11代目の大空へ〜next generation REBORN〜 作:くぼさちや
「俺は思うんだ。伝説にある吸血鬼ってのはさ、もしかして世界に絶望して昼に生きられなくなった奴が、忌み嫌われて化け物扱いされたんじゃないかって。そんなふうに世の中ってのは出る杭は打たれて理解されないものは排除される。そういう世界なんだ俺らがいるのは。だから俺も学校行かずに家でゲームを」
「いいからとっとと行け」
「うごっ!」
リボーンに蹴りを入れられて照吉は玄関先に放り出された。
「うおあああ朝日がっ! 朝日があああっ!」
実に数週間ぶりに浴びた日の光に悶え苦しみ、アスファルトを転げまわる照吉。
「くっそ、ファミリー作るだけなら別に学校じゃなくてもいいだろうが。なにが悲しくって学生の俺が学校に行かなきゃならん!」
ひとしきりもがき回ったところですっかり疲弊した様子の照吉は両手を地に着けたままリボーンを睨みつけた。
「なにを言ってやがんだ。学生の本職は勉強だぞ。それに今の並盛中はおめぇにとっても悪くねえとこだ」
そう言ってリボーンは照吉に新品のボールペンを投げてよこした。ボールペンといっても見るからに高級品で、中学生にはなかなかどうして似つかわしくない。だがそれ以上に思うことは、
「え、なに? 復学祝い?」
あんたそういうことするキャラ? と言わんばかりに照吉は首をひねった。
「軍資金だ」
「...売れってこと?」
「賭金は多いに越したことはねえだろ?」
「なんだそりゃ? 賭け事でも流行ってんのか?」
リボーンはニヤリと笑ってみせる。
「まあそんなとこだぞ。詳しいことはクラスの奴にでも聞いてみろ。教室の端っこで情けなくウジウジしてねえでな」
「引きこもりのコミュ症にはハードル高いっての」
照吉は頭を掻きながらぼやいたが、実際に自分から動いてみないことには始まらない。
渋々、クラスメイトと話すシュミレーションを脳内で始めるのであった。
〇
大なく小なく並がいい。そんな校歌があるとおり、照吉の通っていた並盛中学校はごくごく普通の中学校であった。
校舎の外壁を見ても落書き一つなければ、校門に向かう学生たちにも将来マフィアになるような素行の悪さは微塵も見受けられない。
「こんなとこでマフィア候補者探すとか普通に無理ゲーだろ。というか親父もよくまあ......」
そう言ったところでようやく照吉は気がついた。
「っていねえし!」
さっきまで隣を歩いていたリボーンの姿はなく、周りを見渡すと登校に向かう生徒たちの流れにすっかり乗っかってしまっていた。
(ああ、もう二度と行くもんかと思ってたのにな......)
沢田照吉、3ヶ月ぶりに登校。それは注目の的となった。
当然といえば当然だ。なにせ入学式を皮切りに一度たりとも教室に顔を出していないまま2年生へと進級したのだから。
(くっそ、視線が痛い......)
自分の席は一応あるようで、教室の張り紙で席の割り振りを確認すると、あとは机に突っ伏して寝たフリに徹する。
そんな様子のせいか、果てまた普段は誰もいない席に人がいるのが興味を引いたのか、後ろにいた男子生徒がテルの肩を叩いて声をかけてきた。
「ようよう、あんたさぁ」
「うん?」
見ると、ブレザーの袖を通さずに肩に羽織り、首が隠れるほどに伸びたミディアムロングの髪を赤い炎がプリントされたバンダナでまとめている。
「ひょっとして転入生かなにかか?」
「いやまあうん、そんなとこかな?」
知らないのも無理はなく、テルが学校に行ったのは入学式が最後だ。初日に一度は顔を合わせてはいたのだろうが、それから1年も経てば覚えている方が稀だろう。
「そっか、じゃあまだ風見一派の賭場のことも知らねぇだろ」
「賭場?」
その言葉に朝にしたリボーンとの会話が脳内で再生される。
自然とカバンに入れたボールペンに意識が向いた。
「最近の並中の流行りだな。休み時間や放課後に空き教室にたむろしてトランプやらボードゲームやらで文房具なんかの私物を賭けて遊んでんだよ。それを取りまとめてる不良グループが風見一派」
「ふぅーん、まあちょっとしたゲームの彩りって考えりゃ悪くないんじゃね? 教師やなんかはいい顔しなさそうだけど」
その言葉に男子生徒はイタズラっぽく笑った。
「まあ、ここまではよくある子どもの悪い遊びなんだろうけどよ、おもしれえのはここから。この校内ギャンブルには換金の制度があるんだ」
「......おいまじかよ」
話が一気にきな臭くなった。間接的にとはいえリアルマネーを賭けたギャンブル、明らかに中学生の遊びの範疇を超えている。ともすればそれを取り仕切ってる風見という人物にも
興味が出た。
やばい相手ではあるが、そうじゃなきゃ務まらないのがマフィアというものだ。
「正確には、特別な文房具を賭け金にして出回らせてる生徒と、それを現金と交換している生徒がいるんだよ。まあこの二人がグルなのは間違いねえけど、バックにはそれを統括してる裏ボスがいんだ」
今朝のリボーンはおそらくこのことを言っていたのだろうと、その時初めてテルは理解した。
「裏ボスって、他にもボスがいるみたいな言い方だな」
「そんなことまで知らねえのか? この学校は伝統的に風紀委員、強いて言えば風紀委員長が絶対的な影響力を持ってんだ。今じゃ制裁っつう名目で生徒を袋叩きにしたって教師も強くは出れねぇ。そいつが学校の表側のボスだ」
それだけの権力を獲得した人物にテルは心当たりがあった。さらにいえば面識もある。父親が同じく中学生だった時、風紀委員長にして並盛中学校の全不良の頂点に君臨していたある人物。
その当時からのパワーバランスが今なお残っているのだろう。
「まあそのことはいいとして、今言ってた裏ボスが風見ってやつなのか」
テルはふと考えた。どこにでもある至って普通の学校だが、もしかしたらその風見という生徒には一見の余地があるかもしれない。
「なあ、その話もっと詳しく......」
その時、朝のホームルームを迎えるチャイムが鳴った。
「あ、わりい。また後でな」
男子生徒はそう言うと、手をヒラヒラと振って自分の席に戻って行った。
〇
「しばらく来ねえうちにずいぶんアングラな学校になってんなぁ。まんま賭〇グルイじゃねえか」
そうボヤきながら、テルは廊下を進んでいく。
今は昼休み。賭場の話を聞こうとテルは男子生徒を探したが、教室を見渡しても姿はない。どうやらチャイムと同時に教室を出たようだった。
(実際行ってみるまでに知れることは知っておきたかったけどなぁ)
かと言って他のクラスメイトを捕まえて聞いてみる気にもなれず、渋々空き教室に足を向けたのだった。
テルのクラスと同じ階にある唯一の空き教室。そこでは至る所にちょっとした人だかりができていた。
(とりあえず、出たとこ勝負ってとこか)
その場の誰もがトランプやら花札に熱中している。中には窓付近に固まって外の校庭から見える陸上部の長距離走順位に賭けをしている連中もいた。
そしてその中に、不自然な一帯を確認した。
賭けているものは文房具、しかし数が異常で何十本とある全く同じボールペンを山のように積んでゲームをしている。勝負の内容はブラックジャックだった。
(あれが換金可能な文房具ってやつか。ってなると親をやってるあのちっこいのが件の風間一派)
そう理解して再び周りを見渡してみると、確かに数こそ少ないながらもそれとまったく同じボールペンを賭けてゲームをしている生徒がいる。そうやって様子を見ているうちに勝負がついたようだ。
「悪いねぇあんちゃん、俺の勝ちだ。賭けたもん全部置いていきな」
「くっそ......」
負けた生徒は積んでいたボールペンを苦渋の顔で差し出す。それがいったいどれほどの金額に相当するかは分からないが、そもそもが山積みになるような数だ。
換金額が余程低くない限りかなりの大金になるだろう。
「ほら、次に俺と勝負する奴はいねえか! いねえなら閉めちまうぜ」
受け取ったボールペンを学生カバンに詰めながら周囲に声を張る。
テルはそっと手を挙げて前に出た。
「どもども、よかったら俺にもやらせてくれよ」
「ほぉーう、あんちゃん見ねえ顔だな。ここ来んのは初めてかい?」
「まあな」
そう言ってテルは生徒を一瞥した。
近くで見てみるとやたら小さい。身長で言えば130cmもないだろう小柄な生徒だった。大柄な態度が様になって見えるのは、身長の低さに対して恰幅良かったからだろう。
「俺は風見一派の突撃ダンプカーこと、横山凛太郎だ。ここで遊んでくなら、俺のことは覚えておきなぁ」
(うわー、こいつ自分で突撃ダンプカーとか言っちゃってるよ......)
「お、今度は新顔が横山に挑むってよ」
「面白そうだな! ついでに見ていこうぜ!」
先程までのゲームを見物していた生徒たちが再び集まってくる。
「ちなみに賭け金はなんでもいいわけ?さっきみたいな決まったボールペンじゃないとかけられないとか?」
「なんでもいいぜぇ。そっちが賭けるものに応じてこっちもそれに相当するだけのもんを賭ける。で、買ったやつが総取りってこったぁ」
「ああ、ルールがシンプルなのは助かる」
「それで? あんちゃんは何を賭けるんだ?」
「これなんだけどさ」
テルの取り出したボールペンを見て、横山の目の色が変わった。
「こりゃまた随分なもん持ってんじゃねえかぁ」
「そっちのボールペンで換算してどれくらいになりそう?」
横山はしばらく考えると、値踏みするようにテルの持つボールペンを見た。
イタリア製と思われる、いかにも高級そうなボールペンだ。テル自身その手のものに詳しいわけではないが、素人の目から見ても高価なものだとわかる。
「正直、ここまで上等なものはお目にかかれねえから判断がなぁ。ま、あんちゃんは初めて来てんだ。特別に」
横山はボールペンの詰まったカバンごとドサリと賭け皿に乗せた。
周囲で見ていた生徒達が一斉にどよめく。
「俺が今持ってるペン全部でどうだ?」
「へぇ......気前がいいじゃん」
今度はテルの目の色が変わった。あるいは質が変わったと言ってもいいかもしれない。
じっと相手の動きを指先からつま先まで、その一呼吸にまで注意を張り詰めた様子は獲物を狙う獣のそれだ。
「そいで、ゲームの内容はブラックジャック限定?」
「なんだって構わねえぜ。ポーカー、トランプ以外でも花札なんてのもある」
「じゃあ、ポーカーでいくか」
そう言ってテルは机から椅子を引くと横山の正面に腰を据える。
すぐさま太く短い指で器用に山札を切り、交互に1枚ずつ手札を配る横山。渡されたカードを確認すると照吉は壁の時計を指差して言った。
「そういや、ここの休み時間って後どのくらいあんの?」
照吉は壁の時計を指差して言った。それに釣られて凛太郎も時計を見る。
(勝った)
「あん? 12時40分までだから...あと15分ってとこだぜぇ。それがどうかしたのかよ?」
「別に」
興味なさげに机に頬杖をついて手札を眺める。そして勝ちを確信した。
(こんな間抜けが金も同然のボールペン扱ってるんじゃあ、風見ってのも大したことなさそうだな)
「あんちゃんチェンジは?」
「俺はいらね。そっちは?」
「1枚チェンジだ」
横山は手札からカードを1枚抜きとると、山札を引く。その瞬間、横山の頬がつり上がった。
「よし、こいつはついてるぜぇ〜フルハウスだ!」
「はい俺の勝ち」
照吉はさも気だるげに手札を見せた。
10、J、Q、K、A。5枚全てがハートで揃っている。
これには余裕ぶっていた横山も青ざめた。しかしそれもほんの一瞬のことですぐさま語気に怒りを込めて照吉を睨みつける。
「......あんちゃん、ズルはいけねえなぁ」
「ズルもクソも見たまんまロイヤルストレートフラッシュだ」
(ま、納得できねええのは痛いほどわかるけどさ)
なにせ照吉は似た方法でリボーンにボコボコに負けたばかりなのだ。
もっとも照吉場合、使ったのはレオンではなく予め用意していたロイヤルストレートフラッシュの手札とすり替えたのだが、そのことに気がつかれている様子はない。
「ふざけんじゃねえぞ! こんな役有り得るわけねえだろうが!」
そう言って横山がテルの胸ぐらに掴みかかったその時。
「待て横山」
割って入ったのは周囲で様子を見ていた生徒の1人だった。
横山と対照的に見上げるほど長身で、平均的な身長の照吉より頭一つ優に大きい。色黒な肌にサングラスをかけていることも相まって異質な存在感があった。
「そいつはこっちで引き受ける。おいあんた、一緒に来てもらおうか」
「ああ、いいとも」
こともなげに同行するテル。
「おい長島! 勝手になにするんだよ」
「落ち着けよ。こいつをどうするかはうちらリーダーが決めることだ。それに周りを見ろ」
その時、横山は教室中の視線が自分たちに集まっていることに気がついた。
「ここで揉めるのはまずい。何より風見さんがこいつを連れてくるように言ってるんだ」
〇
空き教室を出ると、一行は体育館に入った。その奥のステージでは合唱部員が昼休みを利用して練習に励んでいる。
「こんなとこに風見がいるのか?」
「いいから黙ってついてこい」
そのまま体育館の奥、舞台ステージの前まで行く。
ステージの床はパイプ椅子などの収納になっていて長山がステージ下を引っ張ると車輪が甲高い音を上げて収納が開いた。
「ここだ」
「まじかよ。この中に入んのか?」
そのまま長山の後に続くようにして収納に入ると、練習中の合唱部員が収納を押し閉めた。
「兄貴、横山と賭けをしてた新顔を連れてきた」
いくつもの乾電池照明で薄暗くも照らされたスペース。そこで身に覚えのある真っ赤なバンダナがテルの目に付いた。
「よう! 長山からの連絡でそれとなく様子は聞いてるぜ。お前ずいぶん賭場で儲けたみたいじゃねえか。俺の見立てた通りだぜ」
「あんた、クラスにいた...」
それは正しく、賭場のことをテルに話したあの男子生徒だった。
「教室じゃあろくに自己紹介もしてなかったな。俺がこの賭場を仕切ってる風見一派のリーダー、風見翔一だ」