雨の日に生まれた戦士がダンジョンに行こうとするのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
次は早く投稿できるといいなぁ……エタるのだけは絶対にないです。
今回はアンチ・ヘイトと推測による捏造が多いです。駄文でもある。あとがきも沢山。
ではどうぞ。
『生んでくれてありがとう』
はっきりと『僕』という自我が確立されてしばらくが経った時、不完全だった僕にできる贈り物はこれしかなかった。それでも僕は母に感謝を伝えたかった。
『貴女も……生まれてきてくれてありがとう』
大切な唯一の
なのに母は涙ながらに笑い、僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
♦♦♦
絶対的強者である竜の瞳孔は縦に裂けている。ありとあらゆる生物に備わっている器官が通常と異なった形状をしている場合、それらは強者か特異な存在であることが多い。
ならば……紫紺の瞳そのものが尖った十字架のようになっている目を有する眼前の女は、いったいどのような存在であるのだろうか。
「もしもーし、起きていますかー?」
ぞっとするほど滑らか断面から血を吹き出し始めたレインの胴体が、出血の勢いで倒れていく。倒れ込むと同時に、残っていた右手が離れた場所に転がった。
レインを支えるために人型だった自身の身体を半人半馬に変化させる。更に数倍増大させた体重を生かせる武器、
そして躊躇も見せずにレインの想い人の姿をしたナニカ――【
だが……、
「わっ、危ないなぁ。未開の地の蛮族流の挨拶かい? 君は封印された精霊だったし……あながち間違ってないよね。我ながら上手いこと言った」
風が鳴る。地面が爆ぜて石や土塊が飛び散った。しかし肉を打つ感触はまるで感じられず、赤い飛沫は一滴も見当たらない。
音速の壁を越えて振るわれた氷の戦槌の半身が地面にめり込み凄まじい衝撃を発生させるも、テュポーンにはかすり傷すら付けられなかった。残骸となった戦槌の断面には微かな起伏もない。
(くそっ! こいつはいったい何をした!?)
レインの【ランクアップ】でクリュスタロスの地力は引き上げられている。膂力も速度も動体視力も、全力全開のレインに指一本なら届くほどの域だ。
そんな彼女が相手の動きを微塵も捉えられない。レインの首とクリュスタロスの武器、両方とも魔剣で断たれたのか手刀で斬られたのかはたまた別の手段か――見当がつかない。眼前でにこやかに笑う女の服は欠片も汚れていなかった……衝撃で土と砂ぼこりが巻き上がったというのに。
絶望的な力の差。嫌な風が頬を撫でた。それでもクリュスタロスは手を緩めない。今度は広範囲を全ての生命が死に絶える極寒の世界に変えてやろうと、両手を広げて魔力を練り上げる。
『【氷結せし数多の刃よ渦巻き逆巻き降り注ぎ神羅万象無に帰す死に至れ代行者たる我が名は
大精霊の詠唱。意思一つで大都市を氷漬けにできる存在が高らかに宣告した瞬間、真っ白な氷雪が吹き荒れた。瞬く間に周囲は白銀の世界に成り果て、吹き荒れる冷風が全てを凍てつかせようとする。
更に大気中の水分が急速に固まり、無数の氷の刃が生み出された。大きさも形状も異なる氷の刃は渦巻く風に乗って旋回しながら、全てがテュポーンに殺到する。
今度こそ避けられない。クリュスタロスはそう確信した――が。
猛吹雪の隙間から覗く禍々しい微笑を目にした途端、彼女を構成する全てが警鐘を鳴らした。
「――【リフレクション】」
まるで巻き戻しの映像を見せられているかのように、テュポーンを包み込む結界に当たった氷の刃達は通った軌跡を正確になぞってクリュスタロスへ反射された。上下左右前後、一分の隙もない波状攻撃が結界に当たった勢いと衝撃を乗せて、発動したクリュスタロス自身を痛めつける。
『ぐううぅぅっ!?』
肉厚の氷で急所は守り切ったものの、巨大化したことが災いして
それでもクリュスタロスは屈しない。
『まだだ……まだ終わってなるものかっ。レインは私より傷付いていた! レインは私より苦しかった!』
この程度の痛み、尊敬する友人であり想い人が受けてきたものに比べれば無に等しいと、クリュスタロスは全身から氷の刃を生やしながら己を鼓舞する。
――鼓舞、していた。
ヒュンッ、という風切り音がした。直後にゴトリ、という重い物が転がる音も。
『え?』
空白が生じた思考が何の意味もない呟きを唇から零させる。
「うーん、まぁそうなんだけどね? 氷のサボテンみたいになってもレインの苦痛に届かないのは当たり前だよ。同等以上の苦しみをこの身に浴びた僕が保証しよう」
肉付きの良い脚が転がったソレ――クリュスタロスの両腕を踏みつける。そんな屈辱的な光景を情報として理解しても、思考は別のことに割かれていた。
また。また見えなかった。音が聞こえるのは音速を超えていない証拠。なのに大精霊である
「だからね、彼に同情していいのは僕だけなんだ。苦痛を『知る』だけで『経験した』訳じゃない奴の支えにされるのは……とんでもなく不愉快だ」
クリュスタロスは天才ではない。天才ではない彼女が思考を常識に囚われずに回すには、戦いの最中に与えられる刹那の猶予では到底足りなかった。
認識不可能な衝撃が悲鳴を上げる暇もなく身体を吹き飛ばした。勢いよく流れていく周囲の風景。全身に襲い掛かる断続的な
「風の音がするんだ。僕の
癪に障る発言をした氷の大精霊を風の力で吹き飛ばしたテュポーンは吐き捨てると同時に、記憶からクリュスタロスとの関わりを忘れた。今しがた繰り広げた戦いすらも。
世界で五本指に入る強者であろうと……【
であり、敵どころか害する可能性が微塵もない存在である。
「ふふっ……やっぱりレインは特別だ。あんなに弱っていても僕に傷を付けるなんて……!」
もう塞がってしまった傷――一太刀入れられた背中の感覚を思い出しながら、テュポーンは陶然とした表情でレインの首を抱きしめる腕に優しく、それでも強く力を入れた。
♦♦♦
「――お、やっと奪い取れ……っとと。『奪い取れた』は違うな、僕が奪われていた訳だし。『取り返した』も保護してくれたレインが悪いみたいな言い方になっちゃう。うーん……受け取れたでいっか」
遺体から鞘を抜き取って剣を
ガイアを運んでいたはずのフェニックスはどうなったのか? ……それを知っているのは一人だけであり、その人物はすぐに忘却した。
地に横たわったガイアに歩み寄る。両手で受け止めれたらよかったのだが、あいにくレインの首で塞がっている。手放す選択肢はなかった。
「母さんがくれたこの
意識のないガイアから返事はない。でも、テュポーンにはそこにいるだけで良かった。
「風よ、僕の声を届けてくれ。人も神も、聞き逃す奴が一匹もいないように世界の果てまで」
そよ風のように優しい囁き声。しかし、その囁き声に呼び出された風は天災に等しい暴風の塊。テュポーンに操られることで球状に整えられた
コホン、あーあー、とテュポーンは喉の調子を確認。満足気に一つ頷くと、
「下界にいる全ての人類と神々に告げる。僕は【
――意味不明、意図不明、理解不能な状況が終わらない。
迷宮都市が『隻眼の黒竜』を倒した冒険者に襲撃されたかと思えば、その迷宮都市を根こそぎ吹き飛ばしながら異常に巨大な怪物が現れ、その怪物が黒いドームに呑み込まれて消えた。そして次は黒い風が吹いてきて、恐ろしい言葉も聞こえる。
絶望が現れては消える。
『きっと僕の言葉を理解できていない奴がほとんどだと思う。だってお前達は自分の信じたいこと、知っていることを常識と真実にするから』
声は天上の調べの如き美しさとは裏腹に、耳にする者の心臓を締め付けるような毒を含んでいた。
『初めに言っておくと、この声は断じて「
全てを見透かしているような、それでいて無視することを許さない……神にとても似た話し方。なのに神ではなく
故に――神々の様子を見た者も、『神の鏡』を使わないことを怪しんだ者もほとんどいなかった。道化の神の眷属達も、黒い風が吹き始めてから震え始めた少女に目を奪われていた。
『馬鹿でもわかるように優しく、丁寧に、事細かく話してあげよう。どうして僕がお前達を滅ぼそうとしているのか。話は何億年も前に遡るけどね』
そしてテュポーンは語り始める。
この世界の真実を。
♦♦♦
遠い昔、本当の本当にずっとずっと昔。
今と違って神は『始まりの五神』と呼ばれる五柱、
武技や鍛冶技術を極めた
神は生まれた時から自我がある。ガイアが生み出すのは正確に言えば『海』や『雷』といった神が司る事物そのものであり、その事物が完全無欠に形を取った存在、それが『神』になる。完全無欠、すなわち初めから全知全能として生んでもらえるからこそ自我があるともいえる。
ガイアはあらゆる
数えるのが億劫になるほどの妊娠と出産を繰り返すガイア。そこに感情はなく、永遠に事物を生み続ける――はずだった。
神の性格が破綻しているのは、生まれた瞬間から完璧な存在だから……人間のように誰かに支えられて育たないからだ。故に自分以外を傷つけ、陥れ、娯楽にすることに抵抗がない。中にはそうなりたくない、と神格者になる神もいる……
ガイアは『母』……つまり『女』だ。ずっと他者と交わらずに子供を作っていたのは、異物を受け入れるのが怖かったからだ。初めて
こうして生まれたのが後に【
遊ぶだけ遊んだ神々は衰弱したガイアを赤ん坊諸共放置した。完全に身体を消滅させられても復活する神々にとって、当時は誰かが死ぬなんて考えはなかったからだ。ましてや衰弱死など。
ガイアも理解できなかった。腹が減れば『
困惑するガイアの心情を知らない赤ん坊は成長していった。少女と娘の境界線を揺れ動くような外見になり、そこでようやく『
ある日、ガイアは『赤ん坊だった存在』に尋ねた。
『どうしてここにいるのか』
『赤ん坊だった存在』はあっさりと答えた。
『母さんが好きだからここにいる』
更に訊いた。
『どうして
きょとん、としたものの、すぐに返した。
『生んで大切に育ててくれたから。だから僕は母さんが好きだ』
目を見開いて硬直したガイアの手を取って、笑った。
『生んでくれてありがとう』
――初めて……ガイアは自分が本当の『子供』を生んだと理解した。泣きながら愛しい
ガイアは神を生むことをやめた。自分を妻という立場に収めることで天界を纏めようとしたウラノス、似たような理由でちょっかいをかけてくるクロノスやゼウス、嫉妬や暇つぶしで殺し合いをけしかけてくる神々を無視して、
ようやく手に入れた幸せ。母も娘も、お互いとこの幸福を何としても守ると誓っていた。
だから仕方がなかった。神殿に無理矢理男神が押し入ってガイアを犯そうとして、それを見て激高したテュポーンが殺してしまうのは当然だった。
しかし……テュポーンが殺した神が
当時のテュポーンは司る事物がなかったことで『神のなりそこない』と蔑まれていたが、誰かに見える事物ではなかっただけだ。『神を殺せる』事物など、神を殺すまでわからないのだから。
同時にテュポーンは不完全の神だった故に、完全無欠の神々にはない『進化』があった。(一応)次元が上である神を殺す度、テュポーンは強くなっていく。
もしも最初の神が殺された直後に神々の一割が協力していれば、テュポーンは容易く制圧することが可能だっただろう。けれど、神々は死んでも生き返る前提の
自意識過剰、一匹狼、脅しに取引。様々な理由で襲ってくる神は常に個々。テュポーンにとっては
それだけの力を手にしてもテュポーンに『神を皆殺しにする』という考えはなかった。もう負けることはないという慢心もあったが、それ以上に優しい
テュポーンは神でありながら
テュポーンは『神』が『神』である所以を知らなかった。
ガイアは
神々は屑だった。どこまでも己が大事だった。『ガイアを殺されるのが嫌なら言う通りにしろ』と、後ろめたさを一切覚えないほど下劣だった。
『神を殺す』ことはテュポーンにしかできない。しかし、『神ではない存在に堕とす』ことなら全ての神の賛同があれば使える物で可能になる。
その名を『無常の果実』。女神モイトラが管理する神饌。『神性を奪われて醜い獣に堕落する』効果を持つ。テュポーンが食えばガイアは助かるが、断ればガイアに食わせる。どちらを選んでも幸せになることは有り得ない悪魔の提案。
テュポーンは提案を飲んだ。ゲラゲラ、ゲタゲタと嗤う神の言いなりになっている屈辱と怒りを押し殺して、
こうして醜い獣――『モンスター』になったテュポーンは下界に堕ちた。母から授かった名も【
神々はそれで満足――する訳がなかった。自己保身についてだけは無駄に頭が回る連中である。
テュポーンとガイアを
答えは『封印』。神を殺せる力は未だ健在である【
同時に『封印』ごと【
呪文を唱えなければ『魔法』も使えない。ちょっとした病や環境で弱くなる。一瞬の寿命を無駄で非効率極まりない
不完全だったから強かったテュポーンに似通った性質を持つ生物――『人類』。
『
楽しい
神は口を裂いて笑った。
♦♦♦
「――とりあえず、僕が
テュポーンは話し終えて少し想像する。
神の中には本気で人類を好きになる奴がいる。今の話を好いた相手が理解したらどうなるか――ダメだ、笑いが堪え切れない!
今も腹に力を入れて耐えているが、このままだと腹筋が割れてしまいそうだ。誰にも見られていないのをいいことに、テュポーンは地面を叩いて笑いの衝動を発散した。
「疑問に思ったことはないのかな? 今でこそ気軽にダンジョン、ダンジョンと呼んでいるが……誰が『ダンジョン』なんて呼称を広めた?
口を動かしているが、笑いが過ぎると今度は殺意と憎悪が湧いてきた。
ヤバい、徹底的に苦しめて殺してやりたいのに……! テュポーンは頬を抓って我慢する。
「他にもあるぞ。どうして『
無呼吸で一気に話す。次に口にする予定の話の内容をざっと思い返す。
うん……レインへの愛しさとそれ以外の人類への怒りが湧いてくる。
「さて、神を殺す
「このままだとレインの犠牲を知らない世界で人類は平穏と幸福を享受することになる。それが許せないから僕は人類を殺そうと決めたんだよ」
【
・一定以上の
・対象に試練付与。
・テュポーンの完全適合体
・テュポーンの姿。
天界にいる時は黒髪で瞳が紫紺のアイズみたいな容姿。今は黒髪で瞳が十字の形になってるフィーネ。
・入れられなかった推測(という名の妄想)。
アイズのお母さん、つまり風の大精霊アリアはダンジョンで生まれたんじゃないかと思っています。
理由としてダンジョンから地上に進出したモンスターは繁殖しているから。ダンジョンから生まれたら精霊でも繁殖能力を手に入れられたんじゃないかと……。
ダンジョンで生まれた理由は、ソード・オラトリアでモンスターに喰われて融合した『穢れた精霊』が登場しましたが、こいつらが死んだら魂はダンジョンに戻るのではないかと思っています。
そして巡り巡って『
この考えはギリシャ神話を呼んでいて、「へー、テュポーンって台風とか大風とか大嵐とかの意味もあるんだー……嵐……【
フィーネは……強引ですがダンジョンの無限の可能性の中から人間が生み出され、稀有な能力を持つ一族として生きてきた設定。【ヘラ・ファミリア】の団長が『
レインは他に何をしたのか……? 次回をお楽しみに! 資格試験があるからわかりませんけどね!