作業を止めないまま顔の向きを変える。

 

 常に苛立ちが混ざっている声は聞き覚えがあったし、目に映るもの全てに唾を吐きそうなくらい冷酷な表情もはっきりと覚えている。……そもそも、この状況でベルを痛めつけるような性格をした人物はこの人しか思いつかなかった。

 

 【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】アレン・フローメル。Lv.7。

 

 銀槍を携えた猫人(キャットピープル)は侮蔑の眼差しで……それどころか殺意を込めた瞳でこちらを見下ろしている。

 

「無様を晒すなら最初から戦場(ここ)に立つんじゃねえ。大人しく引きこもってろ、三下」

 

 ――いつものベルなら素直に頭を下げた。けれども、今ここで無様を晒すなと罵られるいわれはない。フィンとフェルズに与えられた役割も果たした。戦いの始まりと同時に逃げ出した人達よりずっとマシだろう? 何故、暴力と罵倒を受けなければならない。

 

 ベルがアレンを睨みつける……恐怖によって無意識に垂れ流す体液とガチガチと鳴る歯に気付かぬまま。心が折れた兎の醜態を一瞥し、アレンは毒を吐く。

 

「守らなけりゃならねえ存在(かみ)に命懸けで救われた愚図を『無様』と言って悪いか。怯えて得物(ナイフ)も抜けねえザマを『無様』以外に何と呼ぶ。雑魚が無意味に歯向かう意志を見せんな、煩わしい。あのお方に目を付けられてさえなけりゃ、俺はとっくにてめぇを始末している」

 

 正確に言うならば、ベルを救ったのはアレンだ。レインが煙を振り払って現れた時、ヘスティアは勘に従ってベルを事前に雷の砲撃魔法の射程外に運ぼうと飛びついたものの、一般人同然の彼女の身体能力では足りなかった。ただしがみ付くだけになってしまったヘスティアはベル共々消し飛ばされるところだったが、主神(フレイヤ)を地上に留めるために、彼女のお気に入りが死なない様行動するアレンによって救われた。

 

 反論の余地もない己の無力を叩きつけられ、ベルはヘスティアを抱きしめたまま俯いた。アレンは見向きもせず、軽い足音を残して移動する。

 

 移動先は『隻眼の竜』を上回る黒き戦士。視野を広げてみれば、大剣を構えた錆色の猪人(ポアズ)、白き雷を手に纏わせる白妖精(ホワイト・エルフ)呪武具(カースウェポン)であり、効果も『斬撃範囲の拡張』と”傾国の剣”と似通った特色を持つ漆黒の(つるぎ)を握る黒妖精(ダーク・エルフ)も走り出していた。

 

 【フレイヤ・ファミリア】の目的は『自派閥のみの力でレインを倒すこと』。そのためだけに回避に専念し、他の戦力が潰れるのを待った。

 

 この条件で挑戦しなければ、彼等は雪辱を晴らせない。

 

「――貴様の真意など知らん」

 

 ヘディンが誰に聞かせるわけでもなく呟く。

 

「――てめぇがキレた理由なんざ興味ねえ」

 

 アレンの言葉は加速した彼に置き去りにされる。

 

「――我等の望みはただ一つ」

 

 ヘグニの声は鋭かった。

 

「――お前を倒す! 積み重ねてきた屈辱と敗北の『血泥』を、『超克の礎』に変えたのだと……独りで千年の歴史(ゼウスとヘラ)を乗り越えたお前に、証明してみせる!!」

 

 深く、重く、オッタルは誓いを示す。

 

「やってみろ、無様と無力を晒し続けてきた女神(アバズレ)下僕(ペット)ども」

 

 (レイン)は受け入れた。構えも警戒もせずに。

 

 彼には全てが見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『決定付けられた未来(すべて)』が、見えていた。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 既に第一級冒険者を名乗ることを許されていた【フレイヤ・ファミリア】幹部達。加えて他派閥の同じ階級(レベル)の冒険者よりも頭一つ抜けた下位団員。そんな彼等が更なる高みに昇り詰めるきっかけは……屈辱極まりない出来事だった。

 

 それは新たに入団した一人の戦士。幹部たちが初めて顔を合わせた頃は、不快な思いをした時のみにしか感情が表に出ない鉄面皮だったが、迷宮都市(オラリオ)に到着した時には本性を知っていなければ真偽の判断ができないほど精巧な作り笑いを浮かべるようになった男。

 

 男――レインに対する評価は零どころか底値を割っていた。

 

 例えば十年以上前に所属していたLv.6の女ドワーフ。フレイヤのために戦わなかった彼女は敵が多かった。嫌々【ファミリア】に籍を置いていることを隠そうともせず、フレイヤからの頼まれ事に文句をこぼしていただけで、だ。

 

 対するレインは「年増」や「淫乱」といった侮辱は当たり前、苛立つことをされれば躊躇なく鉄拳を繰り出し、挙句の果てには「美神の煮汁って高く売れそうだよな。効果も実際にありそうだし」などとほざき、全裸で寝台(ベッド)に侵入してきたフレイヤを縛り付けて、煮えたぎる熱湯の中に放り込もうとしたこともあった。

 

 当然、フレイヤを敬愛する【フレイヤ・ファミリア】は殺意を抱く。

 

 ある日、フレイヤがレインの行動を楽しんでいることを知っているオッタルを除き、全団員が彼に襲い掛かった。

 

 襲われたレインは腕を振るうどころか、触れさえもしなかった。

 

 それなのに団員達は凄まじい力で殴り飛ばされたような重傷を負わされた。幹部陣も例外なく骨を砕かれ、内臓を傷つけ、血反吐をぶちまけて襤褸のように扱われた。一瞥さえされなかった。

 

『蚊だったら叩いて潰す。蠅なら(つま)んで弾く。それ以下の雑魚に手を使う価値もない』

 

 この襲撃の後、オッタルがレインに何をしたのか尋ねてみて、返ってきた返事がこれである。力の正体が『覇気(エクシード)』と呼ばれる希少な発展アビリティであることも、覇気(エクシード)には覇気(エクシード)でしか抗えないことも。

 

 それを聞いた後、オッタルは挑んだ。奇襲も小細工もせず、真正面から堂々と。

 

 結果は言わずもがな惨敗。覚えているのは武器を構えて捨て身で突貫しようとした瞬間、レインが白けた目を向けながら手を叩いた光景だけ。手の動きに合わせて発動していた覇気(エクシード)によって、オッタルの全身は文字通り()()()()()()に叩き潰され……五日間に及ぶ昏睡状態に陥った。

 

『……お前等如きの【ランクアップ】のために、俺の友達(ゼウスとヘラ)は犠牲になったのか?』

 

 ――あほらしい。この出来事から決まったレインの【フレイヤ・ファミリア】に対する評価。

 

『その程度の力で強靭な勇士(エインヘリヤル)を名乗るなんてふざけるな。全然強くもない癖に、数の優位を捨てて一対一で挑むことに執着するな、身の程を知れよ。その馬鹿みたいなこだわりを持つならそれ相応の実力を付けろ』

 

 それからというもの、レインに挑戦できるのは【ランクアップ】一度につき一回という決まりが作られた。この規則を作ったのはフレイヤである。曰く、

 

『情報源が誰かは教えられないけど……敗北で強くなる()と弱くなる()がいるそうよ。どちらになるかは、本人に敗北から死ぬ気で学ぼうという意志があるかないかの違いらしいわ。「敬愛(あい)する女神(おんな)を守る」と口にしておきながらそんなこともできないなら……次はない、ですって。……私も大切な眷属()がいなくなるのは嫌よ』

 

 レインも【フレイヤ・ファミリア】の虎の尾を踏みまくっていたが、同時に【フレイヤ・ファミリア】もレインの逆鱗を削りに削っていた。【ランクアップ】は最大限の譲歩である。何名か無視してレインに喧嘩を売った者がいたが……四肢を消し炭にされるか凍らされた上で粉々にされ、冒険者生命を絶たれた。

 

 彼が本拠(ホーム)にいるだけで空気が重くなり、鍛錬に身が入らなくなる。一時期、【フレイヤ・ファミリア】の総戦力は三割ほど低下した。

 

 ――しかし、良くも悪くもレインは『変化』だった。

 

 彼の言葉に思うところがあったのか、それぞれの突出した個の力だけで統率力に優れた【ロキ・ファミリア】と釣り合っていた彼等彼女等が連携の訓練を始めた。元々が団員同士で殺し合っていた頭おかしい派閥だ。常に相手の考えの裏を突いて倒そうとしていたため意志統一は容易で、すぐに一定以上の練度となる。

 

 幹部達もそう。ホンッッットに渋々ではあったものの、幹部同士で『殺し合い』ではなく『高め合い』をした。オッタルに至ってはレインに頭を下げてまでエクシードの習得方法、太刀筋の修正、どんな特訓をしたのか……『情け』を求めた。レインも矜持を捨てて、恥と屈辱を堪える武人の頼みに応じた。

 

 【フレイヤ・ファミリア】の戦力は、日進月歩で向上していく。全団員が【ランクアップ】することができたのは、間違いなくレインの存在。彼がいなければ歯がゆい思いをしたまま、力の停滞を味わい続けていただろうと誰もが知っていた。

 

 【フレイヤ・ファミリア】はレインが嫌いだ。けれど、それ以上に尊敬もしている。気付けなかったことに気付かせてくれたから。

 

 だからこそ倒す。

 

 強者を望む男に強くなったと証明して見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッ!?」

「クソがっ!」

 

 雷撃の目眩ましからの攻撃を防がれ、あまつさえ肉を削られたオッタルの呻吟とアレンの痛罵が交わる。

 

 交戦開始から()()()。凄まじい力で衝突する武器の悲鳴は()()を超えた。何度も何度も都市が揺れた。

 

 オッタル達が【ランクアップ】時に選んだ発展アビリティは『覇気(エクシード)』。周囲の時間が遅くなったと錯覚するほどの身体能力と動体視力を与える力。

 

 加えて彼等の戦闘衣(バトル・クロス)は『精霊の護符(ごふ)』――『火精霊の護符(サラマンダー・ウール)』と『水精霊の護符(ウンディーネ・クロス)』を組み合わせた特注品だ。いずれ来ると予期していたレインとの戦いに備えていた、レインの魔法を知る【フレイヤ・ファミリア】しか用意できない特殊装備である。

 

 この二つにリヴェリアの防護魔法が合わさることで、オッタル達は殺人的な熱気と冷気から身を守り、接近戦を挑むことを可能にした。

 

 対するレインの武器は二枚の黒翼と長大な尾。ありえないほど柔軟な動きをする翼が大剣、長刀、黒剣、銀槍による怒涛の猛撃を防いでいた。そして攻撃の隙間を蛇のように潜り抜けた尾が反撃を繰り出す。竜の尾は鞭のごとく槍のごとく、冒険者の身体を打っては穿つ。

 

(『炎』が邪魔で目が狙えん……!)

 

 既に『切り札』である【戦猪招来(ヴァナ・アルガンチュール)】と【我戦我在(ストルトス・オッタル)】を切っているオッタルは、『完全防御』で仲間への攻撃を幾ばくか防ぎながら目を眇めた。

 

 狙いは唯一竜の鱗で覆われていない右目。しかし、そこには竜の鱗より厄介な『炎』があるのだ。

 

 炎の大精霊(フェニックス)権能(きせき)、『燃焼』によって生み出された白い炎。この炎はひたすら『燃え続ける』のだ。火種となった物質が金属だろうと液体だろうと、その物質が消滅するまで燃え続ける。命あるものに燃え移れば対象の寿命――『魂』を燃料に燃える。

 

 彼等に消す手段はない。万が一燃え移れば、その部位を斬り落とすしかなくなる。覇気(エクシード)を使用した戦闘継続時間は二分足らずしかない。ただでさえ短い時間を無駄にする余裕は彼等に存在しない。

 

 左側からも狙えるが、そこには『角』がある。僅かに首を振るだけで第一級武装を壊せる竜の角が。

 

 ――二度とない好機(チャンス)なのだ。

 

 オッタルを除く三名はレインに攻撃の筋を読まれていない。レインは全力を出していながら本気にはなっていない。まだレインは、彼等を『敵』と認識していない。

 

 『油断』はしていないだろう。でも『余裕』を持ってしまっている。そこに――

 

「『付け入る隙がある』、とでも考えたのか?」

「――」

 

 『戦闘以外に思考を回す』失敗を悔やむ声は出なかった。

 

 レインが跳躍。『盾』として使われていた翼が『弓』のように引き絞られている。矢の代わりに番えられるのは禍々しい黒鱗。

 

 絶壊の死雨が降り注ぎ、オッタル達の意識は断絶した。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 膨大な数の鱗を叩き込んだことで空いた大穴を避けて着地する。

 

 覇気(エクシード)で周囲を探る。万能薬(エリクサー)回復薬(ポーション)で傷を治しているようだが、抵抗の意志を感じられない。もう潰す必要もないと見て、爆風で吹っ飛んでいたアイズを担いで歩を進めた。

 

 途中でやけに傷だらけな『黒い猛牛(ミノタウロス)』が突進してきた。竜角を用いた頭突きで紅角を砕き、尾で締め付けて幾度も地面に叩き付け、適当な場所に投げ飛ばした。見覚えはなかったが『異端児(ゼノス)』だったので殺してはいない。

 

 一歩前進するごとに周囲で転がっている【ロキ・ファミリア】が肩を震わせるのを無視して進み、一人の少年――ベルの前で止まった。熱気と冷気は少し前に抑えてある。聞きたいことを聞くまで殺せない。

 

 意識のないアイズを放り出す。音と視覚情報、どちらかに反応したベルが顔を上げる。

 

 瞳に光がない。諦めてしまった者の目だ。とても嫌いな目だ。

 

「ベル」

 

 レインが口を開く。心が折れていようがいまいが、この問い掛けだけはベルにすると決めていた。

 

「『英雄』とは何だ?」

 

 レインにとっての『英雄』は犠牲の象徴。百を救うために一を犠牲にする。運命の天秤に命を掛けることができても、天秤を破壊することはできない。選択することはできても、新たな選択肢を増やせない。

 

 かつて『英雄』だった育ての親が『黒竜』を討てる一人の戦士を生み出すために、救われるべき二つの命を犠牲にしたように。

 

 たくさんの格上を敵に回しても、一人の娼婦を助けると叫んだ少年にレインは期待した。本当に助けてみせた娼婦の『英雄(おとこ)』に、(レイン)は何かを見た。

 

「……ぅ、………………っ……」

 

 答えは返ってこない。口は無意味にはくはくと動くだけだ。

 

「そうか。――もういい」

 

 爪を振り上げる。それは逃げる気力もない兎を屠る処刑道具だ。

 

「さらばだ、ベル・クラネル」

 

 振り下ろされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――だめっ!」

 

 その直前であった。

 

 ベルの目の前に、一人の少女が両手を広げて立ちはだかる。少年を守るように。

 

「ベルをいじめないで!!」

 

 人と変わらない感情のある声。

 

 ウィーネ。竜女(ヴィーヴル)の『異端児(ゼノス)』。

 

 無力で、弱くて、守られる存在である少女が現れた。




 超お久しぶりです!

 作者から言えるのはこれだけ! マジすいませんでした! で、でも言い訳するなら先月は「月二回の投稿」を守っているからいいよね? やっぱりごめんなさい。

 さて、守ろうと思ってた少女に守られるベル君。意識ないけど嫌うモンスターに間接的に守られてるアイズ。いったいどうなるのか?

 ちなみに遅れた理由は勉強とスランプとこれまでの伏線探しのためです。伏線回収を忘れるところだった……。

 真ヒロインまで入れると大変なのでカットしました。

 次に黒竜がどんな能力を持っていたのか書きます。
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